【ギルド総本山/中腹・コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】
「────あれ、生きています?」
眼を見開くと、そこには無事な操縦席。
てっきり火球が直撃して、戦鋼ごと消失したと思っていましたが……
「日ごろの行いでもよかったのでしょうか」
『お兄ちゃん……それ、本気で言ってる?』
懐でペンダントが揺れる感触。脳にとどく振動。
甘くとろけてしまいそうな、幼女の声が聞こえます。
「あの、どちら様でしょうか」
『お兄ちゃんの妹……なのかな?』
脳がフリーズしてしまいそうな振動の解答。
妹……? 幼女の声ですし、仮称:ロリィとかにしておきますか。
(────いやいや、何を考えているですか、私っ)
ですが今はそれどころではないと、思考を切り替えます。
「すみません、とりあえず後でいいですか」
『いいけど、お兄ちゃん死ぬよ……?』
そこには今にも落ちてきそうな巨大な火球が存在していました。
「これは、止まってるんですか」
『今は……刹那の時間。あと数秒でお兄ちゃんの命運が決まる』
「なら私にどうしろと?」
『質問に……答えて欲しい』
『────お兄ちゃんは私を助けてくれる?』
私の脳に浮かぶ回答は、3つ。
→1. 僕には荷が重いです。
2. もちろんッ、助けるよ。
3. えっ、嫌だが?
(3.はぶっきらぼうすぎますし、でも1.は悲観的すぎますよね……)
『私は……お兄ちゃんの答えを待ってるよ』
「兄ちゃんですか、その呼び方は久しぶりですね」
彼女が求めているのは、私/どれかの回答ではなく、私/全ての回答な気もします。
というわけで、主張の激しい思考を片付けて────私自身の回答を出しましょう。
「すみません。私には誰かを助けるほどの力がありません」
『残念……』
「でも、もし貴方が困っているなら」
『でも……?』
「────私は全力で力を貸したいと思います」
それが私の回答です。
誰かを助けれると思うほど、傲慢ではありませんし。
目の前の人物を見棄てるほど、悲観的でもありません。
『なら……私も全力で力をかしてあげる事にする』
そう私の言葉の受け売りのような発言をする、
「こちらこそよろしくお願いします、ロリィ」
『ロリィ? それは……呼び名?』
「えっと、すいません。つい、心の声が」
『いいの……お兄ちゃんが付けてくれた名前だから』
そうしてひとしきり満足した後、彼女は魔法を唱えます。
「ロリィは全力で……
極彩色の輝きが放たれ、時間の進みが元に────火球が戦鋼に直撃します。
◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】
「火球がゴンス選手に直撃ッ! これは決まったかァ!!」
実況がそんな声をあげる中、私は唖然とします。
「はァ、上級魔法の直撃を受けて無傷って、バカじゃないの……」
黒狼さんの呆れた声。
魔法が直撃し、砂ホコリを纏った
晴れていく煙の中で、装甲には青色によどむ膜が展開されていました。
「あのー、これどういう魔法なんですか」
『絶対防壁……3分間だけなら無敵の防壁』
「うん……? いま凄い言葉が聞こえた気が
無敵? 明らかに現実世界で聞こえていい言葉ではない気がします。
いや、上級魔法の直撃を無傷ですましているあたり、本当に無敵なんでしょうけど……
『正確にいうと……お兄ちゃんの魔力を使って、次元との境界を強くした』
「すみません、正確に言われると更に分からなくなりました」
「────こっちを無視してるんじゃ、ないわよッ」
そんな黒狼の叫び声と共に、火球二発目が直撃。
衝撃で操縦席が揺れますが、機体にはアラームの一つ増えていません。
「す、すごいです、このまま押し切れる性能です」
『でも、気をつけて……攻撃を受ける度、防壁が熱をもつから』
「えっ、それってどういうこと「ズドン」────熱っ」
急激に温度があがる操縦席内部。
火球が当たったからというより、まるで操縦席全体の温度が上昇している様子。
『現在……熱量が30%ほど防壁に蓄積してる』
「いやいや、30%で死ぬほど熱くなってるんですが」
『お兄ちゃん、次に攻撃に当たると……2倍以上は熱くなるよ?』
そんな純粋無垢な
「それって、蒸し焼きになりません」
『お兄ちゃんは200℃に耐えれないの……?』
「いや、無理ですっ! そこまで人間辞めてないですっ!!」
むしろ、200℃に耐えれる人間って存在するのでしょうか。
いや、龍姉や、ギルド主任なら平然と耐えれるような気もします。
「とりあえず、防壁を解除して、再び展開するとかは」
『私の力が弱いから……解除は出来ない』
「それって、残り時間で直撃すると、蒸し焼きになるのでは?」
『でも解除しても……お兄ちゃんが焼け死ぬだけだと思う』
「────あれ、コレ、どちらにしろ詰んでません?」
200度は、人体の水分が瞬時に沸騰する温度です。
「ようやく、こっちを見やがってわねッ」
「別に無視したわけじゃないんですけどねっ」
モニターの先には、激昂をかます、黒狼。
どうやら無視して攻撃を受け続けたのが、よほど気に食わないようです。
「今更、どっちでもいいわよ、そんな事ッ」
「あの、その火球しまって貰ったりできませんかね……」
「今更命乞い? 涼しい顔して受けて見なさいよッ」
「受けれないから困ってるんですよね……」
黒狼の両手に用意されるは、先より巨大な火球。
「ならば、撃たれるよりも早く仕留めれば────」「────私の魔法の方が早いに決まってるでしょッ!!」
ペダルを踏み込んだ瞬間に、撃ちだされる魔法。
そして戦鋼は軌道修正不可なほど、真っすぐに直進。
(マズったッ……いや、そんな事を考えている場合ではないです)
巨大火球直撃までのカウントダウンは後────3秒ッ!!
『お兄ちゃん……これ、激突する』
「なんとかしてみせますっ」
2秒前。戦鋼の装甲が焼けます。
この威力、火球を防がなかったら焼死。防いでも熱量で死は確定でしょう。
『ごめんなさい……ロリィが防壁を解除できないから』
「大丈夫ですっ、なければ数秒前に死んでますっ」
1秒前。モニターが白色に染まり、戦鋼に温度上昇を告げるアラームが多数。
せめて防壁が任意で────いや、待ってください。
ならば、
「跡形もなく消えなさいッ────」「────タイミングは刹那のフレームっ!」
0秒前。絶対防壁が魔法を攻撃を、熱量に変換した、その瞬間。
温度が200度に到達し、体内水分が全て蒸発するその前に。
「────魔法“???”発動っ!!」
体を襲う強烈な怠惰感。歪む視界、飛びそうになる意識。
二度目とは言え、全魔力を持っていかれる感覚は死ぬほどツライです。
『なに、この魔法……お兄ちゃんが危険すぎるッ』
「そういえば、この先を考えていませんでした、ね」
『せめて加速が始まるより先に……間に合ってッ!!』
「なにを「ギュイン────」────あれ、耳が」
耳が聞こえなくなり、体に感じるは、コロシアムの壁の感触。
衝撃と、痛みと、疑問が一気に体を襲います。
(声が出ない、喉が完全につぶれている? なにが、いったい何が起こったんですか⁉)
「ありえない、巨人が炎を纏うなんて────……」
下から聞こえるは、ミンチの如く潰れた黒狼の声。
どういうこと?、と思考する間もなく、私の視界は完全にブラックアウトするのでした。
◇◆◇
後に、借金王ゴンスの外道試合:その1 と記される、この試合。
おこなわれた行為は最低ながらも、珍勝負、名勝負として人々に愛されます。
それはひとえに、外道戦術からの、劇的なクライマックスによるものと専門家は話します。
決着は────炎となった巨人が、閃光よりも速く、狼を貫く。
それこそが、借金王ゴンスの“伝説の幕開け”であった、為と。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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