空は街の騒がしさをうつしているのか、どこまでも蒼天です。
ワイワイガヤガヤ。獣耳の人たちが談笑をして、大通りをあるいています。
────そこには、ツインテールをゆらす少女の姿もありました。
「って、言ったのはいいけど、何を買えばいいか聞いてなかったわね」
ツインテールをへなっ、と傾けて、綺麗なつむじを見せるはツインテ少女です。
黒く、艶があり、腰までとどくツインテールは、手入れがきちんとされている証。
不思議なのは、なぜ手入れがされているかですね。
「で、あんた達はまだウチの周りをうろついている訳?」
「当然。と言いたいところなんだけど、監視の依頼は一昨日で終わっていてね」
イケメン騎士は後ろから現れて、ツインテ少女の正面に立ちます。
どうやら工房を出てから、ずっと後ろをつけていた様子です。
「なら何しに来たのよ。生憎、私は暇じゃないんだけど」
「君について聞きに来たんだ」
「私? 私は普通の少女だけど」
「普通の少女には、金貨100枚の価値があるのかい」
指摘────静まりかえった、ように感じます。
騒がしかった談笑はどこにやら。イケメン騎士の質問は、ツインテ少女にとっては嫌な質問でした。
「あ、あるわよ。なんせ少女は国の宝でしょ」
「うーん、そう言われると、これ以上は聞けないなぁ」
「そうよ。これ以上、変な事を聞かないで頂戴ッ」
「ならば、ここから先は独り言ってことにしていてもらおう」
イケメン騎士は、軽やかな笑顔で、口をひらきます。
彼の視線はうつり、ツインテ少女の体にあろう、契約の紋章に。
「君を現状守っているのは、その奴隷契約に近い紋章によるものだ」
「なにを言っているかよくわからないわね」
「お金が払われるまで、契約者と購入者以外は手出しが無用となる契約だからね」
購入契約になぜ保護の制約が付いているかと言いますと、昔から第三者による被害、詐欺があった為です。
購入が完了するまでは、両者以外の介入を拒否する。このような二者を両立する契約方法は、コロシアムの戦いにおいても使われています。
「だから僕たちが君にいくら疑問をもとうとも、直接手を出すことは不可能に近い」
「何が言いたいのかしら」
「彼女による購入が完了したとき、君は自由にはなるが、逆に狙われるということを理解しているのかい」
「……ッ。分かってるわよ、そんなこと」
あの日、追われていたツインテ少女に取引を持ち掛けたのは、歓楽街のババア。
それは契約を悪用して、ツインテ少女の身を守るとするモノ。
結果として、契約は彼女の安全は確保しましたが、街に縛り付けられることになりました。
「でも、もうギリギリなのよ。何もかもが」
「だからこその提案だ」
「────僕に任してくれないだろうか」
「────お断りよ。アンタはちょっと、頭が良すぎる」
乾いた風がふたたび吹き込みます。
イケメン騎士は困ったような笑顔で、当然といった顔をするのはツインテ少女です。
「腹黒なつもりはないんだけどね、はは」
「別に悪口じゃなくて、理で物を考えすぎてるって事よ」
真剣で、鋭い目線で、街並みをみる、ツインテ少女。
彼女の眼にうつるのは鮮やかな街並みではなく、燃えさかる炎の海です。
「私につきあうなら、それなりの覚悟をしてもらう事になるって話よ」
「僕は覚悟はある人のつもりなんだけどな」
「その覚悟すら折ってもらう必要があるとしたら?」
「時には、自分の芯を曲げる事さえ必要があると……」
「まあ、そんな感じよ。姫を守る騎士様にはちょっと難しいでしょうね」
「なら、あの少女はその格足りると、君は判断したのかい?」
無言になるは、ツインテ少女。
首を上にあげ空を見ます。脳裏に思い出されるは、赤金髪少女との“今まで”。
「アイツと会ったのは偶然よ。ホントは借金を利用して、またいつものように期間を延長するだけだった」
「だった……つまり、今はそうじゃないと」
「────当然でしょ。あんな馬鹿をやる人間をほっとけるかって話じゃない?」
顔にハッキリと映し出される“決意”の二字。
どうやら嵐に巻き込んだくせに、本当に巻き込まれたのはツインテ少女だったようです。
「まったく……辛いな」
「どうしたのよ。泣きそうな顔をして」
「嫉妬、いや、憧れに近い感情なのかな、これは」
イケメン騎士は笑顔を崩して、空をみます。
瞳にうつるのは、あの日割り切ったハズの気持ち。
「あんな馬鹿に嫉妬するほうが、アホらしいと思うけど」
「そういって貰えると……気が少しだけ楽になった気がするよ」
イケメン騎士は、忘れる前にと、懐から取り出したモノを、ツインテ少女に渡します。
手紙────彼は上を向いたまま、ツインテ少女が受け取るのをみないまま、渡します。
「これ、ニャン子あての手紙じゃない……」
「監視の時に手紙が届いていてね、僕たちがあずかっていた」
手紙の宛名には、猫耳村。
筆跡はとても綺麗で、高貴な者を予想させる書き方でした。
「そして、その中に入っている物は、僕以外は見ていない」
「中? そう言えば妙にゴツイわね、この手紙」
封を開け、中から落ちてくるは、魔法的な封印がされた────緑の宝玉。
封印の文字が浮かぶ中、太陽に照らされ、竜の紋章は妖しく輝きます。
「なっ、これ、機密書類にあった蘇生「駄目だよ、大きな声をだしちゃ」────むぎゅ」
イケメン騎士に、口を押えられる、ツインテ少女。
「それがどんなものか僕でも知っている。だからこそ僕は渡せなかった」
「わざわざ目を瞑って差し出すなんて面白人間かと思ったけど。本当に無駄に忠義が厚いわね」
蒼天の空、街には談笑が戻ってきます。
いえ、もとから騒がしかったですが、彼らが気づいていなかっただけでしょう。
「これが、僕にできる精一杯だ。許して欲しい」
「許すもなにも、呆れてるわよ。あんた本当に気づいてないの」
「────気づく? 僕になにか不審な点があったかい?」
「────あの馬鹿の影響を受けてるのは、アンタもって話よ」
唖然とするイケメン騎士に、笑いかけるのはツインテさんです。
「というわけで、ちょっとアンタ、手伝いなさいよ」
「いや、手伝うって……僕を雇うのにいくらするのか知っているのかい?」
「もちろん宝払いよ。宝払い」
「全く……それだけの財宝をどこに持っているんだか」
「もちろん、これから取りに行くのよ」
胡散臭い視線を感じながらも、歩き始めるツインテさん。
イケメン騎士はしかたなくといった感じで、歩き始めます。
「確かに、僕も変わったのかもしれない、な」
この後、聖女の旗を盗み出そうとしていると知って、聖女大好き騎士と一悶着、ギルド闇派閥も関わって、三悶着ぐらいするのは、別のお話。
彼らがいなくなった後には、中身を抜きとられた手紙が、もうしわけなさそうにゴミ箱に捨てられてあるのでした。
ここまでよんでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。