【異世界スーア・水車小屋/内部 [現地時間 昼]】
天井の光源は暗く、届いてくる香りは草と木の匂い。
「起きたか」
声をかけてくるは、モヒカンエルフのモヒカさん。
外の日差しがこの前より明るいことから、丸一日寝ていたようです。
「……ごはんがをください」
ぐーとお腹を鳴らし、わたしはお願いします。
ほいっと渡されるは、平べったく、重い葉っぱ。
「なんですかコレ」
「中の肉だけ食べるモノだ」
中には僅かに獣臭がのこる、干し肉。
咀嚼すると、なかなかに硬いですが、肉の味がします。
もちろん何の肉かはわかりません。
「もっきゅもっきゅ(葉は食べたらどうなるんですか?)」
「食べた肉を吐き出すことになる」
「もっ、もっきゅ(そんなモノに包んでいるんですかっ)」
「そんなモノだからこそ、肉を保存できる」
ぱふっ。食い終わったお腹は意外にも膨れています。
どうやらお腹の中でかなり膨れる、干し肉の様です。
「それは、手伝った方がいいですか?」
目の前の彼は、いそいそと何かを彫っていました。
「気にするなこれは趣味のようなものだ」
モヒカさんの手の中にあるは、突起のついた木の円盤。
「それは歯車ですか」
「歯車? これはそういうモノなのか」
モヒカさんが見せてくれたのは、やっぱり歯車です。
「えっと......知らずに彫ってたんですか」
「ああ、この水車を動かす為の部品でな」
そういうモヒカさんの視線は、自分の後方。
そこには大量の歯車が積み重ねられていました。
どれも同じような歯車な事から、モヒカさんの彫刻技術は素晴らしいもののようです。
「あれ? でもこんなに大量にあるのに、取り付けられていないんですか?」
「恥ずかしい話だが、上手くいかなくてな」
上手くいかないということは、交差したり、食い違ったりする面倒な奴ですか。
戦鋼にも使われていまして、実際直すとなるとかなり手ごわい敵です。
「交差軸とかになると大変ですよね」
「交差軸? 何を言っているんだ」
うん、と思い、見るは水車の仕組み。
そこには平行軸の────横に歯車を並べるだけで動きそうなギミック。
しいて言うなら、歯車の大きさを上手く組み合わせる必要があるでしょうか。
「これ、歯車を大きくしたら動きませんか」
「なぜ大きくする必要がある」
「ええっと、大きさを組み合わせることで力を上手く伝えれますし」
「それは違う。この木材はこの大きさが一番あっている」
「……うん?」
かみ合わない話。
まるで技術者と芸術家が話し合っている感じです。
「モヒカさんは芸術家か何かなんでしょうか」
「どちらかと言えば治療師だ」
「体を直す的な」
「いや、芸術品で心を直すと言ったものだ」
この人は何を言っているのか、と思いますが、コレがエルフでは一般的です。
病気や寿命の概念がないエルフは、心の病ぐらいしか病気と呼べるものがありません。
そのため優れた美術品をつくって心を癒す方々を、治療師と呼ぶのです。
「まあ……なくても生活には困らない道具だ」
モヒカさんの視線は囲炉裏の中央にむきます。
囲炉裏の中に埋まっているのは、球体です。
「うっすらと文字が刻まれた球体ですね」
球体の下部分は灰に沈んでいますが、上部分の文字は読み取れます。
「えーと、初級-生活……なんでしょうか」
「魔法文字が読めるのか」
「読めたというより、これがあまりにも日本語っぽいので」
感覚的には達筆すぎる漢字を見せられている感じです。
古文とは違った雰囲気ですし、訛っていると言った方がいいかもしれません。
(なんでこんなに似ているんでしょうね……異世界の不思議です)
「これは便利なモノだ」
モヒカさんは球体に手をかざします。
「この通りだ」
「一瞬で部屋がきれいになりましたね」
「他にも火をつけたりすることもできる」
「便利な道具ですね」
確かにこれがあれば、水車の動力とかは必要ないかもしれません。
木の実をすり潰すのも、魔法で一瞬でしてもらえそうです。
「必要なのは食料ぐらいだ」
「昨日も魚がありましたね」
「魚は取りすぎていい物でもない」
今日はこっちだとばかりに、モヒカさんは壁の武器を指します。
木弓。横には矢が入った筒があり、羽がつつから見えています。
「弓を射ったことはあるか」
「生まれてから一度もありませんっ」
「最近の子供は狩りの仕方すら教わらないのか」
「いや教わるというかなんというか、時代?の違いでしょうか」
銃なら使えます、と言う訳にはいきませんし、別に狩りをしなくても生きていける生活と言っても伝わる気がしません。
そうやってウーウー悩む私を、モヒカさんは不思議そうに眺めているのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・森/麓 [現地時間 昼]】
森までは水車小屋から歩いて1時間、体感30分ほどの距離でした。
小屋から川にそって歩くだけで、気づけば周囲は木々に囲まれていました。
「気持ちのいい場所ですね」
季節は夏に差し掛かっているというのに、汗を感じません。
木々の隙間から吹き込む風は冷たく、木陰から差し込み日光がちょうどよく体を温めます。
「お前もそう感じるのか」
急に足を止めて、こちらをじっと見つめるモヒカさん。
「えっと、わたし何か変な事をいいましたか?」
「森の息吹を感じれるモノは少ない」
モヒカさんは屈んで、道に落ちている1枚の葉っぱを取ります。
「そして、森はそのモノ達にメッセージを残す」
葉っぱは葉脈から萎れていき、徐々に葉っぱ全体が黒くなっていきます。
「────この森は死にかけている」
「急な話ですね」
「だが事実だ」
最終的には、灰の様にさらさらと葉っぱは消えていきました。
「葉の魔力が衰えている」
「それは落葉したからではなく?」
「この時期の落葉は季節によるものではない」
モヒカさんの視線は、夏だというのに葉の茂りが少ない木々たち。
「───木をなんとしても活かす為だ」
モヒカさんは、再び歩きはじめ、独り言のように話します。
「山の向こう、川の上流に村が一つある」
「その村が原因ということですか?」
「間接的にはそうだ」
「ならモヒカさんはその村に何かしようと?」
「彼らに恨みは無い。だが興味もない」
そう言うとモヒカさんは、一本の木の根元にたどり着きます。
なんの変哲もない木の根元。その周囲の土を手ですくい、腰の袋にしまいます。
「何をしているんですか?」
「土を入れ替えている」
別の袋から取り出すは、極彩色の輝きがある土。
「エルフの魔法で、土に魔力を蓄えたものだ」
それを掬ったところに、同じ分だけ戻します。
「ですが、そんなわずかでは」
「もう50年もすればいずれだ」
モヒカさんの言葉に釣られて、周囲の木々の下を見ます。
周囲の木々すべてに、少しだけ盛り上がった場所があります。
「えっと、これ全部モヒカさんがやったんですか?」
「そうだ。わずかでも力になればと思ってな」
50年を一瞬のように語るモヒカさん。
少しですが、彼とは種族的な差を感じてしまうのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。