紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑤ 少女と黄色少女と心情

【前線基地/食堂(配給場所) [地球時刻10:00]】

 

黒髪少女《わたし》は、黄色少女に引っ張られます。

 

連れてこられた場所は、超プラスチックに覆われ、無機質ながらも活気がある空間。

 

「ここは─────食堂だよ」 

 

基地の食事場は、注文所と食事場で分かれているタイプです。

 

研究所では与えられた物しか食べれなかったので、少しだけ期待する自分がいます。

 

「とても大きい場所ですね」

「大きさは他の基地よりも小っちゃいと思うけど」

 

「そうなんでしょうか、すみません初めてなので」

「うーん、確かに一人暮らしの家よりは大きいよね」

 

研究所に比べてという言葉は、何とか飲み込みます。

 

研究所での狭いスペースで、集団になって、地面に座りながら食事よりはマシという話です。

 

「でも、メニューは他基地に負けず劣らずだから」

 

黄色長髪《きいろロング》少女は、メニュー表を指します。

 

メニューには────肉、海鮮、魔物料理、様々なモノがあります。

 

「ゴブリン皮の塩焼き、ワームのゼリー……」

 

料理というか、ゲテモノが多い気がします。

 

「色々あるでしょ」

「確かに()()とありますね」

 

戦場流のなんでも食べてみようという発想なのでしょうか。

 

それとも食べないと困窮するほど、食料に困っているのでしょうか。

 

正解は常に食糧不足になっても問題ないようにする、訓練の一環だそうです。

 

「おばちゃん、出汁マ(だしマシマシ)極み(アルティメット)カツ丼、2つ」

「2つ? 明日の体重計が恐くならないのかい」

「1つは彼女のだから、絶対セーフだねッ」

 

気付けば黄色少女に、トレーを手渡されます。

 

上にはホカホカと湯気を立てるカツ丼がのっていました。

 

「じゃあ、先に座ってて」

「いや、そういわれましても」

 

実は食堂で頼まなくとも、ポケットには携帯できる食料が入っています。

 

(ですが、おごられた物を食べないというのも変ですよね)

 

ここは一緒に食べる、というのが賢い選択だと思います。

 

カツ2個の丼は、呑気に匂いを漂わせています。

 

◇◆◇

【前線基地/食堂(食事場所) [地球時刻10:10]】

 

テーブルは多くが空いています。

隅っこの、陽光が差し込む、二人席。

黒髪少女と黄色少女は、カツ丼を挟んで座っています。

 

「ここのカツ丼だけは、おいしくてね」

 

黄色少女の丼は、すでに底の茶碗が見えています。

 

一方、私の丼は、まだ湯気を帯びています。

 

「そういえば、私の名前乗って無かったね」

「今更ですね」

 

「私の名前は────木色《きいろ》 来来《ライライ》」

「きいろ、らいらい、ですか」

 

随分言いにくい名前ですが、呪い魔法除けの偽名でしょうか。

 

異世界で働く人間は、呪い殺されないように名前を変える慣習があります。

 

(ところで、どこかで聞いた名前な気がします)

 

「髪の色と因んでキイロでいいよ。キミの名前は?」

「名前はエイチです」

「エイチ……エイチちゃんか、変わった名前だねッ」

 

確かに変わった名前かも知れません。

 

研究所での名前は、基本文字《アルファベット》なので、違和感が無くなっていました。

 

「あっ、いや、ゴメンッ」

「えっと、なにか謝ることがありましたか」

「実は、私思ったことを結構言っちゃうタイプで……」

 

キイロ少女はしんなりします。

 

「大丈夫です。今更なので気にしてません」

 

そもそも初手腹パンの時点で、好感度は最低のラインです。

 

欠点の一つや二つあったところで下がる余地はありません。

 

「そうなんだ、ありがとう」

「なかなかの強敵ですね」

「ライバル認定ってことかなッ」

「あっ、はい」

 

キイロ少女には皮肉とか通じなさそうですね。

 

距離を一気に詰めてきそうな、そんな主人公属性の雰囲気を感じます。

 

「ちなみに、好きなモノはッ」

「おいしいもので」

 

「実は幼いころからの恋人がッ」

「いません」

 

「わざわざ異世界に志願した理由はッ」

「ええっと……」

 

妙に鋭い質問をしてきます。

 

私が実験体にされたとは言えないので、誤魔化しておきましょう。

 

「実は世界を救うためです」 

「そ、壮大な答えだね」

 

顔が引き攣るキイロ少女。

 

少し、というか大分、誤魔化し方が下手だったかもしれません。

 

(もう少し親しみのある回答をしたほうがいいでしょうか)

 

「実は、本当の自分を見つける為です」

「それで異世界まで来るのは凄いね……」

 

「なら、私より強いヤツを倒す為です」

「もうキャラがブレブレだよ、エイチちゃん……」

 

キイロ少女は呆れた目で私を見ます。

 

いい塩梅に誤魔化せたと思います。

 

あとは質問に質問を返しておけば、問題ないでしょう。

 

「ちなみに、キイロさんはなぜ軍隊に」

「ええっと、わたし? 私はなんでだろ」

 

首をかしげる、キイロ少女。

 

アレコレ理由を話す彼女からは、友達や、戦争や、友情なんかの言葉が出てきます。

 

「結局は────誰かの為に頑張りたいからかな」

「それは、凄い考えですね」

 

「そうかな普通の事だと思うけど」

「“普通”ではありませんよ」

 

普通は、誰かの為になんか頑張れません。

 

誰だって死にかけなれば、自分の事だけを考えます。

 

「私はそれを()()だと思います」

「そ、そんな事はないと思うけどなぁ」

 

はあ。ため息をついた私を質問をします。

 

こんなことを言うのは()()()()()のですが、よほど前の戦闘が頭から離れないのでしょう。

 

(自分以外守れなかったのに、他人に説教しますか、私は)

 

「もし死にかけた時、キイロは他人を助けることができますか?」

「できるね」

 

「自分が瀕死の状態だとしても」

「もちろんッ」

 

「次の瞬間自分が死ぬかもしれないんですよっ」

「それでもだよ、エイチちゃん」

 

キイロ少女は、堂々と宣言します。

 

その姿は、テレビで見た戦鋼乗り(エース)の様でした。

 

「なぜなら、私は────」「────戦鋼《せんこう》の操縦者《パイロット》だから、ですか」

 

キイロ少女は驚いたような顔をします。

 

「あれっ、訓練生のこと話したっけ?」

「女性教官さんが、キイロさんのことを話していたので」

 

無表情の私と、どんどん慌てる顔になっていくキイロ少女

 

「……げっ、忘れてたッ!」

 

ごめん、先に行くわっ、と言い彼女は走り出します。

 

走り出した彼女の後姿は、どこか眩しく、自分にはないものだと感じました。

 

◇◆◇

【前線基地/食堂(食事場所) [地球時刻11:00]】

 

一人席に取り残される、黒髪少女。

 

『その丼を食べたのか』

 

咎めるような、幻聴の声が脳に響きます。

 

「食べていないと怪しまれると思ったので」

 

私は無表情で言葉を紡ぎます。

 

目の前の、カツ丼のカツは少しだけかじられていました。

 

『大丈夫か、限界だろ?』

「大丈、うぐ────ッ」

 

私は椅子を倒し、急いでトイレを探します。

 

(トイレは、隅ですか)

 

タイルを踏み、ドアを蹴飛ばし、蓋を開けて、

 

「ゥぐ────ぐェ、グッ、ハアハア────……」

『難儀な体だな』

 

やはり無理でした。

 

最近は体調が良かったですし、おいしそうな匂いもしていたので、少しぐらいは食べても大丈夫だと思ったんですが。

 

左手を動かして────

 

『右のポケットだ』

 

右のポケットから小瓶《アンブル》を出します。

 

内部の液体は、極彩色。照明で照らされた液体からは神秘性を感じます。

 

味は……酸味が少々、苦みが大半。

 

ゆっくりと体に温かみが戻っていきます。

 

「たまには食感が欲しいですね」

『ゼリー状なら、まだ大丈夫かもしれんぞ』

「ワームのゼリーでも、今度チャレンジしてみますか」

 

止めとけ、死ぬほど不味いぞ、と幻聴は呟くのでした。

 

少女の潜入任務はまだまだ続きます。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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