紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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54 竜とエルフと猫

【異世界スーア/猫族村・周囲 [現地時刻 夜]】

 

雨を感じているのは金髪片角少女だけではありません。

 

村を囲っている土竜たちも、異変には気づいていました。

 

「なんだ、この雨は」

「嵐にしては魔力が濃すぎる。なんだこれは」

「今なお激しさを増すばかり、本当にこれは雨なのか」

 

おろおろとする土竜達。

 

「総隊長殿、どうしましょうか」

 

そう尋ねられた総隊長こと、歴戦の土竜が見つめるは、遙か山の向こう。

 

彼の瞳にうつるは、優雅な舞を踊る麗しき女性。

 

否────白雲を纏いて嵐を巻き起こす、龍。

 

「くっくっく、はっはっはっは、あーはっはっはっはッ!!」

「ど、どうしましたか、総隊長様」

 

歴戦の土竜は、もはや笑うことしかできない感情でした。

 

規律に厳しく、常に冷静な彼が笑うことは珍しいを通り越して、ありえないことでした。

 

そんな自分たちの総隊長を見て、首をかしげる土竜達。

 

「いやいや、すまない。年甲斐もなく笑ってしまったわ」

「そのー、我々はどうしましょうか。一時的に退避するというのも」

 

「まさか」

「では包囲した村に襲撃をするということで」

 

「いやいや、各自に好きなことをやらせよ」

「はっ? はいっ⁉」

 

歴戦の土竜は全てを悟ったような眼をしながら、周囲の土竜に檄を飛ばします。

 

「よく聞け。我らの余生は残り数秒────各自、最後の生を全うせよ」

 

檄を聞いた土竜達は疑問の顔を浮かべます。

 

ですが、そんな様子も気にせず、歴戦の土竜は、地面に盛大に座り、どかっと酒樽を取り出します。

 

そうし、がぶがぶと酒樽を飲み干しながら、一言。

 

「どうした、残り2秒もないぞ、動かんのか?」

 

それを見た他の土竜たちは、全てを察し、我も我もと様々なことをやり始めます。

 

あるものは逃げ、あるものは村に向かい、あるものはその場でうずくまります。

 

そんな様子を見て、さらに酒樽を傾ける歴戦の土竜。

 

「いやいや、それにしても。青龍とこんなところで出くわすとは。我も運がなかった────…」

 

酒樽に残った最後の一滴は、流れ込んだ水流が、全てを飲み込んでいくのでした。

 

◇◆◇

【異世界スーア/(故)猫族村・応急防御壁・内部 [現地時刻 夜]】

 

空が黒雲に覆われたなかでも、濁流に抗う船の様に、ツリーフォーク達に囲まれた一画。

 

全ての猫族が不安そうに木の中で怯え、地面にうずくまる者もいました。

 

その場所には、もちろんモヒカンエルフのモヒカさんと金髪片角少女(わたし)の姿もあります。

 

「周囲はツリーフォークで囲んだ」

「ですが水量はどんどん増えるばかりですよっ」

 

すでに私の頭を越えた水量。

 

動かなくなった戦鋼は大剣を地面にさし、ツリーフォークたちと共に、水を阻んでいます。

 

「あと、さっきから聞こえる歌はなんなんですかっ」

「歌? そんなものが濁流で聞こえると……」

 

偉|大なる世界の万物よ、我の願いを聞《أيها كل ما في العالم العظيم، اسمعوا رغبتي.》きたまえ。

 

「まずいな、もしや今までのは予兆か」

「予兆? 極大魔法のせいでこうなっているんじゃないんですかっ」

 

我|は星。星から落ちたり者。別れし四つの欠《أنا نجم. نجم سقط. واحدة من أربع قطع انفصلت.》片のその一つ。

 

「モヒカさん、右側が決壊しそうですっ」

「皆を更に中央に寄せろッ」

 

万|物は地より、空に解け、星に落ち、《من الأرض، يتلاشى في السماء، يسقط على ا مصيره.》流転するが定め。

 

「駄目です。他の箇所からも浸水がっ」

「範囲を更に絞る。皆、ツリーフォークにのぼれッ」

 

故|に万物の名において、疎と《ل أكسر الحواجز التي تجعلني غريبًا في اسم .》なる障壁を打ち砕かんと欲する。

 

「ここまで登っても、まだ水位がっ」

「ここまでか……いや」

 

モヒカさんは、木にしがみついている猫達を見ます。

 

その僅かなためらいには、彼の自尊心による迷いが。

 

そして言葉には、一歩を踏み出そうとする勇気と、己の罰を望む精神が混ざっていました。

 

「……猫族よ、もし私が力を貸せと言ったら、貸してくれるか」

「ニャニャ? もちろん貸すニャ」

 

そう答えるは、おじいちゃん黒猫。

 

他の猫たちも頷いているあたり皆同じ気持ちの様です。

 

「それが、この元凶となったかもしれない男でもか」

「それでも貸すニャ」

 

おじいちゃん黒猫はそう返します。

 

ぴしゃり。私達が捕まっている枝まで、濁流による水飛沫はとんできます。

 

「いいのか、私は村を滅ぼしたいと思ったエルフだぞ」

「正直、エルフさんが言っていることは今更すぎるのニャ」

 

「それは村が滅びたから、力を貸してくれるということか?」

「違うニャ。儂たちが力を貸そうとするのは、そんな顔をしているからニャ」

 

モヒカさんは濡れて泥だらけになった手で、自分の顔にふれます。

 

「猫族の民よ……俺は今どんな顔をしている?」

 

「誰かのために嵐に挑む、男前な顔ニャ」

 

数秒、あっけにとられた顔をするモヒカさん。

 

その後、エルフらしくない笑みを浮かべて、私に告げます。

 

「少女よ、あの大剣は地面に刺さっているか」

「戦鋼から出る時に、動かないように固定はしておきましたけど」

 

ならば問題ないとばかりに、視線は猫達に。

 

「猫族の民よ、俺の後に詠唱を続けてくれないか」

 

そんなモヒカさんの問いかけに、頷く猫たち。

 

彼は土砂降りの雨にも関わらず、優雅に空を見上げ宣言をします。

 

紡がれるは歌ではなく、彼らの魂からの叫び。

 

「我、エルフの名において、魔力に願う」

「「「「我、猫族の名において、魔力に願うニャ」」」」

 

「我ら流転を望み、生涯を望みに尽くす」

「「「「我ら流転を望み、生涯を望みに尽くすニャ」」」」

 

「故に、この地に火を残すことを望む」

「「「「故に、この地に火を残すことを望むニャ」」」」

 

彼らが一句を言い切った後、回答とばかりに地面が揺れ始めます。

 

「ニャニャニャ……儂死ぬのかニャ」

「じいちゃん死ぬ前に言っとくニャ、今までありがとうニャ」

「ば、ばかニャ。今更そんな事を言うのではないニャッ!!」

 

「いや、これは────救いだ」

 

地面から溢れるのは、極彩色の輝き。

 

それはツリーフォークたちに集まり、枝に絡まり、緑の葉を為していきます。

 

「木が絡まり合って、どんどんと成長していきます」

「すまないな、我が旧友たち」

 

葉は茂り、枝は太くなり、幹は大木を越え、濁流に負けぬ樹となります。

 

「あ、明るいニャ」

「夜にも関わらず昼ほどの灯り、これが奇跡かニャ」

 

私達の頭上をおおう新緑からは、周囲が暗闇にも関わらず、陽光が差し込んできます。

 

「あ、雨が止んだニャ」

 

そうして濁流が流れ切った後、綺麗になった土地には、1本の巨木だけが力強く、根づいているのでした。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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