【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】
明かりのともった工房に移るは、3人の人影。
テーブルに突っ伏す、
それを慰める、娘娘猫。
「そ、そのそんなに落ち込まなくてもいいニャ」
「いや落ち込みますよっ⁉ なんですか教会総本山に来て3日目で借金って」
「こ、これで私とも借金仲間だからニャ」
「いりませんよ、そんな称号っ!」
娘娘猫は、あの手この手で私を慰めてきますが、すべて逆効果です。
肩にふれる肉球がぷにぷにとして気持ちいですが、そんなものでは私の気持ちは晴れません。
「そもそもですね、借金の桁が一桁違います」
「えっ、そんなにやばいのニャ」
「金貨1000枚だそうです……」
「借金の錬金術師ニャ」
無からマイナスを生むのを錬金とはいいません。
「せめて励ます言葉をかけてください……」
「個人的にニャ、ちょっと尊敬しそうになっているニャ」
そんな様子を腕を組みながら、眺めるは全身フードの人物。
工房にいる3人目の少女こと。小柄な黒髪ツインテ少女。
フードから主張するツインテールが、ピコピコと感情を表しています。
「大丈夫よ、私には秘策があるんだから」
「いや、元凶は黙っていてください」
そして、彼女は借金の元凶でもあります。
黒色ツインテと名乗った少女は。運悪く捕まってしまった、哀れで模範的な日本人らしいです。
「そもそも、職場を抜け出している時点で模範的とは言いずらいんですが」
「どこが職場よ。あそこは実質、奴隷市場だっつーのッ」
「でも、他の皆さん元気に働いていましたが」
「当然でしょ。誰かに買ってもらわないと、生活すらできないんだから」
これが総本山新地の実態。
奴隷という身分は100年ほど前に廃止はされているものの、似たような境遇の人間は沢山います。
またツインテ少女の様に、他で捕まり、売られて、流れ着くような者も少なくはないそうです。
「まあ、料理千番はその中でも“いいところ”と言えるぐらい、マシな所だったけど」
ツインテ少女曰く、料理千番にいた方々は、人情に溢れ、新人だとしても大事に扱ってくれたそうです。
だからこそ、彼女には耐えれなかったとも。
「少なくとも、純粋な少女達は知らなくてはいい場所よ」
その言葉に首をかしげる、私と、娘娘猫。
この時の私たちにとってあの場所は、ご飯を食べるところでしかありませんから、言葉の意味を知ることはありません。
「どのみち来週には借金とはおさらば、私もあなたもハッピーよ」
「いや……その自信はどっから来るんですか」
ふふん、と鼻を鳴らす、ツインテ少女。
「────ここには無限の可能性が詰まってるのよ」
彼女は、ペッタンな胸に手をおいて、自信満々に言うのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夜]】
ツインテ少女の提案と言うのは、私達にとってなじみのない物でした。
「コロシアムに参加する?」
「そうよ。ちょうど天上天下大会が始まっているし」
「確かに。ギルドの皆さんが、そんな話をしていましたね」
天上天下大会。コロシアムの順位とは関係なく、各地から部外者乱入ありで行われる大会。
ツインテさんによりますと、コロシアムの最強は内部だけで決まるモノではない、と創始者が言った為、開催されるようになったらしいです。
「よくそんな歴史までしてますね」
「そりゃあ、ウチに来ていた客がべらべらと喋ってたもの」
「でも優勝したといって、何かあるんですか?」
「あるわよ。優勝者には聖女に対する謁見が許可されるわ」
私はその言葉に首をひねります。
聖女に対する謁見をしたところで何かが変わるのでしょうか?
「要はそこで借金を帳消しをお願いするってことかニャ」
「正解よ。ニャん子の癖に頭いいじゃない」
「にゃん子ではなく、娘娘ニャ」
猫耳をシャーとたてる、娘娘猫。
指を動かして褒める、ツインテ少女。
「ついでに勝ち続ければ、ここの武具の宣伝もできるじゃない」
「確かにニャ……街中、いや国中の注目が集まる大会だしニャ」
「これこそ、一石二鳥、天下簡単の計ってね」
「ところで、その計で得をしていない人間が一人いませんか?」
「……ぐちぐちうるさいわね、いつまで根に持っているのよ」
「借金を押し付けられて根に持たない人間がいない訳ないでしょっ」
「いい、あんたと私は一蓮托生。今さらどうこういったところで遅いのよ」
ツインテ少女が指すは、契約書の一文。
期限(13日以内)に払えなかったものは、心身を用いて返すものとする。
「あの、なんか、実質“奴隷”送りって書かれてません?」
「その通りよ。言葉は消えても、風習が残っている悪い例ね」
「つまり、私がお金を払えなかった場合……」
「一生、皿磨き、男の相手、ふふふ、あなたに耐えれるかしら……」
急にハイライトが消える、ツインテ少女。
ぞっとするように焦り出す、私。
「────わ、わかりましたよ、協力すればいいんでしょっ」
「────そうよ、払いきってしまえば問題ないものねッ」
ぽんぽんとツインテ少女に肩を叩かれますが、私はそれどころではありません。
今すぐ、どうにしかして借金を返す必要が出てきました。
「酷いニャ。まるで暴力彼氏の手口だニャ」
そんな娘娘猫の呟きは、二人には聞かれることはありませんでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/中腹・コロシアム [現地時刻 朝]】
翌日。少女たちの姿はコロシアム内部にありました。
天上高く、巨大な広間である受付広間には、獣耳の人間が多く。
少女たちはその中をすり抜けて、受付を探します。
「すごい空間ですね……」
「ニャあも、久しぶりに来たニャ」
コロシアムの受付前にならぶ、20体ほどの石像。
いくつかの石像は壊れており、台座だけになっている物もありました。
「これは歴代の大会優勝者たちの石像ニャ」
「でも、いくつか壊されているのがありませんか」
「これは優勝したあとに負けると、像が壊されるニャ」
「つまりここに残っていいるのは……」
「負けたことが無く、今も不敗を貫いていた連中ニャ」
特定の石像の周りには人が集まっており、私も彼らと同じように、石像を見て割まります。
「これが、初代の優勝者……」
初代の優勝者は、体が小さく、どこにでもいるような村人でした。
そんな経年劣化が激しい、プレートに彫られた名前は。
「────勇者」
彼の象は一本の剣を空に掲げ、不適に笑っていました。
「でも、勇者以上に人気の方がいるようですね」
初代の優勝者より、人が集まっているのは9番目の優勝者。
人々は崇めるように彼の像の前に佇み、中には泣き出している者もいます。
「あー、黄金の騎士はお話になるぐらい、有名な化け物だからニャ」
「彼も、歴代の優勝者達も、違いがないように見えますが」
6番目の優勝者とか龍っぽいみためですし、2番目の優勝者は球体です。
「別に闘技場の大会に出なければ、負けることがなく、像を壊されることもないニャ」
「つまり勝ち逃げが許されるということですか」
「でも黄金の騎士は違うニャ。最後の最後まで闘技場で戦い続けたのニャ」
「それは死ぬまで戦い続けたという事でしょうか」
「そうニャ。彼は最後の戦いに勝った後、闘技場中央での眠るように死んだニャ」
うんうんと頷く、娘娘猫。
ここで私はふと思います。
「……その、ものすごく黄金の騎士について詳しいんですね」
「……し、仕方ニャのニャ」
黄金の騎士。大会9番目の優勝者。
死の瀬戸際まで戦い続けた姿は、民衆の見聞を越え、今では有名な物語にもなっています。
「か、彼は巨人族の中では小柄な人物だったんだけど、優れた武勇と、強靱な武具で、全戦全勝だったのニャ」
伝説の工房[猫&巨人]の文献によれば、彼の黄金の鎧は、ドワーフの鉱山で作られた一級品。魔法を軽減する黄金の塗装と、各部に装飾された、戦闘用の宝石。夢見る鍛治師なら、誰もが一度はあこがれるモノと書かれています。
「そういう話を聞くと、自分も頑張らないといけないニャってなって」
そしてその鎧はミスリルで構成され────今でも、どこかに眠っていいるとのことです。
「まあ、そうしてお話を集め出してたら……この様なんだけどニャ」
自分が熱っぽく話し過ぎたことに、赤面する娘娘猫。
ニャニャニャと顔を抑えていますが、ただの可愛らしい猫になっただけです。
「あんた達、いつまで語ってるのよ……」
「いや、あの、ツインテさん、すみません」
「その、つい熱が入っちゃったニャ」
私達の後ろから、飛んでくる冷たい視線。
黒フードの人物は飛び出るツインテを不機嫌に動かしています。
「全く、目的を忘れないでよね」
そんなことはないですよ。とは言えない私と娘娘猫でした。
◇◆◇
【ギルド総本山/中腹・コロシアム・受付前 [現地時刻 朝]】
「受付はここで合ってるかしら」
数分ほど列に並び、受付のお姉さんの前にたどり着きます。
丸い犬耳を立てたお姉さんは、丁寧に対応をしてくれます。
「コロシアムに参加希望の方ですか?」
「そっちじゃなくて、天上天下大会への参加希望の方よ」
黒フードのツインテさんは、急かすように喋ります。
「えっと今更? 天上天下大会の申し込みですか?」
「“今更”ってどういう事よ」
「えっと、その、すみません────登録期間はもう終了していまして」
「「「???」」」
同時に首を傾げる三人の少女。
「えっ、大会はまだ始まってないって聞いたんだけど?」
「それは観客が来場可能な
「どういうことよ」
「今年も参加人数が多い都合上、予選から開始していまして」
受付のお姉さんから見せられるは、一枚のボード。
予戦(勝ち抜き2名)[終了]→本戦(3回戦)→決勝
「残るは、予選を勝ちぬかれた方の本戦となっています」
「えっと、今から参加とかは出来たりしない訳……」
「すみませんが規則なので」
「そこをなんとか、お願いッ」
「すみませんが規則なので」
「ほら。規則ならちょっとぐらいは」
「すみませんが規則なので」
どんな言葉をかけようとも「すみませんが規則なので」botとかした受付のお姉さん。
これには、ツインテ少女も立ち尽くすしかありません。
「あのー、もちろん、代わりのプランはあるんですよね」
「もッ、もちろんよ、こうなればプランBよ」
「じゃあ、そのプランBはなんニャ」
「んなもん、あれば私も教えて欲しいわよッ!」
逆ギレをかますあたり、ツインテ少女も相当切羽詰まっているようです。
「これ、どーするんですか……」
「わ、分からないわよッ!!」
「終わりだニャ……」
あーだこーだと喧嘩を始める、私とツインテ少女。
それを呆然とながめる娘娘猫。
「お客様方、迷惑なので、外でやってもらえますか?」
受付のお姉さんの一言で、警備の人が来て、私達は追い出されます。
「「「......」」」
コロシアムの入り口で、ハイライトの消えた目をする、少女三人。
そんな私たちを、ピューと冷たい風が吹きつけるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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