【異世界スーア・山/麓 [現地時刻 昼]】
山道に散らばるは、籠に入っていた、一角兎の角。
一本一本丁寧に拾い、土を落として籠に戻していきます。
そんな中。おおざっぱながらも角拾いを手伝ってくれた辺り、お姉ちゃん(仮称)は悪い人ではないのでしょう。
そんな、少女と女性の二人は、歩幅を合わせて、山道を下っていきます。
「今更ですけど、名前はなんと呼べばいいんですか?」
そう尋ねるは、金髪片角少女。
「名前、名前かァ……龍、以外で呼ばれたこともねーしなァ」
青着物より蒼い髪を、ゆらゆらとゆらし、龍となのった女性は答えました。
「なら龍さんですか」
「それはちょっとダメだな」
「なら、えっと、
「まあまあ、勘弁シてやるか」
ちょっと満足そうな龍ねえ。
「妹から龍ノ匂いがしたってやつだ」
「龍? 竜ではなくて」
「はっ、あんなプライドで生きている奴らみたいな匂いがするか」
この世界、龍だけではなく、竜もいるんですか。
「────いいか、私たちは龍だぞ。間違えるなよ」
龍ねえは、急に真剣に語ります。
それはまるで、ミスってはならない一線を教えてくれるようでした。
「この世界に龍は生まれることがない」
「それは龍ねえが唯一の生き残りだから的な」
「いいや、ちょっと生まれ方が特殊でな、そのせいだ」
「卵生で生まれたりしないんですか」
「そりゃお話の中だけだ。龍は星から落ちて生まれるんだよ」
「いや、どういうことですか」
そういうことだ、とこちらに振り向く、龍ねえ。
「だからこそ、見つけた仲間には優しくってノが信条でな」
急に龍ねえに抱き着かれます。
「それが、こんな、いい子トは……出会って殴られないのは何百年ぶりだ」
また頭をなでなでされます。
(いや、歴代の龍ってどれだけマナー悪いんですか……)
そんな事を思いつつ続けて30分後、ようやくなでなでから解放されます。
「あのー、ちなみに呼び方はこれでいいんですか?」
そう呟くは、頭がぼさぼさになった、金髪片角少女。
「呼ビ方?」
「龍ねえでいいかって話です」
龍ねえには、まだそんなこと考えてたのか、みたいな顔をされます。
「お姉ちゃんが至高だが、妹の好きにすりゃあいいさ」
「では、龍ねえ、で」
「まったく、どいつもこいつモ似たような名で呼びやがる」
本当に血は争えなさそうだなぁ、っと呟くは龍ねえの談。
私としてはしっくりときた呼び方にしただけなのですが。
「だが気を付けろ。名前ってノは思ったより厄介なもんだ」
「厄介とは?」
「純白ノ物に下手な名前を付けて見ろ、それこそ爆発することになる」
「龍ねえ、意味が分かりません」
「生きていれバそのうち分かるようになるさ」
龍ねえは楽しそうに指を回します。
「ほら、森ヲぬっけぞ」
森の木々の間から差し込む光が強くなってきました。
二人の足取りはまだ続きます。
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/入口 [現地時刻 真昼]】
森を抜けた先には、穂が揺れる農業地帯。
農地の中心に聳えるのは村の存在を示す───小さな門。
木で組まれた門は、高さ1mもない木の柵と繋がっており、外敵を阻むというより目印の意味合いをうけます。
「そこのお前ニャ......ってお龍さんでしたかニャ」
「おー、今日も元気にやってんなァ」
門番はフサフサした猫ですね。
具体的に言うと────二足歩行する三毛猫といった感じです。
そもそも、門番なのに鎧を着ている訳でもなく普段着で、小さな槍は門に立てかけてあります。
「そちらの方はニャ」
「私の妹だ」
「(いや、流石にその設定をゴリ押すのは無理がありませんかっ)」
私は龍ねえのことをしぶしぶ姉と認めましたが、実際は結構差異があります。
髪色は、青髪と金髪ですし、顔つきだって全くにていません。
「いやちょっと似てない気ニャ」
ですよね。
「おいおい、この龍の発言が信用ならないってのか、オメー」
「いっつも酔っ払っているお龍さんの何を信じろとニャ」
「今日は酔ってないから大丈夫だ」
「すでに酒臭い龍が何か言ってるニャ」
「────あれ、お酒の匂いとかしますか?」
すんすんと龍ねえを嗅いでみますが、自然の香りぐらいしかするものがなく、私は首を傾げます。
「まあ、猫族は胃ノ中の酒すら、臭いっていうからな」
「もの凄く鼻がいいんですね」
「ふっふっふ、そうニャ────この門番猫に嗅げないものはないニャ」
すごく満足している門番猫。よっぽど褒められてうれしいのでしょうか。
「というわけで、通っていいニャ」
「……いいんですか、そんなノリで」
「どうせこんな辺境の地に来る奴なんか、冒険者か盗賊の二択だニャ」
「私が頭のいい盗賊かもしれませんよ」
「頭のいい盗賊はこんな何もない村襲わないのニャ」
「それ言ってて悲しくなりませんか」
別にという感じでハキハキと語る、門番猫。
「門番猫、いちおう門番してないと私ノ時みてーに、怒られっぞ」
「えー、なら確認だけするニャ」
「ニャと目的を言うニャ」
「えっと、名は木色来来、目的は一角兎の角の買取です」
「角は背中ので全部ニャ」
「そうですね」
一通り体を見られた後、腰につけているポーチに門番猫の目が留まります。
モヒカさんの家にあった、なんの変哲もないポーチです。
「ポーチの中を確認してもいいニャ」
「構いませんよ」
門番猫はポーチを触り、じっとにらんだんだ後、私の手元にやさしく返してくれました。
「すみまないニャ、変な疑いをかけてしまったニャ」
「いえ、気にはしてませんが」
「どこかの誰かがアイテムボックスとかから変なモノを出すせいで、警戒する羽目になったのニャ」
そういって門番猫は龍ねえを見ます。
本人はどこからともなく取り出した、徳利でお酒を飲んでいました。
「なるほど、凄く分かりやすいですね」
「持ち込むのはいいけど、村人に迷惑だけはかけないで欲しいのニャ」
「つまり迷惑をかけた人物が過去にいたんですね」
「今も隣にいるニャ」
横をみると、二本目の徳利を傾けている龍ねえ。
お酒を飲んで気持ちよくなったのか、龍ねえはおどっていました。
「ちなみに買取までの案内はいるかニャ」
「ええっとぜひ「私がいるかラ要らない」────だそうです」
背中から龍ねえに抱きしめられます。
豊満なモノを押し付けられ、なぜか耳を噛まれています。
(今更なんですけど、龍ねえが他の龍に殴られる理由って、酒癖の悪さな気もしてきました)
「ああ、そうかニャ……頑張るニャ」
そういって可哀そうな視線を送る、門番猫。
視線だけではなく、実際に助けてもらったりすることは駄目でしょうか。
「さーて、町に入るぞ」
「えっ、ちょっとっ」
急に私をお姫様抱っこして、町の中に進む龍ねえ。
むぎゅっと胸に寄せられて、すっごっくいい匂いがしますが、そんな嬉しさより恥ずかしさが勝っています。
「おっ、おろしてくださいっ」
「駄目だ、ダメだ、お姉ちゃんの言うことは聞くべきだぞ」
ですが、酔っぱらいには何も通じず、私は顔を赤らめることしかできませんでした。
門を抜けた先の視線は、二人を熱く優しく照らしています。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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