紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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90 少女と復活と不思議な女性

わたしの感覚が蘇ってきます。

 

背中に感じたのは、硬い石────触ってみると、磨かれた大理石のようにつるつるしています。

 

「食べるのは無理そうですね」

 

最初に感じたのは空腹です。そして次に感じたのは眠気。

 

頭をごろんとうごかすと、石に反射した少女の顔が映ります。

 

あくびをしている赤金髪少女(わたし)……なんか髪の色が変わってますね。

 

「まあ、女になったのを思えば……あれ、そうでしたっけ?」

 

よくわからない記憶に疑問を持ちながら、ゆっくりと上体を起こしていきます。

 

「────古い、石の棺桶ですね」

 

小さく響いた声は、大きな部屋に広がっていきます。

 

ステンドグラスをゆらして、反響し、私にとどく前に消えていきます。

 

ガラス越しの光によって照らされた部屋には、石の棺桶が並んでいるのが分かります。

 

「湿っぽいのか、温かいのかよくわからない部屋ですね……」

「ふふふ、私は温かく感じてもらえると嬉しいかな」

 

声の方向には、不思議な女性がいました。

 

ほこりだらけ場所にもかかわらず、やけに綺麗な服装をした彼女。

 

純白のベールから赤髪がはみ出した彼女は、笑顔をしていました。

 

「あなたは?」

「そうね、私は教会クイーンさんとでも名乗っておくかな」

 

「初対面の方にこういうのはなんですが……もう少しいい名前はないんですか?」

「私としてはこれでも頑張った方なんだけど」

 

彼女は、なら、あなたがつけてよ、というジト目をしています。

 

「ではチャーチクイーン、略してチャックというのは」

「私はあなたが私以下のように感じるかな」

 

「なら教会クイーンさん、」

「私の勝ちということでいいかしら」

 

「ここはどこですか?」

「私は自分の名前にこだわってもらえなくて悲しいわ」

 

まつ毛を下にむけて、彼女はしょぼくれた顔をしています。

 

悪気はないのですが、ここがどこかの方が気になりますので、話を続けます。

 

「教会にしては悪質な部屋なので、死体置き場でしょうか」

「私としては頑張って綺麗にした方なんだけど」

 

「ですが、棺桶だらけの部屋って言うのが」

「私は冒険者がよく使う教会の蘇生部屋ってことを教えてあげる」

 

私は蘇生部屋、蘇生部屋と頭の中でころころと文字を転がすこと、数秒です。

 

私はふと、()()()()に気づきます。

 

ここは蘇生部屋、つまり。

 

「アレ、私────1回、死んでます?」

 

教会クイーンはこくこくと頷いてくれます。

 

こくこくと頷く彼女を見て蘇るのは、ギルドでもらったお言葉。

 

────蘇生料金が高い冒険者なんて、味方にいらないのよ。

 

私の背中に冷たい汗がつたります。

 

「あの、その、蘇生料金は……」

「私としては教会は寛大だから、後払いでも大丈夫と教えるね」

 

彼女は指をつかって5と、00と表示してくれます。

 

おかしいですね。桁一つぐらい間違ってませんかね。

 

金貨100枚で小国の国家予算とか聞いた気がするんですが。

 

「ちなみに、どのぐらい待ってくれる感じですかね」

「私はいつまででも待っててあげる」

 

彼女の寛大な言葉に、よぎる希望。

 

私は期待を込めて言葉を紡ぎます。

 

「────えっ、じゃあ踏み倒してもっ」

 

「────でも、私のギルドが許してくれないかな?」

 

希望なんてありませんでした。

 

「殺生な……せめて借金でとかお願いします」

「借金?」

 

こてん。教会クイーンさんは首をかしげます。

 

私は、借金を知らないとは、彼女はよほど裕福な場所で育ったんだなぁと思いました。

 

なので、彼女に借金とは、いかに素晴らしいシステムか教えてあげることにしましょう。

 

「いいですか、借金とは」

「借金とは?」

 

「金を猶予までに払えば、無限に買い物ができるシステムです」

 

「私は無限に買うと、お金を返せなくなると思うの」

「確かに借り過ぎると返せなくなりますが、そんな人は滅多にいないので大丈夫です」

 

私は力強く頷いておきます。

 

まさか借りた金を返せない人間が、目の前にいるわけないですからね。

 

「私はすごく都合のいいようにいっているなと感じるよ」

「う、そ、そんなことはありません」

 

「ふふふ、でも、私としては興味深いから許してあげる」

「ほんとですかっ」

 

「でも、私の期限は明日まで」

 

こてん。今度は私が首をかしげる番です。

 

あれ、それはただの無茶ぶりでは?

 

せめて、半年、いえ一年ぐらいで────口が細い指で塞がれます。

 

「私はあなたの口から無茶とか、無理とかは聞きたくないな」

「むごむご(現実的でないって話をですね)」

「そうかな?」

 

教会クイーンさんの瞳が青く変わりました。

 

まるで、私の全てを見通すような、澄んだ瞳の色をしています。

 

「ふふふ、やっぱり、私には絡まってるからよくわかんない」

「からまってる?」

「だから私は期待して待っておく」

 

細い指で軽く押されただけで、私はバランスを崩し、再び棺のなかに。

 

狭い視界に、極彩色が飛び散ったかとおもうと、

 

「────あなたが結末にたどり着く、その日まで」

 

反響する声だけが聞こえてきます。

 

あわてて体を起こしますが、

 

「教会クイーンさんが、いなくなってる?」

 

見渡せば、蘇生部屋のドアが開いていました。

 

彼女は出て行ってしまったのかと思っていると、今度はドアから入ってくる猫影が1つ。

 

「キイロニャ、キイロニャがいたニャッ!!」

 

やけにハイテンションな娘娘猫です。

 

つづいて、黒いツインテをたらした少女も入ってきます。

 

ドアに手をかけて、肩で息をきらすほど疲れてますから、よほど焦ってきたのでしょう。

 

「はぁはぁ、ニャン子の足速すぎるでしょ……」

「だってキイロニャが復活だニャ」

「だからって……はー、疲れた」

 

あきれた顔のツインテさん。手にはリンゴが1つ。

 

ポイっと私に投げられます。

 

「ほら、どうせお腹減ってるでしょ」

「よくご存知で」

 

私は芯ごとかぶりつきます。

 

甘みよりも、酸味が強いりんごですが、気にしません。

 

「ばきばき、ごりごり、がりがり」

「到底、少女の口から出ていい音じゃないわね」

「もぐもぐ、ごっくん・・・ごちそうさまです」

 

りんごをまるごと飲み込むと、お腹が膨れ、頭もすっきりした気がします。

 

やはり空腹は大敵ですね。

 

「あっ、そういえば、教会クイーンさんを見ましたか?」

「なによ、そのヘンテコな名前……」

「見た目は、純白のベールを被った綺麗な人なんですが」

 

いわれてみると、変な名前ですね。

 

だから彼女も名前を欲していたりしたのでしょうか?

 

「まっ、どんな見かけだろうが関係ないけどね」

「そうなんですか?」

 

「だって────そもそも、ここに来るまで誰ともすれ違ってないわよ」

「ほえ?」

 

狐に化かされたような気分になった私。

 

ドアから吹き込んだ風は、私たちは何者でもあり、何者にもなれないモノだよ、と囁いていました。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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