【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】
「依頼は受けましたけど、そもそも借金ってどのくらいなんでしょうか?」
そこには借用書。そして借りた金額は金貨100枚。
「結構な額を借りてますね」
「これは親方時代の借金の残りニャ」
「そうなんですか」
「新しいモノを作ろうとするとき、工房は教会からお金を借りて作るニャ」
これは一般的な商売のやり方でもあります。
工房レベルの新商品の開発となると、素材、技術、職人など、多くのお金がかかります。
そのため、外からお金を集め、開発した商品を売り、利益を得るといった流れになります。
「じゃあ、この借金をしてまで作った商品を売れば」
「そんなモノ、親方の一番弟子が我先に持って行ったニャ」
「そういうお金って親方が死んだらなくなりそうなんですけどね」
「工房自体を存続するって事は、その借金すら受け継ぐってことニャ」
「馬鹿な猫だと、笑うかニャ」
「今更、笑ってどうするんですか……」
落ち込む娘娘猫さんに、呆れる私。
(ですが実際問題、金貨100枚は大金です)
1日の食費が銀貨1枚。その銀貨を100枚集めて、金貨1枚になります。
「でも具体的には、どうやって借金を返せばいいのでしょうか……」
そんな質問にちょっとだけ、悩む、娘娘猫。
「色々方法はあるけど————キイロは冒険者なんだニャ?」
「まあ、そうですけど」
なら、手っ取り早い方法があるニャ、と私に教えてくれる、娘娘猫。
「なら、私が作った武器を、キイロが使って有名になればいいニャ」
娘娘猫は毛玉がいっぱいの胸をはって、そういうのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/頂上・集会所 [現地時刻 朝]】
————翌日。
今日も集会所には人が多く、受付には様々な種族が並んでいます。
そしてもちろん、金髪片角少女も。
対応してくれるのは犬耳の受付嬢です。
「というわけで、依頼を受けたいわけなんですが……」
「キイロ様は、冒険者としての活動経歴とかはありますか」
「いや、ないですね」
「では活動経歴3ヶ月未満の方は、同伴が必要となります」
「それはパーティを組まないといけないということですか」
「規定ではそうなっています」
おかしいですね。数日前に、ほぼ全てのパーティから断られた気がします。
「もしもパーティが組めない場合は……」
「依頼に行くことが出来ませんね」
「そこをなんとか」
「駄目です。規則なので」
ゴネようとする私と、キッパリ割り切る受付嬢。
「────何時まで、そこに立ってるつもりよッ」
そう背後から割り込んでくるは、狼耳の少女。
東方の鎧に身を包んだ、武将のような少女です。
「アンタ、自分が邪魔になっているって気づいていない訳?」
「なら、ここを退ける代わりにパーティを組んでください」
「誰が、アンタみたいな、初心者魔力馬鹿と組むわけないじゃん」
「依頼中に死んだりしませんから」
「なにもわかってない。アンタを入れるだけで職を失うリスクが高まるから、みんな誘わないわけ」
これだから、とばかりに私を睨む、狼耳少女。
「アンタと同じような仕事をできる連中はたくさんいる」
「死んでも蘇生は必要ありません」
「ありませんじゃないの。蘇生しないと傷つくのは、こっちの名前だっつーの」
びしっと指をさされ、狼耳少女は私を拒絶します。
「冒険者は名前を売ってるのよ。それがあそこの連中は味方を蘇生しないとなってみなさい。評価もがた落ち、いい依頼も来なくなるでしょ」
狼耳少女の行動は侮蔑、というより焦りと言った感じです。
まるで誰かを探す為、必死になっているという表情でした。
「まっ、わかったら退けることね」
とんっと受付前から押し出され、呆然とする私。
狼耳少女は我を通すように、受付手続きを始めます。
「まあ……嬢ちゃん、そう落ち込むなよ」
振り向くと、荒くれ者の冒険者。
いつぞやに私をパーティ勧誘しようとした人物の一人です。
「ほら、こいつを飲んで忘れるのが一番さ」
「これはお酒ですか?」
「今日は景気よく報酬が入ってな、だから連中におごってんだ」
集会所の食事場をみると、昼なのに皆気持ちよさそうに酒を飲んでいます。
「最近はぴりぴりしている連中が多くてな」
「彼女もその一人なんですか」
「当然よ。奴は東方の狩り人。今回の天上天下大会にもでるんだぜ」
「すごく強そうな呼び名ですね」
東方とは、異世界スーアの端っこに位置する、島国です。
伝説の工房[猫&巨人]の文献によれば、彼らの使う武器防具は特徴的なモノが多く、かなり昔から独自の技術で製造してきたのだはないかと、言われています。
「やっこさん、半年ほど前からここに出没するようになってな。特定の依頼だけを受けていくんだ」
「特定の依頼?」
「耳無しどもの討伐依頼だよ」
荒くれ冒険者は、気持ち悪いモノを見る目で、狼耳少女をこっそり見ます。
「魔石で稼ぐ冒険者にとっては、誰もやりたがらないクソ依頼さ」
「それは耳無しが、魔石を落とさないからですか」
「それもあるが昔に比べて討伐単価が下がったんだ」
荒くれ冒険者は昔を思い出すように、お酒を傾けます。
「戦争をやっていた頃はギルドも羽織がよかったんだが————今では物好きか、よっぽど金に困った奴がやる依頼だよ」
荒くれ冒険者はそう言って、どこかに行ってしまうのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・総本山新地・料理千番 [現地時刻 昼]】
夜の街の活気はどこにというほど静まり返った、昼のギルド新地。
ですが、料理千番には格安料理を求める、客であふれていました。
そしてその中にはもちろん、私と娘娘猫の姿も。
「ニャニャニャ、ようやく来たニャ」
娘娘猫と私が頼んだのは、大量のコロッケ。
これだけ頼んでも銅貨3枚。しかも植物トウモコロシを使っている為、お腹にたまる一品だそうです。
「申し訳ないです。結局、討伐依頼を受けることが出来ませんでした……」
「ニャニャニャ、そう気を落とさなくてもいいニャ」
ぱくぱくと、私と娘娘猫さんは、コロッケをほおばります。
「別に簡単なだけで、他の方法はいくらでもあるニャ」
「でも、私が冒険者として無能なのは確定しましたし……」
どんどんと減っていくコロッケ。
「たとえば、ニャがとってもすごい武器を作るとか」
最後に皿に残るは、ラスト一つとなりました。
「そうやって、すぐにでもなくてもゆっくりと返す方法はあるのニャ」
娘娘猫さんは、一つ残ったコロッケを素早く取り、一口で飲み込みます。
「だから────ごふっ、水をニャ」
「急いで食べるからそうなるんですよ……」
すみません、と近くの店員さんに水の追加注文をします。
ですが、数分経っても水は来ず、娘娘猫の顔色はどんどん青くなっていきます。
「あの、すみません、水は……」
仕方ないので、近くの店員さんに再び、水の注文をします。
すると今度は、厨房から聞こえる罵声。
「ツインテ、早く水を持ってきなッ」
「わ、わかってますッ! ク……お客様、お水ですッ!!」
慌てて飛び出てきた、ツインテの店員さんが水を渡してくれます。
「た、助かったニャ」
「ありがとうございます」
私は顔をあげ感謝をのべますが、ツインテの店員からは冷たい視線。
「“ネットスラング”。全く、クソ忙しい時に、迷惑をかけないでよね」
ついでとばかりに暴言も頂いてしまいます。
「あのー、あんまりこういう事言うのはアレなんですが……」
「へっ、えっ、な、なんでしょうか」
「流石に客の前で悪口はちょっと」
「えっ、なんで伝わってるの? 私今、日本語で喋っていたよねッ」
「えっと、そうなんでしょうか」
私にとっては全て日本語にしか聞こえないので、違いが分からないのですが。
どうやら異世界言語と、地球の言語は明確に違うようです。
「ちょっと待ちなさい────寿限無寿限無ッ」
「五劫のすりきれ回砂利────……長介っ」
……いや、私は何をいっているんでしょうか。
つい、寿限無寿限無と言われてしまったので、最後まで言いたくなってしまいました。
「やっぱりアンタ、日本人ね」
「どうでしょうか、角とか生えてますよ」
ジロジロとみられる私の角。
ツインテ少女は角の質感を確かめた後────
「えいッ」
盛大にお水を、私にブチ撒けます。
「冷たっ」
「言語は日本語……シロ、かしら」
「いや、何をするんですか」
「落ち着きなさい。ちょっと確かめただけよ」
「水をかけてまで確かめることがあるとは思えませんが……」
服の中までびぢょびぢょになった私。
体に感じる不快感よりも、周囲の視線の方が気になってしかたありません。
「体を濡らしたことは謝るわ」
ツインテ少女は、私の指だけを、にぎにぎと拭きます。
しかも、布というより、そこら辺にある紙のようなモノで。
「いや、拭くなら顔とかを拭いてください」
「ごめんごめん。あっ、服は後で弁償でもなんでもするからッ」
「必ず弁償してくださいよ」
「いいわよ、私との契約でいいかしら」
「まあ、それで
「言質とったわよ」
そう言い残すと、急にどこかに走っていく、黒髪ツインテ少女。
一瞬手が熱くなった気がしますが、何かされたのでしょうか?
「一体なんだったのでしょうか」
「知り合いとかじゃないのニャ?」
「水をかけてくる知り合いがいたら縁を切る案件です」
どこからの奥から、ツインテ少女の声が聞こえます。
「ビッグマザー、今いい」
「あんた注文をサボってどこに言ってたんだいッ」
「実はあたしの買い手が見つかってー」
「はあ、じゃじゃ馬のアンタに買い手が、どんな手を使ったんだい」
「ほら、ここに契約書もちゃんとあってぇ」
「押し印まできちんとしてある。こりゃ、本物かい」
数分後。どすんどすんと現れるは、巨大なおばさん。
いいセンスとは言えない、ピンクの服を着た女性は、ぎょろりと私を見ます。
「ほう、あんたがこの子の買い手かい」
「買い手……? なんのことでしょうか」
ほらと出されるは、一枚の契約書。
契約者の名前には、私のお茶塗れ指印。
「身に覚えがない契約なんですが……」
「どんな目的だろうと、契約書が効力を発揮してるんだ」
「えっと、それってつまりどういうこと」
「ウチのツインテをあんたが買ったということだよ」
思わず頭に疑問符がとんでしまう私。
ですが、おばさんの次の一言でそんな疑問符すら飛んでしまいます。
「────ほら、代金は金貨1000枚だよ」
疑問を通り越して、フリーズしてしまった私。
数時間後、目の前に置かれたのは紙には、借金:金貨1000枚の文字。
「アレ、借金を返すどころか、額が10倍になってませんか……?」
私のどうしようもない呟きは、愉快な夜の街の喧騒にかき消されていくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。