【ギルド総本山/麓・工房・庭 [現地時刻 朝】
────2日後。
庭に転がるは、猫と巨人。
「い、一生分の武器を作った気分だニャ」
「おでも、もう手が動かないでがんす」
「あの、買い取った工房の人たちは……」
唖然としてその様子を見るは、
「全員逃げたニャ、過酷すぎニャ」
「おでも契約がなかったら逃げてたでがんす」
工房内部には破材が山の様につまれ、庭にはそれでも入りきらなかった分が散乱しています。
そして庭の中央に鎮座するのは、ひときわ大きな物体。
「よく2日間でここまで……」
現在は雨風に当たらないように、獣皮で作った布がかけられている物体は────戦鋼。
置いてあるのは、内部フレームの上に、ゴンスさんの鎧を着せた【PN-K2】です。
「正直、片腕欠損とか余裕で覚悟してたんですが」
「ニャを余り舐めないで欲しいニャ」
地面に寝ころびながらも、サムズアップを決める、娘娘猫。
そんな死屍累々の庭に、響くは、清く正しそうな声。
「あらー、だいぶいい感じじゃない」
そう言いながら布を裾をつまみ、内部を確認するは、ギルド主任です。
眼の下の隈が酷いことになっているのは、2日間仕事の合間を縫って、作戦会議に参加してくれたからでしょうか。
「これも娘娘さんの頑張りのおかげです」
「じゃあ、私達も気合をいれて頑張らないとねー」
そう楽しそうに笑う、ギルド主任。
それは昔の風景と私たちを重ねているようであり、彼女自身も自然と笑っていることに気づいていなかったりします。
「というわけで、妹ちゃんと……あれ、ツインテちゃんは?」
「もうすぐくるハズなんですが「ギリセーフッ」────今来たみたいです」
ドタドタ。庭に入って来るはツインテールの少女。
自慢のツインテが跳ねまくっていることから、急いで起きたことが窺がえます。
「ハァハァ……ギリギリだったわ」
「まあ、ギリギリ遅刻と言った感じですね」
「馬鹿ね、プラマイ一時間は遅刻に入らないのよッ」
「いや、あまりにも社会を舐め切った発言すぎませんか……」
今日も絶好調のツインテ少女を横目に、ギルド主任は手を叩きます。
私とツインテ少女の視線は、音のなる方向に。
「はいはい。時間もないからコロシアムのルールおさらいをするわよ」
それは彼女が2日間で教えたコロシアムルールのおさらい。
そして作戦をきちんと覚えているかのチェックも兼ねています。
「コロシアムの戦いの場に入れる人数は────」
「コロシアムは基本1人で対戦です」
「だけど内部には何故か2人までは入れる謎ルールッ」
「次に装備できるモノについて────」
「持ち物は防具、武器、アクセサリーを1つずつです」
「そしてアクセサリーは身体能力に関係するモノのみに限らるわッ」
そんな感じで、幾つかの質問を終え、ギルド主任は満足そうに頷きます。
「────はい、よろしい」
毎年、入場前のチェックでルール抵触する参加者が多く、こういった確認は大事だそうです。
特に年々技術が更新されて効果が強力になるアクセサリー関連は、毎回のようにルール改定がされるそうです。
「ちなみに、なんで2人までは入れるんですか?」
「それはね、妹ちゃん……えーと、確か開幕討伐戦法が流行ったから、だったけなー」
「えっと、なんですか、それ」
「昔は、選手室に2人しか入れなかったのを利用して、闇討ちするの」
私の質問に詳しく答えてくれる、ギルド主任。
開幕討伐戦法────要約すれば、コロシアム前に相手を殺しておくことで、不戦勝を獲得する戦法です。
選手室が個別になり、警備と民度が上がった今では実行するものはいなくなり、護衛の為2人までは入れるというルールすら知られていません。
「じゃあ、このアクセサリーの条件は?」
「大量のアイテムボックスによる、物量作戦を防ぐためかなー」
「そんなことができるんですか?」
「無限身代わり生成耐久とかができて、結構楽しいのよ」
無限身代わり人形耐久。アイテムボックス内に人形工場を幾つも生成し、魔力吸収の魔方陣をコロシアムの外にしかけて、無限に近い物量で、相手の魔力切れを狙う戦法。
コツとしては、戦いの場と観客席を隔てる障壁に細工をして、魔力吸収の陣を破壊不能にしておくことだそうです。
「それ、どうやって勝つんですか?」
「身代わり人形の生成よりも早く、殺し切るとか、かなー」
「どんな脳金理論ですか、それは……」
「でも実践されたから、こればっかりは有効な手段と認めるしかないのよねー」
渋々うなずく、ギルド主任。
その顔には苦い経験と書かれていました。
「まあ、今では使われなくなった戦法だから、大丈夫」
「そうなんですか」
耐久だけを高くして、魔力切れ、餓死狙いという戦法は昔らからあったらしく、食料品と飲料水に限ったもの投げ込むことは許可されているそうです。
ですが、試合時間が設定されてから、誰も狙わなくなったとの話。
「むしろ、昔は試合時間がなかったんですね」
「“なんでもありで最強を決める”がコンセプトだったからね」
天上天下大会の始まりは、とあるパーティの喧嘩が発端と語る、ギルド主任。
金がない、しかも辺境、人でもなければ時間もない。でも竜王を倒す必要がある、どうするんだよッ、そんな些細な事からはじまった喧嘩だそうで。
殴り合いから始まった戦いは、自称天才エルフの思い付きで、大会として開かれるようになったそうです。
「ルール整備中の旧大会なんか、だいぶ酷かったからねー」
「旧大会? それって今のと違うんですか?」
「別物よ。もとは辺境に戦える人を集めるための大会だったし」
とにかく面白く、派手で分かりやすい、それが基準だった旧大会。
「夜なべで作ったコロシアムが壊れるなんて何時もの事、負けた奴らで必死に作り直したことなってあっけなー」
ふと、空を見上げるギルド主任。
今日の空はどこまでもつづく晴天で、眺める私たちがとりこまれそうな青さです。
「あのときもこんな空で……シロがあほやって、勇者が馬鹿やって、それでエルフが胃をおさえてたっけ」
ギルド主任の言葉からは、そんな思い出があふれます。
「傑作だったなー、勇者の攻撃を、シロが逸らして、地面が割れて村が両断されかけるのよ。それで、エルフの王子が死ぬほど胃を押さえんのよ。もう笑いがねー、ホントに止まらなかったわ」
思い出まみれの言葉は、遠い昔、同じ空のしたで得たモノです。
「ああ、あー楽しかったなーって……まあ、そんな思い出語ったところで仕方がないけどね」
そういった彼女は、未だに空を眺めていました。
「その、ギルド主任? 泣いているんですか?」
「えっ、嘘嘘、そんなことがあるワケないじゃない、やだー」
びっくりした様子で顔を触る彼女。
滴に気づいた彼女は、数秒目を閉じてから、思い出を心の中にしまいます。
「ごめんね、こんな昔話に付き合わせちゃって」
「別に、昔を思い出すのは悪い事ではありませんから」
「……そっくりな事をいうわねー、この口は」
「ふがふががが! (ちょっと、急に何をするんですかっ!)」
私の頬を引っ張るは、いつものように楽しそうに笑う、ギルド主任。
そしてそんな様子を睨むは、ツインテ少女。
「別にツインテちゃんも混ざってもいいよー」
「こいつが勇者の……生憎、私はそんなことで喜ぶこともじゃないんでッ」
彼女の顔に浮かぶは、ひきつった笑み。
それは今回の戦いというより、これからの戦いのことを思った笑いです。
「さてと、遊ぶのはこれくらいにして────そろそろ、私は猫ちゃんをつれて観客席にいくかなー」
「じゃあ、私とツインテさんは戦いの場にですね」
ちなみにゴンスさんは、コロシアムにいた場合、入れ替わりがばれる可能性があるので、工房でお休みです。
本当に申し訳ないんでうが、彼には勝利の報告ができるように、気合いを入れていきましょう。
「じゃあ、妹ちゃん、気合い入れて頑張ってね」
「もちろんです」
私は布をひっぱって戦鋼を青空下に。反射した装甲は、金属光沢が十分。
「頼みましたよ、戦友」
乗り込むは操縦席。エンジンを鳴らし、出陣の合図とします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。