【前線基地/通路 [現地時刻8:00]】
超プラスチックで作られた通路は、どの面も同じような青空色をしていました。
二重で気密された小さな窓からは、陽光がさし込みます。
宇宙船のような内装なのは、太陽が2つある為と聞いたことがあります。
「自室を確保、自室の確保……」
私の動きに迷いは無く、黒髪少女の踏み出す一歩は軽快です。
軽快なのですが───
「────もしや、侵入者用の迎撃罠が」
既に基地内を歩き始めて、2時間。
一向に目的地《自室》につく様子がありません。
(既に似たようなドアを4回以上は見ています)
移動阻害系の罠、いえ認識阻害の魔法というものでしょうか。
『馬鹿には確かに罠だな』
「ナビィ、ふざけている場合ではありません」
『脳内ナビゲーションは必要か?』
「もちろん、いらないに決まってます」
脳内の
私はこんなに頑張っているのに、失礼な
「しかし、進めど進めど同じ場所に」
『そりゃあ、道に迷っているからな』
「いえ、私は確実に前進しています」
『同じ場所を回っているように見えるが』
「えっ、そうなんですか?」
思わず首をかしげながらも、辿ったルートを思い出します。
右、右、右、右────確かにぐるぐる回っていますね。
(意外と言われてみなければ、気づかないものですね)
私はそんな思いを胸に秘め、慎重に一歩を踏み出します。
『ちなみにそこは、さっき通ったぞ』
「……ナビィ先生、案内をお願いします」
自室に到着する任務は、私には難しいようです。
◇◆◇
【前線基地/通路 [現地時刻8:30]】
カンカンとプラスチックの音を立てて歩いている時、黒髪少女《わたし》は考えつきます。
「ナビィ、大きな魔力は探せますか?」
稚拙な考えではありますが、書類には宝玉は魔力を含んだ物とあった気がします。
つまり、比較的大きな魔力を探せば見つかるのではないでしょうか?
『あー、出来ない事はないが』
「うまく宝玉を探すことができないでしょうか」
『確かに魔力は多く含んでいそうな道具《アイテム》ではあるな』
「無理なら、いいですよ」
『別に無理とは言っていないだろ』
幻聴《ナビィ》は気分屋なところがありますが、上手いコトのせれたようです。
『まあ、少し待て……』
珍しく早急に仕事をしてくれる、幻聴《ナビィ》。
彼女にも気になることがあるのでしょうか。
『─────倉庫に1。基地に2。地下に1だ』
「思った以上に、いっぱい見つかりましたね」
書類によると宝玉は1個だけです。
つまり、残りは宝玉と同等の魔力をもつか、全部外れのか、の二択です。
「でも、他の手掛りなんて全くないですよねぇ」
そうすると、4つの内1つがアタリであると考えた方が楽ではあります。
(うーん、少し絞る必要がありますね)
魔力というモノは、一般的に動物だけでもなく非生物も持っています。
故に、基地の人間も判定対象。一方、宝玉が移動するとは考えずらいです。
ならば────
「静止している魔力のみで絞れますか?」
『基地1、地下1な具合だ』
「では、基地の魔力への案内を頼みます」
私は幻聴《ナビィ》に案内のルート変更を要求します。
彼女が手伝ってくれる内に任務を少しでも進めましょう。
『地下の方が反応は大きいぞ?』
「逃げ道が少ないのは不利かと思いまして」
地下からの脱出は困難な上、姿を見られると高確率で怪しまれます。
地上なら、道に迷ったなり言い訳ができるので安心です。
『いい考えだ』
「それほどでもありません」
『お世辞だ馬鹿。では案内を始める、迷うなよ』
具に落ちない気持ちを感じながらも、私は別の一歩を踏み出します。
◇◆◇
【前線基地/通路 [現地時刻8:45]】
黒髪少女《わたし》は悩みます。
「来たのはいいですが────」
目の前に鎮座するは、背丈より大きい超プラスチックの扉。
カンカン。叩けば金属音が混じって聞こえます。
「保管庫ですか」
扉を押しても、引いても、動く様子はありません。
扉横を見れば、【lock】 と画面表示する端末があります。
『どうする?魔力の反応はこの中だ』
「端末のこれ、パスを通す穴ですよね」
端末に貰った仮パスを通してみます。
【Error】────もちろん仮パスでは開きません。
「どうしたらいいでしょうか」
『鍵開け魔法でもなければ、無理だろ』
立ち去ってもいいのですが、ここが目的地の可能性があります。
大きな魔力が当たりかどうかは突き止めたい、そんな思いがよぎります。
(爆薬でもあれば、扉は破壊できるでしょうか)
「ナビィ、火薬どれぐらいいると思います?」
『火薬って、そんなもので──避けろッ』
幻聴《ナビィ》の言葉が、脳に響きます。
「へっ─────」
ですが、意味は理解不能。
ゆえに、直感で対応。
脊髄で、横に跳び。
「────滅殺《めっさつ》ッ」
一撃。空気を裂き、轟音を放つ拳が、頭上を叩きます。
壁には大きめの亀裂が入り、頭上からは消化剤が降り注ぎます。
「(壁割れているんですけどっ)」
『魔法使いならあれぐらい余裕だ』
「(余裕も何も、直撃すれば、壁の二の舞ですよっ)」
『当たらなければいいだけの話だ』
「────避けた?ならばッ」
襲撃者は、そんな声と共に、バチンと雷を纏います。
「ナビィ、補助を────消、え────がッ」
腹部に拳がめり込んでいました。
初動は見えず、周囲は焦げ臭く、口の中は温かいです。
『おい、馬鹿っ、二秒、死ぬ気で意識を保てッ』
黄色い死神。揺れ動く髪も相まって、目の前の襲撃者は“そう”見えました。
「じゃあね「カッ、カンッ」────アレっ?」
床の反響音が聞こえてきます。
これ基地のパス? そんな声が聞こえてきます。
「……まずい、まずいって、私ぃ」
震えた黄色い死神の声を聴きます。
まだ殺さないのでしょうか。どのみち私は限界なのですが。
「あ、あのー、もしかして、新人さんだったりィッ」
「────っ」
何かを聞いているようですが、私の口がうまく動きません。
「あっあ、意識を失わないでェ」
ごめんなさい、兄弟達。私も今からそこに行きます。
「こ、こうなれば────中級回復魔法ッ」
温かい。先ほどまでは冷たい湖の中にいたのに、急に暖炉に投げ込まれた気分です。
手をふる誰かに別れを告げ、私はゆっくりと目を覚まします。
◇◆◇
視界に跳びこんできたのは双丘。奥に浮かぶは、少女の顔。
黄色《きいろ》い髪が、私の頬を撫でています。
「良かったぁ。起きてくれた」
「生きて、いる?」
「それは私が回復したからですッ」
「では、なぜ攻撃を?」
もっともな私の疑問。
そもそも、攻撃してから回復する意味はあったのでしょうか。
「えーと、何というか直感で手が出まして」
「反射的に人を殺そうとした?」
「基地の知らない姿は、大体敵なのでェ」
ツンツンと指をくっつけて言い訳をする、黄色髪少女。
その姿は可愛らしいですが、言っている事は可愛くありません。
(まあ、不用心に調べていた私も良くはなかったですね)
「とりあえず、体は大丈夫です」
彼女の前で手をぐーぱー、します。
手に力は入りますし、お腹には傷はありません。
(ヒビを入れる程の威力の拳を食らった、ハズですが)
『魔法とはそういう物だ』
「便利な物ですね」
『そういえばその体では使えなかったな』
そんな便利な魔法ですが、私は一切使えません。
私たちが失敗作たるゆえんの一つでもありますね。
「あのー、独り言? やっぱり、頭とか打ったりぃ」
どうやら
「いつものことなので、大丈夫です」
「それはそれで致命傷な気もするケド……」
黄色髪少女はジト目でこちらを見ます。
ですが、見合必殺《サーチ&デストロイ》で殴って来る方に、頭の心配をする資格は無いと思います。
「ちなみにと、どうしてこんな所にいたの?」
「実は、自室への行き方が「ギュウルルルル」────えっと、コレは、違いまして」
急に盛大になる私のお腹の音。
そういえば回復魔法は回復者のエネルギーを大きく使うとか聞いたことがありますね。
「ふっ、ふふっ、続きは食堂で話さない?」
「食料は持ってますから、大丈夫「遠慮しないって」────ちょ、話を聞いてくださいっ!!」
黄色髪少女は、私をずるずると引きずっていきます。
無理矢理連れて行かれる様は、どこかドナドナを思い出しました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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