【異世界スーア・猫族村/内部 [現地時間 朝]】
「村長、お金ヲ貸してくれ」
そう発言するは、着ている青着物よりも蒼い髪を風でゆらす、龍ねえです。
「お龍よ。お前には前金を渡したハズじゃが」
村長猫はそうバッサリと返します。
「悪いが妹の為に使っちまってな」
「それは本当か」
「もちろん。この私が嘘をつくとでも?」
「龍が狡猾なのは誰でも知っておることじゃ」
村長が見るは
つまるところ、私は気まずそうに眼をそらします。
「どうやら妹はそう思っていない用じゃが」
「そりゃあ、妹ガ思っていないだけで、私は思っているかもしれないだろ」
がっくしと頭をかかえる村長。
明後日の方向を向いている、龍ねえ。
「……まったく、はよ本当の事をいわんか」
諦めた村長猫は、話を進めます。
「情報を得る為二、金が必要になった」
「その情報源は信憑に足りるものか?」
「足リるな」
「根拠は」
「龍ノ言葉では足らねーか」
「足らんな。先程ほらを吹いたばかりじゃろ」
「今回の件についてはかなり言いたくはないんだがなー」
「なら、この話は無かったことにするぞ、お龍」
鋭い視線をむける村長猫。
龍ねえは後悔すんなよ、といった視線を向けます。
「────エルフだ」
ぎょっと眼を見開きらくは、村長猫。
「冗談はよせ、お龍。そんな連中は既にいなくなったッ」
「だが、山に住んでるエルフと出会ったのは事実だぜ」
「集団か? 装備はどの程度じゃ」
「落ち着け村長、ただのはぐれだ」
「馬鹿を言え、奴らは一人でも危険じゃ」
「だからなー村長、そう騒ぐな、周りが怯えてっぞ」
明らかに動揺が隠せていない村長猫。
私も思わず首を傾げてしまいます。
「そんなにエルフは危険なんですか……?」
「当然じゃ。奴らの肉体もそうじゃが、何よりも恐ろしいのはその魔法────」
慌てる村長猫に突き刺さるは、呆れたような龍ねえの視線。
「どうせ子供ノ頃にお話を聞かされただけだろ」
「お龍……お主はなぜ、そう能天気にいられる」
「エルフなら死ぬほど屠ったことあるし」
「不死の肉体のエルフをか……冗談はよせ」
村長猫はうーんうーんと悩んだ後、懐から膨らんだ袋を取り出します。
ちゃりちゃりと鳴る袋は龍ねえの手に。
「いいノか?」
「不安じゃが……お龍よ、くれぐれも失礼がないようにするんじゃぞ」
「そんなノはわかってるよ」
「いや本当に心配じゃなぁ────いや、そうじゃ」
村長猫は私に視線を向けます。
「いいか、お龍。おぬしがきちんと仕事をするまで、その妹はあずからしてもらう」
「あァッ」
「なに村の仕事をしてもらうだけじゃ」
「妹は今回の件には関係ないだろ」
「だから、お主がきちんと帰って来るまでと言ったじゃろッ」
「そいつは脅しか? 村長」
「信用の問題じゃ、お龍」
「わかったよ。さっさとやり遂げればいいんだろ」
そう言って、龍ねえはどこかに行ってしまうのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/外 [現地時間 朝]】
「すまんな、お主をだしに使うような真似をして」
「いえ、別に構いませんが」
私の発言を聞いて、感動する村長猫。
「心優しい妹じゃ……お龍に爪の垢を飲ましてやりたいと言ったところじゃな」
「それよりも村長猫さんって、そんなにエルフが恐いんですか?」
実はずっとさっきから疑問に思っていることでした。
龍ねえが言うエルフとは────おそらく、モヒカンエルフのモヒカさんの事です。
(彼を知っている感じ、そこまで悪い人ではないような気がするんですが)
「まあ儂も、じいさん猫から聞いた言い伝えにすぎんがな」
「ということは数十年前もの昔話でしょうか」
「いやいや、じいさんの言い伝えだから、数百年まえとかじゃろ」
村長猫は思い出すように、頭をひねります。
「確か、言い伝えはこうじゃ────自然はいつも我々を見ている」
「えっと、それとエルフがどんな関係が……」
まさか、エルフのエの字も出てこないような言い伝えだとは思いませんでした。
「これは猫族がエルフに支配されてた時のモノでな」
「エルフにですか?」
村長猫は教えてくれます。
自然とはエルフを指す言葉。
昔のエルフは過度に自然を尊重していた傾向があったようです。
そして彼らの優れた魔法は、いつでも森の中にいる者の様子を知れたということも。
「奴らの不死の肉体。そして強力な魔法……それらがあれば世界など簡単に手に入れれたのじゃ」
「あれ? でも今はそんなことないですよね」
「それは竜と獣族の連合軍に負けたからじゃ」
「負けた? そんなチートみたいな力をもってですか」
「どうやったかは知らん。だがその戦いにエルフ負け、多くの種族が解放された」
村長猫は顔の髭をひっぱりながら、呟きます。
「猫族はその一つ。そこから何十年もかけて村を得たと、じいさん猫がいっておったわ」
「深い歴史ですね」
「なーに、儂らからすれば過去の話よ」
「ですが、言い伝えに残すほどというのはよっぽどな気が……」
「猫族はどうしても忘れっぽいところがあるからじゃよ」
そんな感じで昔を思い出した、村長猫の話は止まりません。
「他にも色々あってな。例えば────偉大な青龍を怒らすな、とかじゃ」
「えっと、それもまた隠喩ですか」
「その通り。偉大な青龍とは村近くを流れる川、短江のことじゃ」
村長猫は山の近くを、ふさふさの手で指します。
「今でこそ大人しくなっているが、昔はよく河が氾濫してな。
その都度、村から逃げて、山にのぼる羽目になったものじゃ。
だからこそ、川は危険であると伝える為にこんな言い伝えが残っておるわけじゃ」
「な、なるほど」
(ですが妙ですね。便利な魔法が存在する世界なのに、言い伝えですか……)
本来なら、魔法で紙や石板とかに書き記してもいいはずですが、口伝での伝承。
まるで昔は魔法が無かったようなやり方ですね。
「────本当に不思議な世界ですね」
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/外 [現地時間 朝]】
そんなこんなで、村長猫と金髪片角少女は、村の外までやってきます。
そこは村の入り口近く。柵の手前。
「堀作りですか」
「このご時世、柵だけでは防備が不安でな」
村長の依頼は、柵の周りに、大きさ2mほどの堀を作って欲しいというモノでした。
「水源は近くを流れている川から持ってきてくれればいい」
「そのー、土壌調査とかしなくてもいいんですか?」
「難しい言葉を知っているな」
村長猫曰く、村会議で決まっていましたが、人手が足らず進んでいなかったそうです。
どうやらコムギー畑の水源は、堀の為に通したものだとか。
「それと娘よ、別に作業を進めなくてもよい」
「それはいいんですか?」
「あの怠け者の事だ、こうでもせんと働かなくてな」
「そんなにですか」
「ああ、酷い時は一週間飲んだくれている時もあった」
「それは酷いですね」
ですが、龍ねえならやってそうという謎の信頼感があります。
「結局、竜と獣人では感じる物が違う」
「そうなんでしょうか? ただ怠けているだけな気も」
「寿命の長さは想像以上だぞ。我々にとっては人生でも、奴にとっては休憩かもしれん」
その言葉には経験というものが、重く乗った言葉でした。
「なので小竜の少女よ────呑気に休憩していても構わんぞ」
そう言い残した村長猫は村に戻っていきました。
外に残されたのは、金髪片角少女一人。
「でも龍ねえが頑張ってるのに、私がサボるというのは違いますよね……」
ですが、現実問題、高さ2mの堀を一人で掘るのは無理があります。
土を掘るのもですし、それを運ぶのも、一苦労どころではありません。
「せめて、重機があれば────いえ、重機ならありましたね」
思い立ったように動き出す、金髪片角少女。
向かうはおじいちゃん黒猫の畑の方向です。
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/コムギー畑 [現地時間 朝]】
そんなこんなで、やってきたのは、コムギー畑。
そこでは今日も無限軌道の戦鋼が動いていました。
「あのっー、今いいですかぁっ!!」
そんな畑に響くは、金髪竜角少女の声。
声が届いたのか、コムギーの穂をかき分けて、戦鋼はこちらにやってきます。
「なんだ、なんだ、子供が来るところじゃねーニャ」
そんな言葉とともに降りてきたのは、少年猫。
オーバーオールに帽子をつけた、子供みたいな少年猫です。
「えっと戦鋼じゃなくて……この農作業器具かしていただけますか」
「このポンコツを? ふーん、いいけどニャ」
「いいんですか?」
「ああ、だが────俺の代わりに農作業をやってもらうがニャッ」
ドヤ顔で、いいきる少年猫。
彼にとってそれほど農作業は大変なのでしょうか。
「それぐらいならいいですよ」
「……ほ、本当にいいのか、結構大変だぞ」
「作業中に借りるんですから、それぐらいはやります」
「……のちのち、後悔してもしらねーからニャ」
そういって少年猫は、木陰になっている場所に移動します。
目の前には、操縦席が空っぽの戦鋼。
(これは勝手に動かしてもいいということでしょうか?)
金髪片角少女はゆっくりと、操縦席に足をかけ、戦鋼を動かします。
それを見るは、木陰でニヤニヤと笑う少年猫。
「馬鹿な奴め、あれ動かすのどれぐらい大変なのか知らねーのかよ」
そんな呟きは、のどかな夏の風に流されていくのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・猫族村/コムギー畑 [現地時間 昼]】
数時間後、少年猫は目覚めます。
陽気な太陽に当てられて、どうやら寝ていたようです。
「ふあぁ、アイツは作業をやっているかな~」
少年の頭の中では、泣きべそをかいている少女が浮かんでいます。
きっとあの農作業に嫌気がさして、農機具の中で寝ているに違いありません。
「まっ、偶にはこういう日も悪くない」
半目はゆっくりと開き、首は畑の方向へ。
そんな少年の眼に飛び込んできたのは────
「【耕作】【耕作】【耕作】、【耕作】【耕作】【耕作】」
ひたすらに地面を耕している戦鋼の姿。
恐ろしく速い鍬捌き。とても少年猫の眼に見えるものではありません。
「まだ、寝ぼけてんのニャか?」
ごしごし。眼をこすって、深呼吸を一回。
少年猫はもう一度、畑の方向を見ます。
「────まだ行けますね、【耕作】【耕作】回転はんさんで【耕作】【耕作】【耕作】」
そこには無限軌道を上手く使いながら、元気に飛びはねる戦鋼の姿。
無限軌道で跳んでいるとか、そもそも回転をはさむ必要はあるのか、とか色々とツッコミはありますが、少年の口から出てきたのは、一言。
「へ、変態ニャ……」
少年猫の脳は状況を処理できず、思考を放棄したようです。
この後、金髪片角少女が勢い余り過ぎて、他人の畑を耕して怒られるのは別のお話です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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