紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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61 少女とツインテと彼女の妙案

【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】

 

明かりのともった工房に移るは、3人の人影。

 

テーブルに突っ伏す、金髪片角少女(わたし)

 

それを慰める、娘娘猫。

 

「そ、そのそんなに落ち込まなくてもいいニャ」

「いや落ち込みますよっ⁉ なんですか教会総本山に来て3日目で借金って」

 

「こ、これで私とも借金仲間だからニャ」

「いりませんよ、そんな称号っ!」

 

娘娘猫は、あの手この手で私を慰めてきますが、すべて逆効果です。

 

肩にふれる肉球がぷにぷにとして気持ちいですが、そんなものでは私の気持ちは晴れません。

 

「そもそもですね、借金の桁が一桁違います」

「えっ、そんなにやばいのニャ」

 

「金貨1000枚だそうです……」

「借金の錬金術師ニャ」

 

無からマイナスを生むのを錬金とはいいません。

 

「せめて励ます言葉をかけてください……」

「個人的にニャ、ちょっと尊敬しそうになっているニャ」

 

そんな様子を腕を組みながら、眺めるは全身フードの人物。

 

工房にいる3人目の少女こと。小柄な黒髪ツインテ少女。

 

フードから主張するツインテールが、ピコピコと感情を表しています。

 

「大丈夫よ、私には秘策があるんだから」

「いや、元凶は黙っていてください」

 

そして、彼女は借金の元凶でもあります。

 

黒色ツインテと名乗った少女は。運悪く捕まってしまった、哀れで模範的な日本人らしいです。

 

「そもそも、職場を抜け出している時点で模範的とは言いずらいんですが」

「どこが職場よ。あそこは実質、奴隷市場だっつーのッ」

 

「でも、他の皆さん元気に働いていましたが」

「当然でしょ。誰かに買ってもらわないと、生活すらできないんだから」

 

これが総本山新地の実態。

 

奴隷という身分は100年ほど前に廃止はされているものの、似たような境遇の人間は沢山います。

 

またツインテ少女の様に、他で捕まり、売られて、流れ着くような者も少なくはないそうです。

 

「まあ、料理千番はその中でも“いいところ”と言えるぐらい、マシな所だったけど」

 

ツインテ少女曰く、料理千番にいた方々は、人情に溢れ、新人だとしても大事に扱ってくれたそうです。

 

だからこそ、彼女には耐えれなかったとも。

 

「少なくとも、純粋な少女達は知らなくてはいい場所よ」

 

その言葉に首をかしげる、私と、娘娘猫。

 

この時の私たちにとってあの場所は、ご飯を食べるところでしかありませんから、言葉の意味を知ることはありません。

 

「どのみち来週には借金とはおさらば、私もあなたもハッピーよ」

「いや……その自信はどっから来るんですか」

 

ふふん、と鼻を鳴らす、ツインテ少女。

 

「────ここには無限の可能性が詰まってるのよ」

 

彼女は、ペッタンな胸に手をおいて、自信満々に言うのでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】

 

ツインテ少女の提案と言うのは、私達にとってなじみのない物でした。

 

「コロシアムに参加する?」

「そうよ。ちょうど天上天下大会が始まっているし」

「確かに。ギルドの皆さんが、そんな話をしていましたね」

 

天上天下大会。コロシアムの順位とは関係なく、各地から部外者乱入ありで行われる大会。

 

ツインテさんによりますと、コロシアムの最強は内部だけで決まるモノではない、と創始者が言った為、開催されるようになったらしいです。

 

「よくそんな歴史までしてますね」

「そりゃあ、ウチに来ていた客がべらべらと喋ってたもの」

 

「でも優勝したといって、何かあるんですか?」

「あるわよ。優勝者には聖女に対する謁見が許可されるわ」

 

私はその言葉に首をひねります。

 

聖女に対する謁見をしたところで何かが変わるのでしょうか?

 

「要はそこで借金を帳消しをお願いするってことかニャ」

「正解よ。ニャん子の癖に頭いいじゃない」

「にゃん子ではなく、娘娘ニャ」

 

猫耳をシャーとたてる、娘娘猫。

 

指を動かして褒める、ツインテ少女。

 

「ついでに勝ち続ければ、ここの武具の宣伝もできるじゃない」

「確かにニャ……街中、いや国中の注目が集まる大会だしニャ」

 

「これこそ、一石二鳥、天下簡単の計ってね」

「ところで、その計で得をしていない人間が一人いませんか?」

 

「……ぐちぐちうるさいわね、いつまで根に持っているのよ」

「借金を押し付けられて根に持たない人間がいない訳ないでしょっ」

 

「いい、あんたと私は一蓮托生。今さらどうこういったところで遅いのよ」

 

ツインテ少女が指すは、契約書の一文。

 

期限(13日以内)に払えなかったものは、心身を用いて返すものとする。

 

「あの、なんか、実質“奴隷”送りって書かれてません?」

「その通りよ。言葉は消えても、風習が残っている悪い例ね」

 

「つまり、私がお金を払えなかった場合……」

「一生、皿磨き、男の相手、ふふふ、あなたに耐えれるかしら……」

 

急にハイライトが消える、ツインテ少女。

 

ぞっとするように焦り出す、私。

 

「────わ、わかりましたよ、協力すればいいんでしょっ」

 

「────そうよ、払いきってしまえば問題ないものねッ」

 

ぽんぽんとツインテ少女に肩を叩かれますが、私はそれどころではありません。

 

今すぐ、どうにしかして借金を返す必要が出てきました。

 

「酷いニャ。まるで暴力彼氏の手口だニャ」

 

そんな娘娘猫の呟きは、二人には聞かれることはありませんでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/中腹・コロシアム [現地時刻 朝]】

 

翌日。少女たちの姿はコロシアム内部にありました。

 

天上高く、巨大な広間である受付広間には、獣耳の人間が多く。

 

少女たちはその中をすり抜けて、受付を探します。

 

「すごい空間ですね……」

「ニャあも、久しぶりに来たニャ」

 

コロシアムの受付前にならぶ、20体ほどの石像。

 

いくつかの石像は壊れており、台座だけになっている物もありました。

 

「これは歴代の大会優勝者たちの石像ニャ」

「でも、いくつか壊されているのがありませんか」

「これは優勝したあとに負けると、像が壊されるニャ」

 

「つまりここに残っていいるのは……」

「負けたことが無く、今も不敗を貫いていた連中ニャ」

 

特定の石像の周りには人が集まっており、私も彼らと同じように、石像を見て割まります。

 

「これが、初代の優勝者……」

 

初代の優勝者は、体が小さく、どこにでもいるような村人でした。

 

そんな経年劣化が激しい、プレートに彫られた名前は。

 

「────勇者」

 

彼の象は一本の剣を空に掲げ、不適に笑っていました。

 

「でも、勇者以上に人気の方がいるようですね」

 

初代の優勝者より、人が集まっているのは9番目の優勝者。

 

人々は崇めるように彼の像の前に佇み、中には泣き出している者もいます。

 

「あー、黄金の騎士はお話になるぐらい、有名な化け物だからニャ」

「彼も、歴代の優勝者達も、違いがないように見えますが」

 

6番目の優勝者とか龍っぽいみためですし、2番目の優勝者は球体です。

 

「別に闘技場の大会に出なければ、負けることがなく、像を壊されることもないニャ」

「つまり勝ち逃げが許されるということですか」

 

「でも黄金の騎士は違うニャ。最後の最後まで闘技場で戦い続けたのニャ」

「それは死ぬまで戦い続けたという事でしょうか」

 

「そうニャ。彼は最後の戦いに勝った後、闘技場中央での眠るように死んだニャ」

 

うんうんと頷く、娘娘猫。

 

ここで私はふと思います。

 

「……その、ものすごく黄金の騎士について詳しいんですね」

「……し、仕方ニャのニャ」

 

黄金の騎士。大会9番目の優勝者。

 

死の瀬戸際まで戦い続けた姿は、民衆の見聞を越え、今では有名な物語にもなっています。

 

「か、彼は巨人族の中では小柄な人物だったんだけど、優れた武勇と、強靱な武具で、全戦全勝だったのニャ」

 

伝説の工房[猫&巨人]の文献によれば、彼の黄金の鎧は、ドワーフの鉱山で作られた一級品。魔法を軽減する黄金の塗装と、各部に装飾された、戦闘用の宝石。夢見る鍛治師なら、誰もが一度はあこがれるモノと書かれています。

 

「そういう話を聞くと、自分も頑張らないといけないニャってなって」

 

そしてその鎧はミスリルで構成され────今でも、どこかに眠っていいるとのことです。

 

「まあ、そうしてお話を集め出してたら……この様なんだけどニャ」

 

自分が熱っぽく話し過ぎたことに、赤面する娘娘猫。

 

ニャニャニャと顔を抑えていますが、ただの可愛らしい猫になっただけです。

 

「あんた達、いつまで語ってるのよ……」

「いや、あの、ツインテさん、すみません」

「その、つい熱が入っちゃったニャ」

 

私達の後ろから、飛んでくる冷たい視線。

 

黒フードの人物は飛び出るツインテを不機嫌に動かしています。

 

「全く、目的を忘れないでよね」

 

そんなことはないですよ。とは言えない私と娘娘猫でした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/中腹・コロシアム・受付前 [現地時刻 朝]】

 

「受付はここで合ってるかしら」

 

数分ほど列に並び、受付のお姉さんの前にたどり着きます。

 

丸い犬耳を立てたお姉さんは、丁寧に対応をしてくれます。

 

「コロシアムに参加希望の方ですか?」

「そっちじゃなくて、天上天下大会への参加希望の方よ」

 

黒フードのツインテさんは、急かすように喋ります。

 

「えっと今更? 天上天下大会の申し込みですか?」

「“今更”ってどういう事よ」

 

「えっと、その、すみません────登録期間はもう終了していまして」

 

「「「???」」」

 

同時に首を傾げる三人の少女。

 

「えっ、大会はまだ始まってないって聞いたんだけど?」

「それは観客が来場可能な()()の話ですね」

 

「どういうことよ」

「今年も参加人数が多い都合上、予選から開始していまして」

 

受付のお姉さんから見せられるは、一枚のボード。

 

予戦(勝ち抜き2名)[終了]→本戦(3回戦)→決勝

 

「残るは、予選を勝ちぬかれた方の本戦となっています」

「えっと、今から参加とかは出来たりしない訳……」

「すみませんが規則なので」

 

「そこをなんとか、お願いッ」

「すみませんが規則なので」

 

「ほら。規則ならちょっとぐらいは」

「すみませんが規則なので」

 

どんな言葉をかけようとも「すみませんが規則なので」botとかした受付のお姉さん。

 

これには、ツインテ少女も立ち尽くすしかありません。

 

「あのー、もちろん、代わりのプランはあるんですよね」

「もッ、もちろんよ、こうなればプランBよ」

 

「じゃあ、そのプランBはなんニャ」

「んなもん、あれば私も教えて欲しいわよッ!」

 

逆ギレをかますあたり、ツインテ少女も相当切羽詰まっているようです。

 

「これ、どーするんですか……」

「わ、分からないわよッ!!」

「終わりだニャ……」

 

あーだこーだと喧嘩を始める、私とツインテ少女。

 

それを呆然とながめる娘娘猫。

 

「お客様方、迷惑なので、外でやってもらえますか?」

 

受付のお姉さんの一言で、警備の人が来て、私達は追い出されます。

 

「「「......」」」

 

コロシアムの入り口で、ハイライトの消えた目をする、少女三人。

 

そんな私たちを、ピューと冷たい風が吹きつけるのでした。

 




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