【異世界スーア/猫族村・集会所・前 [現地時刻 夕方]】
「いやー、意気込んだのはいいんですが」
「どうした小娘、鉄を纏って逃げ回るだけか?」
そこは一向に傷つく様子がない、土竜。
左手で戦鋼パンチを何十発も打ち込んだのですが、効果はなし。
一緒に乗っていた少年猫は、回避運動のしすぎで、目をまわしています。
「もうちょっと、鱗を柔らかくしてくれるとありがたかったです」
「悪いな小娘。人と竜では年期というモノが違うのだ」
威張り散らかすような土竜。
とん。戦鋼の頭部に乗るはモヒカンエルフのモヒカさん。
「すまない。私が万全な状態であれば……」
「大丈夫ですよ」
モヒカさんは腕を負傷した状態にもかかわらず、弓での援護を行ってくれています。
ですが、それでも土竜の注意を引けるだけ。決定打とはなりません。
「せめて、まともな武器があればな」
「武器、武器ですか」
思案していると会話に割り込む、土が砕ける音。
「我を前に悠長に会話か。死ね」
土煙をあげ突っ込んでくるは、土竜の巨体。
戦鋼に回避行動をとらせようと────動きません。
「無限軌道に入り込んだ土が固まってっ」
「鉄鎧の動きは把握させてもらった」
どれだけペダルを踏み込もうと、無限軌道は歪な音を立てるだけ。
よぎるは、回避行動の時に巻き込んだ地面の土。
「回避ができなっ」
衝突。左手で防御したものの、集会所の壁まで叩きつけられる、戦鋼。
左腕は破損。がれきとなって集会所の一画にボトリと落ちます。
「そうだっ、モヒカさんっ! 大丈夫ですかっ!!」
「なんとかな」
どうやら左腕を捨てたことで、奇跡的に私たちのダメージは軽微。
ですが、逆の右腕が集会所の壁に突き刺さったのか、戦鋼がまたも動けず。
「くそっ、こんな時に腕が刺さるとか……」
「落ち着け。魔法ですぐに外す」
モヒカさんが手を当てるは、やけに補強された壁。
「我がそんな好機を見逃すと思うか?」
再び戦鋼の無限軌道に土が纏いつきます。
「さっきからしつこいですよっ」
「慢心はしないと先ほど決めたのでな」
「いいんですか、格下を狩るのに全力を出して」
「窮鼠に噛まれる竜など、誰も望んではおらんからな」
先程から、足下の拘束を破る方法は思いついていますが、使えるのは一回限り。
そして確実に戦鋼が動かなくなります。
(この状況で使っても、窮地から逃げれるだけ。勝利につながるわけじゃない)
「すまない。やけに強固な壁だ、外すのに時間がかかる」
そんなモヒカさんの声。
ピンチの時に、わざわざ頑丈な場所に刺さらなくても……。
いったいどうしてこんなに————いえ、補強されるほど頑丈な集会所の壁?
「待ってください、モヒカさんってその壁を変形できますか」
「その程度なら即できるが」
「なら丁度良かったです」
正面に見えるは、学びもせずこちらに突進をしてくる来る土竜。
「今際の台詞か?」
「まさか、勝利の雄叫びですよ」
「吠えるな小娘。死期が早まるぞ」
「結構、どうせ死ぬのはあなたですからっ」
モヒカさんの手から極彩色が輝き、めきめきと戦鋼の腕に木が絡みついていきます。
「————その動けぬ鎧で何ができる」
「————
黒い煙が背後から吹き出され、エンジンから強烈な金属音が鳴り始めます。
圧倒的な回転数の前に、無限軌道の拘束は外れ、集会所の壁はビキビキと音を立てます。
「だが、我が魔法を破ったところで、もう遅いッ」
「これでも、足りないならっ」
戦鋼右腕の向こう、集会所の壁の、木で形成された拳が握り混むは────大剣。
「
メキメキと壁を破壊し、引き抜かれる質量の暴力。
暁のもとあらわになるは、厚く、重く、誰もが使えなかった大剣。
「戦鋼でならァっッ────」「────そんなコケ脅しでェッ!!」
両者衝突、一瞬の拮抗。
「どわらっしゃあああっッ!!」
ドスンという音とともに、土竜からはほどばしるは血しぶき。
真っ二つにされた魔石は不安定に。大剣を振り下ろした背後で盛大な爆発。
「討伐、完了っ!!」
少女の勝ち鬨とともに、猛烈な爆風が戦鋼を覆います。
◇◆◇
【異世界スーア/猫族村・集会所・前 [現地時刻 夕方]】
「大丈夫か、少女よ」
「な、なんとか、ですっ」
私は戦鋼操縦席から滑り出すように抜けだし、モヒカさんと顔を合わせます。
見上げたところには、剣を支えにして、動きが止まった戦鋼。
「その鋼鉄の鎧はまだ動くのか……?」
「エンジンをオーバーロードさせたので、もう無理かと」
戦鋼のエンジンからは、火は出ていませんが、白い煙が見えています。
「それはこの戦いに負けたかもしれん」
「負けた? どういうことですか、モヒカさんっ」
「いいか————奴らは竜だ、竜なのだ」
ズドンズドン。再び揺れるは村の地面。
その音は先程よりもずっと大きな音で揺れます。
「これって、嘘ですよね……」
「いいか竜は単一の名称ではない、群体の総称だ」
暁の地平を覆うように現れた漆黒の影。
村を取り囲むは、20、30、いやそれ以上の土竜です。
「なら、この土竜はどうして単体で……」
「やはり、旧友達だけでは力不足か」
よく見れば土竜達の口には、無残な姿のツリーフォークが見えます。
おそらくは私達が戦っている間に、彼らも必死の戦いをしていたのでしょう。
「すぐに起動にとりかかりますっ」
私は急いで、戦鋼に戻り、エンジンを……
「動いてくださいよっ、こんなところで止まっている場合じゃないんですっ」
何度エンジンを回しても、静かな操縦席内部。
先に起動スイッチの方が限界に達したのか、ぽっきりと折れてしまいます。
「どうして、動いてくれないんですか……」
ポツポツと操縦管を握る手には、雫。
小刻みに震える手から流れ落ち、操縦席の床を濡らします。
「すみません皆さん、私はまた────」
ぽつりぽつりとしたたる水滴は次第に多く……
いえ、それは戦鋼の外から落ちてくるようでした。
「これは、雨、ですか」
上を見上げてみると、鮮やかな夕日はどこに。
空は、夜よりも暗い黒雲が覆い尽くしていました。
「これは、雨────否、雨にしては魔力が濃すぎる」
最初に異変に気付いたのは、モヒカさん。
手に集まった水滴を見つめ、苦々しい顔をします。
「起きろ、少年の猫よッ。急ぎで集会所の猫たちを集めろッ!」」
「ニャッ、ど、どうしたのニャ」
跳ね起きるように、目を覚ますは少年猫。
「よく聞け、これはただの雨ではないッ」
「ですがモヒカさんっ、今はそれどころでは……」
モヒカさんは、空の黒雲を睨みます。
「少女よ。放たれようとしている極大魔法以上の脅威がどこにある」
「きょ、極大魔法……?」
「人知を超えた太古の遺物だ」
モヒカさんはまるで雨を感じるように。
そして竜の大群など、さほどの問題ではないように。
「ニャニャニャ? そんなおとぎ話でしか聞かない魔法が、本当にこの雨なのかニャ?」
「安心しろ。エルフの名に誓ってもいいぞ、少年の猫よ」
「お、おうニャ。わかったニャ」
最初は小ぶりだった雨は、もはや顔に水滴を叩きつけるように。
そして、その強さは一層増すばかりです。
「残り数秒だ、急げ────短河が氾濫するぞ」
モヒカさんの号令が、激しい雨のなか響きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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