【城壁基地・野外訓練場 /臨時観測場 [現地時刻13:00]】
大きな日傘の下に、機材が並べられた臨時観測場。
勝敗を記したホワイトボードは一列を除いて×で埋め尽くされ、
暑さを凌ぐための扇風機は、魔法双眼鏡を冷やすために使われています。
そんな日傘の下には、作業員が数人。
「おいおい、まだやるのか女王様たちは」
「ちょっとは観測員の気持ちにもなって欲しいぜ」
と呟くはさっきまで勝敗観測を行っていた整備員。
目元にはタオルをあてて、魔法による熱を冷ましていました。
「こっちも楽な仕事じゃねーってのに」
「思考加速魔法をあと何回使わす気だよ」
模擬戦における被弾・撃破の判定は、観測所で行います。
そしてその判定を正確に出すために、初級の思考加速魔法が観測員には使われています。
「やばい、また頭が熱くなってきやがった」
「お前は休憩しておけ、あとは俺が代わっておく」
片方の整備員は椅子に寝ころび、寝ころんでいた作業員が立ち上がります。
「なんでウチの女王様は、ホイホイ使えるんだか」
「あれは大尉がおかしいだけだろ」
「くっそ、魔法が上手く使える新人がくたばってるせいで、全部俺の仕事だよ」
「今どき食あたりとか、食い過ぎの間違いだろ」
気付けば周囲には他の整備員。
遮蔽がない、屋外訓練場でのことです。
涼しいところに人が集まるのは当然のことといえるでしょう。
「そんで────どっちに賭ける?」
「大尉に昼飯」
「大尉に晩飯」
「大尉に三食」
「おいおい、それじゃあ賭けが成立せんだろ」
「じゃあ、アンタが嬢ちゃんに賭けるのか?」
「そいつは……」
この整備員は、ナット少女や金髪少女に美プラを渡した整備員です。
彼の心の中には────
帽子曹長は最近、仕事手伝ってくれるし、
ナット少女は割と弟子みたいな感じだし、
金髪少女キイロはプラモ仲間だしなぁ。
────という思い。
そんな思いを皆に言った一言は、
「大尉に晩飯で」
やっぱり人間、勝てる方に賭けたいモノですよね。
◇◆◇
【城壁基地・野外訓練場 / [現地時刻13:00]】
ふう、と大きく深呼吸をするは金髪少女。
操縦管を握りしめて、前を、操縦席の画面を見ます。
[さあて、なにを仕掛けてくるつもりかしら]
戦鋼の通信機が揺れます。声の主は、褐色大尉。
[それはくらってからのお楽しみッキュ]
そう返すは、帽子曹長。
[こんどはー、当てるぞー]
意気込みよしなナット少女です。
[────まっ、せいぜい頑張ってみなさい]
そんなラスボス感あふれる褐色大尉に、迫るは3機の戦鋼。
正面に、大楯を持った帽子曹長の戦鋼。
盾を地面にこすりつけ、土煙をあげて接近。
後方に飛ぶ土をよけ、直列した3機の戦鋼はみだれず、なおも接近。
[────ナット、キイロ、いいッキュか?]
[大丈夫だよー]「問題ありません」
一列に並んだ3機は、各々の武装を構えます。
帽子曹長は盾の隙間から機をうかがい、
ナット少女は魔法のタイミングを待ち、
私は戦鋼に突撃銃を構えさせます。
(大尉の戦鋼まで、距離はざっと15m……)
[盾とは小癪ね]
[ビビったッキュか]
[まさか? むしろその程度で]
褐色機は、腰部からリボルバーを抜きます。
照準を帽子曹長に定め、
[────覗いてる時点で負けよ、サニー]
三度撃鉄。三つの空薬莢の落下は同時。
まさしく、高速如きの早撃ち。
[へぶっ、あぶなッキュ]
鈍い音を立て、盾には咲くはペイント弾の華が2つ。
[中々に勘がいいじゃない]
[伊達に戦っている訳じゃないッキュ────けどねぇ]
そして戦闘の腹に咲く、華が1つ。
[サニー曹長、中破判定]
通信機が揺れ、
観測所から帽子曹長の判定メッセージが届きますが、彼女の戦鋼は止まりません。
未だに一列に、私達の戦鋼は進み続けます。
[あら、止まらないのかしら?]
[実戦準拠なら、中破如きじゃ戦鋼は止まらないッキュ]
[ほーう、いい度胸ね。つまり撃破判定が欲しいってわけ?]
通信会話の間につまる距離。ざっと5m。
大尉のリボルバーが再び向けられますが────
[いまッキュ]
[了解いー、
後方のナット少女から放たれる魔法。
その魔法の効果は単純。ただ光る。それも真っ白に。
[ちっ、視界が。小癪な魔法を]
大尉からはそんな苦言。
(私のカメラは無事。ナット少女の影にいて助かりましたね)
戦鋼のカメラは一定以上の光量で、自動で切り替わる仕様。
それは暗視野や明視野の為の補助機能ですが、今回は違います。
[カメラの切り代わりにはラグがあるッキュ]
その間、僅か1秒。
わずかな秒数。ですが、大尉の銃を撃つ手を止めるには十分な時間です。
[────後は任せたッキュ、キイロッ]
[────画面をやったところで、勝てるとでもッ]
再び戦鋼の通信機が揺れます。
発言から、褐色大尉の視界は未だに回復していない事は確定。
[前が見えないののに、避けれるとでもっ]
私はレバーを引き、突撃銃の照準を、大尉の戦鋼に。
後は引き金に添えるだけ。
「貰いましたっ────」[────なんのォ]
通信機が揺れた時、私は唖然としていました。
帽子曹長は、ナット少女も同様。
(はっ、あの状態から躱された……?)
[────わ、私を踏み台にしたッキュかッ⁉]
上に跳んだ、大尉の戦鋼は、突撃銃の掃射を間一髪でよけ、脚部から追加武装を取り出します。
[【
脚部から吐き出される、リボルバーを両手に、
[まずは1つ────[ナット機撃破判定あり]]
噴煙が纏わりつき、シリンダーは回り、金属音が鳴ります。
燦々と照らす太陽の下、二丁拳銃はこれでもかと輝きます。
[そして更に一つッ!]
照準は、私の戦鋼。
有無を言わさず、撃鉄が落ちます。
◇◆◇
【城壁基地・野外訓練場 / [現地時刻13:10]】
画面に映るは、戦鋼に吸い込まれるように直進する、銃弾。
「ナビィ────」
『────手は貸さんぞ?』
「いえ、アレ全開で何秒持ちますか」
『あれって……まあ、120秒が限界だろ』
「その言葉が聞きたかったです」
『ちっ、つまらん奴め。なら手は貸さんぞ』
脳内の
今回は
(いつまでたっても成長しないのは、違いますからねっ)
そんな思いと共に私は魔力を起動。
体から流れ、手に溢れる極彩色の光り。
その光は金髪少女から操縦席に。光があふれる。
「いきますよ、私────中級《チュウキュウ》-強化魔法《キョウカマホウ》発動っ!!」
正面から飛んでくる銃弾は一つ。
昔の私なら見えてから避けるなんて無理でしたけど。今の私なら────
「回避っ!」
思考にあわせて、操縦席のボタンがカチカチと連動します。
フレームが軋み、エンジンが唸り、戦鋼は滑るように弾を避けます。
[なかなかに、やるじゃない]
「そりゃどうも」
大尉の拳銃の弾は全部で12発、
先程、曹長に3発、そしてナット少女と私に2発、
「そして─────現在進行形でに3発っ」
銃弾3発の軌道はバラバラに見えて、理性的。
動かなくても左右に避けても、被弾コース。
「ならばっ」
見せてあげますよ、仮想訓練で培った技を。
(あの阿修羅ゴブリンの攻撃は、もっとクソだったんですよ)
操縦管を左右に捻り、足の設置圧、及び腰部の強化ジョイントを破棄。
各部モータ緊急逆回転。慣性を前方に、腕を振り上げ、
つまり────現在、戦鋼は上向きの力を得ています。
(別に羽が無くても、人は飛べるんですよっ)
[はぁっ、戦鋼でバク転する、普通ッ!!]
銃弾は背中を通り抜け、地面に咲くは3つのペイント弾。
(通信機のむこうから整備員の悲鳴が聞こえますね)
各数値修正後、再びペダルを踏み抜き、大尉の戦鋼に。
残り魔法発動時間は60秒。
[さっきから動き変わりすぎでしょッ]
「私をなめてもらっては困りますっ」
大尉の戦鋼まで、距離にして3m。
「ならッ、これはどうよッ」
ドンドンドンドン。画面に捉える銃弾は2つ。
ですが、聞こえた撃鉄音は4つ。
(
「ですが、その程度で────回避っ!!」
操縦管を引き絞り、戦鋼を右に動かして、回避行動。
「その程度、予測済みよ────
「はあっ? 弾に弾を当ててっ」
銃弾の軌道が変化。0.1秒後激突コースに。
戦鋼の動きを魔力操作で変えるには─────思考が、時間が足らない。
そんな考えも知らずに、銃弾は、私の戦鋼に向かう。
『全く、詰めが甘い────
幻聴の声とともに、視界はゆっくりに。
銃弾ですら、止まっている感覚です。
「ナビィ、あのー、そのー」
『醜態をさらす方が悪いと思うが?』
「でも、手は貸さないって」
『ただ、手が滑っただけだ』
「あっはい」
意識を再び、操縦席に。
流れる魔力を動かし、戦鋼のスイッチを切り替えはじめる。
静止した操縦席で、いびつな音を立てはじめる戦鋼。
画面に表示されるレッドアラートは無数に増えていく。
(すみません、もう少し頑張ってください……)
────銃弾は胸部装甲に接触。
右腕部補強ジョイントをパージ、更に各部モータ強制起動。
────歪な金属音をたてて、
背面胸部装甲一部、破棄。更にカメラ及び、全移動機器を左に。
────装甲の曲面をそって後方にズレる。
「よし、避けれたァっ!!」
[はっ⁉ 冗談でしょ、マジモンの一撃よッ!!]
バランスは崩れましたが、戦鋼までの距離は、わずか。
無理やりペダルを踏み抜いて、戦鋼のエンジンを吹かせます。
「この距離なら────」
脚部からナイフを射出。空中でつかみ取り、逆手で振りかぶります。
大尉の拳銃は既に弾切れ。恐れるモノは何もありませんっ。
「避けれないでしょォっ────」[────これは見事ね]
一閃。ペイントなナイフが、戦鋼を、
[────でも、私の勝ちよ]
「えっ?」
大尉の戦鋼。腕の装甲が外れ、内部から覗は20mmの銃口。
(んなっ、追加武装をまだ使ってなかったんですかっ⁉)
[誇っていいわよ。コレ、使わしたこと]
「クッソ悔しいなんて、絶対言いませんからねっ!!」
振り下ろしたナイフが到達するよりも速く、
銃弾は吸い込まれるように操縦席に。
画面にうつる弾は────銀色。
「えっ、あれ、なんで血が────ガハっ」
視界が半分潰れます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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