【城壁基地・外部訓練場 [現地時刻7:00]】
頬にあたる風に、まじっているのは、砂。
各所に盛りあがった土や、黒くなった地面が見えます。
金属のフェンスに囲われ、掛けられたプレートは【城壁基地訓練場】
私の後ろには、4機の戦鋼が並びます。
「さて、集まったわね」
声は、褐色大尉。
前を向けば、少女たち────帽子曹長、ナット少女。
「さて、皆調整は大丈夫かしら」
少女たちはこくこくと頷きます。
「キイロ、貴方はどうなのよ」
「一応、なんとか出来ているハズです」
私もこくこくと頷いておきます。
「ちなみに、レイニー大尉こそ大丈夫なんでしょうか」
「私も、さっき終わったところよ」
褐色大尉の服は、ピンク色で汚れています。
その色は、今回の模擬戦用のペイント弾と同じ染料でした。
「銃弾が暴発でもしたんですか」
「今回はちょーと、趣向を変えてみてね」
疑問を浮かべる私。
褐色大尉の視線────大尉専用戦鋼には、サバイバルナイフが装備されていました。
「戦鋼用のサバイバルナイフ、ペイント液につけるのは大変だったわ」
「……昨日、拳銃整備していたような気が」
「朝起きたら、無性にイライラしてね」
「そんな理由でナイフを使わないでください」
ナイフから、地面に滴るのはピンクの液体。
刃は潰されているので、
「これ、後片付けが大変そうですね」
「掃除は負けた人間の仕事よ」
「なら遠距離から大尉を攻めるとしますか」
「あらー、別にナイフしか使わないとは言ってないわよ」
大尉専用の戦鋼には、腰にホールドされた大型拳銃。
「まっ、頑張ってぬかせてみることね」
「別に最後まで抜かなくてもいいんですよ」
「あらー、初手から敗北宣言かしら」
「まさか、大尉を秒殺するという意志です」
急にピリピリとしてくる空気。
「────医務室に運ばれるのは覚悟しなさい」
「昨日運ばれたのは大尉ですけど「ガシッ」────あのー、痛いです」
余計な一言を言ったのか、大尉に頭を掴まれます。
「上官に向かって生意気いう口はどこかしら」
「むしろ、そこは口と言うよりか頭たたた────あっ、ちょ、痛いっッ!!」
蒼穹に響くは金髪少女の悲鳴。そんなこんなで訓練は始まります。
◇◆◇
【城壁基地・外部訓練場 [現地時刻11:00]】
訓練は1vs1。相手は総当たりで、戦っていきます。
それを3セット。戦闘あたりに感想戦をはさみながら行います。
「おかしいですね。秒殺する気概はあったんですけど……」
『確かに、秒殺は間違っていないな』
そこにはピンクまみれで転がる戦鋼。
もちろん私の戦鋼です。
「なんか一人だけバグったキャラ混ざってません」
『バグり度で言えば、貴様も大概だがな』
そして、横にもピンク色で転がる戦鋼が二機。
[あら、もう休憩かしら?]
戦鋼の通信機から聞こえるは、褐色大尉の声。
「休憩と言うか、なんというか……」
正面で輝くは、大尉の戦鋼。
一人だけ、悠然と立っている戦鋼がそこにはいました。
「いや────大尉強すぎじゃないですか」
訓練から3時間経過。ですが、零被弾の化物が正面にはいました。
◇◆◇
【城壁基地・外部訓練場/仮設テント内 [現地時刻12:10]】
休憩時間。
仮設されたテントの下で転がるは、少女三人です。
「ようやく気づいたッキュか」
「むりー、銃弾あたんないー、むりー」
地面で転がるは、ナット少女。
もう駄々をこねる少女の様に、愚痴をはいています。
「まあ、気持ちは分かります」
初回の戦闘は、気づいたら撃破判定だされました。
降りてから確認すると、戦鋼の正面には、ピンクの一文字。
「まあ、レイニーッキュから」
「ぐぬぬ、あまりにも納得できません……」
ナット少女も続いてナイフで秒殺。
銃を抜かした帽子曹長も、3発で仕留められてました。
(そして、そんな事をしでかした当人は────)
「ちょっと寝ぼけてるんじゃないの、あんたたちッ」
昨日の疲れはどこにいったのか、元気な次第です。
「おかしいですね、私も睡眠時間はきちんと取ったはずですが」
「いや、そういう事じゃないッキュ」
「つよすぎー、ナーフきぼうー」
腕をくんで笑みを浮かべるは、褐色大尉。
こちらはこの様なのに、息切れ一つしていない姿は腹が立ちますね。
「悪いけど、手は抜けない性格なので」
ニヤニヤと私を見るあたり、褐色大尉の性格は悪いと思います。
「あれれ、秒殺がなんでしたっけ、キイロぉ?」
「ぐぬぬ、別にできればするだけでしたから……」
「自分が秒殺されたのにぃ?」
「うっ、うるさいですっ」
つい感情的になってしまうのは、仕方ありあません。
ですが負けたのは事実なので、これ以上何も言えないのも現実です。
大人しく、じだあしを踏んで感情をごまかしておきたいと思います。
「これでも……いつもより弱体化してるのが笑えないッキュ」
「たしかにー、前回は1発で終わったしー」
「じゃく、弱体化とは?」
ほんとうにそれは弱体化と言えるのでしょうか。
今日の気分がすぐれない程度だと思います。
「────いやいや、皆さん、皆さん。今回も掃除大変そうねぇ、頑張って頂戴」
笑顔の褐色大尉は、のびのびと基地に戻ろうとします。
顔は、満足と言わんばかりの笑顔です。
(すっごく腹が立ちますね……)
別に、掃除するのが嫌なわけじゃないんですが。
「レイニー、キイロがなにか言いたげッキュ」
「あれぇ、なにかあるのかしら?」
「ええっと、そのー、今回の訓練では本来の目的が果たせないと考えただけで……」
急にふられたので、思い付きで、適当な事を捲し上げていきます。
「模擬戦の目的は、異世界人に対する訓練のハズなので」
「つまり何がいいたいのかしら?」
「────ええっと、実際に接敵する場合、集団の可能性があります」
実際、魚人やゴブリンと接敵したときも集団でした。
そのため、異世界人が集団で襲ってくる可能性もあります。
「で、本音は」
「大尉の笑顔がものすごく腹が立ちます」
更にニヤニヤと笑う、大尉。
もう今からでも拳の一発を入れにいきたいです。
「────ふーん、じゃあどうしたいわけ?」
1vs1での勝ち目はゼロ。
それは3時間の訓練が見事に証明してくれています。
(つまり、勝てる可能性をあげるなら、この一手)
「大尉に対して────3vs1を要求します」
別名、
◇◆◇
【城壁基地・外部訓練場/仮設テント内 [現地時刻12:45]】
休憩を終わりに、少女3人は集まります。
目の前に用視されたのはホワイトボード。
ボード横に立つは、帽子曹長です。
「まず、レイニーの脅威は視野の広さッキュ」
ボードに書き込まれるは、後ろから攻めても多分見えてる。
かなり汚い字ですが、なんとか読めます。
「昔、背後から胸を揉もうとして、幾度なく見切られたッキュ」
「いや何をやっているんですか」
「時たま、あの胸をもぎりたくなることがあるっッキュ」
「それはちょっとわかります」
無駄にデカくて、弾みますよね、褐色大尉の胸。
アームクローの時も、揺れる胸、痛む頭でしたし。
(いつか私の胸も大きくなることがあるんでしょうか)
話をもとに戻すように、帽子曹長はボードを見ます。
「次点で、経験からくる素早い判断ッキュ」
ボードに書かれるは、異常なほど冴えてる読み。
「予想を予想してくる変態ッキュ」
「それは────無理なのでは?」
仮想訓練装置よりも、クソ敵が身近にいるとは思いませんでした。
「おかしいですね、3人になっても勝てる未来が見えないんですが……」
「そうッキュか? 意外と3人ならなんとかなるッキュ」
ホワイトボードを裏返し、帽子曹長は“作戦”と書きます。
「まずはナット。光魔法は使えるッキュか?」
「初級ならつかえますよー」
「なるほどッキュ。そう考えると〆はキイロしかないッキュから」
次々と、ホワイトボードに書き足されていきます。
まるで作戦と言うか、チャートを練るのになれているような書き方です。
「今回の作戦としては────」
1段階目、ナットが光魔法で視野を潰す。
2段階目、キイロが仕留める。
「で、どうッキュか」
「もうちょっと、練れませんか?」
どう見ても先に撃たれて終わりな気がします。
そして操縦席を狙撃されて、撃破判定がオチです。
「大丈夫ッキュ、陣形はこんな感じで」
【陣形】
前
「銃弾は私が受け止めるッキュ」
それならば、後方に撃破判定が出ることはありませんが。
「そんな作戦、現実では────」
「────1人死ぬことになるッキュか?」
「ならば何故そんな作戦を……」
「甘えたこと言わないで欲しいッキュ」
「怪我や死がない戦場なんてあるわけない。ましてや、私たちが挑むは格上ッキュよ」
ボードに書かれるは、自分の命ぐらいは賭け金。
力強く書かれた文字は、悪筆ながらも迫力がありました。
「分かったッキュか、キイロ」
「な、なら私が最前列に行けば」
戦鋼の練度は、私よりも帽子曹長の方が上です。
撃破の成功率を考えるならば最前列は私です。
「それは実際の戦場を考えてッキュか?」
「もちろんです、作戦の成功率は高い方が……」
「────その装甲が薄い戦鋼でッキュか?」
帽子曹長の眼は、私を射ぬきます。
発言に対しては、ぐうの音も出ないぐらいの正論です。
「実戦を考えるなら、後方の被害を減らすために、私が一番ッキュ」
「あのー、そのー」
「えっと、ナット……もちろん、言い過ぎたことぐらい分かってるッキュ」
ナット少女は急に、立ち上がり、ホワイトボードに書き込みます。
追加で書かれるは、前衛は両盾で防ぐ。
「確かー、格納庫に盾は余ってたハズだからー」
「まあそれなら被弾を少しは防げるッキュ」
「それなら私でもっ」
声を荒げる私を、再び睨む、帽子曹長。
「────レイニーの事ッキュよ。盾の隙間は抜けるッキュ」
確かに、褐色大尉の技量なら、出来そうな事です。
そう考えると、私が両盾で突っ込むという話はできません。
「そうですか、やっぱり私は最後ですか……」
どうしても暗くなってしまう私に、笑顔を向ける少女二人。
「キイロ、少しは味方を信用するッキュ」
「そうだよ、ライライちゃん。私だって頑張るんだからー」
そう二人に言われ、金髪少女は思いだします。
「そうですよね……信用しないと、また皆に怒られますね」
テントに差し込む日差しは、ちょうど真上から。
訓練午後の部が、始まります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
くらぅるさん、誤字報告ありがとうございました。作者は喜んでいます。