紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

55 / 107
55 少女と龍と次の一歩

【異世界スーア/猫族村(跡地)・巨木付近 [現地時刻 昼]】

 

そこには巨木以外がなくなった大地。

 

村も、畑も、山も、全てが流され、残るは水平な地面のみ。

 

そんな場所で、おじいちゃん黒猫は呟きます。

 

「本当に何もかもがなくなってしまったニャ」

 

「そう見えるか?」

 

その隣で回答を返すは、モヒカンエルフのモヒカさん。

 

二人が立っている近くに生えるは、巨木。

 

その根っこ付近には、大剣と思われる武器が輝いています。

 

「巨木だけじゃぁ、ご飯は食べれないのニャ」

「コムギーの畑が恋しいか、老人の猫よ」

 

「恋しいどころではないニャ。今すぐにでも抱きたい気持ちニャ」

「だがあのまま続けていても、この大地をむさぼり尽くすだけだぞ」

 

「だが、少なくとも孫が飢えることはないとおもってニャ」

「孫は飢えぬかもしれぬが、将来の猫族は飢えるかもしれんぞ」

 

おじいちゃん黒猫は深く眼を瞑ります。

 

「儂らは間違っていたのじゃろうかニャ」

「分らない。だがそれを決めるのは我々ではない」

 

「時代は今を生きる連中が作っていると思うがニャ」

「だが評価するのはいつも未来の連中だ」

 

「なら未来の猫族には笑われることになるニャ」

「そうとは限らんかもしれんぞ」

 

モヒカさんは、地面の土をすくいます。

 

「洪水とは災いでもあり、恵みでもある」

 

そうやってすくい上げた土を、手のひらにのせ、風とともに飛ばします。

 

陽にあたり、キラキラと極彩色に輝く土煙。

 

「見よ、この豊かな土を」

「だが育てるモノもなければ、そんな気力もないニャ」

 

ゆっくりと座り込む、おじいちゃん黒猫。

 

そんなことはゆっくりとやっていけばいい、というモヒカさんの視線。

 

「すぐにも、川に魚が戻る。それで暫しは腹を満たし、村を再建すればいい」

「そんなに簡単に行くかニャ」

 

「いくさ────」「────その心はニャ」

 

「昨夜の嵐を乗り越えたでは、不十分か」

「晴天の下で文句を言うのもお門違いって話かニャ」

 

ため息を一つ付きながら、なんとも言えない気持ちになる、おじいちゃん黒猫。

 

それはコムギーの種は買えばいいし、なんとかなりそうだとも思ってしまう、不思議な気分です。

 

「だが、今度は享受する恵みについても考えていく必要があるぞ」

「まあ、それが生きていくための代償なら仕方ないじゃニャ」

 

おじいちゃん黒猫が思い出すは、巨木を生やすために唱えた一文。

 

流転を望む。それはただ魔力の恩恵をあずかるだけではなく、きちんと土に魔力を戻す必要があります。

 

「にしてもいいのニャ? エルフがこんなところにいくかニャ」

 

おじいちゃん黒猫の質問は、他種族がエルフを妬むように、エルフもなれ合いを好まないことからきたものです。

 

「エルフの一生は、猫族に比べて遥かに長い」

「それはそうだニャ。儂の一生が休憩のような長さじゃろうニャ」

 

モヒカさんは、巨木を眺めながらいいます。

 

「────だから、偶には休憩をしても、怒られはしないだろ?」

 

おじいちゃん黒猫も巨木を眺めながらいいます

 

「────それを決めるのは将来の連中じゃニャ」

 

重い腰をあげ、動き出そうとする、おじいちゃん黒猫。

 

「はあ~、また老体に鞭打って、狩り人に戻る日がくるとはニャ」

「なら弓の制作は任せておけ、いいものを作ろう」

「嫌み……いや、それは心強いと言っておくニャ」

 

そんな二人の中、走って来るは少年猫。

 

「ニャニャニャ! 大変ニャ!!」

「どうした息子ニャ」

「これを見て欲しいニャッ」

 

少年猫の手には風呂敷包。

 

中を開けてみると、これでもかと金貨が入っていました。

 

「き、気づいたら木の下に、大金がおいてあってニャッ!」

「そんな偶然があってたまるかニャッ!!」

 

そんな金貨に埋まるように、一枚の紙が飛び出しています。

 

「これは何だ……見るからに、手紙か?」

 

上質な紙を開いていくと、中には短い文章。

 

「なになにニャ」

「ずいぶん達筆な文字だな」

 

中に書かれた文字は────

 

依頼未達成により前金の返却。あとはツケの分と、あれだあれ、集会所の壁の補修費で。

 

お龍より。

 

「「……」」

 

沈黙するおじいちゃん黒猫。無言で考え込むモヒカさん。

 

「全く、出ていくなら挨拶ぐらいはすればいいものを」

「全く、その通りだニャ」

 

二人は種族は違えど、同じように呆れた顔をするのでした。

 

◇◆◇

【異世界スーア・山/麓 [現地時間 昼]】

 

木々が茂りながらも、倒木も多く、地面には水たまりが残っている、森の中。

 

「ヘクチッ」

 

そんな可愛らしいくしゃみをするは、龍ねえです。

 

彼女は着ている青着物より蒼い髪を、ゆらゆらとゆらし、森の中を歩いています。

 

「ところで、なんで私、連れさられているんですか?」

「そりゃあ、私がどノ面下げて村にいればいいかわからないからだ」

 

龍ねえの腕には、俵抱えされた、金髪片角少女(わたし)

 

暴れても離さないぐらい、がっちりと掴まれているので、私は抵抗を諦めています。

 

「べつに今まで通りに村に居たらいいんじゃないですか」

「そーハ言ってもだな、まあ気持ちの問題だ」

 

「呑気な龍ねえでも、センチメンタルになる事があるんですね」

「生意気なことヲ言う口だな、こうしてやる」

 

「ほみゅほみゅみゅ(やめてください)」

「だーめだ、駄目だ。姉ヲからかった罰だ」

 

そうして一通り顔をもみくちゃにされた後、私は龍ねえに問います。

 

「それで────そろそろ村を出ていった理由を教えてもらってもいいですか」

 

「んなの────私があの洪水を起こしたからに決まってるだろ」

 

水が滴る森の中、龍ねえはなんてことないように、答えます。

 

「まあ……だいたいそんな気はしてましたけど」

「そういう訳だ」

 

「ちなみになんで洪水を」

「親孝行みたいなもんだ。いっつも食べ物ばっかり貰ってたら悪いだろ」

 

そう言いながらも、私をゆっくりと地面に降ろす、龍ねえ。

 

「あれ、この場所って?」

 

よく見ればそこは、私と龍ねえ最初にあった場所。

 

風景も何もかもが変わっていますが、記憶は同じだと言っています。

 

「最後にするのはここがいいと思ってな」

 

後生の別れのように私の頭をなでてから、龍ねえは空を見上げます。

 

それは上を見たいというよりも、顔を見られたくないようにといった感じです。

 

「その、だ。幻滅しちまっただろ────あんだけ村に入り浸っていたクセに、最後は綺麗さっぱり流しちまってよ」

 

その声には、哀愁と悲観と、ちょっぴりの苦しさ。

 

まるで、これ以上私に何も言わないでくれ、と示したいようでした。

 

「「……」」

 

脳裏によぎるは、そんな2択。

 

→・このまま龍ねえと別れる。

 ・龍ねえを引き留める。

 

『……いいのか、それで?』

 

→・このまま龍ねえと別れる。

 ・龍ねえを引き留める。

 ・独り言を言う new

 

森のそよ風にのってきた幻聴。

 

それは私に新しい選択肢をくれる、そんな声でした。

 

(────考えは決まりましたね)

 

私は龍ねえに聞こえるような声で、独り言をいいます。

 

「ところで、私の姉をなのる変人は、どうしてすぐに洪水を起こさなかったのでしょうか?」

 

少し時間がたってから、上から独り言のような回答がふってきます。

 

「そりゃあ、酒ニ酔ってたんだ」

「きっと猫族のみんなに情が湧いたんですね」

「いいや酒ニ酔っていた。絶え間なく聞こえる悲鳴から耳を塞ぐために、だ」

 

それでも龍ねえは上をむいたままです。

 

「ではもう一つ、そんな洪水がなぜ、土竜の襲撃のときに起こったのでしょうか?」

 

「きっとソイツには、それしか道が無かったのさ」

「でも、それが私達を救う道へと繋がりました」

 

「運ガ良かっただけだ」

「事象だけを見れば、運が良かったから、かもしれません」

 

「そうだろ。偶然出会って、偶々洪水が起こって、幸運な事に生き残れた、それだけだろ」

「ですが、()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とは思いませんか」

 

そんな私の独り言に、苛ついたのか、頭をガシガシと書きながら、下を向く龍ねえ。

 

真っ赤に目尻を腫らして、ムキになったような視線を私に向けます。

 

「────あーあーッ、だから何がいいてえんだッ」

 

「────運命は変えられるという事です」

 

風が吹きます。

 

木々についていた水滴は吹き飛び、龍ねえの蒼髪も前にたなびきます。

 

「そいつは誰かの受け売りだったりしねーか」

「いいえ。これが初めての冒険の感想です」

 

川に流され、エルフと出会い、姉ができ、猫と話し、竜と戦ったお話の結果です。

 

「なあ、今回の私は頑張っていたか」

「60点ぐらいには頑張っていたのではないでしょうか」

 

「なら姉としてはどうだ」

「そっちは0点ですね。尊敬できるところがありませんし」

 

辛口だなぁという龍ねえの顔。

 

ですがその顔には、落ち込んでいる様子はなく、笑みが溢れていました。

 

「なら、もっと姉としての威厳を見せつける必要があったりするか」

「元が最低値ですからね。今後の活躍に期待していきたいところですね」

 

「……まったく、生意気な口をつかう妹だ」

「ふへふへええっ(急に抱きかかえるのは良くないですよっ)!!」

 

抱きかかえられ、龍ねえの豊満な胸に、顔をぐりぐりと押し付けられる私。

 

頬には熱いぐらいに龍ねえの体温を感じます。

 

「駄目だ。姉をたぶらかした罰だ。おとなしく受け入れろ」

 

そうして抱きかかえられながら、龍ねえの足は猫族の村とは反対に進んでいくのでした。

 

その後を照らすは、森の木々からさしこむ、陽光だけです。

 

◇◆◇

【異世界スーア・山・中腹 [現地時間 昼]】

 

「ところで龍ねえ、私達はどこに行くんですか?」

「どこに行く? 南の島国でもいいし、北にいって雪国観光でもいいぞ」

 

「いや、そういえば、その前にやることがあるな」

「なんかありましたっけ?」

 

「長旅に出るには、便利な資格が欲しいところだろ」

「便利な資格?」

「冒険者としての登録────つまり行先は、教会(ギルド)総本山だ」




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。

これにて3章は終了。次こそはプロットを思いつくまで休憩する所存です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。