【異世界スーア・猫族村/集会所 [現地時刻 昼頃]】
龍ねえを引っ張り、
メモに書かれていたのは、どうやらどれもギルドの内部で売っているようです。
「受付は向こうですかね」
私は歩き、買取の受付から、販売の受付に移動します。
着いたのは木造の窓口。木目がハッキリとしたテーブルには、果物や野菜が置かれていました。
「いらっしゃーいニャ」
受付から出迎えてくれるは、おばちゃん黒猫です。
エプロンをつけて、年季の入った猫耳が特徴的です。
「お酒とかはありますか」
「お酒は────」
そんなおばちゃん猫の言葉を遮って、横から飛び出るは、龍ねえの手。
ひょいと、樽の中の一本を指さします。
「アレにしようぜ、ダルマの火酒だ」
「ダルマの火酒ですか?」
「飲ムと体が燃えるように熱くなる酒でな」
「いや、そんなの誰が飲むんですか」
「龍は結構好きだぞ。あと竜どもガ我慢比べに飲む」
「モヒカさんはエルフだった気がしますが」
「ならちょうどいい、二度ト忘れられない味になるぜ」
ハハハと笑う、龍ねえ。
そんな龍ねえの肩を叩く、老人猫が一人。
「ずいぶん楽しそうじゃな、お龍」
「げっ、村長ジゃねーか」
「げっ、とはなんだ、げっとは」
どうやら老人猫もとい村長猫は、龍ねえに用があるようです。
「何シに来たんだよ」
「まさか、森の調査忘れてはおるまいな」
「ソノまさかだ。すっかり忘れてたぜ」
呆れるような視線を向ける、村長猫。
「ならお主に依頼の前金を払ったことは覚えているか?」
「……ソイツも忘れておきたかったぜ」
そうだったなぁ、という顔になる龍ねえ。
「あー、すまん妹よ、一人で買い物できるか?」
そういうと、龍ねえは村長猫と、どこかに行ってしまうのでした。
残されたのは受付ぽつんとたたずむ、金髪片角少女。
「あのー、すみません、ご迷惑を」
「いいニャ。どうせお龍さんだしニャ」
そう語るは、おばちゃん黒猫。
まるでいつもの事の様に流されます。
「そんなに龍ねえは有名なんですか?」
「有名というか、悪目立ちニャ」
「まあ、真面目に仕事している感はないですよね」
「ああ見えても、最初は頑張ってやっていんニャけど、急にやる気がなくなったニャ」
「……なんというか、気分屋なところがそっくりです」
はて? 私は誰の事を思い浮かべたのでしょうか。
そんな疑問を頭の片隅に置きつつ、買い物作業に戻ります。
(頼まれた品物は────酒、食器、果物でしたね)
私は、おばちゃん黒猫に問いかけます。
「まず。おすすめのお酒はありますか?」
「あいニャ」
ドンとお酒の樽が置かれます。
どうやら売っている中で、安くて上手いお酒らしいので籠に入れておきます。
「次に食器はありますか」
「あいニャ」
ドドンと一人分の食器が置かれます。
おそらくお椀だけでいいですが、全部籠に入れます。
「最後に果物は」
「あい……? すまないニャ、今日の分は全部売れたニャ」
おばちゃん黒猫の発言に。私は眼をパチクリとさせます。
「まだ昼なのに、もう売れたんですか?」
「果物は村で作ってないから、どうしても数が少ないのニャ」
「なるほど」
うーんと悩む私。
(別にあればという話だったので、買ってこれなくても問題はないハズですが)
どうせなら、全部買ってきたいという欲もあります。
そんな私を見かねたのか、おばちゃん猫が助け舟を出してくれます。
「果物はないけど、野菜でいいなら代わりにあるニャ」
「野菜ですか?」
「そう、果物にも負けず劣らず甘い奴ニャ」
「つまりスイカみたいな野菜ということですか」
「スイカ? なんだお嬢ちゃん知っているのニャ?」
そういっておばちゃん黒猫がさした裏庭には、緑色の球体。
「スーイカ、と呼ばれる私たちのおやつニャ」
スーイカ……後に出版される農業辞典によれば、異世界スーアでは水分補給用の野菜として知られています。
果肉に含まれる80%以上が水分で、また、丈夫な皮をもっている為、旅のおともに最適だそうです。
「なんというか、もの凄く怒られそうな名前ですね」
「怒られそう? もとからこの野菜はこんな名前ニャ」
「な、なるほど」
似たような顔の人間が3人いるように、植物も似たような名前になる運命なのでしょうか。
(まあ、名前が似てますし、多分食べれるハズです)
そんな浅い考えの元、スーイカを注文することにします。
「では、それを果物としてお願いできますか」
「もちろんだニャ」
そういって猫耳おばちゃんはエプロンを脱ぎ始めて、軍手を嵌めます。
「じゃあ、今から採ってくるニャ」
「えっと、今からですか?」
「そうだけど、なにか問題かニャ」
「いえいえ、自分も手伝いますっ」
(まさか、現地調達とは……本当に田舎のばあちゃんを思い出す感覚です)
籠を床においてから、急ぎ、金髪片角少女はおばちゃん黒猫の後に続くのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/集会所 [現地時刻 昼頃]】
「集会所の裏側って、ほとんど農地なんですね」
「そうだニャ、向こうは村名産コムギ―を育てていているニャ」
「こ、コムギー?」
「そうそう、コレが街ではおいしい食べ物になるそうなんだニャ」
ここから見える限り、どう見ても小麦畑です。
つまりおいしい食べ物というのは、パンあたりだと思います。
(まさか、異世界にも小麦を食べる文化があるとは……)
「世界の不思議ですね」
「なに悟った顔してるんだニャ、嬢ちゃん」
おばちゃんは、すでに収穫を終えたスーイカを持っていました。
「とりあえず、3つもあれば十分ニャ」
「あ、ありがとうございます」
ドンドンドン、と渡される、3つのスイーカ。
思わず落としそうになってしまう程、弾力があり、中からはちゃぽちゃぽという音も聞こえます。
「しっかし、今年もコムギーが大量だニャ」
「そうなんですか?」
「そうそう、天候が良く、嵐がなかったからニャ」
「それは良く育ちそうですね」
こっちに来て見な、と猫耳おばちゃんに言われ、後をついていきます。
スイーカは重いので、地面に置いてくることにしました。
「ほら、いい穂が付いているだろニャ」
「いい穂なんでしょうか」
「そうだニャ。私が前の村にいた頃はやせ細った、小さな穂しかなかったニャ」
「なら今回はよっぽど良作なんですね」
「なーに、今回もニャ」
おばちゃん黒猫は自信満々に言います。
「そうだ、今度余ったコムギーで料理を作ってやるニャ」
「いやそこまでは────んっ?」
耳が捉えるは、聞き慣れたことの有る、奇妙な音。
森で聞いたような獣の音ではなく、機械的な音。
「おーい、二人とも危ないニャ」
それは俗にいう、エンジン音というものです。
「あれ、あの機械は……」
「ああ、ありゃウチの頑張り屋さんニャ」
それは地面を必死に耕す、戦鋼【PN-K2】。
右手は肥料を持ち、左手は鍬に交換されています。
そして、なにより────
「な、足が無限軌道に」
尊厳破壊の如く、脚部は取っぱらわれ、手作り感あふれる無限軌道が付いています。
上部と下部のバランスが著しく酷く、コレを推しの戦鋼と認めたくないほどの出来です。
「中々のイケメンだろニャ」
「イケメン……なんでしょうか……?」
厳しい評価をする子だニャ、というおばちゃん黒猫の目線。
「昔、娘が買ってきたときはもっとイケメンだったニャ」
「えっと、アレ売り物だったんですか」
「よく地面を走り回っていたニャ」
おばちゃん黒猫は、昔を懐かしむように語ってくれます。
「でも、雨風にさらされて、何回も修理を重ねていくうちにどんどん変わっていったニャ」
「なるほど。あの体にはそんな意味があったんですか」
「ウチには職人はいても魔導具技師はいないか、みんなであーだこーだ、言って直したものニャ」
おばちゃん黒猫が見つめるは、戦鋼のカメラ部分に付けられた、大きな帽子。
土で汚れていますが、そこには麦で編まれた麦わら帽子がありました。
「あの子、頭に帽子をかぶっているニャろ」
「はい、被ってますね」
「アレは私が編んだのニャ」
「戦鋼に麦わら帽子をですか?」
「そうそう、今日みたいな日でも暑くないようにニャ」
そういうおばちゃん黒猫の眼は、懐かしい物を思い出す眼でした。
「────すみませんでしたっ」
そんなおばちゃん黒猫の傍ら、私は頭を下げます。
「どうしたんだニャ、嬢ちゃん?」
「いえ、自分の気持ちの問題なんですが。失礼な事を考えたと思いましてっ!!」
何が上下のバランスが悪いですか、何が尊厳破壊ですか……
あの戦鋼は今日も立派に動いているじゃないですかっ。
(私としたことが、戦鋼を見かけでしか判断していませんでしたね)
背後に日差し、
体は泥にまみれながら、
手に付けられた鍬で必死に土を耕す戦鋼。
「ええ、立派です。異世界でも戦鋼【PN-K2】は立派に働いていると、100点満点ですっ!!」
私如きが評価をするなんて、厚かましいですが、私以外誰もいないので、ここに宣言しておきます。
「嬢ちゃんニャ、そこまで食い入るように見つめるなら───乗ってみるニャ?」
それはおばちゃん黒猫の何気ない提案でした。
「へっ、いや、そこまでは」
「いいニャ。若い子はみんな同じことを思っているニャ」
コムギー畑を横切って、猫耳おばちゃんは大きな声をあげます。
「おーい、ちょっとこっちまで来てくれニャ」
「なんじゃァ、聞こえニャ」
「馬鹿爺ィ、早く来いっていってるんだニャッ」
「だーれが、耳ぼけ老人猫だニャァッ」
「なーんだ、良く聞こえているニャァ、はよ来いニャッ!!」
そうして数分後、こちらに近づいてきた戦鋼から、降りてくるのは、おじいちゃん黒猫。
帽子に、泥だらけの長靴を装備した、二足歩行の黒猫です。
「乗ってもいいが、足元に気をつけて乗るんだニャ」
「大丈夫です、慣れているので」
戦鋼の操縦席は、だいぶ変わっていました。
座席にはクッション用のかわいらしい布がはってありますし。足元には汚れが拭けるマットと、泥だらけのペダル。
「風を感じやすいと言えば、良ポイントでしょうか……」
そしてなにより、正面装甲が取っ払われていました。
(まあ、カメラ部分に麦わら帽子がある時点で、察しでしたね)
「でも、乗った感覚はいつも通り」
思い出すは、懐かしい戦鋼【PN-K2】の感覚。
新型の様に広くもなく、メイン画面もありませんが、安心する感覚です。
「嬢ちゃんニャ、動かしてもいいニャ」
「えっ、でもこれ、おじいちゃんのではっ」
「安心せい、爺でも動かせる産物じゃニャ」
「いやまあ、そうなんですが」
操縦が簡単なのは嫌という程知っているんですが、動かして壊れたりはしないですよね。
そんな不安感がよぎりつつ、戦鋼のエンジンを入れて、ぶるんと黒い煙が舞います。
「お嬢ちゃんニャ、なかなかにいい音を立てるじゃニャ」
「あ、ありがとうございます」
動かすといっても、ペダルを踏むと無限軌道が回転する仕組み。
レバーを引くと、右腕の鍬を振り下ろす仕組みの様です。
(とりあえず耕してみますか)
「すみません、ここって耕してもいいですか?」
「構わんが? そう簡単にはいかんニャ」
楽しそうに笑うは、おじいちゃん黒猫。
「よいしょ」
そう言ってレバーをおろしますが、目標より数センチ横を掘ってしまいました。
「すみませんっ! ちょっとズレましたっ!!」
「いや……ズレとるニャ? ズレとるのか、ばあさんニャ……」
「お嬢ちゃん、アンタより操作上手いんじゃないのニャ」
「まったく最近の若者は凄いなばあさんニャ」
そんな黒猫さんたちの声は、楽しく戦鋼を動かす、金髪片角少女には届かないのでした。
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