紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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㊾ 少女とおじいちゃん黒猫と食事場での話

【異世界スーア・猫族村/外 [現地時間 昼]】

 

「何回やっても壁が崩れますね」

 

深さ1mほどの穴の内部で呟くは、金髪片角少女(わたし)です

 

現在、無限軌道付き戦鋼は隣におかれ、少女は問題に直面していました。

 

(何回やっても2m掘る前に、土が崩れます)

 

一回目は生き埋めになりかけ、石で補強した二回目は石ごと崩れました。

 

「やっぱり、本職じゃないと無理なんでしょうか」

 

私は数センチごとに微妙に土色が違う断面を見ます。

 

上部は同じような色ですが、下に向かうにつれて他種多様な彩になっています。

 

「いや、地面の分析をしている場合ではなくてですね……」

 

お昼飯でも食べようか。そんな考えが混じっている最中に、穴上から、声が響きます

 

「嬢ちゃん、今日も精が出るニャ」

 

二つの太陽に照らされるシルエットは、おじいちゃん黒猫です。

 

「でも、全く堀ができませーんっ」

「昨日、今日でそこまでできるなら十分ニャ」

「ありがとうございますっ」

 

現在、堀の進捗は10%。

 

村の正面にちょっとだけ塹壕が出来たような感じとなっています。

 

「まあ、ゆっくりやればいいニャ」

 

そういう猫耳おじいちゃんは、肉球が見える手を差し出してきます。

 

その手に捕まり、私は穴から、よいしょよいしょと出ます。

 

「外の空気はおいしいですね」

「あんな穴の中にいたら、鼻が土に食べられちゃうニャ」

 

「土の匂いも意外といい匂いですよ」

「嫌と言うほど知ってるニャ」

 

どうやら、おじいちゃん黒猫は土の中が嫌いな様子です。

 

「そんな事よりも、昼は食っていくかいニャ」

「もうそんな時間ですか?」

 

もちろん時計などはありませんから、お昼の時間はわかりません。

 

いつもは二つの太陽が頭あたりにのぼったら、お昼としてご飯を食べています。

 

「儂のお腹の減りかた的に昼ニャ」

「それには激しく同意します」

 

くーと仲良く鳴る、猫と少女のお腹。

 

「まあ、食べると言っても集会所の食事場だけどニャ」

「自分の家で食べたりしないんですか?」

「猫族は自分の家をもたないのニャ」

 

おじいちゃん黒猫曰く、猫族の方々は一か所で集まって暮らすのが基本らしいです。

 

それは村を移動するときに簡単に移動できるようにするためなんだとか。

 

(やはり種族が違えば、文化風習も異なるものなんですね)

 

「では、ありがたく頂戴したいと思います」

 

そうして、私とおじいちゃん黒猫は、集会所に行くのでした。

 

◇◆◇

【異世界スーア・猫族村/集会所 [現地時間 昼]】

 

そこは集会所のテーブル席。黒猫と少女が座った席には、大量の料理が置かれていました。

 

「うまい、うまいです、うますぎますっ」

 

がぶがぶと食事をとるは金髪片角少女。

 

やはり働いた後の飯は別格と言う食べっぷりです。

 

もちろんかじりついている理由に()()()()()()()()()()()()という部分があるのは否めませんが。

 

「我が娘を思い出す食べっぷりじゃニャ」

「息子さんだけではなく、娘さんもいたんですか?」

 

「うんニャ。息子の事を話したっけニャ」

「えっと、この前、畑で会いまして」

 

「なるほど、なるほどニャ」

 

おじいちゃん黒猫が懐から取り出すは、一枚の写真。

 

「いっぱい映ってますね」

「妻と息子、娘達でとった貴重な一枚ニャ」

 

奥に座るは二人の猫。

 

その手前には10人以上の子猫がいます。

 

「猫族の子供は一度に大量に生まれるからニャ」

「それは大家族になるんですね」

 

「それは……大半は子猫の段階で生を全うするニャ」

「えっと、いや、あのすみませんでした」

 

「気にすることはないニャ。種族が違えば、生まれ方が違うのは当たり前ニャ」

 

おじいちゃん黒猫は思いつめた様子で話します。

 

「────息子は冒険者に向いておると思うかニャ?」

 

「────すみません、冒険者ってなんですか?」

 

えっと顔をする、おじいちゃん黒猫。

 

「あれ、お主はお龍さんと一緒で、冒険者じゃないのニャ?」

「龍ねえとは道でばったり会っただけなので」

「いまどき、そんな旅人も珍しいニャ」

 

納得をする、おじいちゃん黒猫。

 

儂も若いころはという顔をするあたり、昔はおじいちゃんも旅人だったのでしょうか。

 

「すまないニャ。お龍さんが冒険者だったからてっきりそうだと思ってたニャ」

「龍ねえ、全く自分のことを話さないので初耳ですね」

 

「なら、息子のことはお龍さんにでも聞くかニャ」

「それは止めておいた方がいいと思います」

 

「どうしてニャ」

「酒代をせびられて終わると思うからですね」

 

まあ、確かにと言った顔をするおじいちゃん黒猫。

 

「息子も、娘に憧れなければよかったのじゃニャ」

「娘さんは冒険者なんですか?」

 

「そうニャ────戦争の為に冒険者になったバカ娘じゃニャ」

 

「戦争? 狩りやお金のためではなくてですか……」

 

おじいちゃん黒猫は、またもえーといった顔をします。

 

「戦争を知らないのニャ? ……やっぱり、旅人というだけあって世情に疎いニャ」

「すみません。閉鎖された場所で生きていたものですから」

「別に咎めている訳じゃないニャ」

 

私は内心冷や汗だらだらで、表面上は平然としておきます。

 

(危なかったですね......完全にボロを出してますね、私)

 

「数年ほど前、金属巨人とゴブリンみたいな奴らが攻めてきたニャ」

「凄くミスマッチな連中ですね」

 

「まあ笑ってしまいそうになる連中だけど、意外と強くて各国が困ったのニャ」

「へー、そうなんですか」

 

「そこで協会(ギルド)が募集をかけたのニャ。世界を救うために冒険者にならないか、とニャ」

「つまり、娘さんはそれで冒険者になった訳ですね」

「そうニャ」

 

注文しておいたオートミールをモグモグと食べながら、わたしは話を聞きます。

 

(数年前の戦争……そういえば異世界大戦がはじまったのもそれぐらいでしたっけ)

 

「娘と最後に会ったのは、それっきりニャ」

「……すみません、つらい話をさせてしまって」

 

おじいちゃん黒猫は、首を傾げます。

 

「いや、街の暮らしが良すぎて、帰ってこなくなっただけニャ」

 

「えっ、この流れで娘さん生きていいるパターンですか⁉」

 

私の反応に呆れた目をするおじいちゃん黒猫。

 

「当然ニャ。そもそも冒険者は死んでもお金を払えば協会(ギルド)で復活できるニャ」

「えっ、ちょっ、初耳なんですが……」

「まあ山に籠ってれば知らないこともあるニャ」

 

唖然とする私に対して、儂も昔はそうじゃったという顔をする、おじいちゃん黒猫。

 

「数十年、山に籠っていると世界は色々変わっているニャ」

「どうなんでしょうか。私の世界は小さいままな気もします」

 

私が研究所で生まれて数年、見てきたのはどれも同じような場所でしたから。

 

「旅をしていればいずれ気づくことになるニャ」

「そうなんでしょうか」

「そうともニャ。例えば、この村も昔とは変わったニャ」

 

おじいちゃん黒猫は語ります。

 

昔は食べ物を得るためには、狩りをして、山を駆け回る必要があったニャ。

 

だけど今では、コムギーを育てて売るだけで、おいしい食べ物と交換できるニャ。

 

「────これもあれも勇者様のおかげって奴ニャ」

 

勇者。その不思議な単語は、妙に私の頭に残ります。

 

そして一筋の不安と同じように、猫族村に吹くは、一陣の風。

 

それは戦火の到来を告げる、夏の風です。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
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