【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 昼すぎ]】
工房の裏側には、大きな庭があります。
本来は薪などを備蓄したり、工房に入りきらない素材を置く場所だそうです。
ですが、工房が停止している現在では、ただの芝生広場になっています。
そんな場所に集まるは、様々な種族────つまり私達のことですね。
「「「「気づいたら、勝ちあがってた(ニャ)???」」」」
声を揃えて驚くは、
先までいたマウスガールさんは用事がといって、どこかに行ってしまいました。
「そうでごんす」
頷くは、小柄な巨人族のゴンスさん。
彼の体に装備された鎧には、先程までの鎖の凹みが付いていました。
「オデが震えて立っていたら、気づいたら二人になってたでごんす」
「どういうことよ、ソレ」
胡散臭そうな視線を向ける、ツインテ少女。
「そ、その、ものすごく強い獣人がいたでごんす」
「じゃあ、なんでアンタは残ってんのよ」
「オデには見向きもしなかったというか、謎でごんす」
「意味が分からないわ」
ツインテ少女が首を傾げる中、ギルド主任だけが、冷静に考察します。
「多分だけど、そのつよーい獣人君は、ゴンスくんに興味がなかったのかも」
「興味がないニャ? どういうことニャ?」
「獣人は戦いを好む民族だけど、戦う意志がない者は見逃す傾向があってね」
「つまり、ゴンスニャは震えてたから見逃されたニャ?」
「ほらー、彼今でもビビるほど、平和的な人物だし」
よく見ればゴンスさんの足は、プルプルと震えています。
あー確かに、という少女達からの視線。
「いやいや、待ちなさいよ」
それでも納得いっていないのは、ツインテ少女。
「────なんで戦う意志がないのに、アンタはコロシアムに参加してんのよッ」
「「「(……確かに)」」」
「それは……どうしても言わないといけないでごんすか?」
「当然よ。契約があっても、アンタを信用したわけじゃないんだからッ」
少女、美女から集まる視線。
そんな中、ゴンスさんは恥ずかしそうに指をモジモジさせたあと、本音を語ってくれました。
「そ、その、黄金の騎士に憧れてでごんす……」
「誰よ、それ」
「巨人族で伝説的に有名な人でごんす」
「ふーん、それで」
死ぬほど興味がなさそうな、ツインテ少女の発言。
さっさと信頼に足りる発言をよこせ、といった感じです。
「自分は巨人族の中でもちっちゃくて、その争いも向いてなくて」
ゴンスさんは、懐からボロボロになった絵本を取り出します。それは、私が盗んで、お返した本でもあります。
「でも、そんな自分を小さいころ支えてくれたのが、このお話で」
パラパラと絵本を捲ると、がさつに布と糸で何回も補修された、絵本のページ。
騎士の絵は、酷い彩色ですが、何回も書き直した跡があります。
「この鎧も、黄金の騎士に憧れて作ったでごんす」
「ふーん、このボロボロの鎧がねえ。全く似てないけど」
「ほら、この場所の装飾とかが、それっぽいでごんす」
「これが装飾? 金属を張り付けただけでしょ」
ゴンスさんは、着ている鎧一式を外し、説明してくれますが、ツインテ少女の言葉は厳しいです。
確かに、コロシアムで見た騎士の鎧と比べて、全体的に不器用な作りといった感じです。
「その、が、頑張って作ったけど、その思ったより難しかったで、ごんす……」
落ち込むゴンスさん。
「────そんなことはないニャッ!」
それを否定するように、興奮気味で話す娘娘猫。
「この鎧の流線形とかは、黄金の騎士のアールをよく再現してるニャ」
「よ、よくわかったでごんすなッ!」
「当然ニャ。これでもニャも鎧の再現をしようとした一人だからニャ」
「でも、これ以上曲げたりすると、勝手に壊れるでごんす」
「それはちょっと力が強すぎるニャ。こんな感じにだニャ」
「でも、そうやるとここの接続が……」
「それは、こうやればいいのニャ……」
庭に鎧の図解を描き始めて、楽しそうに話し始める、猫と巨人。
「あのー、盛り上がっているところ悪いけど、話すすめていいかなー」
そんなギルド主任の言葉が聞こえても、二人は鎧の話に熱中しているのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 昼すぎ]】
仕方ないので、私と、ギルド主任で話を進めることに。
ツインテ少女はそろそろサボりすぎてヤバいから、といって料理千番に走っていきました。
「さて、妹ちゃんは彼の鎧着れるかしら」
「私ですか?」
ギルド主任は、ゴンスさんが脱いだ鎧一式を見て、そう呟きます。
彼は小柄な巨人族とはいえ、巨人族。とうてい私が着ることは不可能そうです。
「そうそう、少女三人の中で一番強いのは、妹ちゃんだからね」
「でも、私には大きすぎる鎧だと思いますよ」
「別にそのまま着ろって、意味じゃないわよ」
そういうと、ギルド主任はなにもないところから、不思議な杖を取り出します。
先端にきょろきょろ動く目玉が付いた、不思議としか言えない杖です。
「コレで体を変身させて「だからーッ、待つでちッ」────ありゃ」
ドタドタと、庭に入って来るのは、マウスガールさん。
寝間着の状態で、自慢の赤髪も乱れて、慌てて止めに入ります。
「思った以上に早かったね、マウスガールちゃん」
「そりゃあ、
マウスガールが注目するは、ギルド主任が持っている、杖。
「で────な”ん”で”、変化の杖なんて取り出しているんでちかッ」
「ほら、コレで変化した方が楽だし」
「楽じゃないでちッ。その杖は気軽に使っちゃだめって教えたつもりでちよッ」
「でもー、薬で変化するより便利だしー」
「だからッ、その杖はエルフならまだしも、人族に使うと魂が歪むでちッ」
「大丈夫でしょ、妹ちゃんなら龍っぽいし」
「どう見ても混ざりものしているから駄目でちッ」
ぜーはーぜーはーと、息を切らす、マウスガール。
「マウスガールちゃん。すぐ否定するけどさー、ちゃんと代案考えてるわけー」
「うぐっ、それはもうギルドの権力で彼女をねじ込むとかでち……」
「公平を期すギルドがそんなことしたらダメなのは知ってるでしょー」
「でも、勇者の遺物を安易に使うのは、反対でち」
「むむっ、そーゆーところはー、頑固なんだからー」
ぶーぶーと、口を尖らすギルド主任。
慌てながらも、一線は譲る気がないマウスガール。
彼女たちの口論は、妙案が出るまで終わりそうにありません。
「(はぁ、この手は私の正体がバレそうになるので、使いたくはないんですが……)」
ですが、様々な人を巻き込んだ都合上、ここでコロシアム出場を頓挫させるわけにはいきません。
というわけで、口論する二人に、提案することにします。
「あのー、すいません」
「どうしたのでちか?」
「つまり、杖を使わずに、私が鎧を着れればいいんですよね」
「そうだけど、薬も魔法も妹ちゃんにはオススメできないかなー」
「大丈夫です。薬も魔法も使わずに、鎧を着る方法なら知ってますから」
自信満々に宣言する私。
そのようすに首を傾げる二人。
その為にも、まずはマウスガールに借金をするところから、スタートです。
◇◆◇
【ギルド総本山/中腹・魔導具専門店 [現地時刻 夕方]】
再び訪れるは、多種多様な魔導具を売っているお店。
そこの店主は金髪片角少女の発言に、眼を丸くします。
「えっと、お嬢さん、ホントに全部買っていくのかい?」
「はい、ここにある魔法用の的を全部ください」
私が指さすは、店の一画で不良在庫の如く並んでいる、魔法用の的────もとい戦鋼。
売っている値段が的にしては高価なためか、だいたいが埃をかぶっています。
「その、結構な金額になるとは思うけど、お金は大丈夫かい」
「大丈夫です。少しの借金で済みました」
「いやいや、若いのに借金をするのはオススメできないね」
「大丈夫です。借金全体の金額で見れば誤差みたいなレベルです」
私の発言に首を傾げながらも、会計をしてくれる、店主。
「────妹ちゃん、ついでに簡易
大量の丸いポーチを、手に抱えているギルド主任。
付いている値札には金貨1枚とか書いてありますが、誤差の範囲ですね。
「────見て見て、妹ちゃん、好きな液体を増やせる水筒だって」
再び、よく分らないモノを持ってくる、ギルド主任。
値札には金貨10枚と書いてありますが、まあ大した金額ではないですね。
「────ついでに、その強そうな大砲も買っちゃえ」
今度はカウンター横の、無駄に豪華な大砲を指す、ギルド主任。
値札には金貨100枚と書いてありますが、どーせマウスガールから借りた金なので遠慮なく使います。
「あの、ありがたいんだけど、こんなに買って大丈夫なのかい……?」
怯えながらも心配してくれる店主。
「大丈夫、大丈夫。あっ、支払先は
ウキウキで買い物を終わらす、ギルド主任。
大量の買い物とともに、魔導具専門店の外に出ます。
「今更なんですけど、こんなに買う必要はあったのでしょうか」
「ほらー、買える時に買っとかないと、必要な時困っちゃうからねー」
そう言いながら、ギルド主任は私を引き寄せて、虚空に向かってピースサイン。
「あのー、これって何の意味が?」
「ほらー、いいからいいから」
私は意味はよく分かってませんが、虚空にピースサインをしておきます。
数秒後。満足したギルド主任は、つぎつぎと荷物を
「さて、ストレス発散もしたし、戻って準備にとりかかりますかー」
そんな談笑交じりの工房への帰り道。
結局、虚空に向かってのピースサインの意味は分かりませんでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/頂上・??? [現地時刻 夜]】
そこは
そんな場所には赤髪の少女が、二人。
「マ、マウスガールちゃん、大変でち」
「一体なんでちか、イヤーガール姉ちゃん」
「それがさっき、私達当てにこんな、請求書が」
「ああ、それは、とある少女に貸したお金のやつでちね」
「えっ、こんな金額をかしたんでちか?」
そんな赤髪の少女の発言で、固まるマウスガール。
「ちょっとその請求書見てもいいでちか……」
請求書に書かれた額は、金貨130枚。
金額としては、一般的な冒険者の年収ぐらいの金額です。
「こんなに使われる未来はなかった────」
その時。マウスガールに嫌な予感が奔ります。
急いで確認しにいくは、街に付けられた監視装置の記録。
「もしかして、いや、もしかしなくてもでち」
記録に映るは、少女をたぶらかして、大量に無駄な買い物をする、ギルド主任の姿。
そして最後には、カメラ目線でピースサインを向けています。
「────あがががが、まーた主任でちかッ!!」
先週を含んですでに五度目の胃痛行為。
能力は優秀な癖に、そんなんだから主任に降格させられるんでち、とマウスガールは思わずにいられません。
「だ、大丈夫でちか、マウスガールちゃん」
「だ、大丈夫なはずでち」
「でも、これぐらいで倒れてたら駄目でちよ」
「それはどういうことでちか、イヤーガール姉ちゃん?」
「この後も胃が痛くなるような出来事が連続で起きるでち」
「やっぱり、大丈夫じゃない……ぐはっ」
その場でぐったり、胃を抑えながら倒れる、マウスガール。
後日、必死にお金を捻出するために、体を抑えながらも走りまわるマウスガールの姿があるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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