【ギルド総本山/地下/末端 [現地時刻 昼]】
薄暗い階段を下に降りるのは、サーカスの仮面をかぶった老人と、
イケメン騎士さんは、気づけばどこかではぐれてしまいました。
少しだけ不安になった気持ちをあらわすように、石でできた階段にうつる影がゆれます。
「足元にお気をつけを」
「ありがとうございます」
そこはギルド総本山の地下と呼ばれる場所でした。
「壁は金属なのに、階段は石なんですね」
「ここは所詮、増築した場所にすぎませんから」
数分ほど歩くと、開けた場所にでて、建物やテントが並びます。
そしてその奥に、大きな屋敷がありました。
「薄暗い地下にこんな大きな街が」
「街と言うには小さく、人が住むには足りない場所ですよ」
サーカスの老人は、教えてくれます。
「ここにもたくさんの人が住んでいるのですか」
「ええ、大半が地上にいられなくなった者たちですがね」
屋敷の周囲にはよりかかるように座っている者もいれば、横になって寝ている者もいます。
そんな中の一人が、サーカスの老人に声をかけてきます。
「サーカスさん、彼女は」
「彼女はゴンス様の嫁殿ですよ」
「おお、あのゴンス様の……」
「そうです。何か気になることでも」
「いや、その……あとでサインとかお願いできたりしますかね」
「ふっふっふ……そうですね、あとで嫁殿に聞いておきます」
がっちりとした握手を交わしたあと、彼はどこかにいってしまいます。
いや、そこまでしてゴンスさんのサインって、欲しいものでしょうか?
自分で言えたことではありませんが、人気になるような戦いはしてませんし。
「あの────ずいぶん、ゴンスさんが人気なんですね」
何気ない感想です。
ですが、サーカスの老人にとっては違った様子。
眼が光り、これはチャンスとばかりに、私に詰め寄ってきます。
「そうですぞ。そうなんですぞ────分かってくれましたか、嫁殿ッ」
さらに口調も早口に、
「いいですか、我々は卑怯、卑劣、悪魔、と言われる程、なんでもアリの戦術が大好きなのです──────」
「ですがそれを、ギルドの連中は、姑息だの、冒険者らしからぬだの、あげくの果てにはブラックリスト(蘇生対象外)にいれるなど、酷い仕打ちをしてくるのです─────」
「ですが、そんなとき知ったのです。このゴンス様という存在を────」
「我々が陰に潜んでこそこそやっている中、彼だけは陽の元でどうどうと悪事を働いていた───」
「たとえ、周囲からなんと言われようとも、貫き続けるその精神──」
「もうですね。最初から応援していたサーカスとしては、涙が止まりません─」
「そして決勝まで進まれた、その実力ぅッ。これを崇めず、だれを崇めろというのですかッ!!」
ガッツポーズをして、私に熱く語ってくれるサーカスの老人。
その熱量は、周囲の人々にも届いていたようで、
「「「めっちゃわかる!!」」」
みなさん、首が壊れそうになるぐらい頷いています。
どうやら知らぬうちにゴンスさんは、地下で大人気になっていた模様です。
「さ、さ、中でおくつろぎになって」
サーカスの老人に勧められるがままに、私は大きな屋敷におしこまれるのでした。
◇
【ギルド総本山/地下/末端 [現地時刻 昼]】
屋敷には、室内を満たすだけの灯りがともされていました。
案内された部屋には、木のチェアと、丸いテーブル、そして金銀財宝が乱雑に置いてありました。
「少々汚いですが、くつろいでくれて構いませんよ」
「あの、気持ちはありがたいんですが……」
言葉につまってしまう私。
私の気持ちをみすかしたように、サーカスの老人は言葉をかけてきます。
「嫁殿はどうしてもギルドに行きたいのですかな」
「はい」
決勝戦、獣王との戦いにいおいて、私は“何か”が足らない気がしています。
その“何か”を探す為にも、私は体はギルドに向かいたいと思っているのです。
「────サーカスさん、連絡です」
私が思案していると、急いでいる男がやってきました。
「なんですか」
「知らせが」
「では前者から」
「先ほど、部下から見張っていた工房が襲撃されたとの報告が」
「へっ⁉」
「それで結果は」
「襲撃者全員を殺害しておきました」
「よろしい」
サーカスの老人は、とりだした杖を床に打ちつけます。
「つづいて後者を」
「ゴンス様の大会辞退を望む、署名があがっています」
「冒険者ギルドから、でですか」
「いえ、民衆からです」
「誇張された悪評は潰していたハズですが」
「どうやら、意図的な大会の切り抜き映像が、放映されていまして」
「首謀者の裏付けは」
「白の教徒の上部がギルド総本山に」
「よろしい、監視を継続してください」
「わかりました」
サーカスの老人が言い切ると、連絡役の男は去っていきました。
視線を私に切りかえて、老人は諭すように語りかけます。
「というわけです、嫁殿。外に行かれるのはオススメできませんぞ」
「すみません、ちょっと状況についていけなくて……」
警備の追加から始まり、工房への襲撃、そして署名騒動。
なんというか、全てが早急に起こりすぎるていると感じます。
「大方、裏で糸を引いている者がいるのでしょう」
「そんなことしなくてもいい気がしますが……」
「よく見える者ほど、万が一を恐れるのですよ」
笑っているサーカスの老人の眼には、誰かが映っているようでした。
そしてため息を1つ、つきます。
「ここまで聞いても決心は変わらないのですか、嫁殿」
「はい」
「やっかいな連中に、さらに民衆まで敵に回った状況ですぞ」
「それでもです」
「────それは今のままでは獣王に勝てないから、ですか」
「────はい」
私の回答に頭をかくのはサーカスの老人です。
そして、視線をあげて私の眼をじっくりみたあと、ふっと笑います。
「嫁殿はもうすこし、ひねくれた方がいいですぞ」
「え? 十分ひねくれている気がしますが」
「まったく、老人には眩しすぎるということを自覚してもらいたいですな」
「?」
「老害の姑息な作戦が失敗した程度に思っていただければ、結構ですよ」
「???」
混乱している私にたいして、まあ大したことではありません、といった声をだす、サーカスの老人です。
彼は部屋の明かりを大きくして、杖で床を二回たたきます。
すると、ギルド総本山の図面が運ばれてきました。詳細なルートも書き込まれた、精密な地図です。
「ですが、ギルドに入るのは簡単ではありませんぞ」
「分かっています。ですが、方法も考えています」
それは、白の教徒に化けるというもの。
彼らは常時布を被っていますから、ギルドに問題なく辿りつけるはずです。
「例え、白の教徒に化けたとしても、ギルド内部には鑑定持ちの職員が駐在してますので、すぐに見抜かれますでしょう」
「あの、まだ……何も言ってないんですが」
「なにせ顔に描いてありましたから「ようやく見つけたぞ……サーカス」────遅いですな」
怨念のような声を呟くのは、ボロボロになった騎士。
犬耳がぴんとたって、不機嫌なのを隠さないイケメン騎士です。
「あと15分ほど早く着くと思っていましたが」
「なら、いったいどれだけの罠を仕掛ければ気が済むんだい」
「罠? そんなものありましたっけ」
「ええ、嫁殿の時はふまないように案内しておりました」
サーカスの老人は、杖で床を3回たたきます。
すると、奥から3人分のお茶が運ばれてきました。
「さて、いい機会ですので彼も巻き込んで考えましょう」
「僕は悪党の片棒を担ぐつもりなんて無いけどね」
「冗談はよしてください。ここまで一人で来ているのがいい証拠ですよ」
楽しそうな声をして、サーカスの老人は話を始めるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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