【ギルド総本山/地下/屋敷 [現地時刻 昼]】
サーカスの老人と、イケメン騎士は丸机のまえにたっています。
「では、肝心の作戦をどうするかですな」
「僕としては大人しくしてほしいところなんだけど」
「私も同じ気持ちですが、嫁殿は違う様子ですからな」
金髪片角少女は、机に置かれた地図とにらめっこをしていました。
すでに提案した案は10を越えます。ですが、そのどれもが現実的ではないとボツになりました。
「ぐぬぬぬぬ」
すでに私の頭はオーバーヒート気味です。
「こんな時に────がいれば」
ふいに口に出るのは、名前すらわからない人物への頼り癖。
私はいったい誰の力を求めているのでしょうか。
「サーカス、彼女の力になるなら、もう少し助けてはやらないのかい?」
「私としても嫁殿が地下にいることに異議はありませんからね」
「だとしても、彼女が相当、煮詰まっているように思えないかい」
「騎士様はずいぶん優しいですねえ」
サーカスの老人はしかたないといった口調で、私に声をかけます。
「いいですか、自分の力というものはどこかで限界がくるものです」
「限界、頭が、?」
「ようは考え方です。視点を他者として考えてみるものですよ、嫁殿」
「言葉がまわりくどすぎて、わからない、です」
ちんぷんかんぷんな私に助け舟をだすように、イケメン騎士が口をひらきます。
「ようは、他人の思考を模倣してみろってことだと思うよ」
「思考を模倣?」
「そうそう。人間には得意不得意があるからね。得意な人間になって考えてみるってことかな」
「それなら……」
私の頭に浮かぶのは────赤髪の女性。
彼女は呆れているように私を見てめて、仕方ないといった感じで、
『いいか、馬鹿『はいはい、邪魔邪魔ー』────って何をする、キサマ』
頭の中では、赤髪の女性が蹴っとばされて、紫髪の美人なおねーさんがでてきました。
『何って、ちょっと思考の邪魔かなーって』
『はぁ、私以外いないだろ、この状況で助けをだすのはッ』
『直進以外、辞書になさそうなのはちょっとなー』
『あァん、それは私に喧嘩を売っているのか』
『はいはい、帰った帰った』
『なっ、キサマこんの魔法をいつのまにッ』
赤髪の女性は、脳内からログアウトするように消えていきます。
そして最終的に残ったのは、美人なねーさんこと、ギルド主任でした。
『というわけで、美人で誠実なおねーさんの、授業のはじまりはじまりー』
「あれ、おかしいですね、このイメージ」
なんか楽しそうにウィンクしてますし、ほんとにコレ脳内の話なんでしょうか。
細かいことは気にしないとばかりに、ギルド主任(妄想)は口を開きます。
『いい、こういう時は、ちゃぶ台をひっくりかえす────これが一番』
「ちゃぶ台をひっくり返す?」
『例えば、自分が悪、相手が正義なら、この条件をひっくり返すみたいにね』
「な、なるほど」
ざっくりとした表現ですが、いいたいことはなんとなく理解しました。
『まっ、これはまだ初級だから、やる気があれば今後ともよろしくー』
「えっ、初級……どゆこと」
『ちなみに、あまり一人で話していると心配されちゃう、ぞ』
美人なおねーさんのウィンクによって、現実の感覚がひき戻される私。
はっとしたとき、周囲には、笑っているサーカスの老人と、真剣に心配してくれるイケメン騎士の2人がいました。
「いや、別に独り言を話す、ヤバい奴とか、そんな癖はないですからね⁉」
口からとびでる慌てたような私の発言。
同じようなことを昔よく言っていた気がしますが、なぜでしょうか。
そんな気持ちになりながら、思いついたアイディアを説明する、私でした。
◇
【ギルド総本山/地下/屋敷 [現地時刻 昼すぎ]】
地図には赤丸と、黒線が乱雑にかきこまれていました。
そして、可愛らしい字で、作戦書とかかれた書類には、内容が書き込まれています。
「────というのはどうでしょうか」
最後まで、説明を終えた私が感じたのは、疲れでした。
「中々に面白いですな」
「賛成できない考えだね」
私の計画をきいた二人の反応は、正反対でした。
サーカスの老人は、楽しそうに頷き、
イケメンの騎士は、苦い顔で腕を組んでいました。
「まったく、そろそろ自分の気持ちに素直になったらどうです、騎士殿」
「素直? 僕は自分にさえ真摯に向き合っているが」
「いいか、僕は聖女が、民が危険になることには賛成はしない。むしろこの作戦を止めてみせる」
「大いに結構ですよ。ですから、“止めるため”にも協力してもらえますな、騎士殿」
どういうことだい、と言った顔になるイケメン騎士。
サーカスの老人は楽しそうに、私の作戦書に手をいれていきます。
「なに、嫁殿がここまで頑張っているのですから、サーカスもこの作戦にひと捻りいれようかと」
「ちょっとまて。絶対余計なことになるから止めてくれ」
騎士の制止がなんのその、サーカスの老人はまずは場所の変更から始めます。
「まずは、せっかく優秀な冒険者がいるのですから、利用しない手はありませんよね」
次には、襲った後の行動。
「やることはもっと派手にしましょう」
「これ、派手というか、アウトなんだけど」
「そのための騎士殿ですから、頑張ってくださいな」
そして最後に、捕まったときの言い訳が立つようにします。
今回は、ギルドルールの悪用でもしますか、と老人は書類に付けたしを始めます。
「嫁殿は“依頼”というものを受けたことはありますかな」
「それは、ギルドで受けられる依頼ですか」
「そうですぞ。その中でも危険性の高いモノを“緊急依頼”として更新することがあるのですぞ」
「その話がどう関係するのですか?」
「緊急依頼はその性質上、冒険者にもそれなりの権利がもらえましてな」
「それは決してこういうために使うモノじゃないんだけどね」
「まあ、嫁殿の名前は、パーティにこっそり入れておきましょう」
そうして1時間の話し合いの結果、
そこには────最初とは似ても似つかない作戦が出来上がっていました。
「あの、私の原案はどこに……」
「はっはっは、つい老心に火がついてしまってですな」
快活にはっはっはと笑う老人、横には、頭を痛めているイケメン騎士です。
「これ僕が参加しないと絶対成り立たないものになってない」
「大丈夫ですぞ。参加しなければ、被害が増えるだけなので」
「まったく……こんな作戦書の話を聞くんじゃなかったよ」
諦めたようにイケメン騎士は、両手をあげます。
それは渋々ながらも、作戦に参加してくれるといった感じです。
「さて、騎士殿の腹も決まったことですし、部下には急いで準備をするように声をかけましょう」
「私も急いで準備をします」
「そう慌てなくていいですぞ。なんせギルドは逃げませんからな」
「ですが時間は有限なので、やっぱり急ぎますっ」
私がどたばたと走り出し、机上の作戦書がふわりと捲れます。
可愛らしい字でかかれている作戦名は────ホワイト・イーター。
目的は、白の教徒の排除、そしてギルドへの侵入です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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