【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】
蒼天の空。太陽照らすコロシアムにて、
「ようこそお集まりくださりましたーーッ!」
と、いつもより元気なアナウンスが聞こえるのは、天上天下大会の会場です。
「満員御礼。私もウハウハ。今日のアナウンスは晴天よりも高く叫んでいきますよーッ!!」
コロシアムの奥まで人がぎっしり。いつもは冒険者しかいませんが、今日は街の住人も結構来ています。
理由はもちろん、
「今日の対戦カードは、獣王VSゴンス」
観戦者たちの視線が、一斉にコロシアム中央に集まります。
「あれがゴンス」
「思っていたより小さいな」
「俺には禍々しいオーラを感じるぜ」
悪名轟いているゴンスという選手を見るためですね。
視線が注目しているのを感じてしまった私は、思わず身震いをしてしまいます。
ゴンス選手こと、鎧を装備した戦鋼に乗っている────
「今日のゴンス選手は、豪華な大楯を握っています。これも準決勝を意識したものでしょうかッ」
「ホントかよ、どうせ細工してんじゃねーのか?」
「今回は落とし穴とか掘ってないか確認済みだろうな」
「もちろん、身体チェックもきちんとしてるだろうなッ」
訓練された観客は、当然のようにヤジを飛ばします。
いつもと違うのは、彼らに対して反論する集団がいるということですね。
「失礼な、ゴンス様は今回も細工をしているに決まっているだろッ」
「貴様らのような正々堂々とした連中と一緒にっするんじゃねぇッ!」
「大楯もギルドにあったモノだが、ゴンス様が装備して問題ないな」
応援団なのでしょうか? 黒布をまとった方々は、楽しそうにエールを送っています。
なんなら“ゴンス様、卑怯”とか、“これからもっとギルド焼こうぜ”とか横断幕が掲げられてますね。
妙ですね。彼ら本当に応援をする気はあるんでしょうか……
「申し訳ありませんが、他観客の邪魔になるような応援は控えてください」
アナウンスさんの一言で、警備員が動いて、いそいそと片付けられる横断幕。
どうやら他の観客の視界を遮っていための措置の様です。
「迷惑をかけます、名も知らぬアナウンスさん……」
私は操縦席から、小さな声で謝っているいると、気持ちに反応したのかポケットが揺れます。
中には、たしか紋章付きのペンダントが、
『大人気だね。お兄ちゃん……』
「って、ロリィ起きてたんですか」
『すごくよく寝た……元気いっぱい』
前回の戦闘のあと、うんともすんとも言わなくなった
どうやら魔力が切れたのか疲れ果てて、寝てしまってた様子です。
「目覚めたばっかりですけど、いけますか? ロリィ」
『大丈夫……だとふわぁ、思う』
「まだ寝ててもいいんですよ」
『でもそれじゃあ、彼に勝てないと思うから』
振動がさす彼とは────モニターの向こうに映る獣人。
ライオンの髪をたなびかせ、ゴリラのような巨腕をもち、チーターのような太い足をもった、獣人。
人呼んで、獣王。
「お前は憶病者……いい雰囲気を纏うようになったじゃないか」
けらけらと笑う獣王は、楽しそうに眼を丸めます。
魔法で操縦席までとどいた声は、私に冷や汗をかかすには十分です。
「言ってくれますね……」
ゆれる防具は腰巻のみ、アクセサリーと武器はなし。
ゴキゴキと鳴らすは、肉球付きの鋭い爪、つまり拳のみ。
ここまで対戦相手を腕力だけで秒殺した、優勝筆頭が鎮座します。
「今日の俺は友好的だ────降参するなら命だけで済ましてやる」
獣王は、八重歯をキラリと光らせ、私に死刑宣告をしてくれます。
冗談みたいな、冗談じゃない発言に、鼻で笑って見せるは、私です。
「最近の獣は冗談まで言えるんですね」
「冗談? 貴様にやった慈悲のつもりだが」
「殺し合いに慈悲をくれるんですか……では負けてくれませんかね」
「それは知らない言葉だ。お前から教えてもらうとしよう」
獣王はそよ風のごとく笑い、眼力を力強くむけてきます。
動揺を気にしたのか、再び揺れるのは紋章ペンダントです。
『お兄ちゃん……彼本気で言ってる』
「分かってますよ、ロリィ」
『あと……彼死ぬほど強いよ』
「それも分かってますから、心配しないでください」
私は心配そうに揺れる振動をよしよしとして、操縦管を握ります。
コロシアムに響きわたるのは、待ちわびる観客の歓声。
それを裂くように実況の一言が今、放たれます。
「では盛り上がってきたところで────準決勝開始ッ!!」
開戦のゴングが鳴り響きます。
◆◇◆◇
【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】
試合が始まったにもかかわらず、獣王は動きません。
「ならば────っ」
戦鋼は走りだし、奥から手前に、獣王との距離を一気につめます。
急制動。右に振りかぶり、ふりぬくのは鉄の拳です。
「これはゴンス選手ッ! いい拳が入ったァ!!」
舞い上がった砂煙がモニターを阻み、最初に確認するのは、
「攻撃がっ、効いていない────」「────それが全力か?」
ニヤリと笑っている獣王の顔です。
彼は首をひねった後、腕を2、3回まわし、筋肉が膨張する左腕。
お返しといわんばかりに、唸りをあげて、大砲のように放たれます。
嫌な予感。戦鋼は身を守るように、大楯を斜め左にむけます。
「盾なんかに頼ってんじゃねえェ!」
怒声、衝撃、痛む額。
あたまを抑えて見たモニターには、“大きくひび割れている大楯”。
通信魔法からは絶えず怒声がひびきます。
「ガッカリさせるなァッ、根性を入れやがれえぇッ!」
間髪入れず、放たれる拳、拳、拳。
ジャブ、アッパー、右フック。
猛烈な速度での攻撃。眼で追うのがやっとな速度です。
「いつまでも防げると思うなッ」
地面がひび割れる程、踏みこんだ獣王。
剛腕から解放されるのは、右ストレートです。
左斜めで構えた大盾に盛大な穴を開け、一撃はなおも止まらず。
「まだですっ────」「────死にやがれェ」
盾の向こうに戦鋼はおらず。
屈み、すべり込み、背後に回り、獣王との距離はゼロ。
「その程度で────」「────もらったぁっ!!」
地面を這うように繰り出される、戦鋼の右拳。
獣王も、左の拳をふりかざすことで、戦鋼を迎撃せしめんとします。
「俺の方が速い────」「──それでもっ」
0.5秒の差。確かな差は、獣王の拳が戦鋼をえぐるという結果をもたらすことでしょう。
ですが、それは私達が真っ当に受ければの、結果。
攻撃中、刹那の瞬間、ゼロ距離なら────不意打ちには対応できませんよねっ、
「────この瞬間をっ!」
「────待っていた、ってね!
清く正しい声を呟くのは、
鋼の左手で操作するのはギルド主任のアイテムボックス。
瞬時として展開された無数の槍が、獣王を襲います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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