【異世界スーア・ギルド総本山/頂上・教会前 [現地時刻 朝]】
山を丸ごとつかって作られた街に、少女と女性がいました。
山麓には、白を基調とした、高さ30m以上の城壁。円環状にぐるっとまわった城壁内部には、ところせましと建物が建っていました。
少女と女性は街中を歩いて、階段を上って、最後は山を登っている気分になりながら────頂上にそびえ立つ教会にたどり着きます。
「妹よ、ここがギルド総本山ノ教会だ」
そう教えてくれるのは、身につけている青着物よりも蒼い髪をもつ、龍ねえです。
「大きな建物ですね」
応じるは妹呼びになれてしまった、
ショートから少し長くなった金髪はゆれて、そろそろ髪を切りたい気分になってきます
ここまでの道のりは一か月以上、妹呼びにもなれてしまい、体も少しだけたくましくなりました。
「ちなみに、あまり離れるなよ。迷子ニなるぞ」
「分かってますよ、龍ねえ」
「そう言って迷子ニなったことがなんどもあっただろ」
「アレは、龍ねえが迷子になったんですよ」
「モノはいいようだな」
「事実をいっただけです」
そんな談笑をしながら、二人は教会までの階段を上っていきます。
階段は麓から頂上まで続いており、その段数は殺意的。階段を登っている人達は、はあはあと息をきらしていました。
「にしても獣耳だらけですね」
「当然だろ、人間ノ国なんだから」
「いやー、そうなんですけど、そうじゃないといいますか」
人間。いわゆる我々が耳付きと呼んでいる連中です。
顔は我々とそっくりで、獣耳が生えているだけの違いですが、どうしてみ発言に対しては違和感がぬぐえません。
「獣人とかじゃ、だめなんでしょうか」
「ダメだろ。他ノ連中とかぶっちまってる」
「獣人と人間って違うんですか?」
「獣人ってのはな、ああいう顔まで獣の連中だ」
龍ねえが指した場所には、獣耳だけではなく、顔まで獣そっくりな方々。
彼らは列となって、何かを待っているようです。
「へー、なるほどなんです、が」
「なんダ、妹よ」
そして列のは、私たちの目的地である、教会。
「あの行列、教会まで続いていませんか?」
「そうだな。アレは冒険者ノ認定試験を受けにきた連中だろうしな」
「それって、つまり私も並ばないといけないということでは?」
「んな面倒ナ事、するわけないだろ」
「じゃあ、どうするんですか」
「こういう時は、顔パスで済ませるんだよ」
自信満々に言う、龍ねえ。
「なるほど、ここで龍ねえが冒険者であるということが生きてくるわけですね」
「まっ、そういうことダ、行ってくる」
「あれ……? 行ってくる?」
私の疑問に答えるように、猪突猛進で列に突っ込んでいく、龍ねえ。
「あの顔パスとは……」
どっかーん、どっかーん、と面白いように飛んでいく列に並んでいる方々たち。
「おらおら、どけどけェ、妹が通るんだぞ」
顔パス(実力行使)なのは予想外です。
数分後。乱闘騒ぎで、きっちりと冒険者に捕まる、私と龍ねえでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/教会内部・執務室 [現地時刻 朝]】
「で、何回言えばいいのかなー、馬鹿お龍さんェ」
そう、頭に怒りマークをつけて、声をあらげるは紫髪の美女。
連れてこられた教会内部の書斎には、ギルド主任と書かれていました。
「やっぱりコレが一番はえーな」
うんうんと満足そうに頷くは、鎖に拘束された、龍ねえ。
隣にはオマケのように鎖で拘束されている、金髪片角少女です。
「乱闘騒ぎを早いの一言で済まさないでくれるかなァ」
「いやー、並ぶのメンドくさかったからな」
「このせいで、どれだけ私の仕事が増えているかわかっているのッ」
「だからー、いっつも忙しそうだから、こうやって騒ぎを起こして合いに来たんだろ」
「その頭の角を引き抜いたら、馬鹿お龍はちょっとは賢くなるのかなァ」
「おい、馬鹿ヤメロ、ちょっと角はそっちにはぬけねぇ」
そう言いながら、取っ組み合いを始める二人。
もっとも龍ねえは鎖で雁字搦めにされているので、歯をむき出しにして抵抗しています。
「あのー、すみません、ウチの姉が迷惑をかけまして……」
「お龍。誰、このちびっ子は」
「私の自慢の妹だ」
ギルド主任の頭には、お龍=馬鹿、ちびっ子=誠実そう、の構図。
お龍=姉妹=ちびっ子……?
「えっ、怖、これがお龍の妹とか……えっ、ホントに怖いんだけど」
「おかしいですね。謝罪をしただけなんですが」
なぜ軽く怯えられる必要があるのでしょうか。
「その……馬鹿をやりたいなら今のうちなら、やってもいいわよ」
「いや、別に馬鹿をやるためにここに来たわけでは」
「本山を水浸しにするために来たとかじゃなくて?」
「どうしたら、そんな発想になるのでしょうか」
ギルド主任の視線は、龍ねえに向きます。
「あっ、いや、本当にすみません」
「本当にお龍の妹とは思えないわ」
そういう紫髪ギルド主任は、閃いた、という顔をします。
そして凶暴な動物に触る雰囲気で、ゆっくりと手を伸ばし、私の髪の毛を触ります。
「あららー、普通に触れさせてくれるんだー」
「あのー、これはどういうことで」
ギルド主任のほそい指は、私の髪をとくように、丁寧に。
「なーで、なでなで」
「あのー、ちょっとくすぐったいです」
手ははげしかったり、ゆっくりだったり。
「なでなでなでなでなで」
「あのー、そのー、ふにゅー」
次第に耳元のつけねあたりを執拗に。
「なーで、なでなでなでなでなでなで」
「あにゃぁ、うにゃうにゃぁ......気持ちいいです」
甘い声をだし、思わず思考がとろけてしまっている、私。
そして、そんな様子を快く思わない人物が一人。
「————オイ、私の妹に何をしている」
もちろん龍ねえです。
「思った以上にかわいい生物だったから、ここにおいていきなさい」
「ダメだ。妹は私のモノだ」
「あなたは、どう考えてもこの子の教育に悪いでしょ、野に帰るべきよ」
「あァん、また教会総本山に洪水ぶつけてもいいんだぞォッ」
そんな龍ねえのガン飛ばしに、ニヤリと笑いだすギルド主任。
「あれれれー、冒険者達に討伐された奴がなんか言ってるな—」
「うるせー、あれはノーカンだ。ノーカン」
「龍ともあろう種族様が自分の負けを認めないのかなー」
「あんな卑劣な作戦デ負けを認めてたまるかッ」
そう言って煽り始めるギルド主任。キレ散らかす龍ねえ。
「あのー、そろそろ話進めませんか?」
「もうちょっとだけ弄りたいけどだめーかなー」
「そろそろ龍ねえが別のモノになりそうなので駄目です」
「しかたないわね。妹ちゃんに免じて聞いてあげるわ」
鎖に巻かれながらも、ふしゅーふしゅーと怒っている龍ねえ。
紫髪ギルド主任は、優雅に椅子に座り、ちょこんと私を膝の上にのせるのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/教会内部・執務室 [現地時刻 朝]】
「なるほど、冒険者登録ねー」
私を左右に揺らしながら、ギルド主任は考えごとをします。
体に巻き付いていた鎖は気づいたらなくなっていましたが、蛇に睨まれた蛙のように私は考えます。
「まあ、枠は余ってるからいいけど、理由だけ聞いとくかな」
「旅ヲするためだ」
「旅ってそんな変なところに行く気?」
「あって損ハねーだろ」
「そんな軽い気持ちで取るもんじゃあないんだけどなー」
まあいいでしょう、とばかりに立ち上がって、私を抱えながら準備を始める、ギルド主任。
「あのー、そろそろ下ろしてもらっていいでしょうか?」
「もうちょっと抱えてていい。湯たんぽみたいに暖かいのよねー」
「なら、こっちの鎖をいい加減外してくれねーか」
「そっちは自分でがんばって—」
がしがしと鎖を引きちぎろうとする、龍ねえ。
ギルド主任はその間にも、装備を選んで、書類を準備して、別の部屋に行く準備を整えます。
「お龍、まだちぎれてないのー」
「ウルセ—、どれだけ堅いやつを選んだんだよッ」
「堅い奴ねぇ……前回とそれほどかわんないんだけどなぁ」
結局、私は抱えられ、龍ねえは鎖のまま、ギルド主任は別の部屋に案内します。
部屋の名前は[魔力測定室]。注意:高濃度魔力の物質を持ち込まないこと、と赤文字でデカデカと書かれています。
「なんですか、この部屋────ゴホゴホ」
その部屋は埃りっぽく、部屋には窓すらついていません。
「ごめんねー、太陽の魔力も邪魔でねえ」
そう言いながら、私を右手で抱え、左手では書類を確認する、紫髪ギルド主任。
「うーん、色々項目はあるけど、私とお龍の推薦ということで大半はOKってことで」
「……いいんですか、それは」
「私の業務が減るから、よしッ」
「あまりにも横暴すぎますっ」
書類をのぞいてみると、戦闘経験や、人格判断など、ほぼ全ての項目がOKとなっていました。
「でも、魔力量だけは規定で測定する必要があるのよねー」
めんどくさいなー、と言いながらギルド主任は、正面の布をかけられた物体を見つめます。
そうして、私をちょこんとおいて、布を丁寧に外します。
「これは……随分大きな水晶玉ですね」
「まあ、ちょっとだけ古い奴だからね」
目の前には、私と同じぐらいの水晶玉。
「新しいのはちっちゃいんですか?」
「そうなんだけど、結果が見えているから新品は使いたくないってのが本音」
というわけで触れてみて頂戴、といわれ、私は水晶玉に手を伸ばします。
「意外と冷たくないですね」
つるつるした表面にふれると、体から何かが抜ける感覚
水晶玉の透明な内部が濁りはじめ、赤色や黄色に発光していきます。
「綺麗な発光で「パッリーンッ」────へっ!?」
そして、まるで内部のモノに耐えきれなくなったように、崩壊する水晶玉。
「うーん、分かってたけど、魔力量は“測定不能”だね」
「やっぱり龍の魔力に耐えきれね—のダメじゃねーか」
「あんた達みたいに濃すぎる魔力を、普通の人間はもってないの」
すでに割れた水晶玉の掃き掃除を始めている、ギルド主任。
どうやら私だけではなく、龍ねえも同じようだったようです。
「しっかし、困ったわね—」
「そのー、魔力が測定不能だと、何か問題があるのでしょうか?」
そんな私の疑問に、答えるは龍ねえ。
「いや、大した問題ハなかった気がするけどな」
「まあ、お龍の言うとおり問題ってほどじゃないんだけどね」
掃き掃除を終えたギルド主任も答えてくれます。
一拍子おいて、紡がれる言葉は。
「————ただ、冒険者としては廃業レベルになっちゃうんだよねー」
「うんっ?」
まあ旅人志望だから問題ないでしょ、そんなギルド主任の声が静まり帰った部屋に響くのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
もちろんノープロットの4章突入です。休みは捨ててきた、向こうから来たら教授したいと思います。