紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

92 / 107
91 少女と巨人と切替地点

【ギルド総本山/中腹/市場 [現地時刻 昼]】

 

晴れやかに広がっている青空は、うっとおしいので、見上げなくなりました。

 

朝が過ぎ去った後の市場は、ほどよい人通りになっています。

 

多数の影がすれ違う中、どこもあてもなく、赤金髪少女は街を歩きます。

 

「おーい、キイロ殿ー、でごんす」

 

とぼとぼと歩いていると、後方から、野太い声が聞こえます。

 

「(この声は……?)」

 

聞いたことがあるような、と疑問が頭によぎり、足を止めます。

 

誰でしょうか、とふり向いてみると、大きな影が私を覆っていました。

 

視線をあげれば、大きな体をもった、巨人族のゴンスさんがいました。

 

「驚かせたでごんすか?」

「いえ、驚いたというよりはですね」

 

鎧ではなく、布団ぐらいのツナギを身にまとっているゴンスさん。

 

私が注目するのは、そんなゴンスさんが両肩にかついでいる、木箱です。

 

「どうしたんですか、その荷物?」

「これは、朝市の手伝いでごんす」

 

「手伝い? 客寄せみたいな感じでしょうか」

「いやいや違うでごんすよ」

 

ゆっくりと地面におろされる木箱。

 

どすん。置かれた石舗装にはヒビが入り、ホコリも舞い上がっています。

 

驚いた私が中を覗き込みますと、食料品から武器類までが、ギッシリと詰め込まれていました。

 

「こんな感じで、()()荷を運んでいるでごんす」

「だ、だいぶ力仕事ですね……」

 

「そうでごんすか?」

「そうですよ」

 

ちなみに、なぜ冒険者なのにアイテムボックスを使わないのかというのは、値段による問題です。

 

アイテムボックスは、販売元のギルドが流通量を絞っているために、とても高価なモノとなっています。

 

普通の冒険者では買える値段ではありませんし、庶民の運送はいまだに力仕事となっています。

 

「でも、こんなことが出来るようになったのも、皆のおかげでごんすよ」

「皆の? おかげですか」

 

「例えば、キイロ殿を見ていると、自分も何かしなきゃって気持ちになるでごんす」

「そうなんですかね」

「そうでごんす」

 

私が首をかしげていますと、

 

「────おーい、巨人族の兄ちゃんこっちだ、こっちッ」

 

露店の奥から声が聞こえてきます。

 

店の内部をのぞき込むと、店主らしき人が、こちらに向かって手をふっています。

 

手に気づいたゴンスさんは、置いた木箱を軽々とかつぎ、奥に運んでいきます。

 

「こっちでいいでー、ごんすかー?」

「そっちで大丈夫だ。すまねえ、助かるよ」

 

「いいでごんすよ」

「なら、こいつは礼代わりだ」

 

店主はゴンスさんに、数枚の銀貨を手渡します。

 

「別にいらないでごんすよ」

「タダ働きさせるのは店の沽券にかかわるってもんだ」

 

「でも、コレは多すぎるでごんす」

「いいんだよ、毎日手伝ってくれただろ、それに他の店も」

 

と言いたいことを言って、よそに行ってしまう店主です。

 

ゴンスさんは申し訳そうにしながらも、こちらに戻ってきます。

 

戻ってきた彼は、不思議な行動をとるのでした。

 

「どうしました? 私を見つめて」

 

ゴンスさんは、視線を外し、銀貨を見つめた後、もう一度私を見つめます。

 

まじまじと見てますね。なにを悩んでいるのでしょうか?

 

「なんか、顔についてたりしますかね」

「そうではなくてで……ごんす」

 

ゴンスさんは決心したように、手をだします。

 

「キイロ殿、これを受け取って欲しいでごんす」

「いや、ゴンスさんの働いたお金ですし」

「これを借金の返済にあてるでごんす」

 

ゴンスさんのありがたい言葉。

 

ですが、私のは大きすぎる借金ですし、受け取る気にはなれませんでした。

 

「あの、ゴンスさん、私はもう」

「残っている借金が膨大なのは知っているでごんす」

「ですから、もういいんですよ「これは、そういうものじゃないでごんす」────えっと?」

 

ゴンスさんは、無理やりお金を差し出してきます。

 

彼にしてはめずらしく、強引にです。

 

「────これは頑張っているキイロ殿への報酬でごんす」

 

「────私への、報酬?」

 

ゴンスさんは、首を傾げながら、何かに憤怒しながら言います。

 

「やっぱり、ここまで頑張ってきたキイロ殿が、報われないのは違うと思うでごんす」

「別に報われようとかそう言う気持ちで、やってるわけではないですし」

「でも、こんな自分でも報われたでごんす」

 

ゴンスさんは、手のひらに残っている銀貨をみつめます。

 

「みんなのために頑張っているキイロ殿への報酬には、少ないかもしれないでごんすが」

「それでも、このお金は受け取れません」

 

私は首を小さくふります。

 

それは、自分が何も成していないからです。

 

何も成していないのに、報酬を受け取るのは、私の道理が通らない、といった気持ちです。

 

「報酬は、成果があってこそ受け取れるモノですから」

「いいや、成果はあったと思うでごんす」

 

彼の言葉に、私は鼻で笑ってしまいます。

 

「試合に負けたのが、成果ですか?」

「試合に負けたという結果を得れたのが、成果でごんす」

 

詐欺師みたいな言葉を吐く、ゴンスさんです。

 

ゴンスさんの瞳には、小さく震える私が映っています。

 

私は、そんな私が嫌いで、地面を見つめて歯を食いしばってしまいます。

 

「────だって負けたら、何も得れないじゃないですか」

 

「────別に、次回に出ればいいでごんす」

 

なんてことないような言葉に、私の思考が空白になります。

 

「次回の、大会?」

「そうでごんす。次回がダメなら、また次回、それで頑張ればいいでごんす」

 

「でもそれは、」

「長い長い戦いでごんす。ごんすだって、これで5度目になるけど一度も勝てないでごんす」

 

あまりにも悲惨な言葉です。ですが彼が、それを恥じている事はありません。

 

むしろやっと言えたとばかりに、彼は言葉を続けます。

 

「キイロ殿は、まだまだ回り道の途中でごんす、

 結果を得るための、ながいながい回り道でごんす、

 でも、この回り道こそが、実は最短かもしれない、でごんす」

 

ゴンスさんは、再び銀貨を差し出します。

 

「────この銀貨がその一歩になれば嬉しいでごんす」

 

私は彼を見上げます。

 

視線の先には、顔を赤くして、歯を食いしばっているゴンスさん。

 

どうやら、らしくないことを必死に耐えながら様子。

 

「やっぱり自分がキイロ殿に意見するなんて、百年早い気がしてくるで……ごんす」

 

なんなら小声で弱気な本音だって聞こえてきます。

 

ですがそんな、彼の肩のむこうには、どこまでも広がる青空が。

 

どうみても私の負けですが、ちょっとだけ意地悪もしたくなります。

 

「────でも、その一歩は大変な一歩かもしれませんよ」

 

「────なら、みんなが手伝ってくれるでごんすよ」

 

なんてことないように言い切られる、私への言葉。

 

心強い、言葉ですね。おもわず嬉しくなってしまいますほどです。

 

やっぱり、ゴンスさんはカッコいい騎士かもしれませんね。

 

「ふふっ」

 

つい、笑ってしまう私は、空を見上げます。

 

青空は小さな私をつつんでしまうほど、澄み渡っています。

 

まったく私は、なんてつまんない事で、悩んでいたのでしょうか。

 

「────くよくよしている場合ではありませんね」

 

例え、現在が回り道でも、信じなければなりません。

 

この敗北でさえ、回り道の途中であると。

 

そして、これこそが最短であると。

 

「ゴンスさん、やっぱり銀貨を受け取っていいですか?」

「もちろん、いいでごんすよ」

 

ゴンスさんは優しく手を差し出してくれます。

 

私は置かれた銀貨を受け取って、1つの提案をします。

 

「このお金で、間食とかしませんか?」

「いや、ごんすはいいでごんすが、借金はいいのでごんすか……」

 

もちろん、良いに決まっています。

 

「だって借金を返していくにも、お腹が減ってたらダメですから」

「ならお供するでごんす」

 

巨人族と少女は、止まっていた所から、歩き始めます。

 

すれ違う人々は、いつも通りで変わりません。

 

ですが、私は空を見上げることができます。

 

まずは腹ごしらえからですね。




ここまでよんでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。