紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

72 / 107
72 少女とペンダントと決着

【ギルド総本山/中腹・コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】

 

「────あれ、生きています?」

 

眼を見開くと、そこには無事な操縦席。

 

てっきり火球が直撃して、戦鋼ごと消失したと思っていましたが……

 

「日ごろの行いでもよかったのでしょうか」

『お兄ちゃん……それ、本気で言ってる?』

 

懐でペンダントが揺れる感触。脳にとどく振動。

 

甘くとろけてしまいそうな、幼女の声が聞こえます。

 

「あの、どちら様でしょうか」

『お兄ちゃんの妹……なのかな?』

 

脳がフリーズしてしまいそうな振動の解答。

 

妹……? 幼女の声ですし、仮称:ロリィとかにしておきますか。

 

(────いやいや、何を考えているですか、私っ)

 

ですが今はそれどころではないと、思考を切り替えます。

 

「すみません、とりあえず後でいいですか」

『いいけど、お兄ちゃん死ぬよ……?』

 

振動(ロリィ)が指し示すは、頭上。

 

そこには今にも落ちてきそうな巨大な火球が存在していました。

 

「これは、止まってるんですか」

『今は……刹那の時間。あと数秒でお兄ちゃんの命運が決まる』

 

「なら私にどうしろと?」

『質問に……答えて欲しい』

 

振動(ロリィ)はゆっくりと、私の脳にささやきかけます。

 

『────お兄ちゃんは私を助けてくれる?』

 

私の脳に浮かぶ回答は、3つ。

 

→1. 僕には荷が重いです。

 2. もちろんッ、助けるよ。

 3. えっ、嫌だが? 

 

(3.はぶっきらぼうすぎますし、でも1.は悲観的すぎますよね……)

 

『私は……お兄ちゃんの答えを待ってるよ』

「兄ちゃんですか、その呼び方は久しぶりですね」

 

彼女が求めているのは、私/どれかの回答ではなく、私/全ての回答な気もします。

 

というわけで、主張の激しい思考を片付けて────私自身の回答を出しましょう。

 

「すみません。私には誰かを助けるほどの力がありません」

『残念……』

 

振動(ロリィ)は落胆した声色をだします。

 

「でも、もし貴方が困っているなら」

『でも……?』

 

「────私は全力で力を貸したいと思います」

 

それが私の回答です。

 

誰かを助けれると思うほど、傲慢ではありませんし。

 

目の前の人物を見棄てるほど、悲観的でもありません。

 

『なら……私も全力で力をかしてあげる事にする』

 

そう私の言葉の受け売りのような発言をする、振動(ロリィ)

 

「こちらこそよろしくお願いします、ロリィ」

『ロリィ? それは……呼び名?』

 

「えっと、すいません。つい、心の声が」

『いいの……お兄ちゃんが付けてくれた名前だから』

 

振動(ロリィ)はその名を噛みしめるように、何回も反復します。

 

そうしてひとしきり満足した後、彼女は魔法を唱えます。

 

「ロリィは全力で……絶対防壁(お兄ちゃんに力を貸す)ッ!!」

 

極彩色の輝きが放たれ、時間の進みが元に────火球が戦鋼に直撃します。

 

◇◆◇

【ギルド総本山/コロシアム・戦いの場 [現地時刻 朝】

 

「火球がゴンス選手に直撃ッ! これは決まったかァ!!」

 

実況がそんな声をあげる中、私は唖然とします。

 

「はァ、上級魔法の直撃を受けて無傷って、バカじゃないの……」

 

黒狼さんの呆れた声。

 

魔法が直撃し、砂ホコリを纏った()()の戦鋼。

 

晴れていく煙の中で、装甲には青色によどむ膜が展開されていました。

 

「あのー、これどういう魔法なんですか」

『絶対防壁……3分間だけなら無敵の防壁』

「うん……? いま凄い言葉が聞こえた気が

 

無敵? 明らかに現実世界で聞こえていい言葉ではない気がします。

 

いや、上級魔法の直撃を無傷ですましているあたり、本当に無敵なんでしょうけど……

 

『正確にいうと……お兄ちゃんの魔力を使って、次元との境界を強くした』

「すみません、正確に言われると更に分からなくなりました」

 

振動(ロリィ)が頑張って説明してくれますが、私の頭では理解することができない話の様です。

 

「────こっちを無視してるんじゃ、ないわよッ」

 

そんな黒狼の叫び声と共に、火球二発目が直撃。

 

衝撃で操縦席が揺れますが、機体にはアラームの一つ増えていません。

 

「す、すごいです、このまま押し切れる性能です」

『でも、気をつけて……攻撃を受ける度、防壁が熱をもつから』

「えっ、それってどういうこと「ズドン」────熱っ」

 

急激に温度があがる操縦席内部。

 

火球が当たったからというより、まるで操縦席全体の温度が上昇している様子。

 

『現在……熱量が30%ほど防壁に蓄積してる』

「いやいや、30%で死ぬほど熱くなってるんですが」

『お兄ちゃん、次に攻撃に当たると……2倍以上は熱くなるよ?』

 

そんな純粋無垢な振動(ロリィ)の声。

 

「それって、蒸し焼きになりません」

『お兄ちゃんは200℃に耐えれないの……?』

「いや、無理ですっ! そこまで人間辞めてないですっ!!」

 

むしろ、200℃に耐えれる人間って存在するのでしょうか。

 

いや、龍姉や、ギルド主任なら平然と耐えれるような気もします。

 

「とりあえず、防壁を解除して、再び展開するとかは」

『私の力が弱いから……解除は出来ない』

 

「それって、残り時間で直撃すると、蒸し焼きになるのでは?」

『でも解除しても……お兄ちゃんが焼け死ぬだけだと思う』

 

「────あれ、コレ、どちらにしろ詰んでません?」

 

振動(ロリィ)からは、お兄ちゃんが200度に耐えればワンチャンと聞こえてきますが、首をふって否定しておきます。

 

200度は、人体の水分が瞬時に沸騰する温度です。

 

「ようやく、こっちを見やがってわねッ」

「別に無視したわけじゃないんですけどねっ」

 

モニターの先には、激昂をかます、黒狼。

 

どうやら無視して攻撃を受け続けたのが、よほど気に食わないようです。

 

「今更、どっちでもいいわよ、そんな事ッ」

「あの、その火球しまって貰ったりできませんかね……」

 

「今更命乞い? 涼しい顔して受けて見なさいよッ」

「受けれないから困ってるんですよね……」

 

黒狼の両手に用意されるは、先より巨大な火球。

 

振動(ロリィ)が左右に避けようとも当たると言ってますし、回避は不可。

 

「ならば、撃たれるよりも早く仕留めれば────」「────私の魔法の方が早いに決まってるでしょッ!!」

 

ペダルを踏み込んだ瞬間に、撃ちだされる魔法。

 

そして戦鋼は軌道修正不可なほど、真っすぐに直進。

 

(マズったッ……いや、そんな事を考えている場合ではないです)

 

巨大火球直撃までのカウントダウンは後────3秒ッ!!

 

『お兄ちゃん……これ、激突する』

「なんとかしてみせますっ」

 

2秒前。戦鋼の装甲が焼けます。

 

この威力、火球を防がなかったら焼死。防いでも熱量で死は確定でしょう。

 

『ごめんなさい……ロリィが防壁を解除できないから』

「大丈夫ですっ、なければ数秒前に死んでますっ」

 

1秒前。モニターが白色に染まり、戦鋼に温度上昇を告げるアラームが多数。

 

せめて防壁が任意で────いや、待ってください。

 

振動(ロリィ)は言っていました、“この防壁は私の魔力で展開されてい“と。

 

ならば、()()()()()使()()()()()、しまえば。

 

「跡形もなく消えなさいッ────」「────タイミングは刹那のフレームっ!」

 

0秒前。絶対防壁が魔法を攻撃を、熱量に変換した、その瞬間。

 

温度が200度に到達し、体内水分が全て蒸発するその前に。

 

「────魔法“???”発動っ!!」

 

体を襲う強烈な怠惰感。歪む視界、飛びそうになる意識。

 

二度目とは言え、全魔力を持っていかれる感覚は死ぬほどツライです。

 

『なに、この魔法……お兄ちゃんが危険すぎるッ』

「そういえば、この先を考えていませんでした、ね」

 

『せめて加速が始まるより先に……間に合ってッ!!』

「なにを「ギュイン────」────あれ、耳が」

 

耳が聞こえなくなり、体に感じるは、コロシアムの壁の感触。

 

衝撃と、痛みと、疑問が一気に体を襲います。

 

(声が出ない、喉が完全につぶれている? なにが、いったい何が起こったんですか⁉)

 

「ありえない、巨人が炎を纏うなんて────……」

 

下から聞こえるは、ミンチの如く潰れた黒狼の声。

 

どういうこと?、と思考する間もなく、私の視界は完全にブラックアウトするのでした。

 

◇◆◇

 

後に、借金王ゴンスの外道試合:その1 と記される、この試合。

 

おこなわれた行為は最低ながらも、珍勝負、名勝負として人々に愛されます。

 

それはひとえに、外道戦術からの、劇的なクライマックスによるものと専門家は話します。

 

 

決着は────炎となった巨人が、閃光よりも速く、狼を貫く。

 

それこそが、借金王ゴンスの“伝説の幕開け”であった、為と。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。