【ギルド総本山/麓・工房・内部 [現地時刻 朝】
瞼を開けると目に入るは、工房の天井。
床がきしむ音は、二つほど。
もちあげた手にはぐるぐる巻きの包帯。
「────あのー、お腹がへりました」
「起きた第一声がそれかニャ」
「いいんじゃない。どこにも異常がないってことでしょ?」
呆れた二人の声。
視界に入ってくるは娘娘猫と、ツインテさん。
「まっ、ちょっと待つニャ。朝飯の残りを持ってくるニャ」
「要らないでしょ。非常食でもぶち込んどきなさいよ」
ツインテさんが取り出すは、見慣れた栄養バー。
「いや、そんなモノどこから取り出したのニャ」
「こっちの方が栄養が高くて一発よ」
パッケージを剝いて取り出される、パサパサな固形物。
総本山で売っているところは見た事ありませんし、どこで手に入れたのでしょうか。
「それよりもツインテさん、私は「えいッ」────ふぐっ」
「なーに、シケた面してんのよ。アンタにはまだ戦ってもらう必要があるのよ」
「もっ、もごもご(えっ、私は勝ったんですか)」
「呆れた。ホントに何も覚えていないのね」
ジト目でこちらを見つめるツインテさん。
視線には、バレないように引っ張り出すのは大変だったんだから、と書かれています。
「キイロニャ、キイロニャ、動けるようになったらでいいから、見て欲しいモノがあるニャ」
「えっと、今からでも大丈夫ですけど」
「いや、回復魔法も受けてないのに────いや、ニャんでもう動けるニャ?」
化け物を見るような顔をする、娘娘猫。
私は何事も無いように立ち上がり、包帯を外していきます。
「おかしいニャ、昨日まで重体だったハズニャ」
「アンタが勝手に回復魔法をかけたとかじゃないの?」
「薬草は練り込んだけど、そこまではしてないニャ……」
手には傷の跡こそありますが、問題なく動きます。
感覚的には、筋肉痛から復活したぐらいの体の調子でしょうか。
「怪我がそんなに酷かったんですか?」
「正直、対戦相手よりはマシなレベルニャ」
「全身ミンチになってないだけマシって感じよ」
思っていたより、ヤバい状態だったようです。
「ですが、そうすると一体誰が……?」
私は首を傾げますが疑問に答えてくれる者はおらず。
ロリィ……頑張った、と、懐にいれていたペンダントが振動したような気がするだけでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・工房横・戦鋼用仮設場所 [現地時刻 朝】
買い取った工房。二階はぶち抜かれ、無理やり大型のクレーン魔導具が配置されている工房内部。
娘娘猫さんが、灯りをつけ、部屋の中が明るくなります。
「これが見て欲しいモノ」
「正直、いってかなりマズい状態ニャ」
照らされるは、脚部のみとなった戦鋼。
右足の先は存在しておらず、丸太が補助でついています。
「ボロボロ……ですね」
上半身はクレーンで宙に吊り下げられ、痛々しいほどに、全体が布で覆われています。
特にひどいのは正面装甲。まるで隕石に激突した如く、凹んでします。
「変装用の鎧はすでに直してあるニャ」
「そっちはもう直せたんですか?」
「いいや。キイロニャが丸一日寝ていただけニャ」
私が寝ている間に、ゴンスさんたちと丸一日修復作業をしていたそうです。
「鋼鉄巨人の線をつないだり、鎧を着せたりすることはニャでも出来るニャ」
でも、どうしようもならないモノもあるニャ、と娘娘猫はある部品を取り出します。
肉球の上にのっているのは、破損した板切れ。
「電子回路ですか……」
「そうニャ。これだけはニャでもイマイチ原理が分からないニャ」
戦鋼【PN-K2】にも電子回路は使われています。
回路にしては昔ながらの巨大なモノで、工具とパーツさえあれば簡単に直すことの出来るモノです。
「完全にチップごと焼き切れてますね、これは」
「そうなのニャ?」
「はい、現状、取り替えなければ戦鋼を動かすのは難しいです」
ですが、異世界にコンデンサ、抵抗等が売っている訳もなく。
手元にあるのは、射撃用の的として売られていた、戦鋼の残骸のみ。
「残りの予備パーツはどのぐらいですか」
「正直、直せるかも怪しいラインニャ」
「なによりの問題は次の試合ニャ」
「次の試合と言っても……もしかして」
次の試合は、本戦1回戦目の翌日。
つまるところ、今日ということ。
「午後の会場入りまでに直し終わるのは、まあ不可能だニャ」
「白旗でも降りたい気分になってきますね」
「でも、それをするのは本当にどうしようも無くなったときニャ」
娘娘猫はスパナを肩に担ぎ、肉球で頭を搔きます。
ランプに照らされた姿は、意地ても直す、といった様子。
「安心してください、私も手伝いますから」
「それは心強いニャ」
「かならず試合までに直して「やー、妹ちゃん元気になったー?」────あのー」
薄暗い工房内部にさしこむ、日光。
入り口を盛大に蹴っ飛ばしたのは、紫髪の美女。
「あれ、とりこみ中だったかしら?」
「人生で5番目に言ってみたいセリフ中でした」
「ならー、問題ないかー。はい、お見舞い品」
ギルド主任はいつも通りの笑顔で。手渡されるは、籠に入った、果物と今回の作戦書。
「凄く有難いんですが、現状、戦鋼が壊れてまして……」
「あー、この機械巨人くんが?」
「そうです。なので考えてもらった作戦も使えないというか」
「うーん、まあ大した問題じゃないかなー」
「いやいや、そもそも大会に参加できない可能性が」
「今からならハリボテぐらいは間に合うでしょ」
「それぐらいなら大丈夫ですけど」
なら、とばかりにギルド主任は、一本の短刀を取り出します。
その先からは禍々しいほどのオーラが。
「えっと、これはどういう」
「一刺しでだいたい3時間は気絶するから」
「でも、この大きさじゃ戦鋼は持てませんし……」
違う違うと首をふる、ギルド主任。
どういうことですか、と首を傾ける、私。
「────ほら、妹ちゃんが開始前にブスリと」
短刀をもって分かりやすくジェスチャーしてくれる、ギルド主任。
「いやいや、それって犯罪じゃ……」
「大丈夫、ルールに対戦相手を殺しちゃいけない、なんて無いから」
「でも、中にはギルド職員がいるんじゃ「はい」────あの、これ」
追加で渡されるは、コロシアム内専用のギルド制服。
きちんと2着分あり、採寸もピッタリとなっています。
「ほら、頑張って対戦相手をヤってみよう」
かくして、試合前サイレントアサシンミッションが開幕するのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム・戦いの場 [現地時刻 昼】
「はぁはぁ、な、なんとか間に合いましたね」
『二度とこんなことに誘うんじゃいわよ、アンタ……』
疲れ果てているのは二人の少女。
私はハリボテの操縦席内部で、ツインテさんは入り口の壁に寄りかかっています。
『まさか最終的に魔導具配線を弄って、灯りを消すハメになるとか……』
「邪魔だからといって、刺した警備員さんたちは大丈夫でしょうか」
『泡吹いてたけど、大丈夫なんじゃない』
そんな二人の声に割り込むは、実況の声。
「皆さん大変な事になりましたッ────王宮魔法使いクルモ選手が、未だに現れていませんッ!!」
現在ギルド総出で捜索中です、と天井に表示されます。
内部からは“死亡確認はされてないぞ”、“なんで反応がコロシアムからあるんだよッ”というギルド職員の騒ぎ声が聞こえます。
「すっごい騒ぎになってますね」
『大丈夫、絶対に見つからない自信があるから』
「私もその点だけは同意します」
おそらくギルド職員総出で探したところで見つからない謎の自信。
そして見つかったとしても手遅れという、ギルド主任の隠し場所の提案。
「やっぱり戦いの場のルールを改変した方がいいと思うんですよね……」
『試合が終わるまで、選手2人以外入れないのに問題でも?』
「問題と言うか「ぐーzzz」────やっぱり二人は狭いですね」
視線をやれば、そこには寝顔を浮かべる、クルモ選手。
彼は有名な魔法使いらしいのですが、まさか闇討ちされるとは思っていなかったらしく、あっさりと刺すことができました。
「き、規定によりますと、あと30秒以内に登場できなければ、本戦失格扱いとなります」
焦っている実況にとぶは、観客のヤジ。
「ふざけるなぁ」
「死亡記録をきちんと見直したのかァッ」
「あのゴンスだって試合には参加してんだぞッ」
ブチ切れる観客。ですが飛び交う声もむなしく、時間になります。
「時間です。これにてクルモ選手は失格。ゴンス選手の不戦勝となりますッ」
「終わりましたね」
『あとは帰ってそいつを放置すれば完璧よ』
「そうですね。はやく戦鋼を動かして「バキッ」────ん?」
突然ですが、応急処置というものは一時しのぎの措置にすぎません。
なので無理に動かしてしまうと、修理した部分が壊れてしまうこともあります。
今回は運が悪く、この応急処置を正面装甲に多くしていました。
その為、操縦席周りの装甲が落ちたりすることがあっても不思議ではありません。
「……完全に落ちましたね」
『ここからでも分かるぐらい人型のモノが落ちてんだけど』
涼しい風が吹き込む、戦鋼操縦席。
横にいた人物もいなくなり、空間も開放的になっています。
「────おい、あれって人間じゃね?」
当然、コロシアム中心部は砂地面ですから、観客からも落下物はよくわかります。
「あれって、王宮魔法使いのクルモじゃね」
「でも、今ゴンスの腹から出てこなかったか」
「おいおい、そんなわけが、あるかもしれねぇな」
そんな観客の疑問は、瞬く間に広がり、彼らには一つの結論が浮かびます。
「「「もしかして、開幕にアイツが殺ったのでは……⁉」」」
そんな真実でしかない結論に。
嫌な予感を感じた私。どうやら通話越しのツインテさんも同じようで。
「ツインテさん、さっさと撤収しましょうっ」
『奇遇ね。私も同じ考えよッ』
ポコンポコン。投げられるは、大量のドリンクカップ。
フランクフルトの串、おかしの袋、なんなら魔法まで飛んできます。
「ふざけんなァ」
「入場料かえせェ、借金王ッ」
「試合せずに勝利とか舐めてんのかァ」
私はもうしわけ程度に戦鋼を操作して、頭部カメラをふらせておきます。
事実だとしても、否定する意志は大事です。
「あのー、ツインテさん、なんでしょうかこの気持ちは」
『いいんじゃないの。彼を気絶させるの意外と結構大変だったし』
「いや、そういう事じゃないんですが……」
この後、コロシアム中心部を掃除するのに30分以上かかり、クルモ選手が発掘されるのは1時間後のお話となります。
コロシアムにおける数十年ぶりの開幕討伐戦法。それを見事成し遂げたゴンス選手には批判9割、称賛1割。
見事、彼の悪名を広げることに成功するのでした。
数十年後、新・コロシアム三大戦法にもまとめられるこの事件は、入場後も選手にギルド職員が付きそうというルール改定の理由にもなったそうです。
────借金生活6日目終了
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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