【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 朝]】
「終わりです」
カウンターにめり込むレベルで、倒れ込むは
「私はこのまま一生借金奴隷として、生を終えるんです」
「だ、大丈夫よ。ビックマザーもアンタなら雇っていいって言ってたし」
同じようにカウンターに倒れ込む、ツインテ少女。
「何も良くないです」
「ふ、二人で頑張れば借金も返せるはずだから……」
「お腹減ったニャ」
こっちはお腹が減って倒れ込んでいる、娘娘猫です。
少女三人(内一名は猫)は、死んだ表情をして工房のカウンターに倒れています。
「あれ、みんな何をやっているでちか?」
そんな、絶望的な空気が漂っていいる工房に、届くは一筋の声。
赤髪をふりふりとして、工房に入って来るは小柄な少女の声です。
「ま、マウスガールさんっ」
「急に近づかれるとビックリするでち」
ゾンビ如く這い上がった私は、マウスガールさんに詰め寄ります。
「マウスガールさん、お金を持っていたりしませんか?」
「急な質問でちね。一応は持ってない事もないでちけど」
「今すぐ貸してくださいっ! 出来れば金貨1000枚ほどっ」
「金貨1000枚? それは国庫でもないと無理でちよ」
ですよねーとばかりに、再び終わった顔になる私。
そんな様子を見て、マウスガールさんは一言。
「そういうときは、他の偉い人間を頼ってみるべきでちよ」
そんな提案が工房に響くのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/教会内部・執務室 [現地時刻 昼]】
「で、私のところにきたわけねー」
執務室で話を聞いてくれるは、紫髪の美人。
ギルド主任は前回と違って、ニコニコで私を出迎えてくれました。
「本当にすみません、忙しいところに」
「大丈夫、大丈夫。討伐業務は都合のいい臨時職員がやってくれているから」
「そうなんですか」
「そうそう、まあちょっと物品壊したり、村破壊するのが傷なんだけどねー」
指で執務室のテーブルの上で、足を組みながら話すギルド主任。
そもそも今回は断れる相手じゃなかったしー、という彼女の小声も聞こえてきます。
「それで、どうして欲しいの?」
「コロシアムに参加させて欲しいです」
ピクリと彼女の雰囲気が変化します。
「ふーん、お金貸してとかじゃなくていいんだ」
「貸して欲しいですけど……国家の予算に匹敵するって言われたので」
「別に、それぐらいなら貸してあげるって言ったら」
「靴でも舐める所存です」
私の発言に目を丸くする、ギルド主任。
「これは意外だね。もっと信念塗れかと思ってたけど」
「信念があっても、お金はやって来ませんから」
「どっかの龍とは違ってよい考えだ、褒めよう」
ふっふふーんと、鼻歌を歌い始める、ギルド主任。
それは、何か面白いことを思いついたといった顔です。
「ならさ、私の権力を使って────猫ちゃんか、妹ちゃんのどっちかは助けてあげる」
「もちろん両方というのは」
「そんな傲慢な考えはぶっぶーだよ」
「では、娘娘猫さんを助けてください」
「あれぇ? そこ、迷わないんだ……」
私の発言に、ちょっと不機嫌になるギルド主任。
「ほら、私的にはさー。自分と猫ちゃんどっちかーって、もっと苦悩して欲しかったんだけど」
「この質問に迷うところありますか?」
「ほら、でも妹ちゃん、借金が大量にあるんでしょ」
「はい、金貨1000枚ほどの借金があります」
「それやっばーい金額だよ。なのに自分の借金について悩んでないの?」
「その、悩んではいますけど……」
私は最近思うことがあります。
できるだけ真っ当な方法で返すつもりではありますが、無理な場合は。
「————殺してでも、踏み倒せばいいかなって」
私の回答に、虚を突かれたような顔になるギルド主任。
「妹ちゃん、それ、本気でいってる?」
「割と本気で言ってます」
「契約書の効力って本物だよ」
「でも、それは受け取る人間がいての話ですよね?」
我慢ができなくなったかのように、ぷるぷると震える、ギルド主任。
「────くくく、はっはっはっは、いや、もう限界ッ、やばいは、はっはっはッ」
パンパンと机をたたき、彼女は床で笑い転げます。
転んだ後も笑い続け、数秒たってからようやく声がやみます。
「あー、笑いすぎて腹痛い」
よっこいしょ、とばかりに机を支えにして、立ち上がるギルド主任。
その目には先ほどの試すような視線はなく、真剣なモノでした。
「よし決めた。私は、誰にもお金を貸しません」
「あれ、じゃあこの話はなんの為に?」
「ダメだよ、妹ちゃん。話をせかしちゃあー」
「どういう「むにっ」————むーむーっ」
かがんだギルド主任は、私の唇に、細い指をくっつけ、静かにさせます。
私を見る、彼女の笑顔は、すごく可憐で、
「でも、その代わり────コロシアムに出れるように手伝ってあげよう」
嫌な予感しかしませんでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 昼]】
「というわけで、ギルド主任でーす」
どーんと工房のドアを蹴り飛ばし、中に入るはグラマスな美人。
あとに続く紫の長髪とともに、私も中に入ります。
「えっ?」「ニャっ?」
唖然とするのは、ツインテ少女と娘娘猫です。
「ほらー、ぼけっとしないで、動くよー」
「ニャニャッ、ちょっと話がよくわかんないニャ」
「何よッ、急にどうするつもりのなのよッ」
ギルド主任に、二人を工房から引きずりだすように、引っ張ります。
そして、工房の前に二人を投げると、有無言わさず、説明を始めます。
「じゃあ、今から簡単なコロシアムの参加方法をおしえます。よく聞いててねー」
「「???」」
ギルド主任の言葉に、情報のキャパオーバーを起こす二人。
晴天の下、意味不明、話が飲み込めない、といった間抜けな顔をさらしています。
「その、皆さん大丈夫ですか」
「これが大丈夫に見えるかしら?」
ぐるぐる眼をしている、ツインテ少女。
一方、娘娘猫は何かに気づき、びびっているようです。
「紫髪のギルド主任って、あのギルド主任かニャ……」
「どのギルド主任かはわからないけど、品性方向清廉潔白のギルド主任なら私のこかなー」
「紫髪のギルド主任は、腹黒陰湿根暗に外道で、ギルドを裏で牛耳ってるって聞いたニャ」
「それは別のギルド主任かなぁ。私とはこれぽっちも合ってないしー」
凄く貼り付けた笑みを返す、ギルド主任。
風にのって私の耳には、また噂を流した奴、私刑にしないとなー、と聞こえてきます。
「それより、皆さん準備はできたかしらー」
「準備ってそもそも何の準備よッ」
「そうだそうだニャ」
「だからー、最初に言った通り、今からでもできる参加方法を教えるーって話よ」
二度目にして、ようやく情報が頭に入ってくる、ツインテ少女と娘娘猫。
二人の目つきが真剣なモノに変わります。
「それは本気で言ってるのかしら」
「もちろん本気の、本気よ」
「それは大丈夫なのニャ?」
「大丈夫、お姉さんに任せたら、だいたいうまくいくから」
やっぱり、ギルド主任は胡散臭い笑みを浮かべるのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・青空市場 [現地時刻 昼]】
ギルド主任の簡単コロシアム参加方法は以下の通りでした。
「まず、大会本戦参加者を見つけます」
皆で訪れたのは、人で賑わう午後の市場。
中にはごつい防具を着けた冒険者と見られる方もたくさんいます。
「できれば、参加者は大きめの方がいいなかなー」
なぜかギルド主任が持っていた、本戦参加者の顔写真を見ながら、参加者を探します。
目についたのは、市場の中でも目立つ巨体の、参加者。
巨人族にしてはやや小柄な、ゴンスさん、という冒険者です。
「目標を決めたら、彼を誘導します」
私は黒フードを借りて、市場の人混みに紛れ込みます。
そうして客を装い、ゴンスさんの近くに忍び寄ります。
「この時はわかりやすく、彼の物を盗むのがいいですね」
「なんで盗む方がいいのニャ?」
「冒険者は信念の塊だからねー。盗んだ方が警備も呼ばすに追ってくるの」
私は、彼が商品に夢中になっている隙に、彼の懐から古びた本を盗みます。
「でも、そんなに上手くいくのかニャ?」
「コツとしては、相手が追えるような速度で逃げることかなー」
巨人族の彼は、足が遅い部類です。
なので私はこれでもかとゆっくりと走り、彼から盗んだ物を見せつけるように、路地裏に逃げます。
「そして、次に襲います」
路地裏の屋根から飛び降りるは、ギルド主任、娘娘猫、ツインテ少女。
「できれば、人目に付きにくい路地裏の死角でやりましょう」
丁度、屋根と、入り口の建物の配置で外から覗き見ることが、不可能な場所。
巨人族のゴンスさんは、上空から襲いかかる少女達になすすべなく、その場で転びます。
「ここで重要なのは、殺さずに半殺しにすることだねー」
手慣れた手つきで、鎖を取り出し、ゴンスさんの体を縛る、ギルド主任。
次いでとばかりに、ゴンスさんの眼には黒い布が被されており、状況すら把握できないようにされています。
「下手に殺しちゃうと、復活して逃げられる可能性があるから、よっと」
ギルド主任は、どこからか取り出した槍で、ゴンスさんの両足を刺して、傷は当然のように回復魔法で治してます。
「あれれ、皆、こっちを向いてどうしたのかなー?」
少女達三人の視線は、笑顔でえげつない行為をしているギルド主任に向かいます。
「あのー、協力した私たちが言うのもなんなんですけど」
「奇遇ね。私もたぶん同じ事を思っているわ」
「ニャも同じ事を考えたニャ」
「「「手際が犯罪者なんですが……?」」」
「しっつれーだなー、清き正しいギルド職員だよッ!!」
少女達の脳裏によぎるは、清き正しいギルド職員は、そもそも冒険者の狩り方なんて知らないだろ、というツッコミ。
「お前ら、オデに一体なにようだ」
「大丈夫、大丈夫、もう痛みを感じることもないから」
ギルド主任が取り出すは、見るからに毒毒しい槍。
槍の穂先から、地面に滴る液体。こぼれた地面には、白い蒸気が発生します。
「ちょっとチクっとした後、30年ぐらい目が覚め「何やってるんでちかッ!!」────ありゃぁ」
そんな行動をとがめるは、赤髪の少女。
息を切らしているあたり、急いで駆けつけて来たようです。
「どーしたの、せ────マウスガールちゃん」
「どーもこーも、なんで頼んだら、こんな事件を起こしているでちかッ」
「ほらー、久しぶりの頼み事だったし、張り切ってみようかなーって」
「そもそも、その武器の使用は禁じていたハズでちよ」
「これが一番確実だったし、楽かなってー」
「いいから早く彼を解放するでちッ」
そんな言葉に、ニヤニヤしながら聞き返す、ギルド主任。
「えー、解放するのはいいけどー、マウスガールちゃんは、代案あるわけ?」
「そ、それはでち……」
「ほら、ないでしょ。というわけで彼には、やっぱり尊い犠牲にだね———」
再び取り出される、毒々しい槍。
「────ま、まつでごんす」
視界を覆われた状態で、懇願するように言葉を喋る、ゴンスさん。
ですがギルド主任にはそんな懇願も届かないようで、槍をじわじわと近づけていきます。
「残念だけど、懺悔の時間は30年後にお願い」
「な、なら、オデの参加資格なら渡すでごんすから」
「でも−、本人の意識があったら、後々問題も起こりそうだしー」
「な、なら、なんでもするからでごんすッ!」
「へー、なんでもか————なら、この契約書にサインしてちょうだい」
当然のように用意されている、契約書。
しかも一度サインしたら最後。二度と契約を破れなくなる、最上級レベルの契約書です。
「わ、わかったでゴンス」
「いやー、無理矢理だと契約書の効力が薄くなるからねー」
丁寧に彼の指に朱肉を付け、ゆっくりと判を押す手伝いまでしてあげる、ギルド主任。
「いやー、都合よく契約書も朱肉もあって、誰も被害がでなくてヨカッタナー」
胡散臭く汗を拭くまねをして、サムズアップをおこなう、ギルド主任。
「「「「絶対、用意してただろ(でち)(ニャ)!!!!」」」」
そんな少女達、四人の叫びは、路地裏に吹く風にかき消されていくのでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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