紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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63 少女と巨人と鎧の着かた

【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 昼すぎ]】

 

工房の裏側には、大きな庭があります。

 

本来は薪などを備蓄したり、工房に入りきらない素材を置く場所だそうです。

 

ですが、工房が停止している現在では、ただの芝生広場になっています。

 

そんな場所に集まるは、様々な種族────つまり私達のことですね。

 

「「「「気づいたら、勝ちあがってた(ニャ)???」」」」

 

声を揃えて驚くは、金髪片角少女(わたし)、ツインテ少女、娘娘猫、紫髪のギルド主任です。

 

先までいたマウスガールさんは用事がといって、どこかに行ってしまいました。

 

「そうでごんす」

 

頷くは、小柄な巨人族のゴンスさん。

 

彼の体に装備された鎧には、先程までの鎖の凹みが付いていました。

 

「オデが震えて立っていたら、気づいたら二人になってたでごんす」

「どういうことよ、ソレ」

 

胡散臭そうな視線を向ける、ツインテ少女。

 

「そ、その、ものすごく強い獣人がいたでごんす」

「じゃあ、なんでアンタは残ってんのよ」

 

「オデには見向きもしなかったというか、謎でごんす」

「意味が分からないわ」

 

ツインテ少女が首を傾げる中、ギルド主任だけが、冷静に考察します。

 

「多分だけど、そのつよーい獣人君は、ゴンスくんに興味がなかったのかも」

「興味がないニャ? どういうことニャ?」

 

「獣人は戦いを好む民族だけど、戦う意志がない者は見逃す傾向があってね」

「つまり、ゴンスニャは震えてたから見逃されたニャ?」

「ほらー、彼今でもビビるほど、平和的な人物だし」

 

よく見ればゴンスさんの足は、プルプルと震えています。

 

あー確かに、という少女達からの視線。

 

「いやいや、待ちなさいよ」

 

それでも納得いっていないのは、ツインテ少女。

 

「────なんで戦う意志がないのに、アンタはコロシアムに参加してんのよッ」

 

「「「(……確かに)」」」

 

「それは……どうしても言わないといけないでごんすか?」

「当然よ。契約があっても、アンタを信用したわけじゃないんだからッ」

 

少女、美女から集まる視線。

 

そんな中、ゴンスさんは恥ずかしそうに指をモジモジさせたあと、本音を語ってくれました。

 

「そ、その、黄金の騎士に憧れてでごんす……」

「誰よ、それ」

 

「巨人族で伝説的に有名な人でごんす」

「ふーん、それで」

 

死ぬほど興味がなさそうな、ツインテ少女の発言。

 

さっさと信頼に足りる発言をよこせ、といった感じです。

 

「自分は巨人族の中でもちっちゃくて、その争いも向いてなくて」

 

ゴンスさんは、懐からボロボロになった絵本を取り出します。それは、私が盗んで、お返した本でもあります。

 

「でも、そんな自分を小さいころ支えてくれたのが、このお話で」

 

パラパラと絵本を捲ると、がさつに布と糸で何回も補修された、絵本のページ。

 

騎士の絵は、酷い彩色ですが、何回も書き直した跡があります。

 

「この鎧も、黄金の騎士に憧れて作ったでごんす」

「ふーん、このボロボロの鎧がねえ。全く似てないけど」

 

「ほら、この場所の装飾とかが、それっぽいでごんす」

「これが装飾? 金属を張り付けただけでしょ」

 

ゴンスさんは、着ている鎧一式を外し、説明してくれますが、ツインテ少女の言葉は厳しいです。

 

確かに、コロシアムで見た騎士の鎧と比べて、全体的に不器用な作りといった感じです。

 

「その、が、頑張って作ったけど、その思ったより難しかったで、ごんす……」

 

落ち込むゴンスさん。

 

「────そんなことはないニャッ!」

 

それを否定するように、興奮気味で話す娘娘猫。

 

「この鎧の流線形とかは、黄金の騎士のアールをよく再現してるニャ」

 

「よ、よくわかったでごんすなッ!」

「当然ニャ。これでもニャも鎧の再現をしようとした一人だからニャ」

 

「でも、これ以上曲げたりすると、勝手に壊れるでごんす」

「それはちょっと力が強すぎるニャ。こんな感じにだニャ」

 

「でも、そうやるとここの接続が……」

「それは、こうやればいいのニャ……」

 

庭に鎧の図解を描き始めて、楽しそうに話し始める、猫と巨人。

 

「あのー、盛り上がっているところ悪いけど、話すすめていいかなー」

 

そんなギルド主任の言葉が聞こえても、二人は鎧の話に熱中しているのでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 昼すぎ]】

 

仕方ないので、私と、ギルド主任で話を進めることに。

 

ツインテ少女はそろそろサボりすぎてヤバいから、といって料理千番に走っていきました。

 

「さて、妹ちゃんは彼の鎧着れるかしら」

「私ですか?」

 

ギルド主任は、ゴンスさんが脱いだ鎧一式を見て、そう呟きます。

 

彼は小柄な巨人族とはいえ、巨人族。とうてい私が着ることは不可能そうです。

 

「そうそう、少女三人の中で一番強いのは、妹ちゃんだからね」

「でも、私には大きすぎる鎧だと思いますよ」

「別にそのまま着ろって、意味じゃないわよ」

 

そういうと、ギルド主任はなにもないところから、不思議な杖を取り出します。

 

先端にきょろきょろ動く目玉が付いた、不思議としか言えない杖です。

 

「コレで体を変身させて「だからーッ、待つでちッ」────ありゃ」

 

ドタドタと、庭に入って来るのは、マウスガールさん。

 

寝間着の状態で、自慢の赤髪も乱れて、慌てて止めに入ります。

 

「思った以上に早かったね、マウスガールちゃん」

「そりゃあ、教会(ギルド)宝物庫のアラームが鳴れば、誰でも飛び起きるでち」

 

マウスガールが注目するは、ギルド主任が持っている、杖。

 

「で────な”ん”で”、変化の杖なんて取り出しているんでちかッ」

 

「ほら、コレで変化した方が楽だし」

「楽じゃないでちッ。その杖は気軽に使っちゃだめって教えたつもりでちよッ」

 

「でもー、薬で変化するより便利だしー」

「だからッ、その杖はエルフならまだしも、人族に使うと魂が歪むでちッ」

 

「大丈夫でしょ、妹ちゃんなら龍っぽいし」

「どう見ても混ざりものしているから駄目でちッ」

 

ぜーはーぜーはーと、息を切らす、マウスガール。

 

「マウスガールちゃん。すぐ否定するけどさー、ちゃんと代案考えてるわけー」

「うぐっ、それはもうギルドの権力で彼女をねじ込むとかでち……」

 

「公平を期すギルドがそんなことしたらダメなのは知ってるでしょー」

「でも、勇者の遺物を安易に使うのは、反対でち」

 

「むむっ、そーゆーところはー、頑固なんだからー」

 

ぶーぶーと、口を尖らすギルド主任。

 

慌てながらも、一線は譲る気がないマウスガール。

 

彼女たちの口論は、妙案が出るまで終わりそうにありません。

 

「(はぁ、この手は私の正体がバレそうになるので、使いたくはないんですが……)」

 

ですが、様々な人を巻き込んだ都合上、ここでコロシアム出場を頓挫させるわけにはいきません。

 

というわけで、口論する二人に、提案することにします。

 

「あのー、すいません」

「どうしたのでちか?」

 

「つまり、杖を使わずに、私が鎧を着れればいいんですよね」

「そうだけど、薬も魔法も妹ちゃんにはオススメできないかなー」

 

「大丈夫です。薬も魔法も使わずに、鎧を着る方法なら知ってますから」

 

自信満々に宣言する私。

 

そのようすに首を傾げる二人。

 

その為にも、まずはマウスガールに借金をするところから、スタートです。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/中腹・魔導具専門店 [現地時刻 夕方]】

 

再び訪れるは、多種多様な魔導具を売っているお店。

 

そこの店主は金髪片角少女の発言に、眼を丸くします。

 

「えっと、お嬢さん、ホントに全部買っていくのかい?」

「はい、ここにある魔法用の的を全部ください」

 

私が指さすは、店の一画で不良在庫の如く並んでいる、魔法用の的────もとい戦鋼。

 

売っている値段が的にしては高価なためか、だいたいが埃をかぶっています。

 

「その、結構な金額になるとは思うけど、お金は大丈夫かい」

「大丈夫です。少しの借金で済みました」

 

「いやいや、若いのに借金をするのはオススメできないね」

「大丈夫です。借金全体の金額で見れば誤差みたいなレベルです」

 

私の発言に首を傾げながらも、会計をしてくれる、店主。

 

「────妹ちゃん、ついでに簡易拡張道具箱(アイテムボックス)も買っといてくれない?」

 

大量の丸いポーチを、手に抱えているギルド主任。

 

付いている値札には金貨1枚とか書いてありますが、誤差の範囲ですね。

 

「────見て見て、妹ちゃん、好きな液体を増やせる水筒だって」

 

再び、よく分らないモノを持ってくる、ギルド主任。

 

値札には金貨10枚と書いてありますが、まあ大した金額ではないですね。

 

「────ついでに、その強そうな大砲も買っちゃえ」

 

今度はカウンター横の、無駄に豪華な大砲を指す、ギルド主任。

 

値札には金貨100枚と書いてありますが、どーせマウスガールから借りた金なので遠慮なく使います。

 

「あの、ありがたいんだけど、こんなに買って大丈夫なのかい……?」

 

怯えながらも心配してくれる店主。

 

「大丈夫、大丈夫。あっ、支払先は教会(ギルド)の……にしといてー」

 

ウキウキで買い物を終わらす、ギルド主任。

 

大量の買い物とともに、魔導具専門店の外に出ます。

 

「今更なんですけど、こんなに買う必要はあったのでしょうか」

「ほらー、買える時に買っとかないと、必要な時困っちゃうからねー」

 

そう言いながら、ギルド主任は私を引き寄せて、虚空に向かってピースサイン。

 

「あのー、これって何の意味が?」

「ほらー、いいからいいから」

 

私は意味はよく分かってませんが、虚空にピースサインをしておきます。

 

数秒後。満足したギルド主任は、つぎつぎと荷物を拡張道具箱(アイテムボックス)にしまっていきます。

 

「さて、ストレス発散もしたし、戻って準備にとりかかりますかー」

 

そんな談笑交じりの工房への帰り道。

 

結局、虚空に向かってのピースサインの意味は分かりませんでした。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/頂上・??? [現地時刻 夜]】

 

そこは教会(ギルド)の一室。白を基調とした荘厳な談話室です。

 

そんな場所には赤髪の少女が、二人。

 

「マ、マウスガールちゃん、大変でち」

「一体なんでちか、イヤーガール姉ちゃん」

 

「それがさっき、私達当てにこんな、請求書が」

「ああ、それは、とある少女に貸したお金のやつでちね」

 

「えっ、こんな金額をかしたんでちか?」

 

そんな赤髪の少女の発言で、固まるマウスガール。

 

「ちょっとその請求書見てもいいでちか……」

 

請求書に書かれた額は、金貨130枚。

 

金額としては、一般的な冒険者の年収ぐらいの金額です。

 

「こんなに使われる未来はなかった────」

 

その時。マウスガールに嫌な予感が奔ります。

 

急いで確認しにいくは、街に付けられた監視装置の記録。

 

「もしかして、いや、もしかしなくてもでち」

 

記録に映るは、少女をたぶらかして、大量に無駄な買い物をする、ギルド主任の姿。

 

そして最後には、カメラ目線でピースサインを向けています。

 

「────あがががが、まーた主任でちかッ!!」

 

先週を含んですでに五度目の胃痛行為。

 

能力は優秀な癖に、そんなんだから主任に降格させられるんでち、とマウスガールは思わずにいられません。

 

「だ、大丈夫でちか、マウスガールちゃん」

「だ、大丈夫なはずでち」

 

「でも、これぐらいで倒れてたら駄目でちよ」

「それはどういうことでちか、イヤーガール姉ちゃん?」

 

「この後も胃が痛くなるような出来事が連続で起きるでち」

「やっぱり、大丈夫じゃない……ぐはっ」

 

その場でぐったり、胃を抑えながら倒れる、マウスガール。

 

後日、必死にお金を捻出するために、体を抑えながらも走りまわるマウスガールの姿があるのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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