【ギルド総本山/教会内部・ステータス管理部屋 [現地時刻 朝]】
「これって、どうにか再選択はできないんでしょうか」
そんな言葉が零れてしまうほど、絶望した表情を浮かべる、
「気持ちはわかります。私も同じミスをしたことがあるので」
うんうんと頷く、犬耳の受付嬢。
ちなみに彼女は選んだ特技のせいで、冒険者をやめて受付嬢をする羽目になったそうです。
「どうにもできないから、皆苦しむというか、なんというかごめん、だね」
もはや恒例行事すぎて、軽く流していく、ブルドック耳の技術部長。
「いやー、自爆魔法かぁ。昔は候補に挙がるくらい強い魔法だったんだけどね」
「懐かしいですね。マジポ自爆、テレポ自爆、昔はいろいろな組み合わせがあったと記憶してます」
マジポ自爆……マジックポーションで魔力の底上げを行い、自爆魔法を強化する組み合わせ。
テレポ自爆……自爆が発動するまでのラグを、テレポート魔法で打ち消して、爆殺する組み合わせ。
と、技術部長はあの日の魔法調整地獄を思い出しながら、語ります。
「それって、今でも使えたりはしないんですか?」
「爆発範囲も、威力も、起動時間も調整しちゃったからなぁ」
「しかも最終的にはギルドの方から自爆魔法による蘇生は3倍料金というお達しがくだりましたからね」
そんな二人の会話に、さらに絶望する私。
そんな私の落ち込みを見てか、技術部長や受付嬢はあれこれ考えてくれます。
「でもねえ、ここまで来ると、魔法合体の餌にするぐらいしか思いつかないかなぁ」
「あのクソガチャに突っ込むのもどうかと思いますが……」
「魔法合体? ガチャ? それはいったい何の話ですか?」
二人の発言から出てきた聞き逃せない単語。
それに一筋の希望をかけて、私は質問します。
「実は、魔法を合体させることで、より強い魔法を生み出せるとかいうシステムがあってね」
「あのエルフが悪ふざけで作ったシステムですか……」
「まあまあ、そう言わず」
二人の反応は、どこか歯切れが悪そうです。
ですが、今の私には関係ありません。
「その場所に案内してもらってもいいですかっ」
強くなれるのなら、どんなものでも利用しない手はありません。
◇◆◇
【ギルド総本山/教会内部・魔法管理部屋 [現地時刻 昼]】
そこは幾何学的な魔方陣がえがかれた部屋。
その中央部には、当然のように水晶玉が置かれています。
「これが、魔法をいじる装置なんだけど」
「ずいぶん、使われていない部屋ですね」
内部は埃っぽく、歩くだけで足跡が付いてしまう程です。
「まあ、一時熱狂する連中が現れてね」
「それいらい職員の許可がないと使えなくなったシロモノです」
「ガチャガチャぐらいで、熱狂するものなのでしょうか?」
私はそんな疑問を感じながら、水晶玉に触ります。
すると当然のように現れる空中ウィンドウ。
画面内には混ぜることが出来る魔法と、“魔法合体”のボタン。
「これって混ぜる魔法はいくつでもいいんですか?」
「基本は2つだったような気がするけど」
「3つ以上を混ぜたりすることで、より強くなったりは」
「正直、そこまで試した連中がいなくてね」
実はこのシステム。混ぜた魔法は二度と使えなくなるため、皆最低限2つで合体させるそうです。
確かに、必死に覚えた魔法を、闇鍋にいれる理由はないですよね。
「これって混ぜた魔法の特徴を引き継いだりは」
「ある程度は引き継ぐんじゃなかったけ……」
「完全にランダムだったような気もします」
そんな二人のあやふやな回答。
なるほどと頷きながら、私は合体させる魔法を選びます。
「あれ、こんなに魔法を知ってましたっけ?」
私が疑問に感じてしまう程、画面に表示される魔法は多く。ですが大半の魔法は選択不可になっています。
「とりあえず、自爆魔法と……[限定解除]超級-火魔法とか面白そうですね」
そうして2つを入れても、未だについている選択できる画面。
「────あれ? まだ選べるんですか」
ならとばかりに、適当に魔法を突っ込む私。
大半が身に覚えのない魔法なので、入れても問題はないはずです。
「これでよし」
「できたかい?」
「はい、完璧です」
「なら“魔法合体”のボタンを押してくれ」
言われたとおりにボタンを押すと、極彩色の光りが宿る水晶玉。
その光は、水晶玉から溢れ、幾何学的な魔法陣に伝わり、徐々に、徐々に、大きく眩しくなっていきます。
「ぎ、技術部長、合体ってこんなに激しかったですっけ⁉」
「いや、もっとあっけなく終わるモノなんだけど……」
そうして部屋が光につつまれ、限界に達した時────爆発。
窓ガラスは飛散し、黒い煙が吐き出されるのでした。
そんな真っ黒こげになった、部屋で、真っ黒になった三人。
「ぷは……冒険者さん、謝らなくていいので教えてください」
「ぷは……さっきの合体で魔法を何種類混ぜた」
「ぷは……あの、その、10種類以上です」
私のステータスに表示されるは???と、表記バグを起こした魔法でした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房 [現地時刻 夕方]】
「で、無様な姿で帰ってきたわけ」
「はい、そのとおりです」
「で、そのバグった魔法とやらは使い物になるわけ?」
「それがですね……」
「これが全くならなくてさー」
そう楽しそうに教えてくれる、ギルド主任。
現在私を抱えて、工房に運んでくれた人物でもあります。
「まさか使った瞬間に全魔力を消費するとは思いませんでした」
「でも、あそこまでの代償を払って何も起こらないのは凄いよねー」
現在私が運ばれた理由は、魔力不足による一時的な失神によるもの。
「本当に使った後、何も起きてなかったんですか?」
「むしろ異常と思えるほど、何も起こってなかったね」
「どういう魔法なんですか、これは」
ギルド主任曰く、魔量不足自体は慣れたら何とかなるそうですが……
そんなデバフ状態になる魔法は二度と使わないと思います。
「じゃあ、アンタの強化作戦は失敗ってことでいいのかしら」
「あの、はい、そういう感じです」
「全く、私は働いてたというのに……」
「むしろ、借金があるのに何で働いてないんですか……」
「うぐぐ、それは私にも考えがあってのことよッ」
そう言いながら珍しく大人しく働いている、ツインテ少女。
彼女の性格なら
なにか教会に近づきたく理由でもあるのでしょうか?
「しかも、よりにもよってコイツを連れてくるし……」
「あらー、私が来るとなにか問題があるのかなー?」
「まった碌でもない事に加担させられるんじゃないかって、思ってるだけよ」
ツインテ少女は、そうギルド主任に嫌な視線を向けます。
どうやら彼女にもいい感情を抱いていないようです。
「心外だなー、私は清く誠実なギルド主任です—」
「ホントどの口が言ってるのやら」
「この美人の顔についた、美人な口が言っているの」
「……キッショ」
バスン。ツインテ少女の頭が、丸めた本のようなもので、問答無用で叩かれます。
バスンバスン。ギルド主任は遠慮なく二発、三発とツインテ少女の頭を叩きます。
「で、言いたい事はそれだけでいいかなー?」
「あ”い”調子のってすみませんでした」
「分かればよろしい」
そう言ってギルド主任は、丸めていた本を、綺麗にします。
そうしてあらわになるは、茶色いシミが多く入った本。
「それ何の本ですか?」
「よく聞いてくれました。これこそが今回の秘策」
表紙には手書きで“天上天下大会るーるぶっく”と書かれていました。
そして著者は、勇者、シロ、清く正しい美女、天才マンと。
「これはねー、100年前に書かれた大会ルールブックの原本」
「「???」」
「驚いたでしょー。これでも物持ちは良い方でねー」
ギルド主任は、パラパラと本を捲っていきます。
中には装備の規定や、参加人数についてなど、コロシアム内に表示されていたものより、厳密に記されています。
「これを読むとねー、今は忘れられているルールがたくさんあるのよ」
天上天下大会は100年も続く、歴史的な大会です。
時代の価値観、環境の変化、選手層の増加によってルールは幾度となく変更され、そして全て把握するのは不可能に近いほど、増えています。
「そんなルールの穴を突くと?」
「言い方が悪いなー、妹ちゃん」
「でも、そんなモノ持ち出すってことは、そう言う事ですよね」
「大丈夫。私はただルール通りに、大会運営が想定してない提案をするだけだから」
と、笑顔で言うギルド主任。
「でも、大会運営ってギルド主体ですよね」
「なんなら私が運営トップだったりするねー」
「あれ、コレ、困るのギルド主任では……?」
「何言ってるのよ妹ちゃん。困るのは私だけじゃないから」
鼻歌を歌いながら、ギルド主任は楽しそうに、説明の準備を始めます。
「それに────ハプニングがあった方が、大会として面白いでしょ?」
彼女の信念は、清く正しく、自分が楽しく。
それが100年以上を生きる彼女の生きかたのモットーだそうです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。