【異世界スーア・猫族村/畑 [現地時間 朝]】
今日も今日とで、畑を戦鋼で耕すのは、
目標のところまで耕すことに成功して、ほっと一息。
私は木陰の方に目を向けます。
「あれ、今日は寝ないんですか?」
「うるせー、毎回寝てると思うなニャ」
そんな反応を返してくるのは、少年猫。
「でも毎回寝てますよね」
「う、うるさいニャッ」
少年猫は、いつもと違って重装備です。
ロープ、水筒を吊り下げて、手には木の棒をさして、まるでどこか冒険に行くような様子です。
「今日は友人と遠足ですか?」
「ちがうニャッ。この剣が目に入らないのかニャッ」
そうやって掲げられるは、木の棒。
「剣、なのでしょうか……」
「どうみても勇者の剣ニャ」
自信満々でいう、少年猫。
「……確かに、言われてみればそうかもしれません」
「ふっふっふ、お前もようやく気づいたかニャ」
流石に楽しそうな少年に向かって、それはただの棒ですよね、とマジレスする気にはなりませんでした。
私も幼い頃には似たようなことをした記憶があります。
「この勇者の剣を持ったことで、俺は冒険者となったニャ」
「それは、おめでとうございます」
「そして最初の第一歩として────森の魔物を征伐しに行くのニャッ」
おだてられた少年猫は、青空の下、声高らかに叫ぶのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・山/中腹 [現地時間 昼]】
そこは村から少し進んだ森。
以前モヒカさんと狩りに来た山です。
「どーして貴様までついてきているニャッ」
「流石に一人で森は危ないと思いまして」
「俺様は冒険者だぞ、このぐらい余裕ニャッ」
「誰もが最初は失敗するものですよ」
「うるさいッ、姉ちゃんだって大丈夫だったんだ。俺が失敗するわけないニャ」
「ずいぶん姉と比べるんですね」
そういうとそっぽを向く、少年猫。
「……悪いかニャ」
「いえいえ、兄弟がいれば誰でも同じだと思いますよ」
「お前も同じだったのかニャ」
「ええ、いっぱいいて、そしてみんな死にました」
「ニャ……」
「すみません、急に重い話をしてしまって」
また口が滑ってしまいましたね。
研究所を出たときは昨日のことのように覚えていた兄弟たちは、今はもう顔もわずかにしかおもいだせません。
ですが、彼らと暮らし戦った思い出までは、忘れるわけにはいきません。
「────猫耳族は、己で大きなモノに挑むことが勇気とされるニャ」
少年猫は足を止め、私を見て言葉を続けます。
「それは子どもがいっぱいの猫耳族が、よく大きな連中に狙われていたからニャ」
少年猫の体は幼いながらも、その目には確かな覚悟が宿っていました。
「だからお前も大きなものに挑むべきなのニャ」
「私も、ですか……?」
「そうニャ。俺だって負けっぱなしは嫌なのニャ」
そういって肉球ののった小さな手を差し出されます。
「早くするニャ。勇者にはパーティが必要なのニャ」
「……そうですね」
私はちょっと泣きそうな顔をおさえて、ぷにっとその手を取るのでした。
その手はふさふさながらも、気持ちよく温かい手でした。
「ちなみにですが、今回、魔物に挑むのって勇気の為ですか」
「もちろんニャッ、俺は農作業なんてやっている男ではないのニャ!」
「実は、それって姉の影響があったりします?」
「別にお姉ちゃんが、冒険者になって敵に挑みまくっているのを凄いとか……思ってないのニャッ!!」
私は何もいわずふふっと笑います。
少年猫は気に触ったのかプンプンと私の前を歩きます。
「でも皆さん農作業を主にされているよう気がするのですが……」
ですが、そんな私の疑問には、前から言葉が返ってきます。
「じいちゃんも昔は凄い狩り人だったんだニャッ」
「そうなんでしょうか……」
脳内に浮かぶおじいちゃん黒猫は、今日も畑を耕しているイメージです。
「でもコムギーを育てる方が安定して稼げるとかいいって、急にニャ」
「まあ、気持ちは分らなくもないですね」
狩り人とか、冒険者は稼げそうですが、安定した収入とは無縁そうな職業です。
「ところで、どこに行くつもりなんですか」
「ふっふーん、まさか魔物共の位置を知らないのかニャ?」
「一角兎の位置なら知ってますし、この周囲に魔物らしい反応はない気が」
「甘いニャ。俺はじいちゃんと村長から、この辺に傷ついたゴブリンが出る事を聞いたのニャ」
「それって、盗み聞きとかではなくて」
「ぐ、偶々聞こえたのニャ」
そう言ってたどり着くは、少年猫が聞いた場所。
「ここがそのゴブリン共の洞窟ニャ」
そこは山の斜面に、草と葉っぱで隠された、洞窟でした。
◇◆◇
【異世界スーア・山/ほら穴/手前 [現地時間 昼]】
入口の付近に近づくと、赤黒い跡いくつも付いていました。
「迂闊に進まない方がいいかと」
「こんなところで怯えるのは冒険者じゃないニャ」
葉っぱをめくり中に進もうとする、少年猫。
「いいか、お前は後に「駄目です」────うニャ」
私はそんな少年猫の足をひっぱります。
「いいですか、少年の冒険者がどんなものか知りませんが、血の跡を見て足を止めないのは馬鹿です」
「だってただの血の跡ニャ」
「血の跡が罠になっている可能性もありますっ」
戦場において血のあとの近くでは、だいたい碌なことがおきません。
周囲から魔物は襲ってくるのは日常茶飯事、なんなら血のあとに目が止まった隙に襲われたこともありました。
(……すごく鮮明に思い出せますけど、私こんなこと経験しましたっけ?)
「じゃあ、どうするのが一番なのニャ」
「やはり洞窟ごと爆破でしょうか」
あれ、おかしいですね。こんな物騒な発想をする頭ではなかったのですが。
「……うんニャ?」
「これなら中の敵と戦わずに済みますし、すぐに帰れます」
「うんうんニャ?」
「他には洞窟に水を流すというのも────」
少年猫は私の体を掴みます。
「ダメーニャッ、勇気に欠けまくっているニャッ」
「なんでですか、効率的ですぐに帰れますっ」
「ニャーッ、俺の話を聞いてなかったのニャ! 巨大なモノに挑むって言ったニャ!!」
「ほら気持ち挑んでいるから、駄目でしょうか」
「駄目ニャッ」
数分間口論したうえで、二人で警戒して進む、という話になりました。
体が大きい私が前で、少年猫が後ろといった感じで、草とはっぱをどかしていきます。
◇◆◇
【異世界スーア・山/ほら穴/内部 [現地時間 昼]】
入ってみると、そんなに深い洞窟ではなく、入口から差し込む日光だけで中を見渡すことができました。
「洞窟というより、ほら穴ですね」
「ほら見てみろ、ゴブリン共ニャ」
少年猫が指差す方向には、3人の影。
一人は寝ころび、一人はうめき声を、そして残り一人は────拳銃を向けていました。
「やっぱり怪我をして、手負いにゴブリンニャ」
「いえ、これはゴブリンと言うよりも……」
そこにいたのは、日本人兵士でした。
服装は泥だらけの野戦服。破れたところは乱雑に補修をされています。
「こっちに来るなッ────」
言っても無駄だという顔をしながらも、兵士は叫びます。
「俺は正面からいくから、お前は側面から行くニャ」
「えっ、えっと、ちょっと待って」
「うるさいニャッ」
そう言って勢いよく飛び出していく、少年猫。
「いくニャアアアア「すみませんっ」────ぐニャ」
そんな少年猫に足をひっかけ、一回転。
見事に地面とキスした少年猫は、眼をまわすのでした
「おい、何のつもりだ」
「流石に拳銃を持った相手に突っ込ませる訳にはいかないので」
「冗談はよせ。こんなモノが効くような連中じゃない癖に」
「確かに避けれますけど、流石に当たると怪我はすると思いますよ」
「いいのか、手の内をバラして」
「別にこちらに交戦の意志はありませんので」
拳銃を持っている兵士は、何かを思案する表情でこちらを見ます。
「お前は、なぜ日本語が話せる」
「えっ、普通にみんな日本語で話していませんか?」
今度は私が思案する番のようです。
「記憶を読み取ったか、化け物どもめ」
「いや、そんな事はしてませんけど?」
「なら、証拠はあるのかッ、角付きの化け物め!!」
「証拠はありませんが、敵ならあなた方を殺しているとは思います」
私の言葉を聞いて、急に黙る兵士。
その顔は、確かにそうだなと図星をつかれたような顔でした。
「────お前、お好み焼きには何をかける」
数秒の沈黙後。飛んできたのはそんな質問でした。
「何ってソースじゃないんですか?」
「何ソースをかけるか、と聞いているんだ」
「なんのソースかけても、味って同じじゃないんですか……」
「駄目だッ! お好み焼きにはミツワのソースと相場が決まっているだろ!!」
「知らないですよっ。そもそも粉ものとかソースとマヨネーズかけとけば同じでしょっ!」
兵士の顔は、クッソこんなソースの違いがわからない奴にやられたくねぇな、といったものでした。
うーんうーんと頭を悩ます彼。そして数分後、覚悟を決めたのか、自分のことを話始めます。
「嬢ちゃん、俺は特殊部隊の……カーボーイだ」
「あのー、私はまだ信用できるようなこと言ってませんけど」
「どうせ弾が入ってない拳銃だ。なら、少しでも生きれる方に賭けるさ」
気付けば兵士、カーボーイさんの手から、拳銃は降ろされていました。
「全く、こんな見せかけで戦う必要がなくてよかったぜ」
「もう一度言いますけど、別に銃弾ぐらいなら避けれますよ」
「いや流石に冗談だろ」
「一応、レイニー大尉の銃弾はよけれました」
「レイニー? あの二丁拳銃馬鹿の女王様のことか?」
「二丁拳銃で化物みたいに強くて、酒癖が悪く、人をよくアームクローする人間なら合っています」
「いや、そこまでは知らねぇが……」
ちょっと引いているカーボーイさん。
「アンタ、軍人さんか?」
「戦鋼の訓練生です」
「なんでこんなところに」
「川から流れてきたって言っても信じますか」
「……信じるさ」
「意外ですね」
「俺達だってこんなところにいるんだ。笑うに笑えねえよ」
「ちなみに他の方たちは……」
手で静止をするカーボーイさん。
「生憎、名前が出せねえような特殊部隊でな。他の連中の顔は見ないでほしい」
「それはすみませんでした」
謝る私を見て、品が良すぎるなという顔をするカーボーイさん。
ポリポリと頭をかいてから彼は、私を手招きします。
「嬢ちゃん、こいつをやる」
手渡されたのは、淡く緑に光る珠。
その形は、私が過去に探していた宝珠とよく似た形をしています。
「あのー、これは」
「魔物を討伐しに来たのに、手ぶらで帰る訳にはいかないだろ」
カーボーイさんの視線は気絶している、少年猫です。
「……そうですね、起きたら彼に魔物は討伐したと言っておきます」
「そうしてくれ。俺はその前に出ていく」
「だが、猫に渡して嬢ちゃんにはなしってのはなぁ……そうだ、代わりといっては何だがコレをやる」
「これは数字の書かれたメモですか?」
ボロボロの布切れに書かれたのは、6桁の数字。
「無線の周波数だ。使い方は分るよな」
「分かりますが、何用のですか」
「俺達のプランB用だ」
そう言うとカーボーイさんは立ち上がります。
「嬢ちゃん、俺はこいつらを看取ったら、すぐにも出ていく」
「手伝いは……いえ、不要ですね」
私は少年猫を担いで、洞窟の入口から外に出ていきます。
カーボーイさんから渡された宝珠は、少年猫に戦果とでもいってあげましょうか。
そんなことを思いながら、一歩また一歩と山を降りていきます。
「嬢ちゃん、すまねぇ」
少女がいなくなったほら穴で、呟やかれたカーボーイの言葉は、誰にも届きませんでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。