【ギルド総本山/中腹/市場 [現地時刻 昼]】
晴れやかに広がっている青空は、うっとおしいので、見上げなくなりました。
朝が過ぎ去った後の市場は、ほどよい人通りになっています。
多数の影がすれ違う中、どこもあてもなく、赤金髪少女は街を歩きます。
「おーい、キイロ殿ー、でごんす」
とぼとぼと歩いていると、後方から、野太い声が聞こえます。
「(この声は……?)」
聞いたことがあるような、と疑問が頭によぎり、足を止めます。
誰でしょうか、とふり向いてみると、大きな影が私を覆っていました。
視線をあげれば、大きな体をもった、巨人族のゴンスさんがいました。
「驚かせたでごんすか?」
「いえ、驚いたというよりはですね」
鎧ではなく、布団ぐらいのツナギを身にまとっているゴンスさん。
私が注目するのは、そんなゴンスさんが両肩にかついでいる、木箱です。
「どうしたんですか、その荷物?」
「これは、朝市の手伝いでごんす」
「手伝い? 客寄せみたいな感じでしょうか」
「いやいや違うでごんすよ」
ゆっくりと地面におろされる木箱。
どすん。置かれた石舗装にはヒビが入り、ホコリも舞い上がっています。
驚いた私が中を覗き込みますと、食料品から武器類までが、ギッシリと詰め込まれていました。
「こんな感じで、
「だ、だいぶ力仕事ですね……」
「そうでごんすか?」
「そうですよ」
ちなみに、なぜ冒険者なのにアイテムボックスを使わないのかというのは、値段による問題です。
アイテムボックスは、販売元のギルドが流通量を絞っているために、とても高価なモノとなっています。
普通の冒険者では買える値段ではありませんし、庶民の運送はいまだに力仕事となっています。
「でも、こんなことが出来るようになったのも、皆のおかげでごんすよ」
「皆の? おかげですか」
「例えば、キイロ殿を見ていると、自分も何かしなきゃって気持ちになるでごんす」
「そうなんですかね」
「そうでごんす」
私が首をかしげていますと、
「────おーい、巨人族の兄ちゃんこっちだ、こっちッ」
露店の奥から声が聞こえてきます。
店の内部をのぞき込むと、店主らしき人が、こちらに向かって手をふっています。
手に気づいたゴンスさんは、置いた木箱を軽々とかつぎ、奥に運んでいきます。
「こっちでいいでー、ごんすかー?」
「そっちで大丈夫だ。すまねえ、助かるよ」
「いいでごんすよ」
「なら、こいつは礼代わりだ」
店主はゴンスさんに、数枚の銀貨を手渡します。
「別にいらないでごんすよ」
「タダ働きさせるのは店の沽券にかかわるってもんだ」
「でも、コレは多すぎるでごんす」
「いいんだよ、毎日手伝ってくれただろ、それに他の店も」
と言いたいことを言って、よそに行ってしまう店主です。
ゴンスさんは申し訳そうにしながらも、こちらに戻ってきます。
戻ってきた彼は、不思議な行動をとるのでした。
「どうしました? 私を見つめて」
ゴンスさんは、視線を外し、銀貨を見つめた後、もう一度私を見つめます。
まじまじと見てますね。なにを悩んでいるのでしょうか?
「なんか、顔についてたりしますかね」
「そうではなくてで……ごんす」
ゴンスさんは決心したように、手をだします。
「キイロ殿、これを受け取って欲しいでごんす」
「いや、ゴンスさんの働いたお金ですし」
「これを借金の返済にあてるでごんす」
ゴンスさんのありがたい言葉。
ですが、私のは大きすぎる借金ですし、受け取る気にはなれませんでした。
「あの、ゴンスさん、私はもう」
「残っている借金が膨大なのは知っているでごんす」
「ですから、もういいんですよ「これは、そういうものじゃないでごんす」────えっと?」
ゴンスさんは、無理やりお金を差し出してきます。
彼にしてはめずらしく、強引にです。
「────これは頑張っているキイロ殿への報酬でごんす」
「────私への、報酬?」
ゴンスさんは、首を傾げながら、何かに憤怒しながら言います。
「やっぱり、ここまで頑張ってきたキイロ殿が、報われないのは違うと思うでごんす」
「別に報われようとかそう言う気持ちで、やってるわけではないですし」
「でも、こんな自分でも報われたでごんす」
ゴンスさんは、手のひらに残っている銀貨をみつめます。
「みんなのために頑張っているキイロ殿への報酬には、少ないかもしれないでごんすが」
「それでも、このお金は受け取れません」
私は首を小さくふります。
それは、自分が何も成していないからです。
何も成していないのに、報酬を受け取るのは、私の道理が通らない、といった気持ちです。
「報酬は、成果があってこそ受け取れるモノですから」
「いいや、成果はあったと思うでごんす」
彼の言葉に、私は鼻で笑ってしまいます。
「試合に負けたのが、成果ですか?」
「試合に負けたという結果を得れたのが、成果でごんす」
詐欺師みたいな言葉を吐く、ゴンスさんです。
ゴンスさんの瞳には、小さく震える私が映っています。
私は、そんな私が嫌いで、地面を見つめて歯を食いしばってしまいます。
「────だって負けたら、何も得れないじゃないですか」
「────別に、次回に出ればいいでごんす」
なんてことないような言葉に、私の思考が空白になります。
「次回の、大会?」
「そうでごんす。次回がダメなら、また次回、それで頑張ればいいでごんす」
「でもそれは、」
「長い長い戦いでごんす。ごんすだって、これで5度目になるけど一度も勝てないでごんす」
あまりにも悲惨な言葉です。ですが彼が、それを恥じている事はありません。
むしろやっと言えたとばかりに、彼は言葉を続けます。
「キイロ殿は、まだまだ回り道の途中でごんす、
結果を得るための、ながいながい回り道でごんす、
でも、この回り道こそが、実は最短かもしれない、でごんす」
ゴンスさんは、再び銀貨を差し出します。
「────この銀貨がその一歩になれば嬉しいでごんす」
私は彼を見上げます。
視線の先には、顔を赤くして、歯を食いしばっているゴンスさん。
どうやら、らしくないことを必死に耐えながら様子。
「やっぱり自分がキイロ殿に意見するなんて、百年早い気がしてくるで……ごんす」
なんなら小声で弱気な本音だって聞こえてきます。
ですがそんな、彼の肩のむこうには、どこまでも広がる青空が。
どうみても私の負けですが、ちょっとだけ意地悪もしたくなります。
「────でも、その一歩は大変な一歩かもしれませんよ」
「────なら、みんなが手伝ってくれるでごんすよ」
なんてことないように言い切られる、私への言葉。
心強い、言葉ですね。おもわず嬉しくなってしまいますほどです。
やっぱり、ゴンスさんはカッコいい騎士かもしれませんね。
「ふふっ」
つい、笑ってしまう私は、空を見上げます。
青空は小さな私をつつんでしまうほど、澄み渡っています。
まったく私は、なんてつまんない事で、悩んでいたのでしょうか。
「────くよくよしている場合ではありませんね」
例え、現在が回り道でも、信じなければなりません。
この敗北でさえ、回り道の途中であると。
そして、これこそが最短であると。
「ゴンスさん、やっぱり銀貨を受け取っていいですか?」
「もちろん、いいでごんすよ」
ゴンスさんは優しく手を差し出してくれます。
私は置かれた銀貨を受け取って、1つの提案をします。
「このお金で、間食とかしませんか?」
「いや、ごんすはいいでごんすが、借金はいいのでごんすか……」
もちろん、良いに決まっています。
「だって借金を返していくにも、お腹が減ってたらダメですから」
「ならお供するでごんす」
巨人族と少女は、止まっていた所から、歩き始めます。
すれ違う人々は、いつも通りで変わりません。
ですが、私は空を見上げることができます。
まずは腹ごしらえからですね。
ここまでよんでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。