【城壁基地・会議室 [現地時刻8:00]】
前には、髪がぼさぼさの褐色大尉、ちょっと帽子がずれている帽子曹長。
飲み会の名残か、部屋にはゴミ袋が沢山転がっていました。
「というわけで、明日は集まれる戦鋼乗りで模擬戦を行います」
褐色大尉は、くたびれた表情で言います。
いつもより覇気がなく、顔も少し青いですね。
「体調が悪いなら無理をしないでも」
「大丈夫よ、目覚めが最悪だっただけよ」
ナット少女も今日は寝込んでいますし、酒はやはり危険ですか。
警備があるからと酒を断っていて良かったです。
「でも、無理に合同での訓練をしなくても」
ただでさえ、警備で戦鋼乗りがいない中、皆で訓練するのは理にかなってない気がします。
「実は……今、訓練場を逃すと次に借りれるのがだいぶ後なのよ」
城壁基地に併設された野外訓練場は、戦鋼の訓練だけではなく、戦車や輸送車の整備にもつかわれます。
つまるところ、予約必須で、つね枠のに取り合いが発生しているそうです。
「それは、難しいところですね」
「だから、例え風邪を引いてても強行するわ」
そう強気に発言する褐色大尉。
「なら今日は大人しく休むッキュよ」
「わかってるわよ」
帽子曹長は、そんな大尉を咎めます。
(それなら今日の警備任務は、自分が多く引き受けた方がいいですかね)
「というわけで、各自、戦鋼の調整を怠るらな────うぐっ、トイレぇ」
青い顔をして部屋からでる褐色大尉は、少し情けなかったです。
◇◆◇
【城壁基地・格納庫 [現地時刻21:00]】
警備と見舞いと警備を済まして、時刻は夜。
「嬢ちゃん、今日はどうした?」
そう発言するは、服を油で汚した整備員。
「明日の模擬戦のために、戦鋼の整備を、と」
周囲を見渡すと、今日の格納庫の人数は少なく感じます。
いつもは、向こうから罵声がひびいたり、金属音が聞こえているんですが。
「今日は静かですね」
「実は昨日の飲み会でやられた連中が多くてな」
整備員は頭をかきます。
「そんなにですか」
「新人、若手がほぼ倒れやがった」
現在、基地の人手不足が顕在化してますし、業務への支障がありそうですね。
ある程度戦鋼に触ったおかげで、最低限の整備できるようになっていてよかったです。
「まあ、最近立て込んでたし。いい休みだろ」
「たしかにドタバタしていた印象はありますね」
自分が見つけた地下通路には、日夜を問わず整備員が駆り出された様子。
結局、奥は水没しており探索は中断になったという話です。
褐色大尉が疲れていたのも、おそらくは安全のため同行していたからでしょう。
「まっ、だからと言っても整備には手を抜いていないがな」
「そうですね。見た感じ問題はなさそうですし」
現状の私では、戦鋼の内部を触るには知識が足りません。
そのため、OSやエンジンまわりはすべて整備員任せとなっています。
(他にできることは、装甲を磨くことぐらいですかね)
「嬢ちゃん、武器の方は見なくてもいいのか?」
「いつもと違う武器を使う気はありませんので」
戦鋼の横に立てかけられているのは、突撃銃。
大きさは私の体より大きく、大人3人がかりでようやく運べます。
「いや、そうじゃねぇ────弾の方だ」
「弾ですか?」
「今回の相手は魔物ってわけじゃないからな」
整備員が持ってきてくれるのは、水音がなる銃弾。
銃弾の先端部は、一般のモノより奇抜な色でした。
「ピンク色の弾ってあるんですね」
「こいつはペイント弾────別名、金食い虫だ」
整備員曰く、ペイント弾は模擬戦のためだけに作られた弾。
ご丁寧に全口径に作られており、基地の予算を食う代物だそうです。
その不人気さは、毎年コレを仕入れるのが義務化される程であり、裏には武器輸出企業との取引を噂されています。
「というわけで、嬢ちゃんが訓練で使う銃はなんだ」
「戦鋼用の突撃銃ですけど」
「なら弾倉の交換だけでいいな」
整備員は「よっこらせ」と、床に弾をおきます。
「どっかの大尉みたいにマグナムなんか使うとだな」
「────わざわざ弾が手動交換で面倒だ、っていいたいの」
いきなり、あらわれる褐色大尉。
整備員は慌てて、敬礼をします。
「えっ、いやーそんなつもりはありませんよ」
「大丈夫よ。私も同じ気持ちだから」
「あ、さいですか」
褐色大尉は、少しよろめきながらも、特注の戦鋼用大型拳銃をいじります。
その大きさは私の半分ほど。弾を取り出すだけでも一苦労しそうな大きさです。
「そこまでして、模擬戦やる意味はあるのでしょうか?」
ペイント弾換装などの手間もかかりますし、行動に対しての手間がかかりすぎていると思います。
実力をつけるだけなら、仮想訓練室や警戒任務で十分ですし。
「意味はあるわ」
褐色大尉は、弾を入れ替えながら、質問します。
「私たちの敵ってなんだと思うかしら」
「えっと、魔物でしょうか」
仮想訓練室の相手はゴブリンでしたし、今までも異形の魔物の相手が多かったです。
「大まかに言うとそうなるわね」
「厳密には違うんですか」
「戦鋼がなぜ人型をしていると思うかしら?」
「人型の方が、人の作ったモノを上手く使えるからとかです、か」
「戦鋼があくまで、対人型の結論。殺害の為にもっとも優れた道具だからよ」
「人型? でも魔物にはワームのような異形もいますよ」
「厳密に想定されている魔物は、獣耳付きの人型」
褐色大尉は、整備の手を止めて話始めます。
「────私達を同じような顔をもった連中の討伐よ」
◇◆◇
【城壁基地・格納庫 [現地時刻21:30]】
「耳付きの人型って、犬顔の人間とかではなく」
「同じように知性をもち、食事をする、見かけ上の差は獣耳ぐらいしかない連中よ」
つまり魚人や、ゴブリンではなく、完全に私達と同じ人間。
「……なぜ、そんな生物と戦争をしているんですか?」
「彼らが先に仕掛けてきたからよ」
「先に戦闘を仕掛けてきたから、戦争が始まった、と」
「ええ。そうやって、殺して、殺されて今の状況に至るわ」
「戦争を止めれない理由は、憎しみってことですか」
「まさか、それだけならとっくの昔に止めてるわよ」
褐色大尉は地面を見ます。
「ここは良くも悪くも、未開のフロンティアすぎるわ」
「確かに地下資源は膨大ですけど」
惑星スーアには、膨大な地下資源が埋まっています。
公にはされていませんが、現在の日本の繁栄を支えているのは、この資源のおかげともいえるレベルです。
「ですが、それは侵略行為ではないのでしょうか?」
「侵略なんてモンじゃないわ。私たちはただ開拓をしているだけ」
「耳付きの人型のようにこの場所に住んでいる方々も」
「人権を認められていない生物よ。獣と変わらないわ」
褐色大尉は話を打ち切るように、言葉を続けます。
「────結局、そんな連中を効率良く殺すために、模擬戦は必要なのよ」
その顔はどこか悲観的です。
「そうなんでしょうか」
「まっ、若いころに考えることじゃないわ」
私の頭をぐりぐりとされて、褐色大尉は作業に戻っていきます。
ポツンと残されたのは私一人。
「私たちの敵、ですか」
そんなこと考えたことも無かったです。
敵は、敵だから倒す。ではその“敵”の定義とは。
(考えても埒があきませんし、今日は作業を終了しますか)
寝る前に、教本でも読んで────すれ違うは、帽子曹長。
「レイニー、寝てなきゃダメッキュよ」
「う、うるさいわね。明日の準備があるのよぉ────……」
ぐぅーと、大型拳銃にもたれかかる褐色大尉。
寝息も聞こえますし、かなり無理をしてたようです。
「疲れているのに、わるいことをしましたね」
「大丈夫、いつものことッキュよ」
「そうなのですか」
「どーせ、明日になったら元気になってるッキュよ」
帽子曹長は、近くから担架をもってきます。
「全く、手間がかかるッキュ」
手慣れた手つきで担架にのせますね、帽子曹長。
過去にも似たようなことがあったのでしょうか。
「すまないッキュけど、レイニー運んでてもらえるッキュか」
「構いませんけど」
「自分も戦鋼を整備しないといけないッキュから……」
言われてみれば、帽子曹長も専用の新型機です。
おそらく自分以上に整備するのが面倒なんでしょうね。
「レイニーには、戦鋼は自分が整備するって言ってッキュ」
「勝手にいいんですか?」
「どーせ、よく見てる機体だッキュ」
そんな帽子曹長の足取りも、少し重そうなモノです。
「さて、私は大尉を運ぶとしますか」
担架には車輪がついていたおかげで、一人でも運べる仕様でした。
それでも大人一人を運ぶには、結構な時間がかかり、医務室に付いたのは数十分後。
「────休み、休み、をよこしなさい」
「わたしも将来はこうなるんでしょうか」
褐色大尉の不穏な寝言とともに、私はあくびをするのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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