【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 昼]】
ゴンスさんの取り出した本戦参加証をのぞき込む、
ツインテ少女も同じように覗き込みます。
二人の視線の先には、参加証に付随した、魔法で書かれた予選表一覧。
「コレ、なんて読むのよ」
「東方の狩り人、黒狼ですかね」
「誰よそれ」
「確か、最近有名になった、狼耳の冒険者だったような……?」
私が思い出すは、ギルドの集会所で絡んできた、狼耳の少女。
新参者ながらもその実力は確かであり、何よりも耳無しを狩っているという点。
(もしかすると、対戦鋼の戦いにも慣れている可能性があります)
「これは、やっかいな相手かもしれませんね」
「そもそも乗るのがポンコツでしょ。なら全部強敵じゃないの?」
「いやいや、【PN-K2】は竜だって倒したんですよ、舐めないでください」
「ポンコツでそんな危険な魔物を? 誇張表現にしても限度があるわよ」
ツインテ少女の冷たい視線。
私はホントですーと、ぶーぶーと膨れた表情になります。
「それよりもニャ、皆ニャお昼にしないかニャ?」
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 昼]】
ゴンスさんは入れないので庭で待機。ツインテ少女は本戦参加証を眺めています。
つまり、私と娘娘猫だけで昼飯の準備をしていると、工房のドアが乱暴に開けられます。
「————おいおい、まだやってんのか、この工房ァ」
「────あいかわらず、しみったれた場所だなィ」
ガンガンと床を鳴らしながら、入って来るは、二人組の男。
ワイルドに立てられた犬耳は、彼らの気性の粗さを示すようです。
「勝手に入ってきて、誰よ、あんた達」
そんなツインテ少女の言葉に、にニヤッとする二人組の男。
「誰かと聞かれれば答えるしかねェなァ」
「この工業地区で俺達の名を知らねえとは甘ちゃんだなィ」
二人組はポーズを決め、左右対称の美しいTを描きます。
「俺たちは泣く子も黙る、工業地区のトップ工房の一員ァ」
「ドワーフの最弟子と言えばぁ、俺達ィ」
「「————ツインケルベロス様だァィ!!」」
柴犬、豆柴、と顔に彫られた二人組は叫びます。
別に叫ばなくても聞こえる距離ですが、彼らは楽しそうに叫びます。
「で、その柴柴犬コンビが何の用よ」
「ツインケルベロスッ、言ってんだろこのツインテァ」
「俺達のあだ名より定着したら、どう責任取ってくれるんだィ」
「だから、さっさと要件話して帰りなさい。私はお腹が減ってるの」
「ここに、まだ言うことを聞かない子猫がいると聞いてなァ」
「昼飯がてら、脅しに来たってわけだィ」
二人の視線は、娘娘猫に向きます。
「工房を売った金で、実家に帰れといったハズだぜァ」
「おいおい、実家の兄弟たちが泣いてるぜィ」
「う、うるさいニャ、」
更に口調がヒートアップする
「確かに、おめーは頭がいい。手も器用だ。だがなそれは工房には要らないスキルっつてんだろァ」
「工房に必要なのは、一に腕力、二に体、三、四がなくて、最後に頭脳だィ」
「おめーが作る武具は売り物にならねェ廃棄品ばかりァ」
「挙句の果てに、全てから逃げて射撃用の的弄りィ」
「こんなガラクタを弄るぐらいなら、鉱石にでも触れてやがれァ」
「炉に火も灯さずに工房を守るだと、ほざくのもいい加減にしやがれィ」
「「────てめー、みたいな中途半端に何が出来るッ!!」」
「────じゃあ、アンタたちはニャン子よりも良いものが作れる訳?」
急に割り込んでくる、ツインテ少女の発言。
その顔には、いい鴨が来たストレス発散に付き合ってもらおう、と書かれていました。
「おいおい、ツインテ嬢ちゃんァ / 俺達はこの子猫と話してるんだぜィ」
「もしかして、質問に答えれないほどの三下なのかしら?」
「答えは勿論“できる” / ハンマーすら持てない子猫と一緒にするんじゃねィ」
「ふーん、なら証明できるのかしら」
「俺達の工房の売上金は金貨100枚 / だが子猫は借金マイナス100枚、それが答えって奴だィ」
「武具の性能に売り上げは関係ないわよ」
ツインテさんは、神も恐れぬ勢いで、宣言します。
「いい、私達は天上天下大会で優勝するの」
その表情から読み取れるのは、大胆不敵そのもの。
「それもニャン子が作った装備でね────その意味は犬でも分かるわよね」
天上天下大会は、異世界でも最上級の大会。
そこで優勝した人物の武具。すなわちそれは、世界で最も優れていると認めざる負えない評価となります。
「なっ、出来るわけがないァ / 天上天下大会がどれだけハイレベルな戦いか知らねえんだろィ」
「だから、アンタたちには、本戦参加者から声がかからないのよ」
ツインテさんが手から見せるは、ゴンスさんの本戦参加証。
まるで自分のモノの様に、丁寧に名前の部分を指で隠しています。
「ほ、本戦参加者だと / あの激戦をくぐり抜けた猛者がなんでここに……」
「まっ、私の見る眼って奴かしら」
「こんな工房より俺達が下だと / ふざけるのも大概にしろ」
「立場が分かったんならさっさと三下は帰って頂戴。試合に影響が出るじゃない」
「クソッ、バカにしやがって / でも兄貴、本戦参加者と揉めたら親方に……」
「聞こえてるかしら? 帰れっていってんのよ。頭に付いている立派な耳は飾りじゃないでしょ」
これでもかと煽り散らかす、ツインテ少女。
ツインテさんの顔は至極生き生きとしてますし、柴柴犬コンビの顔は真っ赤になっています。
ですが、本戦にでるのは私ですし、予選を勝ち抜いたのはゴンスさんの実力ですし、別にツインテ少女は何もしていない、と言いたい気持ちもあります。
「おい、ツインテッ、お前の名前はなんて言うんだァッ!」
工房の出口での去り際、柴柴犬コンビは、ツインテさんに睨み返します。
「マウスガール。そう呼ばれているわ」
呼ばれていません。それは別の人のあだ名です。
「覚えたぞマウスガールァ / 俺達を馬鹿にした罪は重いぞィ」
「かかって来なさい、私達一同がボッコボコにしてあげるわ」
そういって去っていく男達。
清々しい笑顔を浮かべて、彼らに手を振るツインテ少女。
「────ふうっ、大した連中じゃなかったわね」
そんな得意げな彼女を、私と娘娘猫は、白い眼で見るのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 昼すぎ]】
男達が去った後、私達は昼飯の準備を続けます。
飯の内容は、ツインテさんが料理千番から盗んで────貰って来た食材です。
「でも、あんな大口叩いてよかったのかニャ」
「良いに決まってるでしょ。どのみち優勝以外に未来はないんだから」
「でも、ニャが作ったもので優勝すると言っても、道具すらないニャ……」
がら〜ん。工房内に響くはそんな音。
工房内にあった道具、そして炉までもが、借金取りに取られていったそうです。
「大丈夫ですよ。必要なパーツは、街から盗めばいいですから」
「キイロニャって結構物騒な発言をするのニャ」
「そうですか? 自分は盗んだパーツで戦鋼をよく直してましたけど……」
「もう、これ以上は聞かないようにするニャ」
「ですが、部品はともかく、工具がないのは問題ですね」
戦鋼の工具は、地球であれば問題もないモノばかりです。
ですがここは異世界。電気というものがなく、普段使ってる工具の姿さえもありません。
「魔導具専門店とかを漁って、頑張ってみますか」
「ニャも廃材置き場から使えそうな道具を見繕ってくるニャ」
「そんな場所が、ぜひ案内をお願いしたいですね」
「いいけど、危険なニャ場所だし、自分の身は自分で守るニャ」
「────いやいや、馬鹿じゃないの、アンタ達」
そんな感じで、娘娘猫さんとやる気に満ち溢れていると、ツインテさんの呆れた言葉。
「どうかしましたか、ツインテさん?」
「なんで、わざわざ盗んだり、集めたりする必要があるのよ」
「でも、そうでもしないとこの工房には何もないニャ」
はーとため息とつき、ツインテさんは左右を確認します。
「ニャン子、ここの右も、左も同じような工房よね」
「そうだけどニャ、それがどうしたかニャ?」
首をひねる、娘娘猫。
ツインテさんの視線は、私に向きます。
「ほら、キイロ行ってきなさいよ」
「行って来るって、どこにですか?」
「左右の工房によ」
「ですが盗むには夜の方が向いてませんか?」
「だから盗むんじゃなくて、
「「????」」
無言になる私と娘娘猫。
「────別に、今更誤差みたいな借金でしょ」
数時間後、私の借金には金貨300枚が追加されるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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