紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

69 / 107
69 観客席と戦場と開幕

【ギルド総本山/中腹・コロシアム・観客席 [現地時刻 朝】

 

円状に広がった観客席からは、中央の戦いの場がよく見渡せる、配置となっています。

 

そして、観客席と戦いの場は聖女特製の障壁で仕切られており、大迫力の戦闘を目前で楽しむことが出来ます

 

そんな小ネタ、そしてお得なクーポン券がついたコロシアムパンフレット────今なら銀貨1枚で販売中。

 

「上は青空なのに、どこからか声が聞こえるニャ」

 

そう言って不思議そうに空を眺めるは、娘娘猫です。

 

パンフレットによりますと、コロシアムの天上は透明な魔法板で覆われており、そこには透明スピーカも設置されています。

 

悪天候でも試合を開催できるようにと、50年ほど前に冒険者たちの募金で屋根がついたそうです。

 

「おいおい、上ばっかり見ていると、盗人に眼を付けられるぜィ」

「田舎者の娘娘には、ここは眩しすぎたってかァ」

 

そんな声をとばして来るは、柴犬、豆柴と入れ墨をいれた耳付きの人間。

 

元工房のトップ弟子こと、柴柴犬コンビは今日も元気です。

 

「ニャニャニャッ! こんなところまで現れてなんのようニャ!!」

「もちろん、お前さんの絶望する顔を見に来たってわけだァ」

「兄貴ィの高度な作戦によって、おめーたちは終了よィ」

 

「……まさか、キイロニャ達の妨害をするつもりニャ」

「妨害ァ。そんなチンケな真似をする俺らじゃね」

「これを見やがれェ」

 

柴柴犬コンビが取り出すは一枚の紙きれ。

 

それはゴンスさんが持っていたものと、とても酷似していました。

 

「そ、それは本戦参加者が持っている参加証のコピーニャッ」

「「そうともッ!!」」

 

柴柴犬コンビは、ニヤリと笑いながらいいます。

 

「つまり、俺達もこの祭りに参加させてもらうぜィ」

「すでに本戦参加者一人に、武具を受けわたし済みよァ」

 

「「————お前達の対戦相手の黒狼になァッ!!」

 

娘娘猫が視線を向けるは、スタジアム中心部。

 

そこには冷静な顔で佇む、黒狼の姿。

 

そしてその手には、淡く光る剣。

 

「俺達の最新装備×精鋭冒険者、これの意味が分かるな」

「風魔法が使える魔法剣を無料で上げちまう兄貴には感動しちまったぜ」

 

「よせ、あんなはした金。傷つけられた名誉を回復するには安いもんだァ」

「さ、流石、兄貴ィだぜ」

 

娘娘猫は背中に感じる冷たいモノを無視し、柴柴犬コンビに食ってかかります。

 

「ぶ、武器と冒険者だけでは勝負は決まらないニャ」

「じゃあ、なんで決まるっていうんだァ、娘娘」

「そ、それは知恵とか……ニャ」

 

娘娘猫の発言を聞いて、がはははは、と笑い始める柴柴犬コンビ。

 

「そいつは、自分の武器に自信がないって言ってるようなもんだぜ、娘娘ァ」

「兄貴、本当の事をいったら娘娘が傷つくからもっとオブラートにつつむべきでっせィ」

 

「悪いな、俺としたことが配慮に「とんとん」────あッ、なんだァ」

 

そんな彼の肩をたたくは、紫髪の美女。

 

流れるような紫髪。そして美貌には、清く正しくをモットーにと書かれていそうな人物です。

 

「いやいや、随分楽しそうに話しているから、気になってねー」

 

右手にはコロシアムで買える様々な飲み物、食べ物。

 

左手は、未だ肩に置かれたままでした。

 

「おめーは、いったい何者だァ」

「君たちとは別の人物を応援しに来た者かなー」

 

「おい、いいかげん、兄貴の肩に乗せた手を退けやがれィ」

「まあ、別に喋るのはいいけどー、ちょっとは周りへの迷惑も考えようねー」

 

メキメキと音を鳴らす、ギルド主任の左手。

 

柴柴犬コンビの片割れは、どんどん青い顔になっていきます。

 

「ほらほらもっと鳴きなさいよ。さっきまでいい声で鳴いてたんだからさ」

「ニャニャッ、別にそこまで怒ってはないからいいのニャ」

「猫ちゃんはやさしいなー、こういう手合いは実力で分らすのが手っ取り早いのに」

 

そういってようやく肩から退けられる左手。

 

先程の痛みが嘘のように消えた、柴柴犬コンビの片割れは、何度も肩を触ります。

 

「ほら、そんな事よりコレをあげるわよ」

「あ、ありがとうニャ」

 

そう言って手渡される、ドリンクとフランクフルト。

 

謎肉のフランクフルトは様々な肉のうまみが凝縮されており、ドリンクと組み合わさることで、悪魔的な旨さになります。

 

ぺろりと食べ終えてしまった娘娘猫は、先の事は何処に、といった様子です。

 

「それにしても、意外とゴンスニャへの罵声が聞こえるニャ」

「面白半分に全員を咎めていると、日が暮れそうな数よねー」

 

もぐもぐと、同じようにフランクフルトを食べる、ギルド主任。

 

手を使わず、口でだけで食べる姿は、汚い食べ方ですが、美人な彼女のおかけで絵になっています。

 

「ゴンスニャ、そんなに恨まれているのかニャ」

「ごくり……ぷはっ、どっちかと言えば、巨人族が嫌われているせいだねー」

 

「そうなのニャ? 黄金の騎士とかは巨人族だけども」

「冒険者が巨人族って聞くと、荒くれ者で乱暴なイメージが先に来ちゃうのよ」

 

教会の冒険者にとって、巨人族は敵よりの立ち位置です。

 

彼達の討伐依頼が組まれることは珍しくありませんし、冒険者の資格を持っていても巨人族の国にはいることはできません。

 

「まあ、むっかしの因縁引きずっているほうも悪いよねー」

「そうなのニャ?」

 

「竜と戦ったとき、巨人族は竜側についてね。で、その後から憎し、憎まれつつの関係なのよ」

「でも、黄金の騎士はそんなことなかったニャ」

 

「彼はどちらかと言えば、色々と蔑まれてここに流れ着いた人物だからねー」

「は、初耳なのニャ」

 

ギルド主任は、まるで見ていたかのように彼の話を語ります。

 

そんな話に眼を輝かせつつも、どこかキイロの事が気になってしかたない、娘娘猫。

 

「ほら、そんなに気にしなくても、大丈夫でしょ」

「ニャァ……でも直前になって凄く心配になってきたのニャ」

「大丈夫、こんなこともあろうかと、お姉さんがとびっきりの紹介文を送っておいたから」

 

そう笑いかけるはギルド主任。

 

その顔には、やっぱり天上天下大会には悪者がいるよねー、と書かれていました。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/中腹・コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】

 

そこは戦いの場。観客席より3m下に作られた地面は、砂で固められています。

 

周囲は埃と傷まみれの壁で円状に囲われ、左右の選手用出入り口だけが、ぽっかり空いています。

 

『ヤバ、なんか緊張してきたんだけど』

「ツインテさん、急に耳元に話しかけないでください」

 

戦鋼操縦席に座る、金髪片角少女(わたし)は顔をしかめます。、

 

鎧を着ているせいか、内部は少し暑く。戦鋼はいつもよりずっしりしているように感じます。

 

『仕方ないでしょ、通話をつないでないと声が届かないかもしれないし』

「ちなみに、これなんていう魔法なんですか」

 

試合前に選手室でかけられた謎の魔法。

 

通信にしては耳元に聞こえる声がはっきりしており、むしろそれが違和感になっています。

 

『た、ただの通話魔法よ』

「へー、そんな魔法があるんですね」

 

そんな会話をしていると、コロシアムの天上から響く声。

 

試合前に物販の宣伝をしていた声と同じものです。

 

「さーて、今回大会の実況を務めるは、この私ッ────では、行くぞォ! 選手の紹介だァ!!」

 

実況の声とともに、観客の注目がコロシアム中心部に集まります。

 

「まず右コーナー。突如現れた東方からの狩り人。狼系美少女にして、新人ランキングもトップ。貴様のような新人がいてたまるかァ————黒狼だァ」

 

「こ、黒狼さまー」

「派手な試合を期待してるぞ」

「黒狼ォ、巨人族なんてやっちまえー」

 

そんな観客席の声は、障壁をはさんで、戦いの場にいる私たちにも届きます。

 

「対する反対サイドは────ゴンス選手ッ」

 

私の紹介に合わせて、観客席から飛んでくる罵声。

 

「死ねェ、巨人族ッ」

「おめーは大人しく銀行になっとけばいいんだよッ」

「脳が空っぽの癖に、ワンパンで俺を仕留めやがって、死ねェッ」

 

黒狼さんの時とは打って変わって、暴言の嵐となっています。

 

「別に構いはしないんですけど……コロシアムの治安って悪いですね」

『ほら、開始前に善行を積んでないからじゃない』

 

「善行つんだところで変わるものなのでしょうか……」

『なら、実況者に嘘の紹介文を渡しておくとか』

 

ツインテさんとそんな通信会話をしていると、再び実況の声が聞こえてきます。

 

「────経歴、実力ともに不明。そんな彼に今回インタビューした記事があります!!」

 

そんなインタビューがあったのでしょうか? と、私によぎる疑問。

 

ですが優しいゴンスさんの事です、きっと罵声を減らせるような内容になっていることでしょう。

 

そんな私の願いとともに、実況はインタビュー記事を読み上げます。

 

「Q. ゴンス選手はなぜ大会に参加を」

「A. 聖女を我が物にするためでごんす」

 

あれ、ゴンスさん?

 

「Q. せ、聖女様を? それは総本山では爆弾発言ですよ⁉」

「A. 小さき者はすべて我が物でごんす」

 

ちょっと、彼の性格そんなんじゃないですよー!

 

「Q. し、質問を変えます。ゴンス選手には大量の借金があると聞きましたが、そちらは」

「A. 美女を買い漁って、金貨10000枚“程度”でごんす」

 

いやいや、借金はそんな理由じゃないですし、なんか3倍以上盛られています!

 

「Q. そ、その国家予算に匹敵する借金を返すめどはあるのでしょうか」

「A. なぜ小さき者に金を返す必要があるでごんすか……?」

 

おかしいですね。何一つ、ゴンスさんが言わない発言です。

 

いったい誰が、こんなに非道な記事を作り上げたのでしょうか。

 

『アンタ、意外とやるじゃん』

「いやいやいや、どう見ても私じゃないですからねっ、ツインテさんっ⁉」

 

『でも、その効果はなかなかのものね』

「えっ、そうなんですかね?」

『観客席の声を聞けばわかるでしょ』

 

観客席から起こるは大ブーイング。

 

言葉は先程よりも、鋭利になり、より個人を中傷するものに。

 

「この下半身の巨人がッ」

「せめて借りた金は返しやがれッ」

「てか、聖女を我がものにとかふざけてんのかッ」

 

まさに罵倒罵声のオンパレードと言った感じです。

 

ですが、その一方で────

 

「金貨10000枚……正気な野郎の借金額じゃねェ」

「舐めていた。俺とは器が、いや格が違う大悪党だぜッ」

「女を買い、そして聖女までも手に入れようとする強欲。正直、惚れるな……」

 

彼に憧れるような人たちも出てきたようです。

 

さらに罵声の中には、彼を応援するような声すら聞こえてきます。

 

「コレって、どういう事なんでしょうか?」

『観客の大半が冒険者。つまり────馬鹿ばっかって事でしょ』

 

きっと、ツインテさんは観客席の冒険者を呆れるような視線で見ていることでしょう。

 

「おおっと、両陣営、白熱の盛り上りッ! ならば皆さん行きますよォ────本戦試合開始ッ!!」

 

実況の合図とともに、押し込むは操縦管。

 

画面に映るは狼耳少女こと黒狼。

 

吹き出す白煙とともに、戦いの火ぶたは、今、切って落とされました。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。