【前線基地/食事場 [18:30]】
夕方になったにも関わらず、人は増える一方です。
黒髪メイド少女《わたし》の配膳は終わりません。
「うどんおにぎりです」
「ありがと......おう、今日はここで仕事か」
声をかけられたは見知った顔。
「むっ、あの時の整備員ですか」
「おう、よく覚えていたな」
「気持ちいいぐらいに仕事をサボっていたので」
「そいつは見なかったことにしてくれ、嬢ちゃん」
整備員は疲れた声で言います。
ここの所、戦鋼の整備量が増えているとのこと。
「落石だの、穴に落ちただの、油が降ってきただの、もうちょっと大切に扱えっての」
「それは大変ですね」
「しかもおやっさんも、おやっさんだぜ」
「と、いいますと」
「部品がないと聞いて一目散に中央に怒鳴りこみに行きやがった」
「おやっさんって整備長だったような」
「たたき上げだからなぁ。ありがたいけど、更に仕事が……」
がっくり。そんな様子で整備員はうなだれます。
「魔物の繁殖期が近づいてるんだから、本部もパーツぐらい寄越せばいいってんだ」
「魔物の、繁殖期?」
「子育て期間だよ、連中がかっかしやすくなって、馬鹿みたいに殺意が高くなる」
「へえー」
「まあ、教官殿がいれば大丈夫さ」
「鬼殺し教官で大丈夫なんでしょうか」
「ああ見えても馬鹿みたいに強いからな」
脳内に思い浮かぶは、パック酒とともに戯れるデフォルメ教官
「全くそうは見えませんが」
「来た当初は鬼神みたいな感じだったぞ」
「うーん、うーん、そうなんでしょうか」
「俺達が戦鋼を100%動かせるようにしとけば負けねえよ、教官は」
そう言って、整備員はうどんおにぎりをかけ込んでいくのでした。
◇◆◇
【前線基地/食事場 [19:00]】
「えっと、オムライスです」
「はい、注文通りですね」
そこにいたのは目元鉢巻女性。
カメラを構えてなければ、ただの基地隊員なのですが。
「何やってるんですか、アオイさん」
「何も、なんでもご飯の時間ですから」
「ご飯に撮影は必要ないと思いますけど」
「むむ、これはいけませんね。お客様に反抗的なメイドは減点です」
「減点ってそもそも今日だけの仕事ですし」
「なら、明日いや明後日も頑張って貰いましょうか」
突然言い渡される死刑宣告。
明日も明後日もメイドを頑張った場合、宝玉を探す期限をぶっちぎることになります。
「……それだけは勘弁で」
「では、誠意というモノが必要ですよね」
誠意。研究所にいたときもよく聞いた言葉です。
あのときは食料や戦鋼のパーツを奪い合っていましたっけ。
(とすれば、この前線基地で必要なモノは)
「お金とかでしょうか」
「いえ、愛情です」
アオイ一曹は真面目な顔で答えます。
「────具体的には妹声で『萌え萌えキュンキュン、お嬢様っ』といえば許しましょう」
私はしらけた目で対応します。
「あの、愛情関係なくないですか、それ」
「むむ、更に反抗的とは。これはケチャップハート型のオプションも追加で」
「コレって文句を言う度に増えていくパターンですか」
「文句、を言ったので手でハートの形も追加です」
「理不......いや何でも無いです」
「ぐっ、泣き顔追加の方が先だったかも知れません」
既に私の気持ちは絶対零度です。
こんなに疲れて配膳してんのに、更にクソみたいな事をやらねーといけないんだって感じです。
(もう適当でいいでしょうか)
握りつぶすように、ケチャップを握り、
「では、満足させてくれたら質問に答えましょう」
私の手が止まります。
「それは“何でも”ですか」
「もちろん“何でも”ですよ」
私は耳に手をあて、脳内の幻聴に呼びかけます。
「(ナビィ、起きてますかっ)」
『ふぁ~、起きているが、どうした』
「(早急に妹声を出してくださいっ)」
『んな無茶な』
「(私の体を使ってもいいですからっ)」
『いや、そんな事言われても……』
幻聴はしぶしぶ了承してくれます。
期待はするなよ、と二度も念押しをされました。
「ヨシっ、後一分待ってください、本当の妹をお見せます」
「あの、言ったのは私ですけど、無理はしなくてもいいですよ」
若干、引き気味のアオイ一曹。
「大丈夫です。確実に遂行して見せます」
髪の毛をゴムで束ね、サイドでお団子にします。
本当はツインテールがセオリーなんでしょうが、毛量の関係上無理です。
「では────変わったぞ』
瞳は赤く。燃えるような炎になります。
礼は優雅に。指の先まで教育が行き届いたモノになります。
「まずは仕上げから、だな」
右手にオムライス、左手にケチャップ。
握り潰すように、絞り出されたケチャップは、勢い余り宙を赤く染めます。
「ハート型、だったな」
壁に描かれるはハート型、オムライスには気持ち程度にかかっています。
優雅な一礼と共にアオイ一曹の前に置かれる、オムライス。
「最後に、萌え萌えキュンキュン、お嬢様っ、だったか」
目線が明後日をみながら、手でハートをつくり、やる気のない愛情を注ぐ幻聴。
周囲は沈黙に、沈黙を重ねています。
『ちょ、ナビィ、これ妹要素皆無でしょ!』
「(私の寝起きにそんな事を言う方が悪い)」
『それはそうですけどっ』
「いい加減変われ、疲れた」
ふぐっ。急に体が重くなります。
「あの~、これでいいでしょうか」
視線を向ければアオイ一曹と整備員と整備員が話し合っています。
いつの間にか[評価席]と書かれた紙が用意され、無駄に盛り上がっています。
「評価どうします?」
「私は、断然ありだと思いますよ」
「奇遇ですね。拙者もアリだと思います」
「まさかこのご時世にクール系メイドで来るとは」
「私も、逆に虚を突かれた気分になりましたよ」
「しかも本人が無自覚でやっているのがまたいい」
「才能、という言葉は嫌いですが、これは頷くしかありません」
「全くです。これは恐ろしい人材が基地に現れてしまいましたね」
「────おおっと、評価が出ましたッ」
急に解説をしだす、女性整備員。
「10点、10点、10点ッ! これは新記録を樹立してしまったァッ!!」
「この点数はドジっ子メイド、キイロ訓練生を抜くものとなります」
がしっとマイクを握り、アオイ一曹を指で指す、女性整備員。
「最後に、メイドクラブ代理から一言お願いします」
「────次回はデレたバージョンでお願いします」
「「「「うおおおおおおッ!!」」」」
食事場に巻き起こるは同意の嵐。
「うおおおおお、会場はここ一番の盛り上がりを見せますッ」
「分かるぞ、私もデレたバージョンを見たい」
「では、次回は新たな新人が入った時に」
女性整備員が言い切った途端に、テキパキと片付けを始める、整備員達とアオイ一曹。
壁のケチャップは数枚の写真が撮られた後、綺麗に落とされていました。
「あのー、それで私はどうすれば」
流れについて行けず、黒髪メイド少女は一人オロオロするのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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