紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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60 少女と借金と返済方法

【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】

 

「依頼は受けましたけど、そもそも借金ってどのくらいなんでしょうか?」

 

金髪片角少女(わたし)の疑問に、娘娘(にゃんにゃん)猫は一枚の紙を持ってきます。

 

そこには借用書。そして借りた金額は金貨100枚。

 

「結構な額を借りてますね」

「これは親方時代の借金の残りニャ」

 

「そうなんですか」

「新しいモノを作ろうとするとき、工房は教会からお金を借りて作るニャ」

 

これは一般的な商売のやり方でもあります。

 

工房レベルの新商品の開発となると、素材、技術、職人など、多くのお金がかかります。

 

そのため、外からお金を集め、開発した商品を売り、利益を得るといった流れになります。

 

「じゃあ、この借金をしてまで作った商品を売れば」

「そんなモノ、親方の一番弟子が我先に持って行ったニャ」

 

「そういうお金って親方が死んだらなくなりそうなんですけどね」

「工房自体を存続するって事は、その借金すら受け継ぐってことニャ」

 

「馬鹿な猫だと、笑うかニャ」

「今更、笑ってどうするんですか……」

 

落ち込む娘娘猫さんに、呆れる私。

 

(ですが実際問題、金貨100枚は大金です)

 

1日の食費が銀貨1枚。その銀貨を100枚集めて、金貨1枚になります。

 

「でも具体的には、どうやって借金を返せばいいのでしょうか……」

 

そんな質問にちょっとだけ、悩む、娘娘猫。

 

「色々方法はあるけど————キイロは冒険者なんだニャ?」

「まあ、そうですけど」

 

なら、手っ取り早い方法があるニャ、と私に教えてくれる、娘娘猫。

 

「なら、私が作った武器を、キイロが使って有名になればいいニャ」

 

娘娘猫は毛玉がいっぱいの胸をはって、そういうのでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/頂上・集会所 [現地時刻 朝]】

 

————翌日。

 

今日も集会所には人が多く、受付には様々な種族が並んでいます。

 

そしてもちろん、金髪片角少女も。

 

対応してくれるのは犬耳の受付嬢です。

 

「というわけで、依頼を受けたいわけなんですが……」

「キイロ様は、冒険者としての活動経歴とかはありますか」

 

「いや、ないですね」

「では活動経歴3ヶ月未満の方は、同伴が必要となります」

 

「それはパーティを組まないといけないということですか」

「規定ではそうなっています」

 

おかしいですね。数日前に、ほぼ全てのパーティから断られた気がします。

 

「もしもパーティが組めない場合は……」

「依頼に行くことが出来ませんね」

 

「そこをなんとか」

「駄目です。規則なので」

 

ゴネようとする私と、キッパリ割り切る受付嬢。

 

「────何時まで、そこに立ってるつもりよッ」

 

そう背後から割り込んでくるは、狼耳の少女。

 

東方の鎧に身を包んだ、武将のような少女です。

 

「アンタ、自分が邪魔になっているって気づいていない訳?」

「なら、ここを退ける代わりにパーティを組んでください」

 

「誰が、アンタみたいな、初心者魔力馬鹿と組むわけないじゃん」

「依頼中に死んだりしませんから」

 

「なにもわかってない。アンタを入れるだけで職を失うリスクが高まるから、みんな誘わないわけ」

 

これだから、とばかりに私を睨む、狼耳少女。

 

「アンタと同じような仕事をできる連中はたくさんいる」

「死んでも蘇生は必要ありません」

「ありませんじゃないの。蘇生しないと傷つくのは、こっちの名前だっつーの」

 

びしっと指をさされ、狼耳少女は私を拒絶します。

 

「冒険者は名前を売ってるのよ。それがあそこの連中は味方を蘇生しないとなってみなさい。評価もがた落ち、いい依頼も来なくなるでしょ」

 

狼耳少女の行動は侮蔑、というより焦りと言った感じです。

 

まるで誰かを探す為、必死になっているという表情でした。

 

「まっ、わかったら退けることね」

 

とんっと受付前から押し出され、呆然とする私。

 

狼耳少女は我を通すように、受付手続きを始めます。

 

「まあ……嬢ちゃん、そう落ち込むなよ」

 

振り向くと、荒くれ者の冒険者。

 

いつぞやに私をパーティ勧誘しようとした人物の一人です。

 

「ほら、こいつを飲んで忘れるのが一番さ」

「これはお酒ですか?」

「今日は景気よく報酬が入ってな、だから連中におごってんだ」

 

集会所の食事場をみると、昼なのに皆気持ちよさそうに酒を飲んでいます。

 

「最近はぴりぴりしている連中が多くてな」

「彼女もその一人なんですか」

 

「当然よ。奴は東方の狩り人。今回の天上天下大会にもでるんだぜ」

「すごく強そうな呼び名ですね」

 

東方とは、異世界スーアの端っこに位置する、島国です。

 

伝説の工房[猫&巨人]の文献によれば、彼らの使う武器防具は特徴的なモノが多く、かなり昔から独自の技術で製造してきたのだはないかと、言われています。

 

「やっこさん、半年ほど前からここに出没するようになってな。特定の依頼だけを受けていくんだ」

 

「特定の依頼?」

「耳無しどもの討伐依頼だよ」

 

荒くれ冒険者は、気持ち悪いモノを見る目で、狼耳少女をこっそり見ます。

 

「魔石で稼ぐ冒険者にとっては、誰もやりたがらないクソ依頼さ」

「それは耳無しが、魔石を落とさないからですか」

「それもあるが昔に比べて討伐単価が下がったんだ」

 

荒くれ冒険者は昔を思い出すように、お酒を傾けます。

 

「戦争をやっていた頃はギルドも羽織がよかったんだが————今では物好きか、よっぽど金に困った奴がやる依頼だよ」

 

荒くれ冒険者はそう言って、どこかに行ってしまうのでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/麓・総本山新地・料理千番 [現地時刻 昼]】

 

夜の街の活気はどこにというほど静まり返った、昼のギルド新地。

 

ですが、料理千番には格安料理を求める、客であふれていました。

 

そしてその中にはもちろん、私と娘娘猫の姿も。

 

「ニャニャニャ、ようやく来たニャ」

 

娘娘猫と私が頼んだのは、大量のコロッケ。

 

これだけ頼んでも銅貨3枚。しかも植物トウモコロシを使っている為、お腹にたまる一品だそうです。

 

「申し訳ないです。結局、討伐依頼を受けることが出来ませんでした……」

「ニャニャニャ、そう気を落とさなくてもいいニャ」

 

ぱくぱくと、私と娘娘猫さんは、コロッケをほおばります。

 

「別に簡単なだけで、他の方法はいくらでもあるニャ」

「でも、私が冒険者として無能なのは確定しましたし……」

 

どんどんと減っていくコロッケ。

 

「たとえば、ニャがとってもすごい武器を作るとか」

 

最後に皿に残るは、ラスト一つとなりました。

 

「そうやって、すぐにでもなくてもゆっくりと返す方法はあるのニャ」

 

娘娘猫さんは、一つ残ったコロッケを素早く取り、一口で飲み込みます。

 

「だから────ごふっ、水をニャ」

「急いで食べるからそうなるんですよ……」

 

すみません、と近くの店員さんに水の追加注文をします。

 

ですが、数分経っても水は来ず、娘娘猫の顔色はどんどん青くなっていきます。

 

「あの、すみません、水は……」

 

仕方ないので、近くの店員さんに再び、水の注文をします。

 

すると今度は、厨房から聞こえる罵声。

 

「ツインテ、早く水を持ってきなッ」

「わ、わかってますッ! ク……お客様、お水ですッ!!」

 

慌てて飛び出てきた、ツインテの店員さんが水を渡してくれます。

 

「た、助かったニャ」

「ありがとうございます」

 

私は顔をあげ感謝をのべますが、ツインテの店員からは冷たい視線。

 

「“ネットスラング”。全く、クソ忙しい時に、迷惑をかけないでよね」

 

ついでとばかりに暴言も頂いてしまいます。

 

「あのー、あんまりこういう事言うのはアレなんですが……」

「へっ、えっ、な、なんでしょうか」

「流石に客の前で悪口はちょっと」

 

「えっ、なんで伝わってるの? 私今、日本語で喋っていたよねッ」

「えっと、そうなんでしょうか」

 

私にとっては全て日本語にしか聞こえないので、違いが分からないのですが。

 

どうやら異世界言語と、地球の言語は明確に違うようです。

 

「ちょっと待ちなさい────寿限無寿限無ッ」

「五劫のすりきれ回砂利────……長介っ」

 

……いや、私は何をいっているんでしょうか。

 

つい、寿限無寿限無と言われてしまったので、最後まで言いたくなってしまいました。

 

「やっぱりアンタ、日本人ね」

「どうでしょうか、角とか生えてますよ」

 

ジロジロとみられる私の角。

 

ツインテ少女は角の質感を確かめた後────

 

「えいッ」

 

盛大にお水を、私にブチ撒けます。

 

「冷たっ」

「言語は日本語……シロ、かしら」

 

「いや、何をするんですか」

「落ち着きなさい。ちょっと確かめただけよ」

「水をかけてまで確かめることがあるとは思えませんが……」

 

服の中までびぢょびぢょになった私。

 

体に感じる不快感よりも、周囲の視線の方が気になってしかたありません。

 

「体を濡らしたことは謝るわ」

 

ツインテ少女は、私の指だけを、にぎにぎと拭きます。

 

しかも、布というより、そこら辺にある紙のようなモノで。

 

「いや、拭くなら顔とかを拭いてください」

「ごめんごめん。あっ、服は後で弁償でもなんでもするからッ」

 

「必ず弁償してくださいよ」

「いいわよ、私との契約でいいかしら」

 

「まあ、それで()()です」

「言質とったわよ」

 

そう言い残すと、急にどこかに走っていく、黒髪ツインテ少女。

 

一瞬手が熱くなった気がしますが、何かされたのでしょうか?

 

「一体なんだったのでしょうか」

「知り合いとかじゃないのニャ?」

「水をかけてくる知り合いがいたら縁を切る案件です」

 

どこからの奥から、ツインテ少女の声が聞こえます。

 

「ビッグマザー、今いい」

「あんた注文をサボってどこに言ってたんだいッ」

 

「実はあたしの買い手が見つかってー」

「はあ、じゃじゃ馬のアンタに買い手が、どんな手を使ったんだい」

 

「ほら、ここに契約書もちゃんとあってぇ」

「押し印まできちんとしてある。こりゃ、本物かい」

 

数分後。どすんどすんと現れるは、巨大なおばさん。

 

いいセンスとは言えない、ピンクの服を着た女性は、ぎょろりと私を見ます。

 

「ほう、あんたがこの子の買い手かい」

「買い手……? なんのことでしょうか」

 

ほらと出されるは、一枚の契約書。

 

契約者の名前には、私のお茶塗れ指印。

 

「身に覚えがない契約なんですが……」

「どんな目的だろうと、契約書が効力を発揮してるんだ」

 

「えっと、それってつまりどういうこと」

「ウチのツインテをあんたが買ったということだよ」

 

思わず頭に疑問符がとんでしまう私。

 

ですが、おばさんの次の一言でそんな疑問符すら飛んでしまいます。

 

「────ほら、代金は金貨1000枚だよ」

 

疑問を通り越して、フリーズしてしまった私。

 

数時間後、目の前に置かれたのは紙には、借金:金貨1000枚の文字。

 

「アレ、借金を返すどころか、額が10倍になってませんか……?」

 

私のどうしようもない呟きは、愉快な夜の街の喧騒にかき消されていくのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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