【前線基地/倉庫 [現地時間11:30]】
黒髪少女《わたし》は、再び荷物を運びます。
一つ運ぶごとに足取りは、一つ重くなっています。
ですが、片づけ作業は数個の荷物を運んで終わるものではありません。
「嬢ちゃん、大箱を向こうに運んでくれ」
整備員の青年は、次の指示を出します。
「おやっさんの方に頼む」
「おやっさん?」
「向こうの白煙あげてるジジイだよ」
視線を動かすと、タバコを咥えた整備服のじいさんがいます。
倉庫内にもかかわらず、帽子とグラサンとはファンキーな人です。
「気をつけろよ、あの整備長《おやっさん》は怖いぞ」
「────おい、なァに、ぼさっとしてやがる。さっさと荷物を持ってこいッ!」
「は、はい、今すぐッ、という訳で頼んだぞ」
整備員は、急いで走っていきました。
荷物を運ぶの手伝ってくれても、と言う隙は無かったです。
「これなら一人でも持てるかもしれません」
木箱は意外にも軽く、よっこらせ、と周囲に気を付けながら運んでいきます。
箱が大きいのでよちよちとゆっくりと倉庫内を進みます。
「ここで大丈夫でしょうか?」
「おそ────なんだ嬢ちゃんか。その周囲に置いといてくれ」
「置いておきます」
整備長《おやっさん》からは、不思議な匂いがします。
おそらく、タバコの匂いなのですが。
甘いわけでもなく。
爽快なわけでもなく。
ですが、頭が働くような。
────不思議な匂いです。
「あまり嗅ぐなよ、体にはよかねえぞ」
「悪いモノを吸っているんですか?」
「薬物的なモノでしょうか?」
「はっはっは、まさかそんな大層なモンじゃないさ」
整備長《おやっさん》は帽子を取ります。
「俺ぐらいの年になると、髪が薄くなっちまうんだ」
「薄毛対策......?」
「違え。要は、体の魔粒子《マナ》が少なくなってんのさ」
整備長《おやっさん》は、帽子を戻します。
「おかげでこんなクソ不味いものを吸う必要が、だ」
「それは、気持ちはちょっとわかります」
私のアンプルと同じようなモノです。
もちろんアンプルの方が多量の魔力が含まれていて、不味さも多量ですが。
「にしても、髪と魔力……いや魔粒子《マナ》にそんな関係があったのですか」
『魔力の初歩に習う事だぞ』
脳内の
私の知識は幻聴《ナビィ》由来のモノなので、幻聴《ナビィ》が教えてくれないと私も知りません。
『親から髪は大事にしろと習わなかったか?』
「習った記憶は無いです」
男の人なんか髪を長く伸びる邪魔なモノだと思っている節もあります。
私達の髪なんか────ああ、だから、カツラが必要だったんですね。
(髪が無いと、魔力が無いということが一目で分かる訳ですか)
何故、黒髪のカツラをつけないといけないかが分かりました。
「どうした嬢ちゃん。
「いえ、1つ謎が解けたので......あれ、表情変わってました?」
「雰囲気だよ。ジジイの特権みたいなもんさ」
匂いだけではなく、感覚も不思議な整備長《じいさん》です。
実験以来死んでいる表情筋から読み取るとは、歴戦の項とは恐ろしいものです。
「仕事にもどりましょう『魔力反応がくるぞ、髪を抑えてろ』────えっ?」
「戦鋼入るぞォ! 緊急だッ、整備員は退避ィッ!!」
幻聴《ナビィ》の言葉を聞き、髪を抑えます。
突如の突風と共に、帽子が飛び、砂埃が舞い────鋼鉄の兵器が現れます。
「
横にいた整備長《おやっさん》の罵声で耳が痛いです。
「でもー、被弾してアラームが止まらなくてェ」
「パージでもしておけ、馬鹿がァ」
戦鋼の中から、聞いた事のある声がします。
操縦者はキイロ少女ですか。
「皆がパーツないって言ってたから......」
操縦席から出てきた黄色の髪も、心なしかしんなりしています。
「全く、なら攻撃に当たるなって話だ」
首筋からは、配線が垂れているところもあり。
右腕には、大きな凹みがあります。
(状況から見て、なにかにぶつけたという感じですか)
「どうした鬼殺し。お前さんもいい訳をしに来たか」
「整備長、どうか許してやってほしい。味方を庇った余りの被弾だ」
鬼殺し教官の声は、後ろから響きます。
恰好はいつもと変わりませんが、
「そんな馬鹿をさせんのが、アンタの仕事のはずだ」
「そうだな、面目ない」
「構わん、戦鋼は直せるからな────野郎ども集まれッ」
そう言い切ると、整備長《おやっさん》は整備を始めます。
「反省ものだな」
「へっ、いや、あの......」
鬼殺し教官と目が合います。
「ええっと、やけに大きな袋を持っているなぁ、って」
頬をかきつつ、適当な事を言います。
パッと見て教官の持っている袋が目についたので、そこに話をふっておきます。
「こいつか? こいつは魔石を入れた袋だぞ」
「ええっと、魔石ですか?」
「素材だ。近隣のゴブリンからとれる」
ゴブリンの魔石。魔物の核と言われる部分、人における脳の部分になります。
「でも、地球の魔物は魔石を落とさなかったような」
『魔石の魔力流出を止めなかったからな』
「なんですか、それ」
『放置していれば、魔力はぬける、当然だろ』
「つまり倒してから魔力を止める処置をする必要があると」
『まっ、あんなクズ魔石、手に入れるだけ労力の無駄だ』
確かに前回の戦闘で、核とみられる部分を幻聴《ナビィ》が砕いていましたね。
(ぶっちゃけ、砕くぐらいなら魔石にして欲しいところではありますが)
「他にも保管庫にいれる素材は「教官殿ォ」────すまない、用事が出来た」
教官は倉庫から出ていってしまいました。
「素材は保管庫に、ですか......」
鍵がかかっていた保管庫の中はかなり怪しいかもしれません。
(やはり、仕事を素早く終わらせて、基地を探索するべきですね)
『まあ、頑張りすぎるなよ』
「大丈夫です、見ていてください」
私は腕をまくり、やる気を出します。
この程度の荷物さっさと片付けてしまいましょう。
◇◆◇
【前線基地/自室・ベッド [現地時間16:30]】
5時間後────張り切りすぎて、疲労と睡魔で地面に這いつくばる私の姿がそこにはありました。
『で、任務はどうするんだ』
「明日、頑張ります......」
少なくとも今日の自分にはもう無理です。
体が軋みをあげ、ベットから立ち上がる事すら出来ません。
「きっと────明日の私が頑張ってくれるハズ」
『毎回、同じような事を言っているぞ』
幻聴は毎回同じように咎めますが、結果は変わった事はありません。
命令に対してはどうしても頑張りすぎてしまうのが、この体の欠点ですね。
「お、おやすみ、なさい────…」
『全く、おやすみだ』
こうしてまた一日と終わっていくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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