紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

46 / 107
㊻ 少女とお使いと風景

【異世界スーア・猫族村/集会所 [現地時刻 昼頃]】

 

龍ねえを引っ張り、金髪片角少女(わたし)は買い物を始めます。

 

メモに書かれていたのは、どうやらどれもギルドの内部で売っているようです。

 

「受付は向こうですかね」

 

私は歩き、買取の受付から、販売の受付に移動します。

 

着いたのは木造の窓口。木目がハッキリとしたテーブルには、果物や野菜が置かれていました。

 

「いらっしゃーいニャ」

 

受付から出迎えてくれるは、おばちゃん黒猫です。

 

エプロンをつけて、年季の入った猫耳が特徴的です。

 

「お酒とかはありますか」

「お酒は────」

 

そんなおばちゃん猫の言葉を遮って、横から飛び出るは、龍ねえの手。

 

ひょいと、樽の中の一本を指さします。

 

「アレにしようぜ、ダルマの火酒だ」

「ダルマの火酒ですか?」

 

「飲ムと体が燃えるように熱くなる酒でな」

「いや、そんなの誰が飲むんですか」

 

「龍は結構好きだぞ。あと竜どもガ我慢比べに飲む」

「モヒカさんはエルフだった気がしますが」

「ならちょうどいい、二度ト忘れられない味になるぜ」

 

ハハハと笑う、龍ねえ。

 

そんな龍ねえの肩を叩く、老人猫が一人。

 

「ずいぶん楽しそうじゃな、お龍」

「げっ、村長ジゃねーか」

「げっ、とはなんだ、げっとは」

 

どうやら老人猫もとい村長猫は、龍ねえに用があるようです。

 

「何シに来たんだよ」

「まさか、森の調査忘れてはおるまいな」

「ソノまさかだ。すっかり忘れてたぜ」

 

呆れるような視線を向ける、村長猫。

 

「ならお主に依頼の前金を払ったことは覚えているか?」

「……ソイツも忘れておきたかったぜ」

 

そうだったなぁ、という顔になる龍ねえ。

 

「あー、すまん妹よ、一人で買い物できるか?」

 

そういうと、龍ねえは村長猫と、どこかに行ってしまうのでした。

 

残されたのは受付ぽつんとたたずむ、金髪片角少女。

 

「あのー、すみません、ご迷惑を」

「いいニャ。どうせお龍さんだしニャ」

 

そう語るは、おばちゃん黒猫。

 

まるでいつもの事の様に流されます。

 

「そんなに龍ねえは有名なんですか?」

「有名というか、悪目立ちニャ」

 

「まあ、真面目に仕事している感はないですよね」

「ああ見えても、最初は頑張ってやっていんニャけど、急にやる気がなくなったニャ」

 

「……なんというか、気分屋なところがそっくりです」

 

はて? 私は誰の事を思い浮かべたのでしょうか。

 

そんな疑問を頭の片隅に置きつつ、買い物作業に戻ります。

 

(頼まれた品物は────酒、食器、果物でしたね)

 

私は、おばちゃん黒猫に問いかけます。

 

「まず。おすすめのお酒はありますか?」

「あいニャ」

 

ドンとお酒の樽が置かれます。

 

どうやら売っている中で、安くて上手いお酒らしいので籠に入れておきます。

 

「次に食器はありますか」

「あいニャ」

 

ドドンと一人分の食器が置かれます。

 

おそらくお椀だけでいいですが、全部籠に入れます。

 

「最後に果物は」

「あい……? すまないニャ、今日の分は全部売れたニャ」

 

おばちゃん黒猫の発言に。私は眼をパチクリとさせます。

 

「まだ昼なのに、もう売れたんですか?」

「果物は村で作ってないから、どうしても数が少ないのニャ」

「なるほど」

 

うーんと悩む私。

 

(別にあればという話だったので、買ってこれなくても問題はないハズですが)

 

どうせなら、全部買ってきたいという欲もあります。

 

そんな私を見かねたのか、おばちゃん猫が助け舟を出してくれます。

 

「果物はないけど、野菜でいいなら代わりにあるニャ」

「野菜ですか?」

 

「そう、果物にも負けず劣らず甘い奴ニャ」

「つまりスイカみたいな野菜ということですか」

「スイカ? なんだお嬢ちゃん知っているのニャ?」

 

そういっておばちゃん黒猫がさした裏庭には、緑色の球体。

 

「スーイカ、と呼ばれる私たちのおやつニャ」

 

スーイカ……後に出版される農業辞典によれば、異世界スーアでは水分補給用の野菜として知られています。

 

果肉に含まれる80%以上が水分で、また、丈夫な皮をもっている為、旅のおともに最適だそうです。

 

「なんというか、もの凄く怒られそうな名前ですね」

「怒られそう? もとからこの野菜はこんな名前ニャ」

「な、なるほど」

 

似たような顔の人間が3人いるように、植物も似たような名前になる運命なのでしょうか。

 

(まあ、名前が似てますし、多分食べれるハズです)

 

そんな浅い考えの元、スーイカを注文することにします。

 

「では、それを果物としてお願いできますか」

「もちろんだニャ」

 

そういって猫耳おばちゃんはエプロンを脱ぎ始めて、軍手を嵌めます。

 

「じゃあ、今から採ってくるニャ」

「えっと、今からですか?」

 

「そうだけど、なにか問題かニャ」

「いえいえ、自分も手伝いますっ」

 

(まさか、現地調達とは……本当に田舎のばあちゃんを思い出す感覚です)

 

籠を床においてから、急ぎ、金髪片角少女はおばちゃん黒猫の後に続くのでした。

 

 ◇◆◇

【異世界スーア・猫族村/集会所 [現地時刻 昼頃]】

 

「集会所の裏側って、ほとんど農地なんですね」

「そうだニャ、向こうは村名産コムギ―を育てていているニャ」

 

「こ、コムギー?」

「そうそう、コレが街ではおいしい食べ物になるそうなんだニャ」

 

ここから見える限り、どう見ても小麦畑です。

 

つまりおいしい食べ物というのは、パンあたりだと思います。

 

(まさか、異世界にも小麦を食べる文化があるとは……)

 

「世界の不思議ですね」

「なに悟った顔してるんだニャ、嬢ちゃん」

 

おばちゃんは、すでに収穫を終えたスーイカを持っていました。

 

「とりあえず、3つもあれば十分ニャ」

「あ、ありがとうございます」

 

ドンドンドン、と渡される、3つのスイーカ。

 

思わず落としそうになってしまう程、弾力があり、中からはちゃぽちゃぽという音も聞こえます。

 

「しっかし、今年もコムギーが大量だニャ」

「そうなんですか?」

 

「そうそう、天候が良く、嵐がなかったからニャ」

「それは良く育ちそうですね」

 

こっちに来て見な、と猫耳おばちゃんに言われ、後をついていきます。

 

スイーカは重いので、地面に置いてくることにしました。

 

「ほら、いい穂が付いているだろニャ」

「いい穂なんでしょうか」

 

「そうだニャ。私が前の村にいた頃はやせ細った、小さな穂しかなかったニャ」

「なら今回はよっぽど良作なんですね」

「なーに、今回もニャ」

 

おばちゃん黒猫は自信満々に言います。

 

「そうだ、今度余ったコムギーで料理を作ってやるニャ」

「いやそこまでは────んっ?」

 

耳が捉えるは、聞き慣れたことの有る、奇妙な音。

 

森で聞いたような獣の音ではなく、機械的な音。

 

「おーい、二人とも危ないニャ」

 

それは俗にいう、エンジン音というものです。

 

「あれ、あの機械は……」

「ああ、ありゃウチの頑張り屋さんニャ」

 

それは地面を必死に耕す、戦鋼【PN-K2】。

 

右手は肥料を持ち、左手は鍬に交換されています。

 

そして、なにより────

 

「な、足が無限軌道に」

 

尊厳破壊の如く、脚部は取っぱらわれ、手作り感あふれる無限軌道が付いています。

 

上部と下部のバランスが著しく酷く、コレを推しの戦鋼と認めたくないほどの出来です。

 

「中々のイケメンだろニャ」

「イケメン……なんでしょうか……?」

 

厳しい評価をする子だニャ、というおばちゃん黒猫の目線。

 

「昔、娘が買ってきたときはもっとイケメンだったニャ」

「えっと、アレ売り物だったんですか」

「よく地面を走り回っていたニャ」

 

おばちゃん黒猫は、昔を懐かしむように語ってくれます。

 

「でも、雨風にさらされて、何回も修理を重ねていくうちにどんどん変わっていったニャ」

「なるほど。あの体にはそんな意味があったんですか」

 

「ウチには職人はいても魔導具技師はいないか、みんなであーだこーだ、言って直したものニャ」

 

おばちゃん黒猫が見つめるは、戦鋼のカメラ部分に付けられた、大きな帽子。

 

土で汚れていますが、そこには麦で編まれた麦わら帽子がありました。

 

「あの子、頭に帽子をかぶっているニャろ」

「はい、被ってますね」

 

「アレは私が編んだのニャ」

「戦鋼に麦わら帽子をですか?」

「そうそう、今日みたいな日でも暑くないようにニャ」

 

そういうおばちゃん黒猫の眼は、懐かしい物を思い出す眼でした。

 

「────すみませんでしたっ」

 

そんなおばちゃん黒猫の傍ら、私は頭を下げます。

 

「どうしたんだニャ、嬢ちゃん?」

「いえ、自分の気持ちの問題なんですが。失礼な事を考えたと思いましてっ!!」

 

何が上下のバランスが悪いですか、何が尊厳破壊ですか……

 

あの戦鋼は今日も立派に動いているじゃないですかっ。

 

(私としたことが、戦鋼を見かけでしか判断していませんでしたね)

 

背後に日差し、

体は泥にまみれながら、

手に付けられた鍬で必死に土を耕す戦鋼。

 

「ええ、立派です。異世界でも戦鋼【PN-K2】は立派に働いていると、100点満点ですっ!!」

 

私如きが評価をするなんて、厚かましいですが、私以外誰もいないので、ここに宣言しておきます。

 

「嬢ちゃんニャ、そこまで食い入るように見つめるなら───乗ってみるニャ?」

 

それはおばちゃん黒猫の何気ない提案でした。

 

「へっ、いや、そこまでは」

「いいニャ。若い子はみんな同じことを思っているニャ」

 

コムギー畑を横切って、猫耳おばちゃんは大きな声をあげます。

 

「おーい、ちょっとこっちまで来てくれニャ」

「なんじゃァ、聞こえニャ」

 

「馬鹿爺ィ、早く来いっていってるんだニャッ」

「だーれが、耳ぼけ老人猫だニャァッ」

 

「なーんだ、良く聞こえているニャァ、はよ来いニャッ!!」

 

そうして数分後、こちらに近づいてきた戦鋼から、降りてくるのは、おじいちゃん黒猫。

 

帽子に、泥だらけの長靴を装備した、二足歩行の黒猫です。

 

「乗ってもいいが、足元に気をつけて乗るんだニャ」

「大丈夫です、慣れているので」

 

戦鋼の操縦席は、だいぶ変わっていました。

 

座席にはクッション用のかわいらしい布がはってありますし。足元には汚れが拭けるマットと、泥だらけのペダル。

 

「風を感じやすいと言えば、良ポイントでしょうか……」

 

そしてなにより、正面装甲が取っ払われていました。

 

(まあ、カメラ部分に麦わら帽子がある時点で、察しでしたね)

 

「でも、乗った感覚はいつも通り」

 

思い出すは、懐かしい戦鋼【PN-K2】の感覚。

 

新型の様に広くもなく、メイン画面もありませんが、安心する感覚です。

 

「嬢ちゃんニャ、動かしてもいいニャ」

「えっ、でもこれ、おじいちゃんのではっ」

 

「安心せい、爺でも動かせる産物じゃニャ」

「いやまあ、そうなんですが」

 

操縦が簡単なのは嫌という程知っているんですが、動かして壊れたりはしないですよね。

 

そんな不安感がよぎりつつ、戦鋼のエンジンを入れて、ぶるんと黒い煙が舞います。

 

「お嬢ちゃんニャ、なかなかにいい音を立てるじゃニャ」

「あ、ありがとうございます」

 

動かすといっても、ペダルを踏むと無限軌道が回転する仕組み。

 

レバーを引くと、右腕の鍬を振り下ろす仕組みの様です。

 

(とりあえず耕してみますか)

 

「すみません、ここって耕してもいいですか?」

「構わんが? そう簡単にはいかんニャ」

 

楽しそうに笑うは、おじいちゃん黒猫。

 

「よいしょ」

 

そう言ってレバーをおろしますが、目標より数センチ横を掘ってしまいました。

 

「すみませんっ! ちょっとズレましたっ!!」

 

「いや……ズレとるニャ? ズレとるのか、ばあさんニャ……」

「お嬢ちゃん、アンタより操作上手いんじゃないのニャ」

「まったく最近の若者は凄いなばあさんニャ」

 

そんな黒猫さんたちの声は、楽しく戦鋼を動かす、金髪片角少女には届かないのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。