【ギルド総本山/ギルドラウンジ [現地時刻 夕方前]】
[ギルド半壊事件 捕獲上手な冒険者さんの調書より、抜粋]
あ? 俺か? 俺は中級ぐらいの冒険者。
昨日、実入りのいい依頼が入ってな。
前金でたっぷり貰えるんで。つい奮発しちまった。
だから、ギルドエントランスで料理を食っているんだが。
「相棒、そんなにがっつかなくてもいいだろ」
「うまい。うまい。うまいですよ。ラリーさん」
「まあいつものご飯に比べたら、格段にうめーのは分かるけどよ」
ギルドエントランスでの料理は、冒険者をもてなすための一級品。
味はもちろん、だが値段ももちろん、といった具合。
毎日エントランスで飯を食えれば一人前、なんて言葉もあるほどだ。
「しっかし“ うまい ”実入りのいい“ うまい ”依頼って“ うますぎる ”なんなんですか」
「わかったから、満足いくまで食べやがれ」
「あい“うまい”」
内容は、ギルドで暴れようとしている連中を鎮圧してくれって話だ。
まっ、指定された時間まで余裕はあったし、ウサギ耳の相棒と、呑気に飯を食っていたんだ、が。
「今日はいっぱい飯を食っている人がいますね」
「確かに……依頼では大パーティを組むだの、協力しろだの、と書いてあったな」
「いいんですか、そんな怪しい依頼受けちゃって」
「大丈夫だろ。ギルド直下の依頼だしな」
必要なモノ、煙幕消し、捕縛道具、その他もろもろ。
変な道具指定がおおい依頼だが、この金額を見せられては受けるしかないといった具合だ。
「そんなことより、悪党巨人ゴンスの討伐とかしにいきません?」
「いかねえよ。一人でやってろ」
「えー、嫌ですって、あんな凶悪な巨人族に一人で挑めるわけないじゃないですか」
「あのな。冒険者が冒険者を殺しすぎるとブラックリスト(蘇生対象外)にのるから気をつけろよ」
「へっ? ほえー、そうなんですか」
「それにああいう話は、表裏一体なんだよ」
「表裏一体? 東方の言葉かなにかですか?」
「竜の国にいったときに知った言葉だ」
ゴンスの評価は表裏一体だ。
街の住民や、真っ当な冒険者からはすごく嫌われている。
だが、それは裏を返せば、まっとうではない連中はすごく好むということ。
「水面下で変なことになってなければいいけどな」
「やめてくださいよ、ラリーさんの勘は当るんですから」
確かに俺の勘は冴えているな、と思いながらも、食事に手をのばし……止まる右手。
脊髄から奔る“危険信号”が、食事ではないナニカを訴えかけようとしていた。
「隠れた方がいいぞ、相棒」
「急にテーブルの下に潜るなんておかしな人ですね、ラリーさん」
つねに良いことと悪いことは、表裏一体だ。
俺の運が良かったのは、事前に攻撃を察知できたこと。
俺に運が無かったのは、壁側の席に座っていたということだ。
「早くしろ、間に「バヴォオオン」────ッ」
奥の壁が砕け散る。
飛散する瓦礫が、視界の8割をおおい、隙間から爆発的な風が流れ込んでくる。
手前にふっとばされ、掴んでいた机ごと、二転三転と床を転がり、地面にたたきつけられる。
「生きてるか、相棒……ちっ、無理か」
相棒の体は消し飛んで、俺の足首も消え去っていた。
支払うことになる蘇生料金に悪態をつきながら、俺が見たのは、
────逆光を背に、侵入してくるのは煤けた布を着た連中。
とくに巨体の奴は、地に伏せた冒険者を一瞥すると、興味を失ったように首を動かす。
「……邪魔ですね」
巨体は体の半分がなくなった俺を踏み抜いて、白の教徒の連中は、ぞろぞろと並びだす。
まったくなんだよ今日、は
◇
【ギルド総本山/ギルドラウンジ [現地時刻 夕方前]】
白の巨体────内部には戦鋼【PNK2】、操縦席には私がいました。
白布で遮光されてますから、モニターの灯りだけが、金髪片角少女の顔を照らします。
エンジン音が反響する内部で、小さな指が操作するのは、半分しか見えないモニターです。
「布が……邪魔ですね」
ピッピッ。拡大されるのは、ギルドのラウンジの様子。
「やけに皆さん、唖然としてますね」
呟きに反応して、耳元の魔法陣が回ります。
通信魔法のチャンネル:対象無し→ギルド闇派閥(周囲)、切替。
ボリュームバーが上がるように、魔法陣が伸びて、通信魔法に声が入ります。
「夕ご飯時には、刺激的過ぎましたかね?」
「ご飯時じゃなくてもびっくりすると思いますが」
「なら、もっとびっくりさせてやりましょう。嫁様、一発かませますか?」
「分かりましたよ……アドリブはこれっきりでお願いします」
「それは相手次第ですよ、嫁様」
「一体何と戦っているんですかね、私は……」
私は脳内で考えていた文章を思い出して、戦鋼の操縦管を押し上げます。
戦鋼の腕は天井に向かってあげられ、通信魔法が切り替わります。
通信魔法:闇派閥→外部出力[音声補正]、切替。
「聞け、軟弱なる冒険者の諸君──」
補正が通った声は、ドスが効いたものに、
「私は聖女の系譜にして、龍王を名乗る者───」
気持ちを込めれば、低音が調整されて威厳がたっぷりに、
「────すなわち、貴様らを一片残らず滅ぼすモノである」
せっかくなので大ぼらを吹いておきます。
「「「龍王、龍王、龍王ッ!!」」」
横並びしていた白の教徒(偽)たちも、タイミングを合わせたように叫びます。
いいですね。テンションが上がってきました。
「覚悟はできているか、冒険者? 我々は出来ている────」
「────この、一切を焦土に還すことを、いとわない覚悟はできているッ!」
「「「────我ら白の教徒ッ! 龍の力を借りて、軟弱なる冒険者を滅ぼすモノであるッ!!」」」
静まりながら、粗い熱気に包まれた空間は、完全に我々の雰囲気にのまれているギルドラウンジです。
ですが足音が聞こえ、動きだしている影は2つありました。
「皆さん、聞いてくださいッ」
1つはギルドの受付嬢です。
走り出せたのは、怖さよりも、職務を全うする気持ちが強かったからです。
彼女はクエストボード前で急ブレーキ────勢いそのまま、大きく振りかぶって、握りしめた判子を叩きつけます。
「「ドスンッ!!」依頼更新────現在、ギルドに登録されていた依頼:白の教徒討伐の危険度を上昇────報酬は10倍、“緊急依頼”に認定をしますッ!!」
よく響く声というべきでしょうか。流石と称賛するべきでしょうか?
静まりきっていたギルドにひびく声は、冒険者たちを湧きあがらせる一言になりました。
「なら、俺がッ」
「いいや、俺が受けるねッ!」
「俺にまかせてくれ、頼むッ!!」
冒険者たちはクエストボードに、波のように押しかけます。
そんな人波を割るようにひびくのは、イケメンで騎士な声です。
「────待ってくれ、その依頼は既に僕のパーティが受けている」
予定調和? まさか、たまたま先にイケメン騎士が依頼を受けていただけです。
「せ、聖騎士さまぁ」
「お、お前は聖女の番犬」
「め、眼鏡をかけている、本気だ」
そして当然のように、この老人の声も聞こえます。
「────ならば私も手を貸しましょうか」
なぜか、パーティに含まれているサーカスの老人ですね。
気合が入っているのか、サーカスの仮面はいつもより、磨かれたモノをつけています。
「サーカスのじいさんまで来たぞッ」
「おいおい、今日は槍でもふんのかよ」
「馬鹿、実況してないでさっさと逃げるんだよッ!!」
老練冒険者は、状況がのみこめてない冒険者をひっぱります。
「へっ、なんで」
「あの爺さんの二つ名は、“共殺し”なんだよッ」
「ほえ?」
「手あたり次第、ガスや爆弾で殺しちまう、碌でもねーじいさんなんだよ」
騒ぎ立てている冒険者達。
もうここまでくれば、ギルド内部で、誰かを疑ったり、捕まえたりする状況ではないでしょう。
あとは、サーカスの老人が、投げるガス爆弾────に見せかけた煙幕を起爆させて、作戦:ホワイト・イーターは終了です。
「意外と、うまくいきましたね」
思い付きで立案して、わずか数時間で決行された作戦ですが、予想以上にうまくいったきがします。
あとは、混乱に乗じて、ギルド主任を訪ねたり、内部の設備を────そんなとき、通信魔法から声が聞こえます。
通信魔法:外部出力→砲撃コントロール室(砲整備長)、切替。
『嫁様、その、聞いておきたいことがありまして』
「なんの連絡ですか?」
彼はギルド闇派閥の方から、通信魔法をかりてわざわざ連絡してきました。
『砲撃の威力はどうでしたか』
「一撃でギルド入口を粉砕しました」
やべ、まず、終わったな、通信の裏からはそんな声が聞こえてきます。
『嫁殿、先に謝罪をしておきます』
「とても沈痛な声ですが、なにか問題が」
『その、砲撃には連続発射というモノがありまして』
「いや、一発でもギルドの入口を粉砕したって話をしましたよね」
『ですがッ、整備員として、いや、技術者としてコイツの性能を確かめずにはいられなかったのですッ!!』
「もう、結論だけを申し上げて貰ってもいいですか」
非情に嫌な予感がしていますが、どうなるかだけは聞いておく必要があります。
ええ、場合によっては、この場から立ち去ることもできるかもしれませんので、
『────1秒後、砲弾の雨あられが降り注ぎます』
「「「(おい、バカ、やめ)」」」
ほどばしる閃光。
爆風で飛ばされながらも、ギルド闇派閥の面々、イケメン騎士、私の気持ちが一致した瞬間でした。
えっ、サーカスの老人ですか? 楽しそうに笑いながら避けてましたよ。
これがのちに語られることなく、闇に葬られる真相、ホワイト・イーター作戦の結果です。
蘇生者100人以上となった事件は、即日決行の白の教徒の解散および、全教徒のブラックリスト入りをもって、終結をします。
ちなみに、白の教徒(本物)さんたちは、
「冤罪だー」
「俺達はやってない」
「誤解だ。間違った人物を捕まえているぞッ」
と叫んでいたそうです。仕方ないですよね。だって、誰か分からないような布を被っているのですから。
こうして────ゴンスさんの悪評被害から始まった事件は、人々にゴンスという名を刻んで終わります。
当然、人々の注目は彼が参加する、大会へ。
過去に類をみない規模の人が、集まる準決勝戦。
その幕開けまで、私はもうちょっとだけ準備をします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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