【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】
観客からの大ブーイングと、アナウンスの戦闘停止命令を背に、戦鋼は動きます。
操縦席にのっている
「ちょっとは声援が欲しいんですが……」
「そこは気にしたら負けってことで」
軽口をたたきながら、戦鋼こと、ギルド主任はアイテムボックスを操作します。
落ちてくる大斧を、器用につかみ取り、戦鋼の肩にのせて、
「えいっとなッ」
小降り。ガキンと弾かれ、斧は後ろに。
中振り。カーンと音がして、斧は揺れます。
大降り。見えない壁に阻まれたように、斧は止まります。
「ずいぶんと堅ったい魔力層ねぇ」
「効かんぞ、貴様の攻撃なぞ、毛ほども効かんぞッ」
身動き取れない獣王は、舌打ちとばかりに反論します。
「まっ、効かなくても削っていく時間はあるけどねー」
魔法を持つ生物は、常時、体に持つ魔力を薄く放出しています。
私の戦鋼が強化魔法を纏わすと、副次的に堅くなるのと同じ原理です。
「ぬうううう」
「頑張っても抜けられないよ、勇者ですら数分は動けなかったし」
「ふざけるなあああ」
「魔力を使えば使うほど、体が……おいおい、適応してるてっ、マジ」
「うがあああああああああ」
「別世界の毒なんだけど。ほんの数秒でレジストとか、冗談でしょ」
メキメキ。罅が入り、震える、毒々しい槍。
「井の中の蛙とか、この年になって知る事じゃないわよね」
戦鋼は、装甲に一筋の汗をつたわせ、ギルド主任は動きます。
揺れる戦闘鋼から伝わるは、一手でも素早く攻撃を、
ですが獣王は、槍を砕き、
「小細工なんぞに、頼ってんじゃねェ────
見当違いの方向に飛んでいく攻撃。
毒の影響か、振るわれたのは空に向かって。
「あっぶな、上に逸れたのは良かったけど……」
蒼天の下、天井を見上げる戦鋼。
落ちてくるは、ぱらぱらとひび割れた障壁。天井には大穴があいていました。
「聖女ちゃん特製の障壁を割るとか、回復役にはちょっと強敵すぎない……ッ」
そして、穴を開けた張本人はようやく楽に動けるようになったとばかりに、腕を回します。
「外したかァ、ならばもう一発」
今撃ったのは右手。つまるところ左手は行動してないということ。
獣王、左半分からは、過剰に溜まった魔力が溢れ出し、火花となって飛び散ります。
「まっずッ」
戦鋼は、ギルド主任は、一瞬、後ろの事を考えます。
後方には大勢の観客。避けてしまえば、障壁ごと死亡するのは確定です。
ですが直撃してしまえば、自分どころか、金髪少女ごと吹き飛ぶことでしょう。
「ごめん皆「いえ、受けてください、ギルド主任」────マジで言ってる、妹ちゃん⁉」
ギルド主任の頭には、信じず避けるに、一択。
下手すれば、自分だって死んでしまうのですから当然の判断です。
「大丈夫です、死にませんから」
「その保証は?」
「もちろん直感ですっ」
「あてにならない回答じゃん」
やっぱり避けるかーという気持ちになったギルド主任を止めたのは、私の次の一言。
「────勇気とは、強大な敵に挑むこと」
「それ、誰かの受け売りでしょ」
「はい、受け売りですっ」
「そこは否定してちょうだいよ、妹ちゃん」
「いいえ。誰かの意志を引き継いで動いているのは事実なので」
戦鋼は数コンマ考え込みます。
現在、ギルド主任の天秤は均等。ようはどっちつかずの気持ちというモノです。
「そうだとしても、私の説得にはもう一手欲しいわね」
「なら今度からギルド主任のこと“お姉ちゃん”とでも呼びますよ」
「────気に入った。妹ちゃん、約束忘れちゃ駄目だよ」
「当然です、ギルド主……お姉ちゃん」
“満足”とばかりに気持ちを切り替えて、仁王立ちをするは戦鋼。
ギルド主任の選択は、人を信じるという面白いものでした。
「逃げぬかァ、なら消し飛んじまえッ────
極光が墜落してくる。とは正に、このことでしょう。
頬に伝う汗が、蒸発するのを感じ、私は、彼女にお願いします。
「ロリィ、いけますか」
『任せて・・・お兄ちゃん』
胸ポケットの振動がゆれ、少女は宣言します。
『 「絶対障壁起動っ!!」 』
0.2秒後。獣王の拳が直撃します。
ガゴンどころでは無い音が響き。遅れてやってきた衝撃波に、巻き込まれる戦鋼。
画面を覆うは砂嵐。風圧はそのまま戦鋼を突き抜け、客席前の障壁に激突します。
「コッ、コレは決まってしまったかッ────」
実況が言い出し、状況の把握に急ぐ観客たち。
誰もが砂を落としながらも、眼を必死に見開いて、結果を目撃します。
砂埃は中心部を覆い、天井からは風が吹き込み、切れ目から覗くは────無傷の戦鋼。
「「「う、おおおおおおおおおッ!!」」」
コロシアムが歓声に包まれる中、中心部に鎮座する戦鋼では。
内部は、興奮とは裏腹にビビリちらかしていました。
「い、いやー、本当になんとか生きてましたね、ね」
「1000年ぶりにお姉さんの心臓が止まるかと思ったわよ」
よく見ればカクカクと小刻みに震えている、戦鋼の足。
どうやらギルド主任にも、怖いときは怖いようです。
「次は絶対避けるからね、妹ちゃん」
「大丈夫です、多分二度目は受けきれませんから」
操縦席に転がっているのは、アクセサリー枠として持ち込んだ、失敗作のアイテムボックス×3です。
指定した単一のものしか仕舞えませんが、なら“熱量”をしまってしまえという理由でもちこまれています。
まあ、アイテムボックス(熱量)からは火が漏れていますので、次はないでしょう。
「この欠点さえなければ、完璧な防壁なんですけど」
「防壁……まさかコレ、絶対防壁だったりする……」
「そうですけど、なにか問題あったりしますか?」
「いやいや、問題しかないんだよなー」
ギルド主任の頭によぎるは、なんで勇者しか使えなかった絶対防壁を使えるのかとか、発動するための勇者の装備はどこで拾ったのかとか、てか絶対防壁の話は有名だろ、勇者の絵本ぐらい読んどけよッ、です。
「───まあ、後で聞けばいいか。今は、それどころじゃないし」
対面する、獣王は不敵に笑います。
「攻撃してこないのー」
「俺の拳を、真っ向から防いだヤツは久しぶりでな」
「つまり舐めプってことね」
「俺様の機嫌がいいってことだ」
「じゃあ、今から絶不調になってもらおうか」
がごん。空中から落ちてくるは鎖で巻かれた厳重な箱。
地面に落ち、鎖が外れ、内部には————ボロボロの槍。
剣先には、折れた破片が取り付けられた、槍です。
「コレ、宝物庫から出てきた槍ですか?」
「そうそう、折れた勇者の剣」
「槍に見えるんですけど」
「そうじゃないと使いにくくてさー」
「私が時間をかせぐ、だからその間に妹ちゃんが槍で決めて」
「でも、時間をかせぐって、どうやって」
「そりゃあ、こうやってよ────変身解除」
突然。空中に放り出される私。
目の前には、銀髪の綺麗な髪の女性。
瞼をぱちくりさせている間に、見慣れた紫髪の美人が笑っていました。
「これは、オマケッ」
えい。と投げられて、押し込められるは戦鋼の操縦席。
どうやらアイテムボックス中には、本物の戦鋼【PN-K2】もしまわれていたようです。
「だが2人なったところで何も変わらんぞ」
「ところがどっこい。変わるんだなー」
「新たな武器を出したところで」
「武器じゃない、操作性、よ」
アイテムボックスから展開されるのは無数の大砲。
それは、私の借金で大量に買って死蔵されていた大砲。
獣王を取り囲むように、多数の砲塔が向けられ、火がつきます。
「さあ、悟ってくれないでよー」
「こしゃくな事ォ」
撃ちきった大砲は仕舞われ、新しいモノが再度展開。
嵐の如く爆風が、獣王をとりかこみます。
「エンジンチェックOK、起動準備完了」
操縦席のキーを回し、エンジンが点火、アイドリングを越えて起動を始める戦鋼。
カメラには歪ながらも、光が宿ります。
「妹ちゃん、後はまかした────」「────了解ですっ」
バトンタッチとばかりに、視線を合わせ、前に飛び出す戦鋼です。
「ロリィ、絶対防壁の残り時間は」
『槍のおかげで……あと20秒ある』
懐のペンダントの振動からは、そんな言葉がひびきます。
槍にそんな効果があったとは知りませんでしたが、なんにせよ助かります。
「なら、大丈夫ですね」
『それは……大丈夫じゃないやつ』
ペダルを踏み込み、砲弾舞う爆発の中に、戦鋼は突入します。
爆発の中、なおも眼力豊かな獣王がにらみつけるは私です。
「なんのつもりだ貴様ァッ」
「もちろん、倒しに来たんですよっ」
「あァ、小娘の分際でいきがってんじゃねェッ!」
砲弾舞う中、獣王は拳圧だけで空気の塊を押しつけてきます。
「ふざけた、攻撃すぎますねっ」
だけど絶対防壁があれば、
『ごめん……もう維持は無理』
「なっ、魔力が切れ」
体に感じる脱力感。
『槍に魔力が……吸われてる』
「まじですか」
『久しぶりだから……お腹減ってたみたい』
「そんな私みたいな」
アドレナリンが出てるのか、体はまだ動かせますが、問題は別です。
20秒も展開できるはずの絶対防壁は消えて、戦鋼の装甲が歪みます。
「魔力切れか、小娘ェ────」
獣王、自身に砲弾が当たるのも厭わぬ一心で、魔力を左手に。
「────魔力が切れたってっ、やれることはあるんですよっ!!」
ならばとばかりに、戦鋼に槍を構えさせ、
「魔力を込めた拳の《フォトン・レイ》────」「────アイテムボックス(熱量)全開放、???発動っ!!」
迫りくる光輪と激突するは、紅い炎。
拳と槍先。本来なら交わらぬ2つが、轟音と閃光をとばして、拮抗。
「ぬおおおおお────うおおおおおっ」
デバフ、武器バフ、魔法により、獣王と私の攻撃は“五分”です。
ならばこの勝負、決定づけるとするならば────鎧の差。
バキンッ。
音は軽く、私にとっては聞き慣れたモノでした。
戦鋼右腕から聞こえた異音は、どうしようもない現実を私に叩きつけます。
「お願いです。あと数秒っ、数秒だけ耐えてくださいっ、私の戦鋼っ!!」
願い───届かず。
戦鋼に蓄積された膨大なダメージは、いえ、奇跡というレベルで原型を保っていた体は、とっくのとうに限界を超えていました。
誰かが悪いわけでもなく、ただそれが機械としての限界だっただけ。
戦鋼の右腕は、パーツ単位で破裂します。
「軽く、なりました、か────ごめんなさい、皆」
握る右操縦桿から重さが消え、極光が私を貫きます。
私の記憶は、そこで途切れます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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