【ギルド総本山/麓・工業地区・とある工房 [現地時刻 昼]】
ギルド総本山の麓にある、場所。
周囲の地面には煙突が生えており、多数の白い煙がもくもくとたちのぼっています。
工業地区。ギルドに集まる冒険者達に、武器防具を売買することで、発展をしてきた場所。
「ここが、依頼の工房……なんですけど」
「場所は、ここで合っているんでしょうか?」
ゆっくりと、ドアを開けて内部に入ると、様々なモノがありました。
かつては武器が入っていたであろう、大樽。
埃をかぶった防具用のマネキン。
穴が開き、ボロボロの床。
そして、フニっ────
「今、何か踏みましたか?」
フニフニすると、そこには埃をかぶった大毛玉。
クッションの様に柔らかく、それにいて弾力もある、不思議な毛玉です。
「珍しいスライムか何か「み、水、を……ニャ」────へっ?」
声が聞こえるは毛玉から。
私いそいで、水筒を取り出すのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・とある工房 [現地時刻 昼]】
ぼろぼろのカウンター机に、腰掛けるは二人。少女と、少女猫です。
「いやー、生き返ったニャ」
現在、水筒をこうこくと傾けている少女猫は、
猫耳族そっくりなので、心の中では
「ちなみになんで倒れていたんですか」
「お金がなくなって、食事すらできなかったニャ」
「お金は……確かに無さそうですね、はい」
「借金取りの奴ら、工房から明日のパンツまでむしり取って行ったのニャ」
血も涙もないにゃ、と落ち込む娘娘猫。
私はこっそりと銀貨をカウンター二枚を裏において、疑問に思ったことを口にします。
「ここの工房って、借金があるんですか?」
「ドワーフの親方が死んでから、いろんな奴らが色んなモノを取っていくようになったニャ」
ドワーフの工房。他人に関心がないドワーフが街に工房をもつことは非常に珍しいです。
伝説の工房[猫&巨人]の文献によれば、彼らは基本、生まれた山にこもり、鉱石を愛し、加工する種族と書かれています。
「それは凄い工房だったんですね」
「親方が不愛想な事を除けば、街一番と言っても良かったニャ」
「でも、それも半年前のこと。今では予備の工房すらこの様ニャ」
「親方がいなくなって、商品が売れなくなったということですか?」
「いや、みんな、有名な工房に引き抜かれたニャ」
ギルド総本山の工業地区は、工房の激戦区でもあります。
武器防具に対する需要は常に存在し、故に人では常に不足しています。
(それが有名工房の人たちとなれば、容易に引き抜きがかかるのも当然ですね)
「ちなみに娘娘猫さんは、他のところに行かなかったんですか?」
「いや……その……猫族は要らないって言われたニャ」
「そうなんですか? 猫族って結構器用な所がありますけど?」
「工房で必要なのは、ハンマーを叩く技量と、炉の高温に耐えれる体ニャ」
娘娘《にゃんにゃん》猫は悲しい視線を向けて、自分の肉球を見ます。
「────悲しい事に猫族はどっちも満たしていないのニャ」
「……すみません。個人的な事にまで踏み込んでしまって」
「ところでニャ、えっと「キイロです」────キイロニャはなんでここに来たのニャ?」
私は一枚の依頼書を、
「この依頼、まだ残っていたのかニャ」
「実は依頼を受けようと思って来たんですが、工房もやってなさそうですし……」
私が帰ろうとすると、服をひっぱられる感触。
「————いや、まだやっているニャ」
娘娘猫は、力強い眼で、私をみます。
「場所もある、人もいる、ならば、ここは工房ニャ」
「さすがに火すら灯っていないのに、工房と呼ぶには無理がある気が」
「ここにいる、猫の魂が熱く燃えているニャ」
「魂が……ですか?」
娘娘猫は、私をカウンターに座らせます。
「その、冒険者さんには悪いが依頼の変更ニャ」
そして依頼書を手にとって、お願いを口にします。
彼女の眼には一筋の決心が宿っていました。
「────変更後の依頼は、工房の再建。報酬は後で考えるニャ」
「────いや、もうしわけないですけど、お断りします」
「……ニャ?」
断られると思っていなかったのか、コテンと首をかしげる、娘娘猫さん。
「その、新米冒険者の私がそんな依頼を受けても達成できる訳がないというか……」
「そんニャッ! こんなか弱い猫族を見て何とも思わないのかニャッ!!」
「いや、私に返済の手伝いをさせようとしている時点で、だいぶ図太いと思いますけど」
「そ、それは必要に駆られて変えていくスタイルニャ」
「図太いのは否定しないんですね」
「ついでに商品を買っていってくれると嬉しいニャ」
「図太いを越してずうずうしいですね」
「でも、買うと言っても、商品すら何もない気がしますが」
ガラ~ン。店内からはそんな音が聞こえて来るほど何もありません。
そして、娘娘猫さんの眼は宙を泳ぐ一方です。
(まるで、私を引き留めないといけない理由があるみたいなような……)
「全く────様子をみてたけど、本当にダメダメでちね」
ぱきぱきと、壊れかけたドアから入ってくるは、赤髪の少女。
それは、白く高価な衣装に身をつつんだ、赤髪少女です。
「マ、マウスガールちゃん、見てたのかニャ」
「せっかく彼女が来ること教えてあげたのに、もっと友好的な出会いはできなかったのでちか?」
マウスガールと呼ばれた赤髪の少女は呆れます。
「ほ、本来はもうちょっと歓迎するハズだったニャ」
「歓迎するどころか、物を恵まれているでちよ」
「き、昨日も、今日も借金取りがくとは思わなかったニャ」
「それも教えてあげてたハズなんでちけど……」
「そうだったかニャ?」
呆れるマウスガール。数秒目を瞑った後、娘娘猫に言います。
「とりあえず、散らかった店を掃除するでち。こっちの方は私がなんとかするからでち」
そして、マウスガールの視線は、私に。
「えっと、何か……?」
「とりあえず掃除が終わるまで、街案内でもするから待ってくれないでちか」
「あのー、私は何の陰謀に巻き込まれているんでしょうか?」
「工房再建、それともっと大きなキッカケにでち」
ぼろぼろの箒を取り出し、床をバキバキと音を立てながら掃除を始める、娘娘猫。
「とりあえず、私も手伝った方がいいでしょうか?」
「そこまではしなくていいでち。店の管理も店主の役目だと、娘娘は知った方がいいでち」
必死に掃除をする娘娘猫をみて、うんうんと頷く、マウスガール。
そんな様子の彼女ですが、私は思い切って疑問に思っていたことを聞きます。
「その、マウスガールって本名なんでしょうか?」
「本名というか、あだ名でち」
「ちなみにあだ名の由来とかはあるんですか」
「姉のイヤーガールと、妹のクイーンに比べてよく喋るでちからね」
「独特なネーミングセンスですね」
「名前なんてそんなもんでちよ」
とっとっと、と赤髪少女ことマウスガールは、かけだしてドアを開けます。
そとから工房の外から差し込むは、まぶしい光。
そんな中、彼女は手をだして、私を街観光に誘うのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。