【ギルド総本山/中腹・コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】
「おおっと、開始から一方的な展開だァ」
そんな実況がひびく、コロシアム。
「圧倒的、圧倒的、引き撃ち」
戦鋼が一歩動けば、一歩下がる黒狼。
そして、その間にも五月雨の如く飛んでくる、不可視の斬撃。
「黒狼選手、魔法剣による遠距離攻撃の連打。ゴンス選手、これには手も足も出ないッ」
現状、戦鋼の武器を盾にして、飛ぶ斬撃の直撃を避けている状況。
思わず、操縦席にいる
『ちょっと、アンタ、大丈夫なの⁉』
「コレが大丈夫に見えますかっ」
ツインテさんの心配する通信にも、私はキレ気味に返してしまいます。
『アレ、使う?』
「いいえ、もう少し確認したいことがあります」
東方の狩り人・黒狼。戦法は刀による攻撃と魔法、とギルドの書類には書かれていました。
ですが、その情報は何一つ当てにならない状況。
「ツインテさん、試合経過時間は何分ですかっ」
『そろそろ体感5分を超えるわよッ』
「なら、魔力が切れてもおかしくないハズなんですが……」
5分以上、息切れもせずに襲ってくる、斬撃の嵐。
魔力量が馬鹿といわれた私でも、さすがに首をかしげたくなる密度です。
「黒狼さん、全く疲れる様子が全くありませんね」
『げッ、よく見たらアイツが着てんの、魔力吸収の鎧じゃないッ』
「よくそんなことが分かりますねっ」
『私を捕まえやがった奴が身に着けてたからよッ』
魔力吸収(中)の鎧。空気中から魔力を吸収し、自分の魔力と同じように扱うことが出来ます。
欠点としては、鎧を壊されると効果が消えること。そして鎧の値段が法外な事。
「じゃあこのまま戦ってたら」
『ジリ貧で沈むのは、アンタの方よ』
「とはいってもですねっ」
黒狼さんは、こちらが一歩動けば、一歩引き。
ジリジリと詰め寄れば、ゆっくりと下がっていきます。
(間合いの取り方が異様に上手……本当に戦い慣れた方といった感じです)
「脳死で突っ込んで来てくれたら、どれほどありがたいかっ」
『ちょっ、アンタそろそろマズイわよッ!』
「何がですかっ、魔力はまだ余裕がありますし、戦鋼自体もっ」
『馬鹿そうじゃないわよ。アンタが盾に使ってる剣のことよッ』
そんな言葉とともに、剣から鳴り響く異音。
「いやいや、まさか、この音は「ボキッ」————これはマズイですね」
それは武器の限界を知らせる音。三度、斬撃を防いだ後、刃は真っ二つに。
折れた剣先は地面に突き刺さります。
◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム・観客席 [現地時刻 朝】
「ニャニャニャッ、キイロニャの武器が……」
思わず顔をおおう娘娘猫。猫耳もぺたんとなり、彼女の絶望を表しています。
そんな彼女とは対照的に盛り上がる、柴柴犬コンビ。
「兄貴ィ、この勝負は俺達の勝ちだぜィ」
「馬鹿野郎ァ、勝敗なんぞは始めから分かってたことだ」
彼らは当然とばかりに腕を組み、高圧的な態度で、娘娘猫を見ます。
「娘娘ァ、今回も剣芯の作りが甘ちゃんだなァ」
「う、うるさいニャ、アレ作るのどれだけ大変か知ってるだろニャッ」
「そうやって毎回ィ、暑い場所を嫌がって早く終わらせようとするからそうなるんだぜィ」
「それに武器全体のバランスが悪すぎるんだぜィ」
「こ、これでも部品単体で必死に調整した結果ニャッ」
「ばーかかオメェは。そもそもドワーフ流で作るなァ、武器を持つのは巨人族だろがァ」
観客の迷惑も考えずに、ニャーニャー、ワンワンと喧嘩する3人。
やはり似た者同士というか、端から見れば喧嘩と言うより、子供達のじゃれ合いに近いものです。
「はいはい、そこまでにしなさい」
そんな声をだすのは、ギルド主任。
彼女は冷静に、コロシアムの中心部を眺めています。
「どっちにしろ、猫ちゃんの武器が負けるのは想定済みのことよ」
「おいおい、そりゃあ敗北宣言と等しいんじゃねーかァ」
「なんだィ、アクセサリーに凄い効果でもついてんのか」
くってかかるは柴柴犬コンビ。
彼らに言わせれば、武器が破壊された現状、防具とアクセサリーでどう打開するのかが見ものといった感じです。
「妹ちゃんのアクセサリーは、魔石を分解して吸収できる便利アイテムでしかないよ」
「なんだそれ、実質効果がないのと等しいじゃねーかァ」
「せめて筋力増強リングぐらい持たせてやれよィ」
「────いや、今回ばかりはコレしかなかったと言うべきニャ」
そう遠い目をする娘娘猫。
対照的にニヤニヤと笑っている、ギルド主任。
「それにまだ剣が一本折れただけでしょー」
「あァ、何馬鹿なことを言ってやがる。戦いの場に持ち込める武器は一本だろ」
「うん、そうだねー。確かに持ち込める
意味深に言うギルド主任は、なおも変化する戦場を眺めています。
◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】
「おおっとォ、ゴンス選手の武器が真っ二つにッ!!」
コロシアムの天上から鳴り響くは、実況の声。
「コレは試合が決まったと言っても過言ではないかァ」
そんな言葉とともに、黒狼の応援コールも強く聞こえてきます。
『どーすんのよ、こっちの敗戦コールまで鳴り響いてるわよ』
「もう少し、彼女から引き出したかったんですが……」
武器も折れたことですし、そろそろ潮時と言ったところ。
できれば使わずに勝ちたかったのですが、こっちも札を切ることにします。
「ツインテさん、3番の砲弾でお願いしますっ」
『了解』
出入り口付近のツインテさんが取り出すは、金貨100枚の大砲。
内部に装填するは、3と白文字で書かれた砲弾。
「おっと、ゴンス選手側、何か動きが「ドカンッ」————えええ!?」
大砲のケツが叩かれ、轟音とともに打ち出される砲弾。
砲弾はコロシアムの中心を目指し、戦いの場に侵入。
「ちょ、ちょっと待ってくださいッ! 部外者による武器による援護はルールで禁止され……」
その狙いは黒狼ではなく────私が乗る、戦鋼。
「ナイス狙いです」
『当然よッ』
砲弾に戦鋼の手を突っ込み、破裂した簡易道具箱から飛り出すのは────
「────ぶ、武器だと」
「そ、それもルール違反だろッ」
「てかなんだよッ! あの無駄にごっつい大剣はッ!!」
黒い飛沫が装甲に飛び散り、戦鋼が持つは、結晶が団子状になった大剣。
「し、試合中止ですッ。審判がそちらに行きますので、ゴンス選手は「これルール本でち」————え、ええっ」
それを戦鋼の口に動かし、纏わりついていた魔石を魔力に分解して補給。
残りの串こと大剣は、捨てることができないので、手に持つことにします。
(────そう、手に持つのは仕方ないことなんです)
決して偶々偶然的に、食料に突き刺さっていた串が、武器として使えただけなんです。
「えっと、届いた大会ルール本によりますと、食料、飲み物の投げ入れは可となっているそうです」
「通るか、そんな道理がッ」
「審判早く、アイツを捕まえろ」
「そんなインチキをして楽しいか卑怯者ォ」
そんな罵声が届く、コロシアム中心部。
ですが、そんな声と裏腹に実況は、試合続行の発言をします。
「そ、その、本には聖女様の一筆が添えられていまして……」
読み上げられる内容は————
60年ほど前にゴーレムチームが岩石を食料として投げ、そのまま戦闘が続行した為、その判例をもとに許可します。 by 聖女
「クソッ、なんで先駆者がいるんだよ」
「てか60年前とかよく知ってるな、聖女様ッ」
「アホか、俺らが産まれている訳がねーだろッ」
騒ぎ立てる観客など気にせず、私は戦鋼に新しい大剣を構えさします。
新品の剣先は日差しをうけ、あふれんばかりの輝き。
その先が狙うは、黒狼の首元。
「悪いですけど、どんな手を使っても勝ちに行かせてもらいますっ」
モニターにうつる黒狼は、問題無しと言わんばかりに、再び斬撃を飛ばしてきます。
◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム・観客席 [現地時刻 朝】
「いや、どう見てもアウトだニャ」
「いや、おめーがそれを言うのかァ、娘娘」
「じゃあなんで止めてやらなかったんだよィ」
呆れる柴柴犬コンビの言葉に、答えるのはギルド主任。
「それは、ここまでやって彼女に勝てる確率が0に近いからかなー」
「ニャもコレを聞かなかったら、乗る気はなかったニャ」
うんうんと頷く娘娘猫。
その様子を胡散臭そうに見つめる柴柴犬コンビです。
「お前ら、ホントにそう思ってんのかァ?」
「黒狼に武器を渡した時は少女にしか見えなかったぜ、兄貴ィ」
まあ冒険者をやってないとわからないよねー、という顔をしながらギルド主任は説明してくれます。
「彼女のレベルは9、そして妹ちゃんのレベルは8。この差は結構大きいのよ」
「だが、高位の冒険者が、低級に外で殺されるなんてよく聞くはなしだァ」
「そうだ、だからこそ冒険者のレベルはあまり気にされねィ」
装備目当ての低級レベルにより高位狩り。
酔ったところや、寝ている隙に闇討ちで殺され、装備やお金をはぎ取られるといった感じです。
「でも、それは外だから。今回はコロシアムの内部なの」
「それが何が違うってんだィ」
「落ち着け弟。そいつは不利条件を覆すものがないって話だァ」
「正解。気候、場所ともに安定したコロシアムは実力が勝敗に直結する」
「だからこそ、物量作戦で押しつぶす予定だったのニャが……」
「これは嫌な感じになっちゃたねー」
かなり悲観的に戦場を見る、ギルド主任と娘娘猫。
「いやいや、武器が無数ならそっちの方が強いだろァ」
「そうだそうだ、何ピンチになってますよ感を出してやがるィ」
未だに納得できない、柴柴犬コンビ。
「ううん。正確に言えば切り札を先に切らされたに近いかなー」
「あァ、そりゃあどういうことだァ?」
「黒狼の切り札なんぞ俺たちの武具以外にあるわけねィ」
ギルド主任が注目するは、黒狼の髪の毛。
彼女の髪の毛は首ほどに長く、そして黒色です。
そしてこれはギルドの冒険者情報に載っていない事実を示すモノ。
「黒狼ちゃんの髪は黒色────これが何を意味するか知ってる?」
「多種族との混ざりものってことしか知らねぜィ」
「ハーフエルフの髪は銀色より濁っているって奴だなァ」
「ニャもそれぐらいしか知らないニャ」
首をかしげる、柴柴犬コンビ、娘娘猫。
「髪は人体で一番、魔力が染み出す場所でもあるのよ」
魔法を制御する機関が備わる頭部は、魔力がもっとも集まる場所です。
そして髪に染みだす魔力の色は、得意な魔法によって変化します。
髪が青色だと水の魔法が、赤色だと火の魔法がと言うようにです。
では————黒色は?
「黒色は、二属性以上の複合適正」
戦場であるコロシアム内部では、水流が巻き起こります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。