【前線基地/食堂(配給場所) [地球時刻10:00]】
黒髪少女《わたし》は、黄色少女に引っ張られます。
連れてこられた場所は、超プラスチックに覆われ、無機質ながらも活気がある空間。
「ここは─────食堂だよ」
基地の食事場は、注文所と食事場で分かれているタイプです。
研究所では与えられた物しか食べれなかったので、少しだけ期待する自分がいます。
「とても大きい場所ですね」
「大きさは他の基地よりも小っちゃいと思うけど」
「そうなんでしょうか、すみません初めてなので」
「うーん、確かに一人暮らしの家よりは大きいよね」
研究所に比べてという言葉は、何とか飲み込みます。
研究所での狭いスペースで、集団になって、地面に座りながら食事よりはマシという話です。
「でも、メニューは他基地に負けず劣らずだから」
黄色長髪《きいろロング》少女は、メニュー表を指します。
メニューには────肉、海鮮、魔物料理、様々なモノがあります。
「ゴブリン皮の塩焼き、ワームのゼリー……」
料理というか、ゲテモノが多い気がします。
「色々あるでしょ」
「確かに
戦場流のなんでも食べてみようという発想なのでしょうか。
それとも食べないと困窮するほど、食料に困っているのでしょうか。
正解は常に食糧不足になっても問題ないようにする、訓練の一環だそうです。
「おばちゃん、
「2つ? 明日の体重計が恐くならないのかい」
「1つは彼女のだから、絶対セーフだねッ」
気付けば黄色少女に、トレーを手渡されます。
上にはホカホカと湯気を立てるカツ丼がのっていました。
「じゃあ、先に座ってて」
「いや、そういわれましても」
実は食堂で頼まなくとも、ポケットには携帯できる食料が入っています。
(ですが、おごられた物を食べないというのも変ですよね)
ここは一緒に食べる、というのが賢い選択だと思います。
カツ2個の丼は、呑気に匂いを漂わせています。
◇◆◇
【前線基地/食堂(食事場所) [地球時刻10:10]】
テーブルは多くが空いています。
隅っこの、陽光が差し込む、二人席。
黒髪少女と黄色少女は、カツ丼を挟んで座っています。
「ここのカツ丼だけは、おいしくてね」
黄色少女の丼は、すでに底の茶碗が見えています。
一方、私の丼は、まだ湯気を帯びています。
「そういえば、私の名前乗って無かったね」
「今更ですね」
「私の名前は────木色《きいろ》 来来《ライライ》」
「きいろ、らいらい、ですか」
随分言いにくい名前ですが、呪い魔法除けの偽名でしょうか。
異世界で働く人間は、呪い殺されないように名前を変える慣習があります。
(ところで、どこかで聞いた名前な気がします)
「髪の色と因んでキイロでいいよ。キミの名前は?」
「名前はエイチです」
「エイチ……エイチちゃんか、変わった名前だねッ」
確かに変わった名前かも知れません。
研究所での名前は、基本文字《アルファベット》なので、違和感が無くなっていました。
「あっ、いや、ゴメンッ」
「えっと、なにか謝ることがありましたか」
「実は、私思ったことを結構言っちゃうタイプで……」
キイロ少女はしんなりします。
「大丈夫です。今更なので気にしてません」
そもそも初手腹パンの時点で、好感度は最低のラインです。
欠点の一つや二つあったところで下がる余地はありません。
「そうなんだ、ありがとう」
「なかなかの強敵ですね」
「ライバル認定ってことかなッ」
「あっ、はい」
キイロ少女には皮肉とか通じなさそうですね。
距離を一気に詰めてきそうな、そんな主人公属性の雰囲気を感じます。
「ちなみに、好きなモノはッ」
「おいしいもので」
「実は幼いころからの恋人がッ」
「いません」
「わざわざ異世界に志願した理由はッ」
「ええっと……」
妙に鋭い質問をしてきます。
私が実験体にされたとは言えないので、誤魔化しておきましょう。
「実は世界を救うためです」
「そ、壮大な答えだね」
顔が引き攣るキイロ少女。
少し、というか大分、誤魔化し方が下手だったかもしれません。
(もう少し親しみのある回答をしたほうがいいでしょうか)
「実は、本当の自分を見つける為です」
「それで異世界まで来るのは凄いね……」
「なら、私より強いヤツを倒す為です」
「もうキャラがブレブレだよ、エイチちゃん……」
キイロ少女は呆れた目で私を見ます。
いい塩梅に誤魔化せたと思います。
あとは質問に質問を返しておけば、問題ないでしょう。
「ちなみに、キイロさんはなぜ軍隊に」
「ええっと、わたし? 私はなんでだろ」
首をかしげる、キイロ少女。
アレコレ理由を話す彼女からは、友達や、戦争や、友情なんかの言葉が出てきます。
「結局は────誰かの為に頑張りたいからかな」
「それは、凄い考えですね」
「そうかな普通の事だと思うけど」
「“普通”ではありませんよ」
普通は、誰かの為になんか頑張れません。
誰だって死にかけなれば、自分の事だけを考えます。
「私はそれを
「そ、そんな事はないと思うけどなぁ」
はあ。ため息をついた私を質問をします。
こんなことを言うのは
(自分以外守れなかったのに、他人に説教しますか、私は)
「もし死にかけた時、キイロは他人を助けることができますか?」
「できるね」
「自分が瀕死の状態だとしても」
「もちろんッ」
「次の瞬間自分が死ぬかもしれないんですよっ」
「それでもだよ、エイチちゃん」
キイロ少女は、堂々と宣言します。
その姿は、テレビで見た
「なぜなら、私は────」「────戦鋼《せんこう》の操縦者《パイロット》だから、ですか」
キイロ少女は驚いたような顔をします。
「あれっ、訓練生のこと話したっけ?」
「女性教官さんが、キイロさんのことを話していたので」
無表情の私と、どんどん慌てる顔になっていくキイロ少女
「……げっ、忘れてたッ!」
ごめん、先に行くわっ、と言い彼女は走り出します。
走り出した彼女の後姿は、どこか眩しく、自分にはないものだと感じました。
◇◆◇
【前線基地/食堂(食事場所) [地球時刻11:00]】
一人席に取り残される、黒髪少女。
『その丼を食べたのか』
咎めるような、幻聴の声が脳に響きます。
「食べていないと怪しまれると思ったので」
私は無表情で言葉を紡ぎます。
目の前の、カツ丼のカツは少しだけかじられていました。
『大丈夫か、限界だろ?』
「大丈、うぐ────ッ」
私は椅子を倒し、急いでトイレを探します。
(トイレは、隅ですか)
タイルを踏み、ドアを蹴飛ばし、蓋を開けて、
「ゥぐ────ぐェ、グッ、ハアハア────……」
『難儀な体だな』
やはり無理でした。
最近は体調が良かったですし、おいしそうな匂いもしていたので、少しぐらいは食べても大丈夫だと思ったんですが。
左手を動かして────
『右のポケットだ』
右のポケットから小瓶《アンブル》を出します。
内部の液体は、極彩色。照明で照らされた液体からは神秘性を感じます。
味は……酸味が少々、苦みが大半。
ゆっくりと体に温かみが戻っていきます。
「たまには食感が欲しいですね」
『ゼリー状なら、まだ大丈夫かもしれんぞ』
「ワームのゼリーでも、今度チャレンジしてみますか」
止めとけ、死ぬほど不味いぞ、と幻聴は呟くのでした。
少女の潜入任務はまだまだ続きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。