紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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86 少女と獣王と準決勝、いちっ

【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】

 

蒼天の空。太陽照らすコロシアムにて、

 

「ようこそお集まりくださりましたーーッ!」

 

と、いつもより元気なアナウンスが聞こえるのは、天上天下大会の会場です。

 

「満員御礼。私もウハウハ。今日のアナウンスは晴天よりも高く叫んでいきますよーッ!!」

 

コロシアムの奥まで人がぎっしり。いつもは冒険者しかいませんが、今日は街の住人も結構来ています。

 

理由はもちろん、

 

「今日の対戦カードは、獣王VSゴンス」

 

観戦者たちの視線が、一斉にコロシアム中央に集まります。

 

「あれがゴンス」

「思っていたより小さいな」

「俺には禍々しいオーラを感じるぜ」

 

悪名轟いているゴンスという選手を見るためですね。

 

視線が注目しているのを感じてしまった私は、思わず身震いをしてしまいます。

 

ゴンス選手こと、鎧を装備した戦鋼に乗っている────金髪片角少女(わたし)です。

 

「今日のゴンス選手は、豪華な大楯を握っています。これも準決勝を意識したものでしょうかッ」

 

「ホントかよ、どうせ細工してんじゃねーのか?」

「今回は落とし穴とか掘ってないか確認済みだろうな」

「もちろん、身体チェックもきちんとしてるだろうなッ」

 

訓練された観客は、当然のようにヤジを飛ばします。

 

いつもと違うのは、彼らに対して反論する集団がいるということですね。

 

「失礼な、ゴンス様は今回も細工をしているに決まっているだろッ」

「貴様らのような正々堂々とした連中と一緒にっするんじゃねぇッ!」

「大楯もギルドにあったモノだが、ゴンス様が装備して問題ないな」

 

応援団なのでしょうか? 黒布をまとった方々は、楽しそうにエールを送っています。

 

なんなら“ゴンス様、卑怯”とか、“これからもっとギルド焼こうぜ”とか横断幕が掲げられてますね。

 

妙ですね。彼ら本当に応援をする気はあるんでしょうか……

 

「申し訳ありませんが、他観客の邪魔になるような応援は控えてください」

 

アナウンスさんの一言で、警備員が動いて、いそいそと片付けられる横断幕。

 

どうやら他の観客の視界を遮っていための措置の様です。

 

「迷惑をかけます、名も知らぬアナウンスさん……」

 

私は操縦席から、小さな声で謝っているいると、気持ちに反応したのかポケットが揺れます。

 

中には、たしか紋章付きのペンダントが、

 

『大人気だね。お兄ちゃん……』

「って、ロリィ起きてたんですか」

『すごくよく寝た……元気いっぱい』

 

前回の戦闘のあと、うんともすんとも言わなくなった振動(ロリィ)です。

 

どうやら魔力が切れたのか疲れ果てて、寝てしまってた様子です。

 

「目覚めたばっかりですけど、いけますか? ロリィ」

『大丈夫……だとふわぁ、思う』

 

「まだ寝ててもいいんですよ」

『でもそれじゃあ、彼に勝てないと思うから』

 

振動がさす彼とは────モニターの向こうに映る獣人。

 

ライオンの髪をたなびかせ、ゴリラのような巨腕をもち、チーターのような太い足をもった、獣人。

 

人呼んで、獣王。

 

「お前は憶病者……いい雰囲気を纏うようになったじゃないか」

 

けらけらと笑う獣王は、楽しそうに眼を丸めます。

 

魔法で操縦席までとどいた声は、私に冷や汗をかかすには十分です。

 

「言ってくれますね……」

 

ゆれる防具は腰巻のみ、アクセサリーと武器はなし。

 

ゴキゴキと鳴らすは、肉球付きの鋭い爪、つまり拳のみ。

 

ここまで対戦相手を腕力だけで秒殺した、優勝筆頭が鎮座します。

 

「今日の俺は友好的だ────降参するなら命だけで済ましてやる」

 

獣王は、八重歯をキラリと光らせ、私に死刑宣告をしてくれます。

 

冗談みたいな、冗談じゃない発言に、鼻で笑って見せるは、私です。

 

「最近の獣は冗談まで言えるんですね」

「冗談? 貴様にやった慈悲のつもりだが」

 

「殺し合いに慈悲をくれるんですか……では負けてくれませんかね」

「それは知らない言葉だ。お前から教えてもらうとしよう」

 

獣王はそよ風のごとく笑い、眼力を力強くむけてきます。

 

動揺を気にしたのか、再び揺れるのは紋章ペンダントです。

 

『お兄ちゃん……彼本気で言ってる』

「分かってますよ、ロリィ」

 

『あと……彼死ぬほど強いよ』

「それも分かってますから、心配しないでください」

 

私は心配そうに揺れる振動をよしよしとして、操縦管を握ります。

 

コロシアムに響きわたるのは、待ちわびる観客の歓声。

 

それを裂くように実況の一言が今、放たれます。

 

「では盛り上がってきたところで────準決勝開始ッ!!」

 

開戦のゴングが鳴り響きます。

 

◆◇◆◇

【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】

 

試合が始まったにもかかわらず、獣王は動きません。

 

「ならば────っ」

 

戦鋼は走りだし、奥から手前に、獣王との距離を一気につめます。

 

急制動。右に振りかぶり、ふりぬくのは鉄の拳です。

 

「これはゴンス選手ッ! いい拳が入ったァ!!」

 

舞い上がった砂煙がモニターを阻み、最初に確認するのは、

 

「攻撃がっ、効いていない────」「────それが全力か?」

 

ニヤリと笑っている獣王の顔です。

 

彼は首をひねった後、腕を2、3回まわし、筋肉が膨張する左腕。

 

お返しといわんばかりに、唸りをあげて、大砲のように放たれます。

 

嫌な予感。戦鋼は身を守るように、大楯を斜め左にむけます。

 

「盾なんかに頼ってんじゃねえェ!」

 

怒声、衝撃、痛む額。

 

あたまを抑えて見たモニターには、“大きくひび割れている大楯”。

 

通信魔法からは絶えず怒声がひびきます。

 

「ガッカリさせるなァッ、根性を入れやがれえぇッ!」

 

間髪入れず、放たれる拳、拳、拳。

 

ジャブ、アッパー、右フック。

 

猛烈な速度での攻撃。眼で追うのがやっとな速度です。

 

「いつまでも防げると思うなッ」

 

地面がひび割れる程、踏みこんだ獣王。

 

剛腕から解放されるのは、右ストレートです。

 

左斜めで構えた大盾に盛大な穴を開け、一撃はなおも止まらず。

 

「まだですっ────」「────死にやがれェ」

 

盾の向こうに戦鋼はおらず。

 

屈み、すべり込み、背後に回り、獣王との距離はゼロ。

 

「その程度で────」「────もらったぁっ!!」

 

地面を這うように繰り出される、戦鋼の右拳。

 

獣王も、左の拳をふりかざすことで、戦鋼を迎撃せしめんとします。

 

「俺の方が速い────」「──それでもっ」

 

0.5秒の差。確かな差は、獣王の拳が戦鋼をえぐるという結果をもたらすことでしょう。

 

ですが、それは私達が真っ当に受ければの、結果。

 

攻撃中、刹那の瞬間、ゼロ距離なら────不意打ちには対応できませんよねっ、

 

「────この瞬間をっ!」

 

「────待っていた、ってね! 拡張道具箱(アイテムボックス)解放ッ!!」

 

清く正しい声を呟くのは、()()です。

 

鋼の左手で操作するのはギルド主任のアイテムボックス。

 

瞬時として展開された無数の槍が、獣王を襲います。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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