紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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94 彼らと獣王と分かってたこと

【ギルド総本山/麓・総本山新地 [現地時刻 昼すぎ]】

 

歓楽街には、日が昇りきり、地面にギッシリと人影を映しだしています。

 

冒険者、行商人、町人、が通りすぎる中、ぽっかりとひらいた空間があります。

 

皆が避けているそこには────3人の姿がありました。

 

「おい小娘、いい加減にしろ」

 

ライオンの獣人、獣王は顔をしかめます。

 

ギロリと眼光をむけ、自身の肩の見ると、赤金髪の少女がいました。

 

「もぐもぐ?(あれ?)」

 

ふさふさの毛並みにつつまれている、赤金色少女は、

 

「もぐもぐ?(これは食べ物じゃない……)」

「だから俺のたてがみを食べるなッ」

「もぐもぐぅ(お腹減った)」

 

獣王のたてがみを食べようとしていました。

 

私としては、胃に入ればなんでもいい、というほど空腹な感じです。

 

唾液でべとべとになっている髪の毛を、通りすぎる方々は可愛そうな眼でみています。

 

「デカブツ、本当にこっちでいいんだな」

「は、はいッ、だ、大丈夫でごんすッ」

 

正面で、震えながら先導するのは、巨人族のゴンスさん。

 

巨体なのに、ぶるぶると震えて一歩を踏みだすモノですから、通行人もびっくりして、離れていきます。

 

「ちっ、不甲斐ない奴め」

「あっ、はい、すみませんでごんすッ」

 

おどおどしながらも、案内されるのは、“料理千番”です。

 

ツインテさんがクソみたいな仕事場所、といっている店といえば分かりやすいでしょうか。

 

入り口に近づきますと、彼女が元気に対応していました。

 

「ご来店4名様♡ 入りまーす♡」

 

元気というか、猫を被りまくった様子ですね。

 

甘ったるすぎて、こっちが身震いしてしまいそうな声となっています。

 

「ここは裏で奴隷も取り扱っているのかい」

「それは中に入ってお楽しみです♡」

 

「中にはかわいい子がいるんだろうな」

「そちらの方が希望であれば、夜に来てくださいね♡」

 

慣れた感じに、次々と客を捌いていくツインテさん。

 

「次の、ご来店様は♡───げっ、獣王」

 

ですが、彼の来店は予想外だったようです。

 

「え、あの、その、えっと、一名様でしょうか……?」

「肩の小娘と、後ろのデカブツを入れて3名だ」

「小娘と、デカブツですか?」

 

彼女の視線が右にむきますと、眼に映るのは、私とゴンスさん。

 

「(……絶句)」

 

ツインテさんは、頬を引き攣らせて、私達をみます。

 

なんでそんな事になってんのよッ、と心の底から叫びたそうな顔ですね。

 

仕方がないので、アイコンタクトで私の気持ちを伝えておきましょう。

 

「(お腹が減りました)」

「(ええい、だまらっしゃいッ)」

 

瞼を強く閉じて、頭をぶんぶんとふった彼女。

 

冷静になった頭をつかって、私達を追い払おうとします。

 

「すみません、今は昼飯を食べる客で混雑してまして」

「ほう、俺の道を拒む、と?」

 

「その、獣王様ともあろう方を待たせるのは、申し訳ないといいますか」

「構わん。席なぞ脆弱な冒険者が譲ってくれる」

 

今の会話を要訳しますと、どうしてアンタみたいな、問題を起こしそうな人物を店に入れないといけないわけ。

 

早く帰れや、ボケェです。

 

「えっと、あの、その、巨人族のお連れが入れるほど、入口は大きくなくてですね」

「面白い冗談だな」

「冗談ではなく、事実「ドゴンッ」────?」

 

爆風が頬をなで、煙が晴れた後、()()()()()場所には、巨人でも通れそうな大穴が空いていました。

 

もちろん、中にいた客はあんぐりと、口をあけています。

 

「ほら、デカブツ貴様も入れ」

「さ、3名様ご案内ぃッ」

 

ツインテさんはヤケクソです。

 

声は店内に響き渡り、私たちは席へと案内されるのでした。

 

 

◇◆◇

【ギルド総本山/麓・総本山新地・料理千番 [現地時刻 昼すぎ]】

 

店内は、薄暗く、吊るされたランプの灯りだけ────が基本ですが、

 

本日は陽射しがさしこむので、明るくなっています。

 

「もぐもぐ!」

 

丸型木製テーブルには、湯気たちのぼる料理が並んでいます。

 

豪華なのは、ツインテさんが特別に頼んでいたからです。

 

食べても食べても料理が出てくるので、少女は顔から皿につっこんで、食事をしています。

 

「もぐもぐもぐ!」

 

啜るように肉を、魚を、野菜を口のなかに。

 

胃袋にいくら入れても、お腹が減りますから、無限に食べれる気がしますね。

 

「酷い食いっぷりでごんす」

「魔力が切れかけの食欲なぞ、こんなものだ」

 

料理に手をつけていないゴンスさんと、丁寧に食事をしているのは獣王です。

 

ゴンスさんはビビってるからですけど、獣王は誰かに礼儀マナーでも仕込まれたのでしょうか?

 

彼らは私を挟んで、会話をします

 

「ま、魔力が切れるとそんな状態に「もぐもぐ」」

「完全に切れると石になり、数秒で塵に返る「もぐもぐ」」

「し、知らなかったでごんす「もぐもぐ」」

 

ゴンスさんの背中には、猫の尻尾が見え隠れしています

 

向こうにいるのは、おそらく娘娘猫さんですね。

 

「(ご、ごくりニャ)」

「(別に食べても怒られないと思うでごんすよ)」

「(無理ニャ、あんなヤバい奴の前にでる勇気なんてないニャ……)」

 

咀嚼音で満ちる店内には、彼らと彼女の声だけが聞こえます。

 

他のお客さんですか? 獣王を見て、我先にと逃げていきました。

 

ですので店は────追加で、鼻歌混じりの足音が聞こえてきます。

 

「妹ちゃーん、酷いなぁ。お姉さんは必死に頑張ったっていうのにハブるなんてェ」

 

紫髪をゆらしたおねーさん、ギルド主任は踊るようなスキップで近づいてきます。

 

かなり上機嫌ですし、なにかいいコトでもあったのでしょうか?

 

「まあ、でもォ、これからはおねーさんの元でテキパキと働いてもらうから」

「すごく楽しそうニャ……」

「そりゃ、結果といえ妹ちゃんをゲットできたんだからねー」

 

右手には妹ちゃん借金返済計画書、左手には落陽計画【極秘】と刻まれた書類。

 

ぱらぱらと捲れる計画書からは、借金も3年で返済できるッ、と力強く書かれていました。

 

「まずは獣人連合とかを滅ぼして「ほう」────アレー、妹ちゃん、野太い声になったねー?」

 

まさかねー、と首をうごかすギルド主任は、嫌な汗をかいています。

 

なんか聞いたことのある声だなぁ、なんなら大会で聞いたばっかりだなぁ。

 

気持ちを表現するように、首の動きもぎこちないモノになっています。

 

「────うげ、獣王ッ」

 

反射的に後方に下がり、槍を、()()()()()()ギルド主任です。

 

「ほう、貴様はあの時の」

「悪いけど、今日は戦う気なんてないから、ね」

 

ギルド主任は、首にかけられた魔法拘束具を見せてくれます。

 

赤黒い文字で“謹慎中”と書かれている魔法の板。それは職員たちの怨嗟の呪いを込めた拘束具です。

 

「面白味のない。暇つぶしには十分だと思ったが」

「言ってくれるわね……まあ、今のおねーさんだと厳しいのは事実だけど」

 

やる気の削がれた獣王。彼の視線は床でとまります。

 

散らばっているのは、ギルド主任が落とした書類となっています。

 

「返済書……貴様が躍起になっていた理由は、小娘の借金か」

「ほんとはそんなに乗る気じゃなかったけどねー」

 

「大会に優勝し、聖女の特命で借金を消す。馬鹿が考えそうな案だな」

「────馬鹿とはなによ、馬鹿とは」

 

口を挟むのは、ツインテさん。

 

空になった銀のお盆をかかえて、店員らしからぬ姿勢。

 

どうやら客がいなくなったので、私達の話を盗み聞きしていたようです。

 

「耳無し如きが、俺とやり合うつもりか?」

「え、いや、まさか、そんなわけないでしょ、あはは……」

 

獣王のするどい眼光。彼女は逃げるように、私の背中に隠れます。

 

「もっきゅもっきゅ(隠れるならゴンスさんの方がいいとおもいますよ)」

「馬鹿ね、あんたの方が耐久性が高いからに決まってるでしょ」

 

「もっきゅもっきゅ(私は肉壁ですか……)」

「いっぱい食べてるんだから頑張りなさい」

 

獣王の前で背を向ける。割と致命的な行動ですが、彼は見逃します。

 

「まあいい────」

 

なにより、一言喋るごとに、上機嫌になっています。

 

口元が緩んでいますし、なにか良いことに気づいたのでしょうか?

 

「俺に必要なのはゴンスだ。あの、ゴンスはどこにいる」

「「「「いや、どこって……」」」」

 

皆さんが見つめるのは、巨人族のゴンスさん。

 

彼は慌てたように、恥ずかしがるように、手をもぞもぞします。

 

「いやいや、落ち着くでごんす」

「貴様か、俺とやり合ったのは?」

 

「ち、違うでごんすッ」

「ならば誰だ。誰が、俺と殺し合ったゴンスだッ!!」

 

店内に響きわたる獣王の叫び声。

 

皆さんは、ああそっちの方か、と、一点を見つめます。

 

「もっきゅもっきゅ(照れますね)」

 

もちろん、私は食事をする手はそのままです。

 

「いや、待て、冗談はよせ」

「いやー、こればっかりは事実なんだけどねェ」

 

「落ち着け、まず大きさが合わないだろ」

「あんな大きな鎧を、少女が動かしていると思わないニャ」

 

「馬鹿な、コイツはあそこまで大きくなるのか」

「もぎゅもぎゅ! (戦鋼は乗って動かす、パワードスーツです!)」

 

信じられないような眼で、私を見ている獣王。

 

「小娘、名はなんという」

「もきゅもきゅ (キイロ来来です)」

 

「もきゅもきゅ、か……変わった名だな」

「アンタ、せめて話している時ぐらい食べるの止めなさいよ」

 

ツインテさんに諌められて、私は料理を机に置きます。

 

「キイロ、借金を返したいか」

「もきゅ、ごくり……そりゃ返したいですけど」

 

「ならば、良い方法がある」

「なんですか」

 

「貴様は────今日から俺のモノだ」

 

獣王は、私の首根っこをもちあげます。

 

喉に食べ物がひっかかりますし、彼の顔のニヤケ顔が見えるので、嫌ですね。

 

「ああ、俺と未来永劫、戦い続けよう」

「あの、嫌ですけど」

「なぜだ?」

 

真顔で獣王は聞き返してきます。

 

いや、普通の人間はそんなバトルジャンキーな頭じゃないんですよ。

 

と、どうやって伝えるかを悩んでいたところ、

 

「はい、そうですか、これで、妹ちゃんはハッピーエンドだね────ってなるワケないよねェ」

 

ガッタン。机左側に脚をのせる、ギルド主任です。

 

槍が取り出せないので、手にはフォークとナイフを構えます。

 

「流石に私の妹ちゃんを奪われるのは、話が違うかなあ」

「貴様のではなかろう」

「私のですー。これから国を亡ぼしてもらう仲間ですー」

 

妙ですね。そんな物騒な仲間になったつもりもないんですが。

 

私が首を傾げていると、娘娘猫さんも、体をだしてファイティングポーズを取ります。

 

「キイロニャが、嫌がっているのに無理やりはよくないニャ」

「この俺に楯突くのか、弱者の分際で」

「ニャ……ニャニャぁ」

 

ですが、恐怖には勝てなかった様子で、数秒も経たず、ゴンスさんの背にかくれます。

 

そんな様子を見て、ようやく口を開くことができるゴンスさんです。

 

「そうでごんす。キイロ殿は嫌がっているでごんす」

「嫌がっている? だからどうした」

「どうしたって、当然の話でごんすッ」

 

右側の机が大きく揺れます。

 

獣王が地面を踏み鳴らし、机が軋みます。

 

「コイツは敗者。敗者なら勝者の言葉に従うのが常だ」

「た、たった一度の負けで、人生は決まらないでごんすッ」

「問題あるまい。未来永劫、小娘1人で勝てる未来などない」

 

右側の机が大きく揺れます。

 

ゴンスさんが地面を踏み鳴らし、食器が揺れます。

 

「1人じゃない、ごんすたちが協力するでごんす」

「協力して? 笑わすな────あの戦いですら、協力をしていたのは紫髪だけだ」

「ご、ごんすらだって手伝って」

 

で、とばかりに空気がゆれます。

 

「────それが勝敗に影響したか?」

 

お前たちは何もしていない、とばかりの獣王の視線。

 

あれだけ騒がしかった店内が、一瞬で静かになります。

 

「なら二度と口を開くな、ゴミ共どもが────貴様らの協力なぞ、塵ほどのカスでしかないのだ」

 

僅かに耳にとどくのは、ギリギリと歯を食いしばっている音だけ。

 

ゴンスさんも、娘娘猫さんも、口を開く事はできませんでした。

 

ですが1人だけ、

 

「ふざけんじゃないわよ────」

 

我慢できない少女がいました。

 

「────アンタは私の何を知ってんのよ‼」

 

ウエイトレスのお盆を投げ捨てて、キレ散らかすのは、当然、ツインテさんです。

 

獣王に掴みかからんとする、勢いで詰めより、詰めきり、捲し立てます。

 

「ええ、たしかに全力じゃあなかったわよッ────でも本気だった」

「言えて満足か、小娘?」

 

「いいや、不満足よッ!」

「ではどうする、と」

 

「もちろんッ、アンタをぶっ殺すッ!!」

 

中指を立てて、真正面から啖呵を切り飛ばします。

 

凛々しい顔には、悔しかったあの日の涙が溜まります。

 

自信が何もできていないって事は、彼女だって知っているのですから。

 

「ほう、俺に挑む、と」

「当然よ、こんどは全力全開でアンタを殺すから、覚悟してなさい」

 

獣王は、そうかそうか、とばかりに頷きます。

 

そして、眼を見開いて、

 

「なら────ここで俺に殺されても文句は言えんなァッ!」

 

ツインテさんに拳を振り下ろします。

 

威力は殺人級。巻きおこった風圧で、机ごと吹き飛ぶレベル。

 

思わず顔をおおってしまおう────ですが、ツインテさんは一歩もひるまず。

 

「ババアッ、こいつ追い出していい、てか追い出すわよッ」

『好きにしな、じゃじゃ馬娘が』

 

天井から聞こえる、老婆の声。

 

「言は取ったわよッ!」

『全く、転送禁止魔法3秒解除、と』

 

ツインテさんは腕をつかみ取り、勢いそのまま一本投げ。

 

刹那、足で魔法陣が描かれます。

 

「小癪な────」「────魔法発動ッ」

 

極彩色が灯り、重なり、黒となり、轟音がひびきます。

 

空間に現れたのは“漆黒の破れ”。

 

そこに投げ飛ばされ、吸いこまれていくのは、獣王です。

 

「「「「えっ?」」」」

 

ドサッと聞こえた、音の方向を見ますと、外に放り出されている、獣王の姿。

 

「「「「はいっ?」」」」

 

私達は唖然として、とばされた獣王本人は、楽しそうに笑いながら、立ち去っていくのでした。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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