紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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51 少女とエルフと選択

【異世界スーア/猫族村・堀 [現地時刻 朝]】

 

今日も今日とで堀を作る、金髪片角少女《わたし》です。

 

あれから少年猫は、おじいちゃんこっぴどく叱られたようで、畑の納屋にこもりっきり。

 

という訳で、今日は一人静かに戦鋼(無限軌道付き)を動かしています。

 

「直角に掘るのは諦めました。時代はV字です」

 

今まで壁を垂直に作っていましたが何度も崩落するので、斜めになるように作っていきます。

 

お城とかの堀に比べて見栄えは悪いですが、これも堀と言えば堀です。

 

「ふっふっふ、防御力の問題なんて知った事ではありません。ようは溝になればいいんですよ」

 

あれから作業が一向に進まないので、おかしくなっているのはちょっと多めに見て欲しいです。

 

そんなこんなで今日も魔法をかけて、掘る作業をしていきます。

 

「今日も今日とで掘っ「ボキッ」────へっ」

 

そこには腕が無残に折れた戦鋼の姿がありました。

 

◇◆◇

【異世界スーア/猫族村・納屋 [現地時刻 昼]】

 

そこはおじいちゃん黒猫たちの畑道具が納められた納屋です。

 

中には藁や、大小さまざまな道具がある中、金髪片角少女とおじいちゃん黒猫の姿もありました。

 

「すみません、私が無茶をさせたばかりに……」

「構わんニャ、もともと直しながら使っていたからニャ」

 

おじいちゃん黒猫が凝視するは、折れた戦鋼の腕。

 

正確には、鍬を取り付けられた右腕です。

 

「これ、どうしたらいいでしょうか」

 

見た感じ、鍬になった右手は、真ん中折れていました。

 

そのまま鍬先を取り付けようとすると、長さが足りず、地面を掘ることが出来ません。

 

「直すなら一週間と言ったところニャ」

「えっ、そんなにかかるんですか……」

 

「元の腕の部分から差し替えんと行けんからニャ」

「確かに。接合して直すだけだと強度的に問題ですよね」

 

一週間まてばいいだけの話なのですが、壊してしまった手前どうにか出来ないかと考えてしまいます。

 

(私が使えないのは問題ないんですが、おじいちゃん黒猫の畑に使えないのは問題ですし……)

 

「まあ、明日代わりの木を見繕ってくるから、心配するニャ」

「代わりの木をですか」

 

「そうそう、どうせならいい木にしてやりたいと思っていたところニャ」

 

“木”と言う言葉にひっかかりを覚える私。

 

「木、樹、森……そうですよっ、この戦鋼は木で補強されているんですっ!!」

 

私の脳裏によぎるは、木の弓の形を変えていた人物。

 

そう、モヒカンエルフのモヒカさんなら何とか出来るかもしれましせん。

 

「すみません、ちょっと家に戻ってきます」

 

思いついたとばかりに、金髪片角少女は納屋を飛び出して走り去っていくのでした。

 

◇◆◇

【異世界スーア/猫族村・納屋 [現地時刻 昼すぎ]】

 

そんな少女がいなくなった後の納屋。

 

声がすると思い、中に入ってきたのは、少年猫でした。

 

「アレ、誰か来たと思ったのニャ?」

 

少年猫は納屋の中を見渡しますが、誰もいません。

 

どうやらおじいちゃん黒猫も、畑作業に戻っていったようです。

 

「はー、一か月村から出ちゃ駄目とか辛いのニャ」

 

少年猫はそんな事をを呟きながら、納屋で遊べそうなものを探します。

 

「アレ? これはアイツの籠だニャ」

 

目に付いたのは少女が忘れていった背負い籠。

 

村に来るときは弁当を持ってくるため、彼女はこの籠を必ず背負ってきます。

 

「中には何か……これってもしかして」

 

少年猫が籠の中に手を突っ込むと、違和感を覚えます。

 

それはまるで底がない空洞に手を突っ込んでいるようでした。

 

「もしかしなくても、拡張道具箱(マジックボックス)なのニャ」

 

拡張道具箱(マジックボックス)。いわゆる箱の大きさ以上に収納できる魔導具です。

 

勇者の物語にも登場するような有名な魔導具で、製造方法は秘匿とされ、一般的に出回る事が少ないレア物となっています。

 

「凄いニャ、凄いニャ、凄いニャ!!」

 

そんな本物を初めて見た、少年猫は楽しくなって、納屋にある、ありとあらゆるモノを詰め込みます。

 

気付けば納屋のモノが空になったにも関わらず、籠にはまだ入る様子でした。

 

「本当にマジモンニャ」

 

拡張道具箱はその便利性から偽物が出回ることが多くあります。

 

少年猫も偽物の拡張道具箱を買わされて、3日で壊したのは今でも苦い思い出となっています。

 

「納屋から音がすると思えば……息子よ、こんなところで何をしているニャ」

「げっ、じいちゃんニャ」

 

おじいちゃん黒猫は何もなくなっている納屋を見て、呆れます。

 

「まさか、また冒険に出かけようとしていたのではあるまいニャ」

「うぐっ、そ、そろそろ冒険に出ててもいい年頃だニャ」

「外には危険が沢山ある。お前にはまだ若いニャ」

 

そんないつも通りのセリフを言うおじいちゃん黒猫。

 

それに対して、少年猫は反発します。

 

「俺は討伐したゴブリンの魔石だって持ってるんだぜ」

 

少年猫が取り出すは、緑の宝珠。

 

それを見て血相を変えるは、おじいちゃん黒猫です。

 

「まてっ、それをどこで手に入れたニャっ!!」

「どこでって、昨日の戦いで」

 

おじいちゃん黒猫は、緑の宝珠を取り上げ、太陽の元に照らします。

 

陽の光を浴びて、地面に映し出されるは、雄大な紋章。

 

「まずい事になったニャ」

 

おじいちゃん黒猫は少年猫を納屋から連れ出し、急いで集会所に向かおうとします。

 

「じいちゃん、コレが何かしってるのかニャ」

「コレに刻まれとる印はな、遥か西の王国のモノじゃニャ」

 

「そ、それがどうかしたのニャ」

「翡翠の輝きは一級品の魔力ニャ。故に、これはおそらく秘宝級のもの」

 

おじいちゃん黒猫の焦りは一層悲惨なモノになります。

 

「まずいニャ、奴らは間違いなくコレを奪い返しに追って来るニャ」

「その奴らって誰だニャッ」

 

どおん、どおん。コムギー畑に、いえ村全体に揺れるような音が響きます。

 

その音は集会所にも伝播して、窓からは様々な猫たちが外を見ていました。

 

「あ、あれはニャ────」

 

巨大な影が村に映し出される中、集会所の本棚から一冊の本が落ちます。

 

それは勇者が歩いた軌跡を記した本。

 

そこにはこう書かれていました────西は竜の王国だと。

 

◇◆◇

【異世界スーア/水車小屋 [現地時刻 昼すぎ]】

 

「あっ、慌てすぎてモヒカさんに貸してもらっている籠を忘れてますね」

 

水車小屋にたどり着いた瞬間、思い出すのはそんな事。

 

「モヒカさん今帰りまし────どうしたんですかっ、その腕」

 

水車小屋にいた、モヒカさんの腕は、焼けたように赤く腫れていました。

 

それは湿布のようなモノの上からでも分かる、晴れの具合です。

 

「気にするな、ヘマをしただけだ」

 

そして服には強烈なお酒の匂いが付いており、ただ事ではない雰囲気です。

 

「少女よ。悪いことは言わない。早く逃げろ」

「えっと、急にどうしたんですか」

 

「明日になれば、山から化け物がやって来る」

「急になんの話ですか」

 

「竜だ。竜がやってくる」

 

モヒカさんは、囲炉裏を眺めながら、平常通りに答えます。

 

「じゃあ、その傷は……」

「これは関係ない。忠告を無視したエルフの末路だ」

 

「忠告って、一体何を……」

「竜に交渉をして、コムギー畑を焼き払ってもらうように仕向けた」

 

「……」

「そんな顔をするな、結果は御覧の通りだ」

 

モヒカさんは、赤く腫れた自分の腕、そして酒臭い自分の服を嗅ぎます。

 

それは交渉に失敗し、酒を投げつけられ、攻撃をくらった自分を笑っているようでした。

 

「じゃあ、村は安全なんですね」

「いや、竜共の狙いは私がやるまでもなく、村だった」

 

「……どういうことですか」

「さあな。奪われた秘宝を取り戻すと、訳の分からない会話をしていた」

 

「ではっ────」「────止めておけ、少女一人がいっても変わらん」

 

動き出そうとする私を、制止するモヒカさん。

 

「村を見棄てろと」

「奴らは自然を侮辱した。その結果、自然に殺されるのだ。妥当な結末だ」

 

「竜がやってきたのは自然ではありませんっ」

「では少女は嵐が来ることに文句をいうのか?」

 

ぐっと、私は何もいえなくなってしまいます。

 

「嵐が来た時、人は過ぎ去るまで耐えることしかできない」

 

だからこそ反論できないのだろ、というモヒカさんの言葉。

 

「少女も分かっているだろう。自分のそれが愚かであると」

 

言いよどむ私の脳裏によぎるは、猫族村の方々。

 

そしてある日の少年の発言。

 

「ですが、それは勇気に反する行為です」

「それが蛮勇だと知っていてもか?」

 

「はい。例え足がすくむような嵐が来ても、それに挑むことこそが、勇気だと、彼らに教えてもらいました」

 

「愚かだな」

「愚かでも、暗闇の一歩目を進む者たちは、いつも愚かです」

 

私は自分自身の気持ちを、モヒカさんにぶつけます。

 

「────見えない明日を求めて、嵐の中を進む者を、だれが笑えるというのですかっ」

 

パチパチと、ただ囲炉裏から燃える音が響きます。

 

モヒカさん眼は真剣に、私の眼を見ていました。

 

「……少女よ、どうしてそんな顔が出来る」

 

モヒカさんの声の対象は、私へだけではなく、過去の誰かに対してもです。

 

「お前と猫族は親族でも無ければ、旧友でもないのだぞ」

「それでも恩がありますから」

 

「恩? 彼らが何をしてくれたというのだ」

「飯をおごってくれました」

 

「そんなもので命を捨てに行くのか」

「当然です。飯の恩は、命の恩に勝りますから」

 

これ以上モヒカさんと話している暇はありません。こうしている間にも竜は刻一刻と村に迫っているのですから。

 

私は入り口に手をかけ────

 

「まてっ」

「なんですか、モヒカさん」

 

その一言は、まるで過去彼自身と別れを告げるような一言でした。

 

「“俺も行く”」

 

彼の眼に宿るは決心。

 

「腹が立つ。まるで兄と対話しているようだ」

 

彼は手の湿布を投げ捨てます。

 

「そして兄と同じような事をこの私に言うとは」

 

体に身に付けるは防具。

 

「────そんな眼をしたものを、二度も殺してたまるか」

 

そして最後に、彼は弓を取り出します。

 

窓から差し込む日差しは陰り、時刻は夕暮れに。

 

夜の帳が姿を現す時間は、すぐそこまで来ています。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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