【異世界スーア/猫族村(跡地)・巨木付近 [現地時刻 昼]】
そこには巨木以外がなくなった大地。
村も、畑も、山も、全てが流され、残るは水平な地面のみ。
そんな場所で、おじいちゃん黒猫は呟きます。
「本当に何もかもがなくなってしまったニャ」
「そう見えるか?」
その隣で回答を返すは、モヒカンエルフのモヒカさん。
二人が立っている近くに生えるは、巨木。
その根っこ付近には、大剣と思われる武器が輝いています。
「巨木だけじゃぁ、ご飯は食べれないのニャ」
「コムギーの畑が恋しいか、老人の猫よ」
「恋しいどころではないニャ。今すぐにでも抱きたい気持ちニャ」
「だがあのまま続けていても、この大地をむさぼり尽くすだけだぞ」
「だが、少なくとも孫が飢えることはないとおもってニャ」
「孫は飢えぬかもしれぬが、将来の猫族は飢えるかもしれんぞ」
おじいちゃん黒猫は深く眼を瞑ります。
「儂らは間違っていたのじゃろうかニャ」
「分らない。だがそれを決めるのは我々ではない」
「時代は今を生きる連中が作っていると思うがニャ」
「だが評価するのはいつも未来の連中だ」
「なら未来の猫族には笑われることになるニャ」
「そうとは限らんかもしれんぞ」
モヒカさんは、地面の土をすくいます。
「洪水とは災いでもあり、恵みでもある」
そうやってすくい上げた土を、手のひらにのせ、風とともに飛ばします。
陽にあたり、キラキラと極彩色に輝く土煙。
「見よ、この豊かな土を」
「だが育てるモノもなければ、そんな気力もないニャ」
ゆっくりと座り込む、おじいちゃん黒猫。
そんなことはゆっくりとやっていけばいい、というモヒカさんの視線。
「すぐにも、川に魚が戻る。それで暫しは腹を満たし、村を再建すればいい」
「そんなに簡単に行くかニャ」
「いくさ────」「────その心はニャ」
「昨夜の嵐を乗り越えたでは、不十分か」
「晴天の下で文句を言うのもお門違いって話かニャ」
ため息を一つ付きながら、なんとも言えない気持ちになる、おじいちゃん黒猫。
それはコムギーの種は買えばいいし、なんとかなりそうだとも思ってしまう、不思議な気分です。
「だが、今度は享受する恵みについても考えていく必要があるぞ」
「まあ、それが生きていくための代償なら仕方ないじゃニャ」
おじいちゃん黒猫が思い出すは、巨木を生やすために唱えた一文。
流転を望む。それはただ魔力の恩恵をあずかるだけではなく、きちんと土に魔力を戻す必要があります。
「にしてもいいのニャ? エルフがこんなところにいくかニャ」
おじいちゃん黒猫の質問は、他種族がエルフを妬むように、エルフもなれ合いを好まないことからきたものです。
「エルフの一生は、猫族に比べて遥かに長い」
「それはそうだニャ。儂の一生が休憩のような長さじゃろうニャ」
モヒカさんは、巨木を眺めながらいいます。
「────だから、偶には休憩をしても、怒られはしないだろ?」
おじいちゃん黒猫も巨木を眺めながらいいます
「────それを決めるのは将来の連中じゃニャ」
重い腰をあげ、動き出そうとする、おじいちゃん黒猫。
「はあ~、また老体に鞭打って、狩り人に戻る日がくるとはニャ」
「なら弓の制作は任せておけ、いいものを作ろう」
「嫌み……いや、それは心強いと言っておくニャ」
そんな二人の中、走って来るは少年猫。
「ニャニャニャ! 大変ニャ!!」
「どうした息子ニャ」
「これを見て欲しいニャッ」
少年猫の手には風呂敷包。
中を開けてみると、これでもかと金貨が入っていました。
「き、気づいたら木の下に、大金がおいてあってニャッ!」
「そんな偶然があってたまるかニャッ!!」
そんな金貨に埋まるように、一枚の紙が飛び出しています。
「これは何だ……見るからに、手紙か?」
上質な紙を開いていくと、中には短い文章。
「なになにニャ」
「ずいぶん達筆な文字だな」
中に書かれた文字は────
依頼未達成により前金の返却。あとはツケの分と、あれだあれ、集会所の壁の補修費で。
お龍より。
「「……」」
沈黙するおじいちゃん黒猫。無言で考え込むモヒカさん。
「全く、出ていくなら挨拶ぐらいはすればいいものを」
「全く、その通りだニャ」
二人は種族は違えど、同じように呆れた顔をするのでした。
◇◆◇
【異世界スーア・山/麓 [現地時間 昼]】
木々が茂りながらも、倒木も多く、地面には水たまりが残っている、森の中。
「ヘクチッ」
そんな可愛らしいくしゃみをするは、龍ねえです。
彼女は着ている青着物より蒼い髪を、ゆらゆらとゆらし、森の中を歩いています。
「ところで、なんで私、連れさられているんですか?」
「そりゃあ、私がどノ面下げて村にいればいいかわからないからだ」
龍ねえの腕には、俵抱えされた、
暴れても離さないぐらい、がっちりと掴まれているので、私は抵抗を諦めています。
「べつに今まで通りに村に居たらいいんじゃないですか」
「そーハ言ってもだな、まあ気持ちの問題だ」
「呑気な龍ねえでも、センチメンタルになる事があるんですね」
「生意気なことヲ言う口だな、こうしてやる」
「ほみゅほみゅみゅ(やめてください)」
「だーめだ、駄目だ。姉ヲからかった罰だ」
そうして一通り顔をもみくちゃにされた後、私は龍ねえに問います。
「それで────そろそろ村を出ていった理由を教えてもらってもいいですか」
「んなの────私があの洪水を起こしたからに決まってるだろ」
水が滴る森の中、龍ねえはなんてことないように、答えます。
「まあ……だいたいそんな気はしてましたけど」
「そういう訳だ」
「ちなみになんで洪水を」
「親孝行みたいなもんだ。いっつも食べ物ばっかり貰ってたら悪いだろ」
そう言いながらも、私をゆっくりと地面に降ろす、龍ねえ。
「あれ、この場所って?」
よく見ればそこは、私と龍ねえ最初にあった場所。
風景も何もかもが変わっていますが、記憶は同じだと言っています。
「最後にするのはここがいいと思ってな」
後生の別れのように私の頭をなでてから、龍ねえは空を見上げます。
それは上を見たいというよりも、顔を見られたくないようにといった感じです。
「その、だ。幻滅しちまっただろ────あんだけ村に入り浸っていたクセに、最後は綺麗さっぱり流しちまってよ」
その声には、哀愁と悲観と、ちょっぴりの苦しさ。
まるで、これ以上私に何も言わないでくれ、と示したいようでした。
「「……」」
脳裏によぎるは、そんな2択。
→・このまま龍ねえと別れる。
・龍ねえを引き留める。
『……いいのか、それで?』
→・このまま龍ねえと別れる。
・龍ねえを引き留める。
・独り言を言う new
森のそよ風にのってきた幻聴。
それは私に新しい選択肢をくれる、そんな声でした。
(────考えは決まりましたね)
私は龍ねえに聞こえるような声で、独り言をいいます。
「ところで、私の姉をなのる変人は、どうしてすぐに洪水を起こさなかったのでしょうか?」
少し時間がたってから、上から独り言のような回答がふってきます。
「そりゃあ、酒ニ酔ってたんだ」
「きっと猫族のみんなに情が湧いたんですね」
「いいや酒ニ酔っていた。絶え間なく聞こえる悲鳴から耳を塞ぐために、だ」
それでも龍ねえは上をむいたままです。
「ではもう一つ、そんな洪水がなぜ、土竜の襲撃のときに起こったのでしょうか?」
「きっとソイツには、それしか道が無かったのさ」
「でも、それが私達を救う道へと繋がりました」
「運ガ良かっただけだ」
「事象だけを見れば、運が良かったから、かもしれません」
「そうだろ。偶然出会って、偶々洪水が起こって、幸運な事に生き残れた、それだけだろ」
「ですが、
そんな私の独り言に、苛ついたのか、頭をガシガシと書きながら、下を向く龍ねえ。
真っ赤に目尻を腫らして、ムキになったような視線を私に向けます。
「────あーあーッ、だから何がいいてえんだッ」
「────運命は変えられるという事です」
風が吹きます。
木々についていた水滴は吹き飛び、龍ねえの蒼髪も前にたなびきます。
「そいつは誰かの受け売りだったりしねーか」
「いいえ。これが初めての冒険の感想です」
川に流され、エルフと出会い、姉ができ、猫と話し、竜と戦ったお話の結果です。
「なあ、今回の私は頑張っていたか」
「60点ぐらいには頑張っていたのではないでしょうか」
「なら姉としてはどうだ」
「そっちは0点ですね。尊敬できるところがありませんし」
辛口だなぁという龍ねえの顔。
ですがその顔には、落ち込んでいる様子はなく、笑みが溢れていました。
「なら、もっと姉としての威厳を見せつける必要があったりするか」
「元が最低値ですからね。今後の活躍に期待していきたいところですね」
「……まったく、生意気な口をつかう妹だ」
「ふへふへええっ(急に抱きかかえるのは良くないですよっ)!!」
抱きかかえられ、龍ねえの豊満な胸に、顔をぐりぐりと押し付けられる私。
頬には熱いぐらいに龍ねえの体温を感じます。
「駄目だ。姉をたぶらかした罰だ。おとなしく受け入れろ」
そうして抱きかかえられながら、龍ねえの足は猫族の村とは反対に進んでいくのでした。
その後を照らすは、森の木々からさしこむ、陽光だけです。
◇◆◇
【異世界スーア・山・中腹 [現地時間 昼]】
「ところで龍ねえ、私達はどこに行くんですか?」
「どこに行く? 南の島国でもいいし、北にいって雪国観光でもいいぞ」
「いや、そういえば、その前にやることがあるな」
「なんかありましたっけ?」
「長旅に出るには、便利な資格が欲しいところだろ」
「便利な資格?」
「冒険者としての登録────つまり行先は、
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
これにて3章は終了。次こそはプロットを思いつくまで休憩する所存です。