【ギルド総本山/中腹/露店通り [現地時刻14:00]】
娘娘猫さんは、買い物袋をぶらさげて、歩いていました。
袋の中には、木製の歯車、魔法で増やしたネジ、径があってないナットが入っていました。
「ゴンスニャ~、ゴンスにゃ~、ゴンスにゃ~がいれば────あれ、ゴンスニャがいないのニャ」
ゴンスさんがいないのではなく、彼女がはぐれたのです。
小さな彼女が、あちこち部品を追い求めるものですから、大きなゴンスさんでは追いつけません。
今頃、店の外で困っているのが関の山でしょう。
早く見つけに行ってやれよ、と思うところですが、
「まっ、ゴンスニャだし、すぐに帰って来るのニャ」
呑気な彼女は気にしません。
なんなら先に帰ろうとしてますね。
足取りは工房の方へ。後ろからはゴンスさんの困った声が聞こえた気もします。
◇
【ギルド総本山/工房外部/倉庫 [現地時刻15:00]】
工房の裏には小さな倉庫があります。
本来は完売品や買取品を置いておく倉庫ですが、現在では立派な鉄クズに占拠されています。
床に横たわり、金属配線がむきだしになっているのは、コクピットがぶち抜かれた戦鋼です。
「キイロニャには見栄張って、ニャが直せるっていったけど・・・」
木製の歯車をはめて、ボルトとナットを無理やりくっつけて、形は取り戻していきますが、
「そもそもコレ、どうやって動いているのニャ」
娘娘猫さんが困るのも当然です。
前回の獣王戦で、コクピットの下半分ごとぶち抜かれていますから、制御系統が消失しています。
「やっぱりニャには直せないのかニャぁ」
工具を置いて、ため息をつく娘娘猫さんです。
やはり自分の力では無理なのか。足取り重く、倉庫を後にします。
「う~ニャぁ、ダメニャ、やる気がでないニャ」
工房に戻ると、椅子にゆっくりと腰かけ、虚空を見つめます。
数分間、いえ数十分ほど経ったときでしょうか。
「────す、すみませんッ」
室内に謙遜した声がひびきます。
「ニャ、ニャにものニャ⁉」
あわてた娘娘猫さん。周囲をぐるりと見渡します。
工房の裏口、右壁の窓、入口────視線が止まったのは、入口です。
「なんだニャ。冒険者の少年かニャ」
くらげの半魚人でしょうか。
少年の帽子からはみ出る髪は、半透明です。
なにより背中からは、オドオドとした半透明な触手が“コンニチワ”しています。
「えーとニャ、用はなんなのニャ」
「ええっと、ここが工房って聞いたんですけど」
「そうニャ、ウチは工房ニャ」
「ええっと、売り買いはしてない感じですかね?」
少年の言葉に、首をかしげる娘娘猫さんです。
5秒ぐらいでしょうか。ようやく理解が追い付いてきたぐらいに、彼女は思い出します。
「────はっ、ウチはお店だったニャ」
あわてて内部を見渡しますが、まず商品がありません。
次点で、客を歓迎する準備ができていません。
唯一の椅子は娘娘猫さんが座っていますし、テーブルの上には、ゴミが転がっています。
「と、とりあえず、お茶でも出すニャッ!」
「いや、あの、そこまでしてもらうような客ではないんですが」
「だ、ダメニャ。どんな客にも対応が、ウチのモットーだったのニャッ!!」
娘娘猫さんは、机の上のゴミを散らかします。
探し物は、お客さん用のお茶葉とコップです。
ですがどちらも見つかりません。当然ですね。どちらも借金取りに持っていかれていますから。
ですが、そんな当然の事に気づかないほど彼女は慌てているのです。
「だ、ダメニャ、飲みかけの酒しか出てこないニャ……」
「だ、大丈夫ですよ。ぼくも、今日買おうとか思っていませんし」
「ニャ? そうなのニャ?」
「えっと、その、話が聞けたらぐらいの気持ちできてまして」
後ろの触手は“そんなことないよ”とばかり暴れていますから、なにやら裏がある様子です。
ですが、娘娘猫さんはそんな事に気づきませんので、会話は続きます。
「話? 武器の相談とかニャ?」
「いえ、ここに出入りしている人物のお話でして……」
「あのうさん臭い、紫の美人のおねえさんは止めといた方がいいニャ」
「いえ、そっちではなく」
「そっちじゃないのニャ」
くらげの少年は意を決したように、拳を胸のまえで握ります。
「────是非とも、ゴンス選手の、鎧の秘密を教えて欲しいんですッ」
「────ゴンスニャの?」
娘娘猫さんは、やっぱり首をかしげることになります。
◇
【ギルド総本山/工房 [現地時刻15:50]】
お互いが椅子をゆずりあった結果、床に二人は座っています。
申し訳程度に、椅子には飲みかけの酒が置かれています。
「鎧の秘密といってもニャ?」
「僕の調べによりますと、ゴンス選手は強力な冒険者というわけでも無かったんです」
「そりゃ、ゴンスニャだし」
「ですが、ゴンス選手は勝っているんですよッ」
くらげの少年は力説します。
まるで世界の真実に自分だけ気づいた如く、キラキラとした眼で語ってくれます。
「なにより、あの獣王に一太刀いれたのが確かな証拠」
「他の冒険者たちが紙きれみたいに吹き飛ばされていく中、彼だけがッ」
「────もうですね、僕としては、鎧に秘密があるとしか思えないわけですよ」
息もつかず、よく語れるものです。
「すごい、ぐいぐいくるのニャ」
少年の顔は、娘娘猫さんにくっつきます。
見つめ合う瞳と瞳。秘密を知るまで絶対に帰らないぞ。
もちもちとした肌とは対照的に、彼の眼には固い意志がやどっていました。
「わ、わかったニャ、分かったから離れるのニャッ」
「ありがとうございますッ」
気持ち負けした娘娘猫さん。
死んだ眼をしながらも、ゆっくりと立ち上がります。
「もしかして、実物を見せてくれたりするんですかッ!」
「もう好きにすればいいのかニャって……」
「本当にありがとうございますッ!!」
「ニャ、急に押しちゃ駄目なのニャッ!!」
くらげの少年に背を押されて、急かされる娘娘猫さん。
つまずきそうになりながらも、彼を倉庫に案内するのでした。
ここまでよんでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者がよろこびます。
次の話はさっさと出します。あまりにも歩みが子猫なので。