紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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53 少女と戦場と竜

【異世界スーア/猫族村・集会所・前 [現地時刻 夕方]】

 

「いやー、意気込んだのはいいんですが」

 

金髪片角少女(わたし)は困った顔になります。

 

「どうした小娘、鉄を纏って逃げ回るだけか?」

 

そこは一向に傷つく様子がない、土竜。

 

左手で戦鋼パンチを何十発も打ち込んだのですが、効果はなし。

 

一緒に乗っていた少年猫は、回避運動のしすぎで、目をまわしています。

 

「もうちょっと、鱗を柔らかくしてくれるとありがたかったです」

「悪いな小娘。人と竜では年期というモノが違うのだ」

 

威張り散らかすような土竜。

 

とん。戦鋼の頭部に乗るはモヒカンエルフのモヒカさん。

 

「すまない。私が万全な状態であれば……」

「大丈夫ですよ」

 

モヒカさんは腕を負傷した状態にもかかわらず、弓での援護を行ってくれています。

 

ですが、それでも土竜の注意を引けるだけ。決定打とはなりません。

 

「せめて、まともな武器があればな」

「武器、武器ですか」

 

思案していると会話に割り込む、土が砕ける音。

 

「我を前に悠長に会話か。死ね」

 

土煙をあげ突っ込んでくるは、土竜の巨体。

 

戦鋼に回避行動をとらせようと────動きません。

 

「無限軌道に入り込んだ土が固まってっ」

「鉄鎧の動きは把握させてもらった」

 

どれだけペダルを踏み込もうと、無限軌道は歪な音を立てるだけ。

 

よぎるは、回避行動の時に巻き込んだ地面の土。

 

「回避ができなっ」

 

衝突。左手で防御したものの、集会所の壁まで叩きつけられる、戦鋼。

 

左腕は破損。がれきとなって集会所の一画にボトリと落ちます。

 

「そうだっ、モヒカさんっ! 大丈夫ですかっ!!」

「なんとかな」

 

どうやら左腕を捨てたことで、奇跡的に私たちのダメージは軽微。

 

ですが、逆の右腕が集会所の壁に突き刺さったのか、戦鋼がまたも動けず。

 

「くそっ、こんな時に腕が刺さるとか……」

「落ち着け。魔法ですぐに外す」

 

モヒカさんが手を当てるは、やけに補強された壁。

 

「我がそんな好機を見逃すと思うか?」

 

再び戦鋼の無限軌道に土が纏いつきます。

 

「さっきからしつこいですよっ」

「慢心はしないと先ほど決めたのでな」

 

「いいんですか、格下を狩るのに全力を出して」

「窮鼠に噛まれる竜など、誰も望んではおらんからな」

 

先程から、足下の拘束を破る方法は思いついていますが、使えるのは一回限り。

 

そして確実に戦鋼が動かなくなります。

 

(この状況で使っても、窮地から逃げれるだけ。勝利につながるわけじゃない)

 

「すまない。やけに強固な壁だ、外すのに時間がかかる」

 

そんなモヒカさんの声。

 

ピンチの時に、わざわざ頑丈な場所に刺さらなくても……。

 

いったいどうしてこんなに————いえ、補強されるほど頑丈な集会所の壁?

 

「待ってください、モヒカさんってその壁を変形できますか」

「その程度なら即できるが」

「なら丁度良かったです」

 

正面に見えるは、学びもせずこちらに突進をしてくる来る土竜。

 

「今際の台詞か?」

「まさか、勝利の雄叫びですよ」

 

「吠えるな小娘。死期が早まるぞ」

「結構、どうせ死ぬのはあなたですからっ」

 

モヒカさんの手から極彩色が輝き、めきめきと戦鋼の腕に木が絡みついていきます。

 

「————その動けぬ鎧で何ができる」

 

「————魔導エンジン限界突破(それは私が決めることですっ)!」

 

黒い煙が背後から吹き出され、エンジンから強烈な金属音が鳴り始めます。

 

圧倒的な回転数の前に、無限軌道の拘束は外れ、集会所の壁はビキビキと音を立てます。

 

「だが、我が魔法を破ったところで、もう遅いッ」

 

「これでも、足りないならっ」

 

戦鋼右腕の向こう、集会所の壁の、木で形成された拳が握り混むは────大剣。

 

中級強化魔法、起動(もういっちょおおおっ)ッ!!」

 

メキメキと壁を破壊し、引き抜かれる質量の暴力。

 

暁のもとあらわになるは、厚く、重く、誰もが使えなかった大剣。

 

「戦鋼でならァっッ────」「────そんなコケ脅しでェッ!!」

 

両者衝突、一瞬の拮抗。

 

「どわらっしゃあああっッ!!」

 

ドスンという音とともに、土竜からはほどばしるは血しぶき。

 

真っ二つにされた魔石は不安定に。大剣を振り下ろした背後で盛大な爆発。

 

「討伐、完了っ!!」

 

少女の勝ち鬨とともに、猛烈な爆風が戦鋼を覆います。

 

◇◆◇

【異世界スーア/猫族村・集会所・前 [現地時刻 夕方]】

 

「大丈夫か、少女よ」

「な、なんとか、ですっ」

 

私は戦鋼操縦席から滑り出すように抜けだし、モヒカさんと顔を合わせます。

 

見上げたところには、剣を支えにして、動きが止まった戦鋼。

 

「その鋼鉄の鎧はまだ動くのか……?」

「エンジンをオーバーロードさせたので、もう無理かと」

 

戦鋼のエンジンからは、火は出ていませんが、白い煙が見えています。

 

「それはこの戦いに負けたかもしれん」

「負けた? どういうことですか、モヒカさんっ」

 

「いいか————奴らは竜だ、竜なのだ」

 

ズドンズドン。再び揺れるは村の地面。

 

その音は先程よりもずっと大きな音で揺れます。

 

「これって、嘘ですよね……」

「いいか竜は単一の名称ではない、群体の総称だ」

 

暁の地平を覆うように現れた漆黒の影。

 

村を取り囲むは、20、30、いやそれ以上の土竜です。

 

「なら、この土竜はどうして単体で……」

「やはり、旧友達だけでは力不足か」

 

よく見れば土竜達の口には、無残な姿のツリーフォークが見えます。

 

おそらくは私達が戦っている間に、彼らも必死の戦いをしていたのでしょう。

 

「すぐに起動にとりかかりますっ」

 

私は急いで、戦鋼に戻り、エンジンを……

 

「動いてくださいよっ、こんなところで止まっている場合じゃないんですっ」

 

何度エンジンを回しても、静かな操縦席内部。

 

先に起動スイッチの方が限界に達したのか、ぽっきりと折れてしまいます。

 

「どうして、動いてくれないんですか……」

 

ポツポツと操縦管を握る手には、雫。

 

小刻みに震える手から流れ落ち、操縦席の床を濡らします。

 

「すみません皆さん、私はまた────」

 

ぽつりぽつりとしたたる水滴は次第に多く……

 

いえ、それは戦鋼の外から落ちてくるようでした。

 

「これは、雨、ですか」

 

上を見上げてみると、鮮やかな夕日はどこに。

 

空は、夜よりも暗い黒雲が覆い尽くしていました。

 

「これは、雨────否、雨にしては魔力が濃すぎる」

 

最初に異変に気付いたのは、モヒカさん。

 

手に集まった水滴を見つめ、苦々しい顔をします。

 

「起きろ、少年の猫よッ。急ぎで集会所の猫たちを集めろッ!」」

「ニャッ、ど、どうしたのニャ」

 

跳ね起きるように、目を覚ますは少年猫。

 

「よく聞け、これはただの雨ではないッ」

「ですがモヒカさんっ、今はそれどころでは……」

 

モヒカさんは、空の黒雲を睨みます。

 

「少女よ。放たれようとしている極大魔法以上の脅威がどこにある」

「きょ、極大魔法……?」

「人知を超えた太古の遺物だ」

 

モヒカさんはまるで雨を感じるように。

 

そして竜の大群など、さほどの問題ではないように。

 

「ニャニャニャ? そんなおとぎ話でしか聞かない魔法が、本当にこの雨なのかニャ?」

「安心しろ。エルフの名に誓ってもいいぞ、少年の猫よ」

「お、おうニャ。わかったニャ」

 

最初は小ぶりだった雨は、もはや顔に水滴を叩きつけるように。

 

そして、その強さは一層増すばかりです。

 

「残り数秒だ、急げ────短河が氾濫するぞ」

 

モヒカさんの号令が、激しい雨のなか響きます。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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