【ギルド総本山/2F [現地時刻 夕方]】
半壊したフロアを抜けて、瓦礫が散らばる階段をのぼり、ギルド職員は各課の部屋にはいります。
後始末、事件調査、修復作業、仕事量が3倍になった各課からは、怒鳴り声、奇声、叫び声がたえず聞こえます。
そしてこの部屋、“進入禁止”とドアにかけられた部屋からは────笑い声が聞こえてくるのでした。
「あっはっはっはっはッ!! そんなことをやってここまで来たわけ」
中を覗いてみると、机をばしばし叩いている紫髪美人なお姉さん。
あふれる感情がどうにもならないのか、腹を抑えながらも笑っています。
彼女の滑稽な様子を、滑稽な姿でみつめているのは、黒焦げになった金髪片角少女です。
「ギルド主任さん、そこまで笑わなくてもいいと思うんですが」
「いやー、ごめんごめん。私がいなくてもこんだけ面白いことになるとは思わなくってさあ」
「面白い訳ないじゃないですか……こっちは死ぬかと思ったんですよ」
「いやー、またそれがおもろいよねぇ」
再度けらけらと笑う、ギルド主任です。
私はどうしてこうなったとばかりに、想いを馳せるは他の協力者たち。
現在、イケメン騎士と、サーカスの老人は、依頼の遂行中です。
具体的には、白の教徒の殲滅となっています。
ギルド1Fを大破させた罪、および、余罪もろもろで、所属していた者は殺害からのブラックリスト入りとなっています。
「いやー、良かったね。また罪が増えたよ、妹ちゃん」
「どこがいいですか、どこが」
そして、作戦を主導した罪で、“白の教姫 復活した龍王”は最重要指名手配となっています。
懸賞金額は、自分を差し出すと、自分の借金がチャラにできる金額ですね。
バカじゃないんでしょうか。
「しっかし、困ったねー」
一通り笑い終えたギルド主任は、腕をくんで、悩んでいる様子をみせます。
悩んでいますが、結論は決まっているようで、口をすぐに開きます。
「来てもらって悪いけど、妹ちゃんが勝てるような策はない」
「そう、ですか……」
「だって────妹ちゃんには準決勝で負けてもらうのが計画だからね」
「⁉」
びっくりしたような顔になる私。
「私が、負けることが、計画?」
「そうそう、妹ちゃんってさ、放置してると結構困った未来に進んじゃうんだよね」
「だから借金をさして、一生ギルドでこき使う。それが私の、いや私たちの計画」
「それは……ずいぶんと手のかかる計画ですね」
頬に汗をかきながらも、私は口元を無理やり笑わせておきます。
「うーん、ちょっと動揺が少なくない?」
「疑問があれば、動揺だって消せますよ」
私を捕まえるだけなら、冒険者を使って武力にモノを言わせればよかったですし、
そもそも、ギルドに侵入した段階で捕まえれば、いいはずです。
「そりゃ、妹ちゃんに情をもってもらわないと」
「情を? 必要ですか、それ」
「必要よ。子猫ちゃんが今回その役割ね」
本来なら、工房の借金をした時点で、私は殺される予定だったとの事。
大会で負けるなら良し、勝った場合は主任自らが殺害する、それが予定でした。
「じゃあ、私はなぜ生きているんですか?」
「ああ、それはねー。私の完全な趣味」
「趣味?」
「そうそう、あまりにもいい子だったので、ちょっと手伝いたくなってねー」
上の予定に反して、準決勝まで進んでしまった私達。
流石に見て見ぬ振りもできなくなったのか、上からの直接排除が命令されます。
それが主任の拘束と、私達への直接被害。
「といわけで、私が手を貸すのはここで終了」
いい仕事をしたとばかりに、ギルド主任は腕をのばして、窓をみます。
曇っている天候のせいで、何も見えない空です。
「妹ちゃんは負けて、借金のため、ギルドの先兵となる」
それとも、と開かれるアイテムボックス。
取り出されるのは、なんの変哲もない赤槍。
ですが槍先は、ピタリと私の首元についています。
「────ここで1回死んでみる?」
脳裏によぎる回答は、
→1. ほう、死ぬのは貴様だが?
2. お、穏便にしましょうよ……
3. 上等、売られた喧嘩は買ってやるッ!!
いいえ、
→4. 私の気持ち
もちろん回答は決まっていますね。
「────では、ありがとうございました」
私は髪先を切る槍先など気にせず、ぺこりとお辞儀をします。
深々と頭を下げた後、ゆっくりと頭をおこして、笑顔で立ち去ろうとします。
「いやいやいや、ちょっと待って、待ってッ!!」
踵を返した私に、待ったをかけたのはギルド主任です。
慌てた様子は、まるで私の言葉が、予想していたものとは違いすぎた、という感じです。
「えっと、まだ用がありましたっけ?」
「用と言うか、なんでそんな清々しく帰れるわけッ」
「はい?」
「“はい?”じゃなくて、私裏切ったんだよ。なんなら槍まで向けちゃったわけよッ!」
「そうですけど、それがなにか?」
「それがなんで感謝に繋がるか気になるでしょうがッ!!」
はぁはぁと息を荒げて、めずらしく疲れた様子になってるギルド主任です。
なにが疑問なのか分かりませんが、私は気持ちのままに話します
「だってギルド主任はここまで手伝ってくれたじゃないですか」
「そうだけど、それは私の趣味なだけで」
「だから感謝しているんですよ」
今回も一人では何もできなかったので、まだまだですよね。
結局、誰かに背中を押してもらって一人前。
もうすこし頑張れるようになりたいと思う、今日。
「────なので、あとは私に任してください」
ギルド主任は頭を痛めます。
どうして、この少女は状況を理解できていないのか、と。
計画で、いえ未来で負けと読まれるほど、勝負は決められたものなのに。
「いい、準決勝は妹ちゃんが勝てるような相手じゃないのよ」
「分かってますよ」
「なんならギルドは妨害だってする。大会会場にすら着かないかもしれない」
「そうかもしれません」
「いい、勝負はもう妹ちゃんが、どれだけ頑張っても、どうにもならないぐらいには決まっているんだよ」
「でも、ですよ」
私はそれに対して“こう”思います。
「────それは結局、足を止める理由にはなりませんから」
私は踵を返して、一歩を踏み出します。
後ろからは食いしばるような音がして、私はドアノブに手をかけます。
これからどうしようかなぁ、と思いながらドアを開けて、
「ぐッ────やっぱり、待った「ふぎゅ」「はい?」」
頭に柔らかい双房をのせられます。
「あー、もう駄目だわ。眩しすぎる見てられない」
「あの、その」
後ろをふりかえろうとしても、胸にがっちりホールドされて、動けません。
視界に紫髪が入ってきますから、ギルド主任がおぶさっている状態と言った感じでしょうか
「はぁ、これが老いかぁ。ほんと、サーカスの坊主を笑えなくなってるわねぇ」
「あの、そろそろ動きたい……んですが」
「あー、柔らか。この体のどこにそんな意志が詰まってるのか心配になるレベルだわ」
「その、そんな所触っても」
ギルド主任の手によってもみもみとされる体。
そして最終的にほっぺをつねられます。
「えいえい、おねーさんを誑かす悪い口はこれだな」
「はひふえほっ」
懲らしめてやるとばかりに、左右にひっぱられる頬です。
それは私と誰かが、違うことを確認するための儀式のようにも感じてしまいます。
「はぁ、勇者のバカよりも馬鹿だし。生意気だし、かわいいのは……認めるしかないわよねぇ」
と、口でいいながらも2分後。
ようやく気持ちが落ち着いたのかギルド主任は、私の体をぐるりと反転させます。
「いい、妹ちゃん────」
目の前には、真剣になったギルド主任の眼。
「────やるからには完全に勝利する、オーケー?」
もちろん、とばかりに頷くのは私です。
気付けば窓の外には、どこまでもつづく赤い夕暮れがありました。
「なら、ちょうどいいし、ちょっと付き合ってもらおうかなー」
「付き合うって何にですか」
ギルド主任は楽しそうに、指を二本立てます。
「ほら妹ちゃんは、現在、借金、指名手配でツーアウトでしょ」
「別に好きでツーアウトしている訳じゃないんですけどね」
そこで、とばかりに立てられる3本目の指。
「ここでスリーアウトにしてみないってことよ」
数分後、私の経歴に“強盗”が追加されることになります。
場所はギルド地下宝物庫、別名────勇者の遺物の保管庫です。
[ジャンクヤード/ボツ集]
「────ここで1回死んでみる?」
私の回答はもちろん、
「────上等、売られた喧嘩は買うのが華ッ!!」
ギルド主任の顔を殴りに行きます。
が、
「甘いね、妹ちゃん」
「なっ、槍がもう一本……」
「というわけで、ばいばいー」
心臓ごと貫かれる槍。
『────バカの視界は真っ黒になってしまった』
キイロ来来の冒険を復元しますか?
→・はい
・いいえ
ボツ集2
「────ここで1回死んでみる?」
私の回答はもちろん、
「────ほう、死ぬのは貴様だが?」
拳から吹き出た炎が、槍先を握り潰します。
「もろいな。安物か?」
「あの、ちょ、それは聞いていないというか」
真紅に染まった両眼から溢れるのは殺意。
「あのー、今更、タンマとかいっても許されるかなー?」
「遺言はそれでいいか?」
「あ、ちょ」
この後、ギルドによって────は討伐された。
ボツ集3
「────ここで1回死んでみる?」
私の回答はもちろん、
「────「えい」「ビリッ」「おい何破いてる」「そうだよ私達だってやったのにー」」
黒髪の彼がもっていた台本(未来)がびりびりに破かれます。
ショックをうけるのは赤髪の女性と、黄色髪の少女。
「あのな、俺の冒険は終わってるの」
「いいじゃん、ちょっとぐらい意識アピールしたって」
「いーやーだーね。こんな怖い連中と戦えるかっつーの」
「あいかわらずの雑魚っぷりだな」
「なんとでも言え。俺は大人しくゲームでもしとくさ」
「えぇ、じゃあトランプやろうよ。みんなでババ抜きとか」
「だれが直感最強とやるかっ、馬鹿」
そんな二人を見ていた、赤髪の女性は、
「私は人生ゲームをやりたい」
「あのな……」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。