【異世界スーア/猫族村・堀 [現地時刻 朝]】
今日も今日とで堀を作る、金髪片角少女《わたし》です。
あれから少年猫は、おじいちゃんこっぴどく叱られたようで、畑の納屋にこもりっきり。
という訳で、今日は一人静かに戦鋼(無限軌道付き)を動かしています。
「直角に掘るのは諦めました。時代はV字です」
今まで壁を垂直に作っていましたが何度も崩落するので、斜めになるように作っていきます。
お城とかの堀に比べて見栄えは悪いですが、これも堀と言えば堀です。
「ふっふっふ、防御力の問題なんて知った事ではありません。ようは溝になればいいんですよ」
あれから作業が一向に進まないので、おかしくなっているのはちょっと多めに見て欲しいです。
そんなこんなで今日も魔法をかけて、掘る作業をしていきます。
「今日も今日とで掘っ「ボキッ」────へっ」
そこには腕が無残に折れた戦鋼の姿がありました。
◇◆◇
【異世界スーア/猫族村・納屋 [現地時刻 昼]】
そこはおじいちゃん黒猫たちの畑道具が納められた納屋です。
中には藁や、大小さまざまな道具がある中、金髪片角少女とおじいちゃん黒猫の姿もありました。
「すみません、私が無茶をさせたばかりに……」
「構わんニャ、もともと直しながら使っていたからニャ」
おじいちゃん黒猫が凝視するは、折れた戦鋼の腕。
正確には、鍬を取り付けられた右腕です。
「これ、どうしたらいいでしょうか」
見た感じ、鍬になった右手は、真ん中折れていました。
そのまま鍬先を取り付けようとすると、長さが足りず、地面を掘ることが出来ません。
「直すなら一週間と言ったところニャ」
「えっ、そんなにかかるんですか……」
「元の腕の部分から差し替えんと行けんからニャ」
「確かに。接合して直すだけだと強度的に問題ですよね」
一週間まてばいいだけの話なのですが、壊してしまった手前どうにか出来ないかと考えてしまいます。
(私が使えないのは問題ないんですが、おじいちゃん黒猫の畑に使えないのは問題ですし……)
「まあ、明日代わりの木を見繕ってくるから、心配するニャ」
「代わりの木をですか」
「そうそう、どうせならいい木にしてやりたいと思っていたところニャ」
“木”と言う言葉にひっかかりを覚える私。
「木、樹、森……そうですよっ、この戦鋼は木で補強されているんですっ!!」
私の脳裏によぎるは、木の弓の形を変えていた人物。
そう、モヒカンエルフのモヒカさんなら何とか出来るかもしれましせん。
「すみません、ちょっと家に戻ってきます」
思いついたとばかりに、金髪片角少女は納屋を飛び出して走り去っていくのでした。
◇◆◇
【異世界スーア/猫族村・納屋 [現地時刻 昼すぎ]】
そんな少女がいなくなった後の納屋。
声がすると思い、中に入ってきたのは、少年猫でした。
「アレ、誰か来たと思ったのニャ?」
少年猫は納屋の中を見渡しますが、誰もいません。
どうやらおじいちゃん黒猫も、畑作業に戻っていったようです。
「はー、一か月村から出ちゃ駄目とか辛いのニャ」
少年猫はそんな事をを呟きながら、納屋で遊べそうなものを探します。
「アレ? これはアイツの籠だニャ」
目に付いたのは少女が忘れていった背負い籠。
村に来るときは弁当を持ってくるため、彼女はこの籠を必ず背負ってきます。
「中には何か……これってもしかして」
少年猫が籠の中に手を突っ込むと、違和感を覚えます。
それはまるで底がない空洞に手を突っ込んでいるようでした。
「もしかしなくても、
勇者の物語にも登場するような有名な魔導具で、製造方法は秘匿とされ、一般的に出回る事が少ないレア物となっています。
「凄いニャ、凄いニャ、凄いニャ!!」
そんな本物を初めて見た、少年猫は楽しくなって、納屋にある、ありとあらゆるモノを詰め込みます。
気付けば納屋のモノが空になったにも関わらず、籠にはまだ入る様子でした。
「本当にマジモンニャ」
拡張道具箱はその便利性から偽物が出回ることが多くあります。
少年猫も偽物の拡張道具箱を買わされて、3日で壊したのは今でも苦い思い出となっています。
「納屋から音がすると思えば……息子よ、こんなところで何をしているニャ」
「げっ、じいちゃんニャ」
おじいちゃん黒猫は何もなくなっている納屋を見て、呆れます。
「まさか、また冒険に出かけようとしていたのではあるまいニャ」
「うぐっ、そ、そろそろ冒険に出ててもいい年頃だニャ」
「外には危険が沢山ある。お前にはまだ若いニャ」
そんないつも通りのセリフを言うおじいちゃん黒猫。
それに対して、少年猫は反発します。
「俺は討伐したゴブリンの魔石だって持ってるんだぜ」
少年猫が取り出すは、緑の宝珠。
それを見て血相を変えるは、おじいちゃん黒猫です。
「まてっ、それをどこで手に入れたニャっ!!」
「どこでって、昨日の戦いで」
おじいちゃん黒猫は、緑の宝珠を取り上げ、太陽の元に照らします。
陽の光を浴びて、地面に映し出されるは、雄大な紋章。
「まずい事になったニャ」
おじいちゃん黒猫は少年猫を納屋から連れ出し、急いで集会所に向かおうとします。
「じいちゃん、コレが何かしってるのかニャ」
「コレに刻まれとる印はな、遥か西の王国のモノじゃニャ」
「そ、それがどうかしたのニャ」
「翡翠の輝きは一級品の魔力ニャ。故に、これはおそらく秘宝級のもの」
おじいちゃん黒猫の焦りは一層悲惨なモノになります。
「まずいニャ、奴らは間違いなくコレを奪い返しに追って来るニャ」
「その奴らって誰だニャッ」
どおん、どおん。コムギー畑に、いえ村全体に揺れるような音が響きます。
その音は集会所にも伝播して、窓からは様々な猫たちが外を見ていました。
「あ、あれはニャ────」
巨大な影が村に映し出される中、集会所の本棚から一冊の本が落ちます。
それは勇者が歩いた軌跡を記した本。
そこにはこう書かれていました────西は竜の王国だと。
◇◆◇
【異世界スーア/水車小屋 [現地時刻 昼すぎ]】
「あっ、慌てすぎてモヒカさんに貸してもらっている籠を忘れてますね」
水車小屋にたどり着いた瞬間、思い出すのはそんな事。
「モヒカさん今帰りまし────どうしたんですかっ、その腕」
水車小屋にいた、モヒカさんの腕は、焼けたように赤く腫れていました。
それは湿布のようなモノの上からでも分かる、晴れの具合です。
「気にするな、ヘマをしただけだ」
そして服には強烈なお酒の匂いが付いており、ただ事ではない雰囲気です。
「少女よ。悪いことは言わない。早く逃げろ」
「えっと、急にどうしたんですか」
「明日になれば、山から化け物がやって来る」
「急になんの話ですか」
「竜だ。竜がやってくる」
モヒカさんは、囲炉裏を眺めながら、平常通りに答えます。
「じゃあ、その傷は……」
「これは関係ない。忠告を無視したエルフの末路だ」
「忠告って、一体何を……」
「竜に交渉をして、コムギー畑を焼き払ってもらうように仕向けた」
「……」
「そんな顔をするな、結果は御覧の通りだ」
モヒカさんは、赤く腫れた自分の腕、そして酒臭い自分の服を嗅ぎます。
それは交渉に失敗し、酒を投げつけられ、攻撃をくらった自分を笑っているようでした。
「じゃあ、村は安全なんですね」
「いや、竜共の狙いは私がやるまでもなく、村だった」
「……どういうことですか」
「さあな。奪われた秘宝を取り戻すと、訳の分からない会話をしていた」
「ではっ────」「────止めておけ、少女一人がいっても変わらん」
動き出そうとする私を、制止するモヒカさん。
「村を見棄てろと」
「奴らは自然を侮辱した。その結果、自然に殺されるのだ。妥当な結末だ」
「竜がやってきたのは自然ではありませんっ」
「では少女は嵐が来ることに文句をいうのか?」
ぐっと、私は何もいえなくなってしまいます。
「嵐が来た時、人は過ぎ去るまで耐えることしかできない」
だからこそ反論できないのだろ、というモヒカさんの言葉。
「少女も分かっているだろう。自分のそれが愚かであると」
言いよどむ私の脳裏によぎるは、猫族村の方々。
そしてある日の少年の発言。
「ですが、それは勇気に反する行為です」
「それが蛮勇だと知っていてもか?」
「はい。例え足がすくむような嵐が来ても、それに挑むことこそが、勇気だと、彼らに教えてもらいました」
「愚かだな」
「愚かでも、暗闇の一歩目を進む者たちは、いつも愚かです」
私は自分自身の気持ちを、モヒカさんにぶつけます。
「────見えない明日を求めて、嵐の中を進む者を、だれが笑えるというのですかっ」
パチパチと、ただ囲炉裏から燃える音が響きます。
モヒカさん眼は真剣に、私の眼を見ていました。
「……少女よ、どうしてそんな顔が出来る」
モヒカさんの声の対象は、私へだけではなく、過去の誰かに対してもです。
「お前と猫族は親族でも無ければ、旧友でもないのだぞ」
「それでも恩がありますから」
「恩? 彼らが何をしてくれたというのだ」
「飯をおごってくれました」
「そんなもので命を捨てに行くのか」
「当然です。飯の恩は、命の恩に勝りますから」
これ以上モヒカさんと話している暇はありません。こうしている間にも竜は刻一刻と村に迫っているのですから。
私は入り口に手をかけ────
「まてっ」
「なんですか、モヒカさん」
その一言は、まるで過去彼自身と別れを告げるような一言でした。
「“俺も行く”」
彼の眼に宿るは決心。
「腹が立つ。まるで兄と対話しているようだ」
彼は手の湿布を投げ捨てます。
「そして兄と同じような事をこの私に言うとは」
体に身に付けるは防具。
「────そんな眼をしたものを、二度も殺してたまるか」
そして最後に、彼は弓を取り出します。
窓から差し込む日差しは陰り、時刻は夕暮れに。
夜の帳が姿を現す時間は、すぐそこまで来ています。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。