【ギルド総本山/麓・総本山新地 [現地時刻 昼すぎ]】
歓楽街には、日が昇りきり、地面にギッシリと人影を映しだしています。
冒険者、行商人、町人、が通りすぎる中、ぽっかりとひらいた空間があります。
皆が避けているそこには────3人の姿がありました。
「おい小娘、いい加減にしろ」
ライオンの獣人、獣王は顔をしかめます。
ギロリと眼光をむけ、自身の肩の見ると、赤金髪の少女がいました。
「もぐもぐ?(あれ?)」
ふさふさの毛並みにつつまれている、赤金色少女は、
「もぐもぐ?(これは食べ物じゃない……)」
「だから俺のたてがみを食べるなッ」
「もぐもぐぅ(お腹減った)」
獣王のたてがみを食べようとしていました。
私としては、胃に入ればなんでもいい、というほど空腹な感じです。
唾液でべとべとになっている髪の毛を、通りすぎる方々は可愛そうな眼でみています。
「デカブツ、本当にこっちでいいんだな」
「は、はいッ、だ、大丈夫でごんすッ」
正面で、震えながら先導するのは、巨人族のゴンスさん。
巨体なのに、ぶるぶると震えて一歩を踏みだすモノですから、通行人もびっくりして、離れていきます。
「ちっ、不甲斐ない奴め」
「あっ、はい、すみませんでごんすッ」
おどおどしながらも、案内されるのは、“料理千番”です。
ツインテさんがクソみたいな仕事場所、といっている店といえば分かりやすいでしょうか。
入り口に近づきますと、彼女が元気に対応していました。
「ご来店4名様♡ 入りまーす♡」
元気というか、猫を被りまくった様子ですね。
甘ったるすぎて、こっちが身震いしてしまいそうな声となっています。
「ここは裏で奴隷も取り扱っているのかい」
「それは中に入ってお楽しみです♡」
「中にはかわいい子がいるんだろうな」
「そちらの方が希望であれば、夜に来てくださいね♡」
慣れた感じに、次々と客を捌いていくツインテさん。
「次の、ご来店様は♡───げっ、獣王」
ですが、彼の来店は予想外だったようです。
「え、あの、その、えっと、一名様でしょうか……?」
「肩の小娘と、後ろのデカブツを入れて3名だ」
「小娘と、デカブツですか?」
彼女の視線が右にむきますと、眼に映るのは、私とゴンスさん。
「(……絶句)」
ツインテさんは、頬を引き攣らせて、私達をみます。
なんでそんな事になってんのよッ、と心の底から叫びたそうな顔ですね。
仕方がないので、アイコンタクトで私の気持ちを伝えておきましょう。
「(お腹が減りました)」
「(ええい、だまらっしゃいッ)」
瞼を強く閉じて、頭をぶんぶんとふった彼女。
冷静になった頭をつかって、私達を追い払おうとします。
「すみません、今は昼飯を食べる客で混雑してまして」
「ほう、俺の道を拒む、と?」
「その、獣王様ともあろう方を待たせるのは、申し訳ないといいますか」
「構わん。席なぞ脆弱な冒険者が譲ってくれる」
今の会話を要訳しますと、どうしてアンタみたいな、問題を起こしそうな人物を店に入れないといけないわけ。
早く帰れや、ボケェです。
「えっと、あの、その、巨人族のお連れが入れるほど、入口は大きくなくてですね」
「面白い冗談だな」
「冗談ではなく、事実「ドゴンッ」────?」
爆風が頬をなで、煙が晴れた後、
もちろん、中にいた客はあんぐりと、口をあけています。
「ほら、デカブツ貴様も入れ」
「さ、3名様ご案内ぃッ」
ツインテさんはヤケクソです。
声は店内に響き渡り、私たちは席へと案内されるのでした。
◇◆◇
【ギルド総本山/麓・総本山新地・料理千番 [現地時刻 昼すぎ]】
店内は、薄暗く、吊るされたランプの灯りだけ────が基本ですが、
本日は陽射しがさしこむので、明るくなっています。
「もぐもぐ!」
丸型木製テーブルには、湯気たちのぼる料理が並んでいます。
豪華なのは、ツインテさんが特別に頼んでいたからです。
食べても食べても料理が出てくるので、少女は顔から皿につっこんで、食事をしています。
「もぐもぐもぐ!」
啜るように肉を、魚を、野菜を口のなかに。
胃袋にいくら入れても、お腹が減りますから、無限に食べれる気がしますね。
「酷い食いっぷりでごんす」
「魔力が切れかけの食欲なぞ、こんなものだ」
料理に手をつけていないゴンスさんと、丁寧に食事をしているのは獣王です。
ゴンスさんはビビってるからですけど、獣王は誰かに礼儀マナーでも仕込まれたのでしょうか?
彼らは私を挟んで、会話をします
「ま、魔力が切れるとそんな状態に「もぐもぐ」」
「完全に切れると石になり、数秒で塵に返る「もぐもぐ」」
「し、知らなかったでごんす「もぐもぐ」」
ゴンスさんの背中には、猫の尻尾が見え隠れしています
向こうにいるのは、おそらく娘娘猫さんですね。
「(ご、ごくりニャ)」
「(別に食べても怒られないと思うでごんすよ)」
「(無理ニャ、あんなヤバい奴の前にでる勇気なんてないニャ……)」
咀嚼音で満ちる店内には、彼らと彼女の声だけが聞こえます。
他のお客さんですか? 獣王を見て、我先にと逃げていきました。
ですので店は────追加で、鼻歌混じりの足音が聞こえてきます。
「妹ちゃーん、酷いなぁ。お姉さんは必死に頑張ったっていうのにハブるなんてェ」
紫髪をゆらしたおねーさん、ギルド主任は踊るようなスキップで近づいてきます。
かなり上機嫌ですし、なにかいいコトでもあったのでしょうか?
「まあ、でもォ、これからはおねーさんの元でテキパキと働いてもらうから」
「すごく楽しそうニャ……」
「そりゃ、結果といえ妹ちゃんをゲットできたんだからねー」
右手には妹ちゃん借金返済計画書、左手には落陽計画【極秘】と刻まれた書類。
ぱらぱらと捲れる計画書からは、借金も3年で返済できるッ、と力強く書かれていました。
「まずは獣人連合とかを滅ぼして「ほう」────アレー、妹ちゃん、野太い声になったねー?」
まさかねー、と首をうごかすギルド主任は、嫌な汗をかいています。
なんか聞いたことのある声だなぁ、なんなら大会で聞いたばっかりだなぁ。
気持ちを表現するように、首の動きもぎこちないモノになっています。
「────うげ、獣王ッ」
反射的に後方に下がり、槍を、
「ほう、貴様はあの時の」
「悪いけど、今日は戦う気なんてないから、ね」
ギルド主任は、首にかけられた魔法拘束具を見せてくれます。
赤黒い文字で“謹慎中”と書かれている魔法の板。それは職員たちの怨嗟の呪いを込めた拘束具です。
「面白味のない。暇つぶしには十分だと思ったが」
「言ってくれるわね……まあ、今のおねーさんだと厳しいのは事実だけど」
やる気の削がれた獣王。彼の視線は床でとまります。
散らばっているのは、ギルド主任が落とした書類となっています。
「返済書……貴様が躍起になっていた理由は、小娘の借金か」
「ほんとはそんなに乗る気じゃなかったけどねー」
「大会に優勝し、聖女の特命で借金を消す。馬鹿が考えそうな案だな」
「────馬鹿とはなによ、馬鹿とは」
口を挟むのは、ツインテさん。
空になった銀のお盆をかかえて、店員らしからぬ姿勢。
どうやら客がいなくなったので、私達の話を盗み聞きしていたようです。
「耳無し如きが、俺とやり合うつもりか?」
「え、いや、まさか、そんなわけないでしょ、あはは……」
獣王のするどい眼光。彼女は逃げるように、私の背中に隠れます。
「もっきゅもっきゅ(隠れるならゴンスさんの方がいいとおもいますよ)」
「馬鹿ね、あんたの方が耐久性が高いからに決まってるでしょ」
「もっきゅもっきゅ(私は肉壁ですか……)」
「いっぱい食べてるんだから頑張りなさい」
獣王の前で背を向ける。割と致命的な行動ですが、彼は見逃します。
「まあいい────」
なにより、一言喋るごとに、上機嫌になっています。
口元が緩んでいますし、なにか良いことに気づいたのでしょうか?
「俺に必要なのはゴンスだ。あの、ゴンスはどこにいる」
「「「「いや、どこって……」」」」
皆さんが見つめるのは、巨人族のゴンスさん。
彼は慌てたように、恥ずかしがるように、手をもぞもぞします。
「いやいや、落ち着くでごんす」
「貴様か、俺とやり合ったのは?」
「ち、違うでごんすッ」
「ならば誰だ。誰が、俺と殺し合ったゴンスだッ!!」
店内に響きわたる獣王の叫び声。
皆さんは、ああそっちの方か、と、一点を見つめます。
「もっきゅもっきゅ(照れますね)」
もちろん、私は食事をする手はそのままです。
「いや、待て、冗談はよせ」
「いやー、こればっかりは事実なんだけどねェ」
「落ち着け、まず大きさが合わないだろ」
「あんな大きな鎧を、少女が動かしていると思わないニャ」
「馬鹿な、コイツはあそこまで大きくなるのか」
「もぎゅもぎゅ! (戦鋼は乗って動かす、パワードスーツです!)」
信じられないような眼で、私を見ている獣王。
「小娘、名はなんという」
「もきゅもきゅ (キイロ来来です)」
「もきゅもきゅ、か……変わった名だな」
「アンタ、せめて話している時ぐらい食べるの止めなさいよ」
ツインテさんに諌められて、私は料理を机に置きます。
「キイロ、借金を返したいか」
「もきゅ、ごくり……そりゃ返したいですけど」
「ならば、良い方法がある」
「なんですか」
「貴様は────今日から俺のモノだ」
獣王は、私の首根っこをもちあげます。
喉に食べ物がひっかかりますし、彼の顔のニヤケ顔が見えるので、嫌ですね。
「ああ、俺と未来永劫、戦い続けよう」
「あの、嫌ですけど」
「なぜだ?」
真顔で獣王は聞き返してきます。
いや、普通の人間はそんなバトルジャンキーな頭じゃないんですよ。
と、どうやって伝えるかを悩んでいたところ、
「はい、そうですか、これで、妹ちゃんはハッピーエンドだね────ってなるワケないよねェ」
ガッタン。机左側に脚をのせる、ギルド主任です。
槍が取り出せないので、手にはフォークとナイフを構えます。
「流石に私の妹ちゃんを奪われるのは、話が違うかなあ」
「貴様のではなかろう」
「私のですー。これから国を亡ぼしてもらう仲間ですー」
妙ですね。そんな物騒な仲間になったつもりもないんですが。
私が首を傾げていると、娘娘猫さんも、体をだしてファイティングポーズを取ります。
「キイロニャが、嫌がっているのに無理やりはよくないニャ」
「この俺に楯突くのか、弱者の分際で」
「ニャ……ニャニャぁ」
ですが、恐怖には勝てなかった様子で、数秒も経たず、ゴンスさんの背にかくれます。
そんな様子を見て、ようやく口を開くことができるゴンスさんです。
「そうでごんす。キイロ殿は嫌がっているでごんす」
「嫌がっている? だからどうした」
「どうしたって、当然の話でごんすッ」
右側の机が大きく揺れます。
獣王が地面を踏み鳴らし、机が軋みます。
「コイツは敗者。敗者なら勝者の言葉に従うのが常だ」
「た、たった一度の負けで、人生は決まらないでごんすッ」
「問題あるまい。未来永劫、小娘1人で勝てる未来などない」
右側の机が大きく揺れます。
ゴンスさんが地面を踏み鳴らし、食器が揺れます。
「1人じゃない、ごんすたちが協力するでごんす」
「協力して? 笑わすな────あの戦いですら、協力をしていたのは紫髪だけだ」
「ご、ごんすらだって手伝って」
で、とばかりに空気がゆれます。
「────それが勝敗に影響したか?」
お前たちは何もしていない、とばかりの獣王の視線。
あれだけ騒がしかった店内が、一瞬で静かになります。
「なら二度と口を開くな、ゴミ共どもが────貴様らの協力なぞ、塵ほどのカスでしかないのだ」
僅かに耳にとどくのは、ギリギリと歯を食いしばっている音だけ。
ゴンスさんも、娘娘猫さんも、口を開く事はできませんでした。
ですが1人だけ、
「ふざけんじゃないわよ────」
我慢できない少女がいました。
「────アンタは私の何を知ってんのよ‼」
ウエイトレスのお盆を投げ捨てて、キレ散らかすのは、当然、ツインテさんです。
獣王に掴みかからんとする、勢いで詰めより、詰めきり、捲し立てます。
「ええ、たしかに全力じゃあなかったわよッ────でも本気だった」
「言えて満足か、小娘?」
「いいや、不満足よッ!」
「ではどうする、と」
「もちろんッ、アンタをぶっ殺すッ!!」
中指を立てて、真正面から啖呵を切り飛ばします。
凛々しい顔には、悔しかったあの日の涙が溜まります。
自信が何もできていないって事は、彼女だって知っているのですから。
「ほう、俺に挑む、と」
「当然よ、こんどは全力全開でアンタを殺すから、覚悟してなさい」
獣王は、そうかそうか、とばかりに頷きます。
そして、眼を見開いて、
「なら────ここで俺に殺されても文句は言えんなァッ!」
ツインテさんに拳を振り下ろします。
威力は殺人級。巻きおこった風圧で、机ごと吹き飛ぶレベル。
思わず顔をおおってしまおう────ですが、ツインテさんは一歩もひるまず。
「ババアッ、こいつ追い出していい、てか追い出すわよッ」
『好きにしな、じゃじゃ馬娘が』
天井から聞こえる、老婆の声。
「言は取ったわよッ!」
『全く、転送禁止魔法3秒解除、と』
ツインテさんは腕をつかみ取り、勢いそのまま一本投げ。
刹那、足で魔法陣が描かれます。
「小癪な────」「────魔法発動ッ」
極彩色が灯り、重なり、黒となり、轟音がひびきます。
空間に現れたのは“漆黒の破れ”。
そこに投げ飛ばされ、吸いこまれていくのは、獣王です。
「「「「えっ?」」」」
ドサッと聞こえた、音の方向を見ますと、外に放り出されている、獣王の姿。
「「「「はいっ?」」」」
私達は唖然として、とばされた獣王本人は、楽しそうに笑いながら、立ち去っていくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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