【異世界スーア・水車小屋 [現地時刻 夜]】
カタカタと揺れるは囲炉裏に吊り下げられた、やかん。
めらめらと揺れるは囲炉裏に付けられた、炎。
水車小屋の壁に写すは3人の人影です。
「って、いうことがありまして、モヒカさん」
外は既に真っ暗。聞こえるカエルっぽい鳴き声が、夜を告げています。
「そんなことで遅れたのか」
呆れた目で見るのは、モヒカさんこと、モヒカンエルフです。
「で、そっちの人物は」
モヒカさんは、視線を私の横に向けます。
そこには着ている青着物より蒼い髪をもつ、女性。
「どうも、コイツの姉だ」
「いや、姉ではないんですが」
「安心しろ、私はいつでも妹ノように思っているぞ」
むぎゅーと大きな胸に寄せてくる女性は、龍ねえです。
彼女の豊満の象徴に押しつぶされ、酒臭い匂いが鼻につく私は、うれしさ半分、呆れ半分といった感じです。
「しっかし、まさかエルフが住んでいるとは思わなかったぜ」
「住んでいるのではなく、偶々、休憩をしていただけだ」
何時も以上に言葉にとげがある、モヒカさん。
(確かにエルフの時間間隔からすれば、ここにいるのは休憩になるのでしょうか……)
「どちらでも私ニはありがたい」
「何か都合のいい事でもあるのか?」
龍ねえは、真剣な目をして、モヒカさんに尋ねます。
「なあに、聞キたいことがあるだけだ」
◇◆◇
【異世界スーア・水車小屋 [現地時刻 夜]】
「森の様子か」
「そうだ、村ノ地主にしつこく聞かれていな」
龍ねえの質問は、森に変わった事はないかという、単純なモノ。
いつもの行動を見ていると、もっと物騒な事を聞くのかと思いましたが、そんなことはないようです。
「傲慢な質問だな」
「傲慢トは?」
「自らが森を苦しめているということも知らんと言う事だ」
モヒカさんは、袋から土を取り出します。
見ればわかるほど、乾燥し、やせ細った土。
モヒカさんは、右手に極彩色の光りを集め、ゆっくりと土をかき混ぜます。
「そんな奴らをなぜ救う必要がある」
「コムギーの栽培によって、土地が瘦せているって話か」
「……気づいていたのか」
「生きている年数だけなら、オメーより長いからな」
龍ねえは何てことないように、話します。
「ならば、それをそっくりそのまま伝えておけ」
「いや聞きたいノはそっちじゃない」
「他に何がある」
「────森にいる妙な連中の事だ」
モヒカさんの腕が止まります。
そして鋭い眼で、龍ねえを見つめます。
「雨は気ままに降る。ならば来訪者も自然の一部と捉えるが」
「自然ニしては被害が甚大でな」
「どの程度だ」
「すでに離れた森が一つ、死んだ」
「嵐が来たようなものだ」
「エルフが森を見棄てるのか?」
「自然が為すことに口を出すつもりはない」
龍ねえは、エルフに呆れた視線を向けます。
「典型的な自然回帰主義者カ、面倒な」
「話はそれだけか。ならば帰れ」
モヒカさんは、まるで歓迎していない客を帰らすように、龍ねえを追い出そうとします。
「────まてよ、なラこういうのはどうだ」
龍ねえは地面に手をつき、深く礼を行います。
とある農業本には、古のエルフたちには、自然回帰主義と呼ばれる、自然をひどく尊重する風習があると記されています。
地面に手をつくことで大地に敬意をはらい、“友”と認めてもらう姿勢を見せる。
それこそが彼らに歩み寄る唯一の方法とも。
「古いエルフの習わしを知っているとは……」
「言っただろ、オメーよりは長生きをしていると」
「エルダーよりも長生きしている竜なぞ聞いたことはないが────」
刹那。部屋の壁にヒビが入ります。
囲炉裏の火が消え、ガタガタと揺れるやかん。
そんな、暴風如き圧の発信源は、龍ねえ。
「────悪いが、竜じゃなくて、龍でな」
頬が引き攣る私。先と顔色を変えないモヒカさん。
「悪いが、手土産も無い友人を歓迎することもできん」
「あァ、この期におよんで、どこまで傲慢なんだテメーは……」
龍ねえは煽りがない種族め、といった顔をします。
「だが、龍に傲慢と言われる日が来るとはな」
「そりゃあ、エルフ流の皮肉か?」
「そう捉えて貰って構わん」
モヒカさんは囲炉裏に火をつけ直します。
「なら、土産にハ何が欲しいんだ?」
「酒、冬を越せる食料、そして金だ」
「おいおい、ずいぶん要求するが、それに見合った情報は持っているのかァ?」
「もちろん。貴様が森で何をしていたまで教えてやろうか」
「口だけではなんとでも言えるからナ」
「10日前、貴様は更に上流の河にいた。9日まえ、魔石をこれでもかとその場所においた「おいおい、ちょっと待て」────なんだ」
「どーして、そんなことまで知っている⁉」
「一歩歩けば、木と友に。二歩歩けば、森を知れる。三歩も歩いたのだ、森の全てを知っていてもおかしくないだろ」
「全く、これだからエルフは、と褒めておくべきか……」
「今の連中とは一緒にはして欲しくないが」
「それは失礼だったな」
ちなみにですが、二人は何気なく会話をしていいますが、空間が軋むほどの圧が出ています。
部屋の壁は盛大に罅割れ、つけ直した囲炉裏の火は既に消えそうです。
「龍よ、手間賃の代わりだ、一つ助言をしておこう」
「なんダ」
「そんなに焦ったところで、星は元には戻らんぞ」
「……ふふふ、ははっはっは。エルフがそれをいうかッ」
「ならばエルフ、こちらも助言をしておこう」
「なんだ」
「あまり他種族を見下さない方がいいぞ。テメーらが世界を統べたのは遥か昔の事なのだからな」
「心に止めておこう」
龍ねえは、どこからか徳利をだし、それと同時に、部屋の圧もスっとなくなります。
「ありがたい。龍の圧は老体には染みてな」
「龍の前でそれほどの啖呵を切った奴は、テメーで三人目だがな」
それ以外はもれなく殺したと、笑う龍ねえ。
今回は妹の前だから温情も入ってんだぞ、という煽りも飛んでいます。
「ならば一人は、我が兄か」
「んっ、あの楽天家エルフがお前の兄? 冗談だろ」
「事実だ。誰よりもエルフの事を考え、そして誰よりもエルフらしくなかった兄だ」
「まあ、エルフというより人にちけーからな、アレ」
「全くだ。おかげで私とは生まれた時からそりが合わなかった」
「なら、今こそエルフの本拠地に戻らなくていいのか」
「ここにいるのは自然が導いた結果だ」
「それにもう一人の方から聞いた────未来を作るのは老人ではない、とな」
「奇遇だな。同じことをどっかのノ勇者様に言われたな」
「ふっ、100年も前に同じ説教されている奴らがいるとは」
龍ねえは、モヒカさんの方に徳利を差し出します。
「今日ぐらハは貸してやってもいいぞ」
「やめておく、明日には敵になっているかもしれんからな」
「それは1000年以上前の話ダろ」
「私にとっては昨日のような話だ」
そういって、龍ねえとモヒカさんの話合いは終わるのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・水車小屋 [現地時刻 夜]】
会話が終わって、夜にも関わらずモヒカさんが山に出ていった頃
水車小屋に残されたのは、金髪片角少女と龍ねえでした。
「ところデ妹よ、困ったことがある」
龍ねえはそんな事を呟きます。
「とりあえず私を揉むのをやめてもらっていいですか」
もみもみと私の体を揉みながらです。
龍ねえの顔は、私の髪の毛をすうすうと吸っています。
「駄目だ、姉が困っているからな」
「私も困ってます」
仕方ないので、揉まれるのは我慢します。
絶妙に気持ちいいラインでもみもみされているせいではありません。
「さて私の困りごとだが」
「でも。頭を吸うのは止めてもらえないんですか?」
「妹ニウムが不足しているから駄目だ」
「初めて聞いた物質ですね。誰が発見したんですか?」
「過去に友人から聞いた」
「その友人とは手を切った方がいいと思います」
妹ニウムって、サブカルチャーの中にしか登場しない用語ですよね。
(異世界にもライトノベルとかあるんでしょうか……)
ちなみに龍ねえにはもう何を言っても、聞いてもらえなさそうなので、相槌だけをうっておきます。
「で、私ノ困りごとだが」
「どうせ今日の宿がないとかですか」
それもそうだが、という龍ねえは、それ以上に駄目な事を教えてくれます。
「実は────エルフから情報を貰うための土産代がない」
「あれ? でも村長から前金貰ったって聞きましたが」
「あれは、全部酒代ニ消えた」
さらっと言われる衝撃の事実。
いや龍ねえの事ですから、衝撃と言うより、そんな気はしていた事実です。
「じゃあ、手持ちの分で何とかすれば」
「基本的に、ツケで払っている人物がお金を持っていると思うか?」
「凄い説得力があるのが腹立たしいですね」
それはそれでどうなんだとも思います。
「じゃあ、どうするつもりなんですか?」
「そこを、どうにかしてくれ、妹ヨ」
「多分、妹じゃなくても無理だと思います」
結局、明日の朝一で村長にお金を借りに行くことで、結論は決まりました。
もちろん宿がない龍ねえは、モヒカさんの家で一泊していくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。