【異世界スーア・森/中腹 [現地時間 昼]】
たどり着つくは山の中腹。
草木が茂り、道無き道となった場所を、モヒカさんは進んでいきます。
そんな後ろを、草木をかきわけながら、
「今回狙う得物は、一角兎という」
「それは兎のような体に、角がある生物みたいなやつですか」
「……森は初めてかと思ったが、よく知っているな」
「いえ、そこに似たような生物がいますので」
草木を抜けた岩場には、草を食べ合う、兎。
彼らの頭には、ユニコーンのような角が生えていました。
「いい目をしている」
「たまたま見つけただけとも言います」
本当は感覚的に魔力の反応を辿れただけともいいます。
(勘が鋭くなったという感じでしょうか、前よりも広範囲を見れている気もします)
「なら、弓を構えてみろ」
「いいんですか?」
「見つけた者の特権だ」
「ならばお言葉に甘えて」
モヒカさんは私の手に、弓を渡してきます。
ずっしりと重い、木で作られた弓。
「おおっとっとと」
受け取った時思わず、バランスを崩してしまう程の、剛弓です。
そんな弓の弦に、矢を引っ掛け、自分の体ほどの弓を────
「……」
もう一度。
弦に矢を引っ掛け、剛弓を────ひっぱれませんね。
「「……」」
申し訳なさそうな目で見る、モヒカさん。
「すまない、子供に早かったかもしれん」
「いえ、私の力がないばかりに」
弓を地面に置き、両手で引っ張ってみますが、ピクリとも動きません。
見かねたモヒカさんは、弓に手を触れます。
「少々、離れておけ」
手から流れるは極彩色の輝き。
それはゆっくりと弓に伝わり、形が変わっていきます。
「凄い魔法ですね」
「エルフなら、木々の成長を変える程度造作もない」
「それで山を救えたりはしないんですか」
「成長を変化させるということは、砂時計を何度も壊すようなものだ」
モヒカさんが、渡すはコンパクトになった弓。
そんな弓の一部は黒く枯れたようになっていました。
「────使えば使う程、木の寿命は短くなる」
「これモヒカさんの武器ですよね。すみません」
「構わん。武器を長く使うのも大事だが、使える人がいることも必要だ」
穏やかな目で言葉を告げる、モヒカさん。
私は再び、弓を構え────
「あのー、すみません」
「なんだ」
構えた先には、誰もいなくなった岩場。
「兎がいなくなっているんですが」
「奴らは非常に警戒心が高いからな」
後に知られることですが、一角兎の角はレーダーの役割があるという、学会の報告もあります。
つまるところ、そんな兎の近くで魔法を使ったらどうなるか。
一角兎は魔法にビビって逃げたので、もう一度探すところか、狩りは再開です。
◇◆◇
【異世界スーア・森/中腹 [現地時間 昼]】
「そこですッ」
矢は、風を切り、木々の隙間を抜けて────見当違いな場所に当たります。
「外れたな」
「外れましたね」
感想を述べている間に、音で驚いた一角兎は逃げていきました。
一角兎を発見するまでは楽勝だったのですが。
「……意外と不器用なのだな」
矢は一向に当たりませんでした。
(おかしいです、まず矢が真っすぐ飛びません)
この時の私は気付いていませんが、弓を綺麗に撃つためには、ぶれない姿勢が必要です。
はあはあと息を切らし、うなっている私では、まあ当てることは出来ません。
「安心しろ、100年も練習すれば上手くなる」
モヒカさんの背中には、仕留められた兎が2匹。
私が一匹も仕留めれない中、見本と言って、秒で二匹をしとめていました。
「100歳まで練習はちょっと大変な気がします」
「何事も続けることが大事だ」
「いえそうではなく、寿命的にですね」
「……そうだったな。すまない」
「しかし、一匹も仕留めれないって、なんか違いますよね」
やはり、弓で狙って撃つという動作が上手くいっていない気がします。
「────いや、いっその事、
モヒカさんは、疲れているのか少女よ、といった心配そうな顔を浮かべます。
◇◆◇
【異世界スーア・森/中腹 [現地時間 昼]】
森の木々をぶちぬくは、小さな石。
ただの石ころですが、飛ぶ速度は、弾丸の如き。
一直線に進む石ころは、一角兎から外れ、近くの地面に着弾。
「やはり駄目で────」
横の土ごと、一角兎を吹き飛ばします。
予想以上の一撃に、思わず停止してしまう私。
「いや、あの、そんな力では投げたつもりはないんですが」
「少女は巨人族の生まれだったのか」
「いや、そんな生まれでもないですっ」
着弾点に行くと、あるのは小さなクレータと、体がずたずたになった一角兎。
「これでは上手く捌けないな」
「すみません」
毛皮には血がしみ込み、骨は曲がっていました。
「そういう時は、魔石を取り出しておけ」
「魔石をですか」
「ああ、おのずと全てが自然に帰る」
言われたとおりに、一角兎の魔石を取り出すと、数秒後、兎の肉体は塵の様に消えていくのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・森/中腹 [現地時間 昼過ぎ]】
河の中で、水につかっているのは、二匹の一角兎。
「すみません、私のせいで」
「構わん。必要以上は不必要だ」
モヒカさん、は満足そうに言います。
「ちなみにこれはなんで河につけているんですか」
「血抜きだ。魔力を自然に返す意味もある」
モヒカさんは、お腹が減る手前で河から一角兎を引き揚げ、解体に取り掛かります。
「まずは邪魔な毛皮を剥ぎ取る」
手慣れたように、お腹に切り込みを入れ、一角兎の皮が剝がされていきます。
ぺりぺりと剥がされる様子は、見ていて面白いものです。
「次に腹を取ってだな、部位ごとに切り分ける」
臓物を取り出し、骨を基準にして、肉をばらします。
その後、モヒカさんは肉を再び河につけます。
「また、河につけるんですか?」
「肉から魔力を抜いておく必要があるからな」
「魔力を抜く?」
「そうだ」
モヒカさん曰く、一般的に魔力が多く含まれた物体は、形が崩れやすくなるそうです。
そのため、ある程度まで魔力を抜いて、食材としての形を保つ必要があります。
こうしないと、朝起きたら、保存食が消えていたなんてあるそうです。
「正確に言えば、魔力のつながりを絶つという意味もあるが」
「小難しい話になってきましたね」
「ようは、一角兎の魔石を抜いた後でも、肉が崩壊しなくなるということだ」
「な、なるほど」
確かに、臓物の中には、赤く光る魔石がありましたが、肉が消えることはありませんね。
「まあ、街育ちの子供には関係のない話だ」
数時間後、肉を河から取り出した私たちは、水車小屋に帰るのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。