紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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77 少女と地下と動き出す現状

【ギルド総本山/地下/末端 [現地時刻 昼]】

 

薄暗い階段を下に降りるのは、サーカスの仮面をかぶった老人と、金髪片角少女(わたし)です。

 

イケメン騎士さんは、気づけばどこかではぐれてしまいました。

 

少しだけ不安になった気持ちをあらわすように、石でできた階段にうつる影がゆれます。

 

「足元にお気をつけを」

「ありがとうございます」

 

そこはギルド総本山の地下と呼ばれる場所でした。

 

「壁は金属なのに、階段は石なんですね」

「ここは所詮、増築した場所にすぎませんから」

 

数分ほど歩くと、開けた場所にでて、建物やテントが並びます。

 

そしてその奥に、大きな屋敷がありました。

 

「薄暗い地下にこんな大きな街が」

「街と言うには小さく、人が住むには足りない場所ですよ」

 

サーカスの老人は、教えてくれます。

 

「ここにもたくさんの人が住んでいるのですか」

「ええ、大半が地上にいられなくなった者たちですがね」

 

屋敷の周囲にはよりかかるように座っている者もいれば、横になって寝ている者もいます。

 

そんな中の一人が、サーカスの老人に声をかけてきます。

 

「サーカスさん、彼女は」

「彼女はゴンス様の嫁殿ですよ」

 

「おお、あのゴンス様の……」

「そうです。何か気になることでも」

 

「いや、その……あとでサインとかお願いできたりしますかね」

「ふっふっふ……そうですね、あとで嫁殿に聞いておきます」

 

がっちりとした握手を交わしたあと、彼はどこかにいってしまいます。

 

いや、そこまでしてゴンスさんのサインって、欲しいものでしょうか?

 

自分で言えたことではありませんが、人気になるような戦いはしてませんし。

 

「あの────ずいぶん、ゴンスさんが人気なんですね」

 

何気ない感想です。

 

ですが、サーカスの老人にとっては違った様子。

 

眼が光り、これはチャンスとばかりに、私に詰め寄ってきます。

 

「そうですぞ。そうなんですぞ────分かってくれましたか、嫁殿ッ」

 

さらに口調も早口に、

 

「いいですか、我々は卑怯、卑劣、悪魔、と言われる程、なんでもアリの戦術が大好きなのです──────」

 

「ですがそれを、ギルドの連中は、姑息だの、冒険者らしからぬだの、あげくの果てにはブラックリスト(蘇生対象外)にいれるなど、酷い仕打ちをしてくるのです─────」

 

「ですが、そんなとき知ったのです。このゴンス様という存在を────」

 

「我々が陰に潜んでこそこそやっている中、彼だけは陽の元でどうどうと悪事を働いていた───」

 

「たとえ、周囲からなんと言われようとも、貫き続けるその精神──」

 

「もうですね。最初から応援していたサーカスとしては、涙が止まりません─」

 

「そして決勝まで進まれた、その実力ぅッ。これを崇めず、だれを崇めろというのですかッ!!」

 

ガッツポーズをして、私に熱く語ってくれるサーカスの老人。

 

その熱量は、周囲の人々にも届いていたようで、

 

「「「めっちゃわかる!!」」」

 

みなさん、首が壊れそうになるぐらい頷いています。

 

どうやら知らぬうちにゴンスさんは、地下で大人気になっていた模様です。

 

「さ、さ、中でおくつろぎになって」

 

サーカスの老人に勧められるがままに、私は大きな屋敷におしこまれるのでした。

 

【ギルド総本山/地下/末端 [現地時刻 昼]】

 

屋敷には、室内を満たすだけの灯りがともされていました。

 

案内された部屋には、木のチェアと、丸いテーブル、そして金銀財宝が乱雑に置いてありました。

 

「少々汚いですが、くつろいでくれて構いませんよ」

「あの、気持ちはありがたいんですが……」

 

言葉につまってしまう私。

 

私の気持ちをみすかしたように、サーカスの老人は言葉をかけてきます。

 

「嫁殿はどうしてもギルドに行きたいのですかな」

「はい」

 

決勝戦、獣王との戦いにいおいて、私は“何か”が足らない気がしています。

 

その“何か”を探す為にも、私は体はギルドに向かいたいと思っているのです。

 

「────サーカスさん、連絡です」

 

私が思案していると、急いでいる男がやってきました。

 

「なんですか」

「知らせが」

 

「では前者から」

「先ほど、部下から見張っていた工房が襲撃されたとの報告が」

 

「へっ⁉」

「それで結果は」

「襲撃者全員を殺害しておきました」

「よろしい」

 

サーカスの老人は、とりだした杖を床に打ちつけます。

 

「つづいて後者を」

「ゴンス様の大会辞退を望む、署名があがっています」

 

「冒険者ギルドから、でですか」

「いえ、民衆からです」

 

「誇張された悪評は潰していたハズですが」

「どうやら、意図的な大会の切り抜き映像が、放映されていまして」

 

「首謀者の裏付けは」

「白の教徒の上部がギルド総本山に」

 

「よろしい、監視を継続してください」

「わかりました」

 

サーカスの老人が言い切ると、連絡役の男は去っていきました。

 

視線を私に切りかえて、老人は諭すように語りかけます。

 

「というわけです、嫁殿。外に行かれるのはオススメできませんぞ」

「すみません、ちょっと状況についていけなくて……」

 

警備の追加から始まり、工房への襲撃、そして署名騒動。

 

なんというか、全てが早急に起こりすぎるていると感じます。

 

「大方、裏で糸を引いている者がいるのでしょう」

「そんなことしなくてもいい気がしますが……」

「よく見える者ほど、万が一を恐れるのですよ」

 

笑っているサーカスの老人の眼には、誰かが映っているようでした。

 

そしてため息を1つ、つきます。

 

「ここまで聞いても決心は変わらないのですか、嫁殿」

「はい」

 

「やっかいな連中に、さらに民衆まで敵に回った状況ですぞ」

「それでもです」

 

「────それは今のままでは獣王に勝てないから、ですか」

 

「────はい」

 

私の回答に頭をかくのはサーカスの老人です。

 

そして、視線をあげて私の眼をじっくりみたあと、ふっと笑います。

 

「嫁殿はもうすこし、ひねくれた方がいいですぞ」

「え? 十分ひねくれている気がしますが」

 

「まったく、老人には眩しすぎるということを自覚してもらいたいですな」

「?」

 

「老害の姑息な作戦が失敗した程度に思っていただければ、結構ですよ」

「???」

 

混乱している私にたいして、まあ大したことではありません、といった声をだす、サーカスの老人です。

 

彼は部屋の明かりを大きくして、杖で床を二回たたきます。

 

すると、ギルド総本山の図面が運ばれてきました。詳細なルートも書き込まれた、精密な地図です。

 

「ですが、ギルドに入るのは簡単ではありませんぞ」

「分かっています。ですが、方法も考えています」

 

それは、白の教徒に化けるというもの。

 

彼らは常時布を被っていますから、ギルドに問題なく辿りつけるはずです。

 

「例え、白の教徒に化けたとしても、ギルド内部には鑑定持ちの職員が駐在してますので、すぐに見抜かれますでしょう」

「あの、まだ……何も言ってないんですが」

 

「なにせ顔に描いてありましたから「ようやく見つけたぞ……サーカス」────遅いですな」

 

怨念のような声を呟くのは、ボロボロになった騎士。

 

犬耳がぴんとたって、不機嫌なのを隠さないイケメン騎士です。

 

「あと15分ほど早く着くと思っていましたが」

「なら、いったいどれだけの罠を仕掛ければ気が済むんだい」

 

「罠? そんなものありましたっけ」

「ええ、嫁殿の時はふまないように案内しておりました」

 

サーカスの老人は、杖で床を3回たたきます。

 

すると、奥から3人分のお茶が運ばれてきました。

 

「さて、いい機会ですので彼も巻き込んで考えましょう」

「僕は悪党の片棒を担ぐつもりなんて無いけどね」

「冗談はよしてください。ここまで一人で来ているのがいい証拠ですよ」

 

楽しそうな声をして、サーカスの老人は話を始めるのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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