紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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79 騎士と老人の余談

【ギルド総本山/地下/屋敷 [現地時刻 昼すぎ]】

 

私が準備に取り掛かっているあいだのお話です。

 

部屋にはイケメン騎士と、サーカスの老人だけが残っていました。

 

「騎士殿は準備をしなくてもいいのですかな」

「僕はサーカスという人物を、完全に信用したわけじゃいないのでね」

「はっはっは、それは手厳しい」

 

これは彼と、サーカスの老人の、余談。

 

本来は書かれるはずのない裏事情といったものでしょうか。

 

「サーカス、君は彼女に協力してなにをするつもりだい」

「なにもしませんぞ。ただ老人の親切心ゆえ」

「親切心? 数年前の戦争で、最も殺した殺人者がいう台詞にはみえないが」

 

イケメン騎士の眼は、冷静です。

 

いまでは地下で暮らすしかないこのサーカスという老人は、数年前の異世界との戦争では、最凶の冒険者の一人でした。

 

「懐かしい話をする騎士殿だ」

 

サーカスの老人は、椅子に腰をかけて、天井をみます。

 

それはゆっくりと、昔を思い出す、時間でした。

 

「たしかに、最も殺したのは間違いないでしょうな。ですが────最後にサーカスは負けたのです」

 

赤色が墜ちて、勇者の再来といわれる男に追い詰められて、最後の一手も封殺され、見逃された。

 

そんな苦い記憶の片隅で、老人が思ったことは、

 

「老いを感じたのですよ」

「あの、生涯現役といっていたサーカスがかい」

「体は全盛期より冴えていても、心が老いていたのですよ」

 

能力では全て上回っているハズであった。だけど彼には、何故か負けてしまった。

 

それは運ではなく、もっと必然的なモノであった。

 

そう気づいた老人は、その日から別の目的を得る事になります。

 

「後継となるものの発見、それが必要だと分かったのですよ」

「そして、それが彼女だと」

「ええ」

 

サーカスの老人が、大会の映像を見ていたのは、まったくの偶然でした。

 

たまたま仕事の息抜きに、見た、第一回戦。

 

「ゴンス様の戦い方を目にしたとき、私は感動以上のモノを覚えました」

「だから彼女を僕から引き離し、勧誘をしようとしたと」

「ええ、その通りですよ」

 

そして結果はこの様ですがな、とばかりに老人は頭をかきます。

 

「きっと彼女は、必死になって後継になってくれと頼み込めば、」

「間違いなく、了承はしてくれるでしょうな」

 

どうやら金髪片角少女が、必死になっている人の頼み事に弱い、という考えは一致しているようです。

 

ですが、サーカスの老人には、頼めない理由がありました。

 

「ですが、あんな眼をされてしまっては、言えるわけがないじゃないですか」

「彼女の眼がそんな特徴的だとは思わないけどね」

 

「騎士殿にはわかりませんか。あの、ゆるぎない決心を固めた眼が」

「決心? まあ一度決めたことはなんとしてもやり遂げそうな性格だけども」

 

よく分かっていない騎士を、サーカスの老人は鼻で笑います。

 

「これが老いですぞ────そういう信念をもった人物に、サーカスはもう勝てないのですよ」

 

それを聞いたイケメン騎士も、老人を鼻で笑います。

 

「サーカスともあろう人物がずいぶん甘くなったことで」

「まさか、騎士殿のほうこそ、甘くなりましたな」

「僕が? 僕は僕だよ。変わりないさ」

 

彼はいつもどおりの表情で、当然のように答えます。

 

いつのまにか“それ”が自然体となった彼には造作もないことでした。

 

「では、一人で嫁殿を監視しているのですかな」

「ギルドの意向でね」

 

「まさか、騎士様の意向でしょう」

「そんな証拠でもあるのかい」

 

サーカスの老人が床を四回たたきますと、机上に“緊急依頼”の複製書があらわれます。

 

そこには、ゴンスの抹殺、および彼のブラックリスト(蘇生対象外)の検討がされていました。

 

「いいのですかな。聖女の騎士たるものが、ギルドの意向を無視して」

「今回の件では、僕も腑に落ちていない点が多くある」

 

「ですがこれほどの強権は聖女にしかできないと思われますが?」

「聖女の人なりをしっているからこそ、納得できていないんだ」

 

彼が知っている聖女は、頭脳明晰で、つねに冷静な女性です。

 

ですから、今回の後手後手というか、急いで手を回した感のあるヘボ手は打たないであろうという信頼があります。

 

「まあ、そして一番の問題は────」

 

そんな事は些細なことなので、今回の件とはあまり関係ありません。

 

どちらかと言えば、彼にとって問題なのは、

 

「まさかゴンスの正体が、“少女”だとは思わないじゃないか」

「それに関してはまったく同じ気持ちですな」

 

いっそのこと知らなければ、こんなに悩むこともなかったのにと思う、老人と騎士なのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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