紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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97 娘娘猫と少年と小さな歩き方

【ギルド総本山/中腹/露店通り [現地時刻14:00]】

娘娘猫さんは、買い物袋をぶらさげて、歩いていました。

 

袋の中には、木製の歯車、魔法で増やしたネジ、径があってないナットが入っていました。

 

「ゴンスニャ~、ゴンスにゃ~、ゴンスにゃ~がいれば────あれ、ゴンスニャがいないのニャ」

 

ゴンスさんがいないのではなく、彼女がはぐれたのです。

 

小さな彼女が、あちこち部品を追い求めるものですから、大きなゴンスさんでは追いつけません。

 

今頃、店の外で困っているのが関の山でしょう。

 

早く見つけに行ってやれよ、と思うところですが、

 

「まっ、ゴンスニャだし、すぐに帰って来るのニャ」

 

呑気な彼女は気にしません。

 

なんなら先に帰ろうとしてますね。

 

足取りは工房の方へ。後ろからはゴンスさんの困った声が聞こえた気もします。

 

【ギルド総本山/工房外部/倉庫 [現地時刻15:00]】

 

工房の裏には小さな倉庫があります。

 

本来は完売品や買取品を置いておく倉庫ですが、現在では立派な鉄クズに占拠されています。

 

床に横たわり、金属配線がむきだしになっているのは、コクピットがぶち抜かれた戦鋼です。

 

「キイロニャには見栄張って、ニャが直せるっていったけど・・・」

 

木製の歯車をはめて、ボルトとナットを無理やりくっつけて、形は取り戻していきますが、

 

「そもそもコレ、どうやって動いているのニャ」

 

娘娘猫さんが困るのも当然です。

 

前回の獣王戦で、コクピットの下半分ごとぶち抜かれていますから、制御系統が消失しています。

 

「やっぱりニャには直せないのかニャぁ」

 

工具を置いて、ため息をつく娘娘猫さんです。

 

やはり自分の力では無理なのか。足取り重く、倉庫を後にします。

 

「う~ニャぁ、ダメニャ、やる気がでないニャ」

 

工房に戻ると、椅子にゆっくりと腰かけ、虚空を見つめます。

 

数分間、いえ数十分ほど経ったときでしょうか。

 

「────す、すみませんッ」

 

室内に謙遜した声がひびきます。

 

「ニャ、ニャにものニャ⁉」

 

あわてた娘娘猫さん。周囲をぐるりと見渡します。

 

工房の裏口、右壁の窓、入口────視線が止まったのは、入口です。

 

「なんだニャ。冒険者の少年かニャ」

 

くらげの半魚人でしょうか。

 

少年の帽子からはみ出る髪は、半透明です。

 

なにより背中からは、オドオドとした半透明な触手が“コンニチワ”しています。

 

「えーとニャ、用はなんなのニャ」

「ええっと、ここが工房って聞いたんですけど」

 

「そうニャ、ウチは工房ニャ」

「ええっと、売り買いはしてない感じですかね?」

 

少年の言葉に、首をかしげる娘娘猫さんです。

 

5秒ぐらいでしょうか。ようやく理解が追い付いてきたぐらいに、彼女は思い出します。

 

「────はっ、ウチはお店だったニャ」

 

あわてて内部を見渡しますが、まず商品がありません。

 

次点で、客を歓迎する準備ができていません。

 

唯一の椅子は娘娘猫さんが座っていますし、テーブルの上には、ゴミが転がっています。

 

「と、とりあえず、お茶でも出すニャッ!」

「いや、あの、そこまでしてもらうような客ではないんですが」

「だ、ダメニャ。どんな客にも対応が、ウチのモットーだったのニャッ!!」

 

娘娘猫さんは、机の上のゴミを散らかします。

 

探し物は、お客さん用のお茶葉とコップです。

 

ですがどちらも見つかりません。当然ですね。どちらも借金取りに持っていかれていますから。

 

ですが、そんな当然の事に気づかないほど彼女は慌てているのです。

 

「だ、ダメニャ、飲みかけの酒しか出てこないニャ……」

「だ、大丈夫ですよ。ぼくも、今日買おうとか思っていませんし」

 

「ニャ? そうなのニャ?」

「えっと、その、話が聞けたらぐらいの気持ちできてまして」

 

後ろの触手は“そんなことないよ”とばかり暴れていますから、なにやら裏がある様子です。

 

ですが、娘娘猫さんはそんな事に気づきませんので、会話は続きます。

 

「話? 武器の相談とかニャ?」

「いえ、ここに出入りしている人物のお話でして……」

 

「あのうさん臭い、紫の美人のおねえさんは止めといた方がいいニャ」

「いえ、そっちではなく」

「そっちじゃないのニャ」

 

くらげの少年は意を決したように、拳を胸のまえで握ります。

 

「────是非とも、ゴンス選手の、鎧の秘密を教えて欲しいんですッ」

 

「────ゴンスニャの?」

 

娘娘猫さんは、やっぱり首をかしげることになります。

 

【ギルド総本山/工房 [現地時刻15:50]】

 

お互いが椅子をゆずりあった結果、床に二人は座っています。

 

申し訳程度に、椅子には飲みかけの酒が置かれています。

 

「鎧の秘密といってもニャ?」

「僕の調べによりますと、ゴンス選手は強力な冒険者というわけでも無かったんです」

 

「そりゃ、ゴンスニャだし」

「ですが、ゴンス選手は勝っているんですよッ」

 

くらげの少年は力説します。

 

まるで世界の真実に自分だけ気づいた如く、キラキラとした眼で語ってくれます。

 

「なにより、あの獣王に一太刀いれたのが確かな証拠」

 

「他の冒険者たちが紙きれみたいに吹き飛ばされていく中、彼だけがッ」

 

「────もうですね、僕としては、鎧に秘密があるとしか思えないわけですよ」

 

息もつかず、よく語れるものです。

 

「すごい、ぐいぐいくるのニャ」

 

少年の顔は、娘娘猫さんにくっつきます。

 

見つめ合う瞳と瞳。秘密を知るまで絶対に帰らないぞ。

 

もちもちとした肌とは対照的に、彼の眼には固い意志がやどっていました。

 

「わ、わかったニャ、分かったから離れるのニャッ」

「ありがとうございますッ」

 

気持ち負けした娘娘猫さん。

 

死んだ眼をしながらも、ゆっくりと立ち上がります。

 

「もしかして、実物を見せてくれたりするんですかッ!」

「もう好きにすればいいのかニャって……」

 

「本当にありがとうございますッ!!」

「ニャ、急に押しちゃ駄目なのニャッ!!」

 

くらげの少年に背を押されて、急かされる娘娘猫さん。

 

つまずきそうになりながらも、彼を倉庫に案内するのでした。

 




ここまでよんでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者がよろこびます。

次の話はさっさと出します。あまりにも歩みが子猫なので。
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