紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑨ 少女とケチャップと評価

【前線基地/食事場 [18:30]】

 

夕方になったにも関わらず、人は増える一方です。

 

黒髪メイド少女《わたし》の配膳は終わりません。

 

「うどんおにぎりです」

「ありがと......おう、今日はここで仕事か」

 

声をかけられたは見知った顔。

 

「むっ、あの時の整備員ですか」

「おう、よく覚えていたな」

 

「気持ちいいぐらいに仕事をサボっていたので」

「そいつは見なかったことにしてくれ、嬢ちゃん」

 

整備員は疲れた声で言います。

 

ここの所、戦鋼の整備量が増えているとのこと。

 

「落石だの、穴に落ちただの、油が降ってきただの、もうちょっと大切に扱えっての」

「それは大変ですね」

 

「しかもおやっさんも、おやっさんだぜ」

「と、いいますと」

 

「部品がないと聞いて一目散に中央に怒鳴りこみに行きやがった」

「おやっさんって整備長だったような」

「たたき上げだからなぁ。ありがたいけど、更に仕事が……」

 

がっくり。そんな様子で整備員はうなだれます。

 

「魔物の繁殖期が近づいてるんだから、本部もパーツぐらい寄越せばいいってんだ」

「魔物の、繁殖期?」

 

「子育て期間だよ、連中がかっかしやすくなって、馬鹿みたいに殺意が高くなる」

「へえー」

 

「まあ、教官殿がいれば大丈夫さ」

「鬼殺し教官で大丈夫なんでしょうか」

「ああ見えても馬鹿みたいに強いからな」

 

脳内に思い浮かぶは、パック酒とともに戯れるデフォルメ教官

 

「全くそうは見えませんが」

「来た当初は鬼神みたいな感じだったぞ」

 

「うーん、うーん、そうなんでしょうか」

「俺達が戦鋼を100%動かせるようにしとけば負けねえよ、教官は」

 

そう言って、整備員はうどんおにぎりをかけ込んでいくのでした。

 

◇◆◇

【前線基地/食事場 [19:00]】

 

「えっと、オムライスです」

「はい、注文通りですね」

 

そこにいたのは目元鉢巻女性。

 

カメラを構えてなければ、ただの基地隊員なのですが。

 

「何やってるんですか、アオイさん」

「何も、なんでもご飯の時間ですから」

 

「ご飯に撮影は必要ないと思いますけど」

「むむ、これはいけませんね。お客様に反抗的なメイドは減点です」

 

「減点ってそもそも今日だけの仕事ですし」

「なら、明日いや明後日も頑張って貰いましょうか」

 

突然言い渡される死刑宣告。

 

明日も明後日もメイドを頑張った場合、宝玉を探す期限をぶっちぎることになります。

 

「……それだけは勘弁で」

「では、誠意というモノが必要ですよね」

 

誠意。研究所にいたときもよく聞いた言葉です。

 

あのときは食料や戦鋼のパーツを奪い合っていましたっけ。

 

(とすれば、この前線基地で必要なモノは)

 

「お金とかでしょうか」

「いえ、愛情です」

 

アオイ一曹は真面目な顔で答えます。

 

「────具体的には妹声で『萌え萌えキュンキュン、お嬢様っ』といえば許しましょう」

 

私はしらけた目で対応します。

 

「あの、愛情関係なくないですか、それ」

「むむ、更に反抗的とは。これはケチャップハート型のオプションも追加で」

 

「コレって文句を言う度に増えていくパターンですか」

「文句、を言ったので手でハートの形も追加です」

 

「理不......いや何でも無いです」

「ぐっ、泣き顔追加の方が先だったかも知れません」

 

既に私の気持ちは絶対零度です。

 

こんなに疲れて配膳してんのに、更にクソみたいな事をやらねーといけないんだって感じです。

 

(もう適当でいいでしょうか)

 

握りつぶすように、ケチャップを握り、

 

「では、満足させてくれたら質問に答えましょう」

 

私の手が止まります。

 

「それは“何でも”ですか」

「もちろん“何でも”ですよ」

 

私は耳に手をあて、脳内の幻聴に呼びかけます。

 

「(ナビィ、起きてますかっ)」

『ふぁ~、起きているが、どうした』

 

「(早急に妹声を出してくださいっ)」

『んな無茶な』

 

「(私の体を使ってもいいですからっ)」

『いや、そんな事言われても……』

 

幻聴はしぶしぶ了承してくれます。

 

期待はするなよ、と二度も念押しをされました。

 

「ヨシっ、後一分待ってください、本当の妹をお見せます」

「あの、言ったのは私ですけど、無理はしなくてもいいですよ」

 

若干、引き気味のアオイ一曹。

 

「大丈夫です。確実に遂行して見せます」

 

髪の毛をゴムで束ね、サイドでお団子にします。

 

本当はツインテールがセオリーなんでしょうが、毛量の関係上無理です。

 

「では────変わったぞ』

 

瞳は赤く。燃えるような炎になります。

 

礼は優雅に。指の先まで教育が行き届いたモノになります。

 

「まずは仕上げから、だな」

 

右手にオムライス、左手にケチャップ。

 

握り潰すように、絞り出されたケチャップは、勢い余り宙を赤く染めます。

 

「ハート型、だったな」

 

壁に描かれるはハート型、オムライスには気持ち程度にかかっています。

 

優雅な一礼と共にアオイ一曹の前に置かれる、オムライス。

 

「最後に、萌え萌えキュンキュン、お嬢様っ、だったか」

 

目線が明後日をみながら、手でハートをつくり、やる気のない愛情を注ぐ幻聴。

 

周囲は沈黙に、沈黙を重ねています。

 

『ちょ、ナビィ、これ妹要素皆無でしょ!』

「(私の寝起きにそんな事を言う方が悪い)」

 

『それはそうですけどっ』

「いい加減変われ、疲れた」

 

ふぐっ。急に体が重くなります。

 

「あの~、これでいいでしょうか」

 

視線を向ければアオイ一曹と整備員と整備員が話し合っています。

 

いつの間にか[評価席]と書かれた紙が用意され、無駄に盛り上がっています。

 

「評価どうします?」

「私は、断然ありだと思いますよ」

「奇遇ですね。拙者もアリだと思います」

 

「まさかこのご時世にクール系メイドで来るとは」

「私も、逆に虚を突かれた気分になりましたよ」

 

「しかも本人が無自覚でやっているのがまたいい」

「才能、という言葉は嫌いですが、これは頷くしかありません」

「全くです。これは恐ろしい人材が基地に現れてしまいましたね」

 

「────おおっと、評価が出ましたッ」

 

急に解説をしだす、女性整備員。

 

「10点、10点、10点ッ! これは新記録を樹立してしまったァッ!!」

 

「この点数はドジっ子メイド、キイロ訓練生を抜くものとなります」

 

がしっとマイクを握り、アオイ一曹を指で指す、女性整備員。

 

「最後に、メイドクラブ代理から一言お願いします」

 

「────次回はデレたバージョンでお願いします」

 

「「「「うおおおおおおッ!!」」」」

 

食事場に巻き起こるは同意の嵐。

 

「うおおおおお、会場はここ一番の盛り上がりを見せますッ」

「分かるぞ、私もデレたバージョンを見たい」

「では、次回は新たな新人が入った時に」

 

女性整備員が言い切った途端に、テキパキと片付けを始める、整備員達とアオイ一曹。

 

壁のケチャップは数枚の写真が撮られた後、綺麗に落とされていました。

 

「あのー、それで私はどうすれば」

 

流れについて行けず、黒髪メイド少女は一人オロオロするのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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