【城壁基地・食堂/食事場所 [現地時間14:00]】
時は進んで、警備、訓練、睡眠の繰り返しです。
そんなこんなで、基地のカレンダーが少し進んだころ。
褐色大尉から、招集がかかります。
指定された場所は────食堂。
呼ばれたのは、
机の上には、缶ビールとジュースと、申し訳程度の食事が置いてありました。
「さて、訓練生がローテに入り我々にも少しの余裕ができたわ」
そう缶ビールをもって答える、褐色大尉。
「余裕……とは」
「訓練、警備、訓練のどこがよゆーなのかー」
「まあ言われてみれば余裕ができたッキュね」
上から、私、ナット少女、帽子曹長となっています。
新人とベテランで意見が割れるあたりは、経験の差でしょうか。
「というわけで、よ」
「ここで、今から抜き打ちテストですかー」
「流石にそこまで鬼じゃないわよ」
「でも、先週の飯時にー」
「あれは貴方達がたるんでたから」
ぶうぶう。ナット少女が文句を言っていると、帽子曹長が話を進めます。
「で、結局何をするッキュか?」
褐色大尉から、もちろんとばかりに突き出されるは、缶ビール。
「────新人カンパ(飲み会)にきまってるでしょ」
そんな掛け声とともに、今回の催しは開かれるのでした。
◇◆◇
【城壁基地・食堂/食事場所 [現地時間14:10]】
「いい、よく聞きなさい────」
ここは異世界の最前線にある基地。
故に飲み会の時間も、外の警備は必要よ。
そして基地に居る戦鋼乗りは、警備中も入れて5人。
「─────ここまで言えば分かるわね」
褐色大尉はビールを片手に言います。
「別に数時間おきに見張りを交代すればいいのはないでしょうか」
「そうだッキュ」
帽子曹長と、自分は同じ意見の様です。
楽しい時間をつぶしたくないというのは分かります。
だからこそ協力して、全体の時間を多くとるべきだと思うのですが。
「馬鹿なの、酒に酔った状態で戦鋼に乗れるわけないでしょッ!!」
褐色大尉は違うようです。
「敗北者が全ての警備を引き受けるのは確定よ」
「でもそれでは5人に1人は飲み会に参加できないわけですがー」
「自然の摂理よ」
バッサリと言う、褐色大尉。
弱者は淘汰される、というのが世界の理ではあるのですが。
新人のコンパという名目において、世の摂理を適用するのはダメだと思います。
(まあ、上官の命令は基本絶対なので、逆らえないのですが……)
「それをどうやって選ぶのですか?」
「もちろんジャンケンよ」
「かなり古典的な方法ですね」
「実力が出ていいでしょ」
ジャンケンに実力は関係あるのでしょうか。
出す手の組み合わせ的に運の要素が大きいと思います。
「では、いくわよ」
「「「「最初はグ────」」」」
4人の戦鋼乗りによぎるは、様々な思考。
(かかったわね。ジャンケンに必要なのは動体視力)
(─────とかレイニーは、思ってるんだろうッキュなぁ)
(まー、パーでいいかー)
(別に負けても構いませんし、ここは上官に花を持たせましょうか)
「「「「ジャンケン────」」」」
一般的には、力んだ相手はグーを出しやすいそうです。
ならば、チョキあたりだといいかんじに負けれそうです。
『─────なに負けようとしている』
思考を邪魔するは、脳内の
「(急にどうしたんですか?)」
『負けていい勝負など、ある訳がないだろ』
「(いや、ジャンケンぐらいは負けてもいいのではないでしょうか)」
人間、全ての勝負に勝てるわけでもありませんし。
『だから貴様は馬鹿なんだ』
「突然の罵倒すぎません?」
『いいか、今から貴様に魔法をかける』
「(今からって、もう何をしても致命症な気が)」
『なんとしても勝負に勝て────
脳に宿るは熱量。瞳は燃えるように熱くなります。
ゆっくりと瞼を開けた先には────制止する世界。
いえ、正確にはゆっくりに動いているというのが正解でしょうか。
『これで久しぶりに酒飲み放題と────なん、だと』
「(大尉の手が凄い速さで変化をしてますね)」
『馬鹿な、中級とはいえ思考加速魔法だぞッ』
「(どうします、ナビィ)」
『ええいッ、気合のグーだ』
「「「「────ポンッ!!」」」」
結果は皆がパー。私がグーです。
つまり、私の負けです。
(4人もいるのに、1回で決まるのは珍しいですね)
きっと日ごろの行いというか、ズルして勝とうとした罰のような気もします。
「ナビィ、二人で楽しく警備をしましょうか」
『私のお酒……そんな、久しぶりの酒が……』
結局、整備員達の説得により、飲み会には最後に少しだけの参加を許されました。
◇◆◇
【城壁基地・食堂/食事場所 [現地時間21:20]】
数時間後────警備交代時間。
(ナビィもうるさいですし、お酒が残っているといいのですが)
「あれ? サニー曹長?」
そこにはボロボロになった帽子曹長の姿が。
食堂前の壁によたれかかり、死にそうな目でこちらを見ます。
「中は、見ない方が、いいッキュ……」
「そ、そういわれましても」
好奇心と、食欲に勝てず覗いた先には────
散乱する机と椅子。
皿ごと食べられた食材。
ぐるぐると眼を回して気絶する隊員。
「ここはどこの世紀末ですか?」
悲惨の一言ではすまされない状況でした。
中でも、特に目も当てられないのは。
「酒、もっと酒を持ってきなさーいッ!!」
と、食堂の中央で暴れ舞う褐色大尉ですね。
なにかするたびに隊員は吹き飛び、周りはあたふたしていますね。
よく見ればナット少女も、床に倒れています。
「キイロッ、追加の酒持ってきなさい」
「へっ?」
どうやら矛先は自分にも向くようです。
ここは大人しく命令に従いましょう。
(おそらく、反論した場合、倒れている隊員と同じ目に合いそうですし)
「酒は地下の保管庫だッキュ」
「ありがとうございます」
そんな後ろからの声もあり、帽子曹長、なんとか食堂を抜け出すことが出来ました。
酒を取って戻って来るのは、ちょっと気が重いですね。
◇◆◇
【城壁基地・地下/食材置き場 [現地時間21:40]】
「────酒はここですか」
地下の空気はひんやりとしています。
水がぽたぽたと落ちている、木製の棚。
少しだけと腐食が進んでいる棚に、お酒はあります。
「よく考えれば、どれを持っていけばいいのでしょうか?」
棚にはワイン瓶、横にはビール樽。
貼られたラベルも様々で、褐色大尉が望んでいる物は分かりません。
(目についた酒を持っていくことにしますか⋯⋯)
「あれ? 酒の棚の裏にも壁画が」
こちらは、中央で強調された羽の生えた人が、周りからあがめられています。
聞いた話だと、羽の生えた人が
「相変わらず読解力が試される壁画ですね」
細部は、風化で劣化しており読み取ることはできませんが。
儀式を行っている様子を表した壁画でしょうか
『鳥カス共に理解なぞ要らん』
「前回も思いましたけど、やけに辛烈ですね」
幻聴《ナビィ》が馬鹿にするのはいつもの事ですが。
名称すら軽蔑的なのはよっぽどです。
『奴らの歌は、狂気を含む』
「狂気ですか?」
『耐性のない者が聴けば、良くて発狂、下手をすれば操られる』
「それは、恐ろしい話ですね」
『そうだ────だから滅ぼされた』
ナビィ曰く、かなり昔のことだそうです。
それこそ、魔法よりも、剣で魔物と戦っていたころの話。
今では、ハーピィの魔石には報奨金すらかかっていないそうです。
『だから知識を得ることも、奴らを理解しようとすることも不要だ』
「そう、なんですか」
つまり、残されたのはこの壁画だけ。
壁画に描かれた魔物たちはなにを思うのでしょうか。
結局、崩れた天井から差す月明かりが壁画をなでるだけです。
「まだ、いたのッキュか」
不意に声が届きます。
「サニー曹長、ですか?」
「上のレイニーは、もうかんかんッキュよ」
「すみません。物思いにふけっていました」
気づかぬうちに、かなりの時間が経っていたようです。
(壁画について、深く考えすぎましたね……)
「思い? なんの事ッキュか?」
「壁画に記されている
「ああ、そうッキュね」
帽子曹長はなんてことないように、答えます。
「彼らは狂気の歌を持っただけで─────」
「─────歌に狂気なんて含まれてないッキュよ」
「えっと、そうなんですか?」
「それは、セイレーンという別の魔物の話だッキュ」
帽子曹長は、こんどは帽子を深く被って言葉を続けます。
「彼らの歌は音痴で、どうしようもないものッキュ」
「では、どうして彼らは」
その瞳は悲しみをおびていました。
「どうせ、どっかで噂話が混じった─────これはそういう、どうしようもないお話だッキュ」
その言葉の真意は、私には分かりませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
余談────
基地の戦鋼乗りの人数となっていますが、5人目はきちんと存在しています。
名前は、影乃 黒子。階級は軍曹。
黒髪メカクレ、身長もちょっと小さい。
基本無口でモリモリと仕事をこなす少女です。
褐色大尉の無茶ぶりと、帽子曹長のお願いによって、基本オーバーワークの警備をおこなっています。そのため、本作には一切登場しません。
趣味は洋服集め、最近の特技は戦鋼の中で寝る事です。