紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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88 少女と獣王と準決勝、にっ

【ギルド総本山/コロシアム [現地時刻 朝]】

 

観客からの大ブーイングと、アナウンスの戦闘停止命令を背に、戦鋼は動きます。

 

操縦席にのっている金髪片角少女(わたし)は、操縦管も握らず、ため息をつきます。

 

「ちょっとは声援が欲しいんですが……」

「そこは気にしたら負けってことで」

 

軽口をたたきながら、戦鋼こと、ギルド主任はアイテムボックスを操作します。

 

落ちてくる大斧を、器用につかみ取り、戦鋼の肩にのせて、

 

「えいっとなッ」

 

小降り。ガキンと弾かれ、斧は後ろに。

 

中振り。カーンと音がして、斧は揺れます。

 

大降り。見えない壁に阻まれたように、斧は止まります。

 

「ずいぶんと堅ったい魔力層ねぇ」

「効かんぞ、貴様の攻撃なぞ、毛ほども効かんぞッ」

 

身動き取れない獣王は、舌打ちとばかりに反論します。

 

「まっ、効かなくても削っていく時間はあるけどねー」

 

魔法を持つ生物は、常時、体に持つ魔力を薄く放出しています。

 

私の戦鋼が強化魔法を纏わすと、副次的に堅くなるのと同じ原理です。

 

「ぬうううう」

「頑張っても抜けられないよ、勇者ですら数分は動けなかったし」

 

「ふざけるなあああ」

「魔力を使えば使うほど、体が……おいおい、適応してるてっ、マジ」

 

「うがあああああああああ」

「別世界の毒なんだけど。ほんの数秒でレジストとか、冗談でしょ」

 

メキメキ。罅が入り、震える、毒々しい槍。

 

「井の中の蛙とか、この年になって知る事じゃないわよね」

 

戦鋼は、装甲に一筋の汗をつたわせ、ギルド主任は動きます。

 

揺れる戦闘鋼から伝わるは、一手でも素早く攻撃を、

 

ですが獣王は、槍を砕き、

 

「小細工なんぞに、頼ってんじゃねェ────力を込めた拳の一撃(フォトン・レイ我流)!!」

 

見当違いの方向に飛んでいく攻撃。

 

毒の影響か、振るわれたのは空に向かって。

 

「あっぶな、上に逸れたのは良かったけど……」

 

蒼天の下、天井を見上げる戦鋼。

 

落ちてくるは、ぱらぱらとひび割れた障壁。天井には大穴があいていました。

 

「聖女ちゃん特製の障壁を割るとか、回復役にはちょっと強敵すぎない……ッ」

 

そして、穴を開けた張本人はようやく楽に動けるようになったとばかりに、腕を回します。

 

「外したかァ、ならばもう一発」

 

今撃ったのは右手。つまるところ左手は行動してないということ。

 

獣王、左半分からは、過剰に溜まった魔力が溢れ出し、火花となって飛び散ります。

 

「まっずッ」

 

戦鋼は、ギルド主任は、一瞬、後ろの事を考えます。

 

後方には大勢の観客。避けてしまえば、障壁ごと死亡するのは確定です。

 

ですが直撃してしまえば、自分どころか、金髪少女ごと吹き飛ぶことでしょう。

 

「ごめん皆「いえ、受けてください、ギルド主任」────マジで言ってる、妹ちゃん⁉」

 

ギルド主任の頭には、信じず避けるに、一択。

 

下手すれば、自分だって死んでしまうのですから当然の判断です。

 

「大丈夫です、死にませんから」

「その保証は?」

 

「もちろん直感ですっ」

「あてにならない回答じゃん」

 

やっぱり避けるかーという気持ちになったギルド主任を止めたのは、私の次の一言。

 

「────勇気とは、強大な敵に挑むこと」

 

「それ、誰かの受け売りでしょ」

「はい、受け売りですっ」

 

「そこは否定してちょうだいよ、妹ちゃん」

「いいえ。誰かの意志を引き継いで動いているのは事実なので」

 

戦鋼は数コンマ考え込みます。

 

現在、ギルド主任の天秤は均等。ようはどっちつかずの気持ちというモノです。

 

「そうだとしても、私の説得にはもう一手欲しいわね」

「なら今度からギルド主任のこと“お姉ちゃん”とでも呼びますよ」

 

「────気に入った。妹ちゃん、約束忘れちゃ駄目だよ」

 

「当然です、ギルド主……お姉ちゃん」

 

“満足”とばかりに気持ちを切り替えて、仁王立ちをするは戦鋼。

 

ギルド主任の選択は、人を信じるという面白いものでした。

 

「逃げぬかァ、なら消し飛んじまえッ────魔力を込めた拳の一撃(フォトン・レイ我流)

 

極光が墜落してくる。とは正に、このことでしょう。

 

頬に伝う汗が、蒸発するのを感じ、私は、彼女にお願いします。

 

「ロリィ、いけますか」

『任せて・・・お兄ちゃん』

 

胸ポケットの振動がゆれ、少女は宣言します。

 

『 「絶対障壁起動っ!!」 』

 

0.2秒後。獣王の拳が直撃します。

 

ガゴンどころでは無い音が響き。遅れてやってきた衝撃波に、巻き込まれる戦鋼。

 

画面を覆うは砂嵐。風圧はそのまま戦鋼を突き抜け、客席前の障壁に激突します。

 

「コッ、コレは決まってしまったかッ────」

 

実況が言い出し、状況の把握に急ぐ観客たち。

 

誰もが砂を落としながらも、眼を必死に見開いて、結果を目撃します。

 

砂埃は中心部を覆い、天井からは風が吹き込み、切れ目から覗くは────無傷の戦鋼。

 

「「「う、おおおおおおおおおッ!!」」」

 

コロシアムが歓声に包まれる中、中心部に鎮座する戦鋼では。

 

内部は、興奮とは裏腹にビビリちらかしていました。

 

「い、いやー、本当になんとか生きてましたね、ね」

「1000年ぶりにお姉さんの心臓が止まるかと思ったわよ」

 

よく見ればカクカクと小刻みに震えている、戦鋼の足。

 

どうやらギルド主任にも、怖いときは怖いようです。

 

「次は絶対避けるからね、妹ちゃん」

「大丈夫です、多分二度目は受けきれませんから」

 

操縦席に転がっているのは、アクセサリー枠として持ち込んだ、失敗作のアイテムボックス×3です。

 

指定した単一のものしか仕舞えませんが、なら“熱量”をしまってしまえという理由でもちこまれています。

 

まあ、アイテムボックス(熱量)からは火が漏れていますので、次はないでしょう。

 

「この欠点さえなければ、完璧な防壁なんですけど」

「防壁……まさかコレ、絶対防壁だったりする……」

 

「そうですけど、なにか問題あったりしますか?」

「いやいや、問題しかないんだよなー」

 

ギルド主任の頭によぎるは、なんで勇者しか使えなかった絶対防壁を使えるのかとか、発動するための勇者の装備はどこで拾ったのかとか、てか絶対防壁の話は有名だろ、勇者の絵本ぐらい読んどけよッ、です。

 

「───まあ、後で聞けばいいか。今は、それどころじゃないし」

 

対面する、獣王は不敵に笑います。

 

「攻撃してこないのー」

「俺の拳を、真っ向から防いだヤツは久しぶりでな」

 

「つまり舐めプってことね」

「俺様の機嫌がいいってことだ」

 

「じゃあ、今から絶不調になってもらおうか」

 

がごん。空中から落ちてくるは鎖で巻かれた厳重な箱。

 

地面に落ち、鎖が外れ、内部には————ボロボロの槍。

 

剣先には、折れた破片が取り付けられた、槍です。

 

「コレ、宝物庫から出てきた槍ですか?」

「そうそう、折れた勇者の剣」

 

「槍に見えるんですけど」

「そうじゃないと使いにくくてさー」

 

「私が時間をかせぐ、だからその間に妹ちゃんが槍で決めて」

「でも、時間をかせぐって、どうやって」

 

「そりゃあ、こうやってよ────変身解除」

 

突然。空中に放り出される私。

 

目の前には、銀髪の綺麗な髪の女性。

 

瞼をぱちくりさせている間に、見慣れた紫髪の美人が笑っていました。

 

「これは、オマケッ」

 

えい。と投げられて、押し込められるは戦鋼の操縦席。

 

どうやらアイテムボックス中には、本物の戦鋼【PN-K2】もしまわれていたようです。

 

「だが2人なったところで何も変わらんぞ」

「ところがどっこい。変わるんだなー」

 

「新たな武器を出したところで」

「武器じゃない、操作性、よ」

 

アイテムボックスから展開されるのは無数の大砲。

 

それは、私の借金で大量に買って死蔵されていた大砲。

 

獣王を取り囲むように、多数の砲塔が向けられ、火がつきます。

 

「さあ、悟ってくれないでよー」

「こしゃくな事ォ」

 

撃ちきった大砲は仕舞われ、新しいモノが再度展開。

 

嵐の如く爆風が、獣王をとりかこみます。

 

「エンジンチェックOK、起動準備完了」

 

操縦席のキーを回し、エンジンが点火、アイドリングを越えて起動を始める戦鋼。

 

カメラには歪ながらも、光が宿ります。

 

「妹ちゃん、後はまかした────」「────了解ですっ」

 

バトンタッチとばかりに、視線を合わせ、前に飛び出す戦鋼です。

 

「ロリィ、絶対防壁の残り時間は」

『槍のおかげで……あと20秒ある』

 

懐のペンダントの振動からは、そんな言葉がひびきます。

 

槍にそんな効果があったとは知りませんでしたが、なんにせよ助かります。

 

「なら、大丈夫ですね」

『それは……大丈夫じゃないやつ』

 

ペダルを踏み込み、砲弾舞う爆発の中に、戦鋼は突入します。

 

爆発の中、なおも眼力豊かな獣王がにらみつけるは私です。

 

「なんのつもりだ貴様ァッ」

「もちろん、倒しに来たんですよっ」

「あァ、小娘の分際でいきがってんじゃねェッ!」

 

砲弾舞う中、獣王は拳圧だけで空気の塊を押しつけてきます。

 

「ふざけた、攻撃すぎますねっ」

 

だけど絶対防壁があれば、

 

『ごめん……もう維持は無理』

「なっ、魔力が切れ」

 

体に感じる脱力感。

 

『槍に魔力が……吸われてる』

「まじですか」

 

『久しぶりだから……お腹減ってたみたい』

「そんな私みたいな」

 

アドレナリンが出てるのか、体はまだ動かせますが、問題は別です。

 

20秒も展開できるはずの絶対防壁は消えて、戦鋼の装甲が歪みます。

 

「魔力切れか、小娘ェ────」

 

獣王、自身に砲弾が当たるのも厭わぬ一心で、魔力を左手に。

 

「────魔力が切れたってっ、やれることはあるんですよっ!!」

 

ならばとばかりに、戦鋼に槍を構えさせ、

 

「魔力を込めた拳の《フォトン・レイ》────」「────アイテムボックス(熱量)全開放、???発動っ!!」

 

迫りくる光輪と激突するは、紅い炎。

 

拳と槍先。本来なら交わらぬ2つが、轟音と閃光をとばして、拮抗。

 

「ぬおおおおお────うおおおおおっ」

 

デバフ、武器バフ、魔法により、獣王と私の攻撃は“五分”です。

 

ならばこの勝負、決定づけるとするならば────鎧の差。

 

バキンッ。

 

音は軽く、私にとっては聞き慣れたモノでした。

 

戦鋼右腕から聞こえた異音は、どうしようもない現実を私に叩きつけます。

 

「お願いです。あと数秒っ、数秒だけ耐えてくださいっ、私の戦鋼っ!!」

 

願い───届かず。

 

戦鋼に蓄積された膨大なダメージは、いえ、奇跡というレベルで原型を保っていた体は、とっくのとうに限界を超えていました。

 

誰かが悪いわけでもなく、ただそれが機械としての限界だっただけ。

 

戦鋼の右腕は、パーツ単位で破裂します。

 

「軽く、なりました、か────ごめんなさい、皆」

 

握る右操縦桿から重さが消え、極光が私を貫きます。

 

私の記憶は、そこで途切れます。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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