【ギルド総本山/ [現地時刻 昼]】
————麓・青空市場
大通りには鮮やかなテントが、狭しと並んでいます。
歩いてみると、新鮮な風、甘い香り、香ばしい匂い。
目に飛び込んでくるのは、知らない果物、そして見知ったような食べ物です。
「これは、焼き鳥ですか」
金髪片角少女の目に飛び込んでくるは、見知った料理です。
「焼き鳥? これは焼きトリーでちよ」
発音が違うと、教えてくれるは赤髪少女ことマウスガールです。
「あの、それはどう違うんですか?」
「鳥は鳥。トリーは食用の鳥肉を指す言葉でち」
「それって同じじゃないんですか……」
「人が食えない肉でもいいなら、焼き鳥でもいいでちよ」
どうやら種族によって食べれる物が違うため、区別している様子。
具体的に言えば、食材に内包されている魔力の量が違うそうです。
「食べてみると、意外と甘辛いタレがおいしいですね」
「歩きながら食べれる人気商品でち」
焼きトリー1本に銀貨1枚は観光地価格だなと思いながら、食べおわる私でした。
————中腹・コロシアム
円状の闘技場。欧州に存在するコロッセオを模った形状です。
中心で行われるは、冒険者同士の戦い。
魔法が炸裂するたび、観客たちの声援も増えていきます。
「すごい熱気ですね」
「今日はまだすくないほうでち」
「そうなんですか?」
「3日後には天上天下大会本戦が始まって地獄でち」
「色々な大会があるんですね」
「今回のは二年に一度でちから、人混みが好きなら見に来るといいでちよ」
それなら、龍ねえも誘って二人で見に行きたいとおもう私でした。
————中腹・魔導具専門店
そこは多種多様な、魔導具を売っているお店。
薄暗い室内には、ところせましと商品が置いてありました。
「凄いですね。一日中見ていれそうな、お店です」
「ここは本当に何でも売っているでちからね」
「そして、本当に売ってるんですね、戦鋼」
「それは魔法用の的でちね」
「……そ、その、もう少し他の使い道は」
「でも、一番安い奴とかは、もろくて使い物にすらならないでち」
赤髪マウスガールの目線は、一体の戦鋼に向きます。
それはとてもよく見慣れたシルエット。
「大丈夫です【PN-K2】。私はあなたのすばらしさを知ってますから」
ここでもポンコツ扱いされている愛機を尻目に、私は店を後にするのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・総本山新地・料理千番 [現地時刻 夕方]】
総本山新地とは工業区画に隣接する場所です。
夜の街としても栄えていますが、その中にある料理千番というお店は、格安で料理を提供するだけのお店でした。
「で、どこが印象にのこったでちか」
「やっぱり、コロシアムですかね」
もぐもぐと、二人で揚げ物をつつきながら、喋ります。
「魔法を使った戦闘を、じっくりと見るというのは新鮮でしたから」
「でも、あれは教会が横にあるから出来る競技でちね」
「そうなんですか」
「ルール無用の殺し合いでち。横に教会がないと、すぐの蘇生は無理でち」
その後も、今日観光した場所について語り合う、二人。
頂きにある公園でしたり、ギルド総本山のマスコットについてだったり。
そうして日が陰り出し、話が佳境となったところで、マウスガールが話題を切り出します。
「その、お願いがあるでち……」
「依頼ではなくてですか」
「そういう堅ぐるしいものじゃないでち」
もじもじとしながら、上目遣いでこちらを見る、マウスガール。
「やっぱり、娘娘の手伝いをしてくれないでちか?」
「それは……今日会ったばかりの人に頼むべきではないと思います」
「上手くは言えないでけど、これはとっても大事な出来事になるでち」
「それは、あなたたちの陰謀の一つですか」
「キイロだけではなく、この街の運命がかかっているでち、だからッ」
「嫌です」
私はハッキリと告げます。
「私は運命というものは信じてはいますが、それを誰かに強制されるつもりはないです」
「もしも、それが結論的に世界の命運を左右するとしてもでちか?」
「少女の行動しだいで滅ぶような世界なら、とっくの昔に滅んでいると思います」
無言になったマウスガールを放置して、私は代金を机におき、そこから去ります。
一人残された彼女はぽつりとつぶやきます。
「違うんでちよ。世界は常に滅びに向かっていて、それが誰かのおかげで延びているだけなんでちよ」
彼女の苦悩は誰にも伝わることはありませんでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・とある工房 [現地時刻 夜]】
「焼きトリーぐらい買ってくればよかったかもしれませんね」
そんな事を呟きながら、工房の入り口。
最初に来た時とは違い、工房内には明かりが灯っていました。
(依頼を断る為とはいえ、観光を楽しみ過ぎましたね……)
そんな反省をしながら入り口を開けます。
「すみません、遅くなってしまって」
入ってみると、そこは────見違えるような場所。
武器や防具こそはありませんが、埃は取られ、床は補修され、マネキンは起き上がっていました。
「見てみてニャ、だいぶ綺麗に頑張ったニャ」
そして、綺麗になったカウンターには、一本の焼きトリー。
「本当は二本渡すつもりだったんだけど、一本はお腹が減ってだべちゃったのは許して欲しいニャ……」
「いえ、別にそういう訳でおいた訳では……」
あの銀貨二枚は、娘娘猫の生活費として、忍ばせていたモノです。
それすら使い切った彼女はいったいどうやって生きていくつもりなんでしょうか。
「あの後、掃除をしながら色々考えたニャ」
娘娘猫は、そんなことを気にする様子なく、私に笑顔で話しかけてきます。
「やっぱり、もう一度、依頼の変更をお願いするニャ」
「なんと言われようとも最初の言葉を変えるつもりはないですよ」
それは知っているニャ、という顔で言葉を紡ぐ、娘娘猫。
「だから追加で、前金で払うニャ」
娘娘猫は、お腹から一枚の紙を出します。
それは借金取りから彼女がなんとしても守り抜こうとした契約書。
「────この工房の土地契約書が、前金ニャ」
「────落ち着いてください、正気ではありません」
ごくり。私が唾をのむ音が、やけに静かな部屋に響きます。
「私はどこか馬の骨かもわからない、初心者冒険者ですよ……」
そうじゃないニャとばかりに、首をふる、娘娘猫。
「親方がいなくなって、ニャから物を取っていく連中は無数にいたニャ」
思い出すように語られる一言一句。
「だけど、今日はじめて何かを置いていく人にあったニャ」
「それだけの理由で、ですか」
「それにニャがここを工房だと言った時に、ニャは笑わなかったニャ」
「いや、それはただ呆れていただけで」
「
娘娘猫の手を離れ、カウンターにおかれる、契約書。
「まっ、そんな暗い顔しなくてもいいニャ。借金を返し終わった暁にはたーんと稼いだお金で、買い戻すニャ」
私は数秒考え、テーブルに向かって歩き出します。
「……っ」
無言でほおばるは、冷めた焼きトリ―。
塩味の効いた鶏肉が喉にひっかかりますが、関係なく飲み込みます。
「前金は、これだけで十分です」
私は持っていた依頼書を机に叩きつけ、娘娘猫に宣言をします。
霞の様に消え、焼けるように書き直される、依頼書の文字。
[依頼:工房の────再建【承認】]
「さて、返済開始と行きましょう」
娘娘猫は、嬉しさ半分、驚き半分のぐちゃぐちゃな顔で、私を見るのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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