【ギルド総本山/中腹/工房 [現地時刻 昼すぎ]】
「こ、これが、ゴンスさんの鎧……あれ、なんか形違うような?」
「外装の鎧は取り外してあるニャ」
右をみれば、外されているゴンスさんの鎧です。
こちらはピカピカに修復が終えてありました。
「外装の鎧……あの鎧の下に、この鎧が入ってたって事ですか?」
「まあ鎧というより、機械人形だニャ」
「機械人形、悪くない響きですね」
「そう────あれ、ニャ?」
くらげの少年は、気づけば横からいなくなり、
どこにいったのかと、娘娘猫さんが見渡していると、
戦鋼をいじくっている少年の姿がありました。
「変なところ触ると危ないのニャ」
「このケーブルはなんですかね。魔力を送る線とか、いや……」
「一切聞いてないのニャ」
あーだ、こーだと少年は戦鋼にべったりと触りつづけます。
そしていったん満足したのか、今度は娘娘猫さんに詰め寄ります。
「店主猫さん、質問いいですかッ」
「いや、聞かれても別に答えれないニャ」
「まずこのケーブルが魔法陣の魔力伝達と同じ役割だと────」
「おかしいニャ。言葉が通じてないニャ……」
数十分後。へとへとになっているのは、娘娘猫さんです。
一方で、満足そうに頷いているのは、くらげの少年となっています。
「つ、疲れたニャ」
「あっ、すみません。つい聞きまくってしまって」
「いいのニャ……しっかし、よくそんなことまで頭が回るのニャ」
「実はこう見えて、魔導雑貨店の店主をやっていまして」
ちょっとだけ、胸をはる少年です。
背後からあらわれた、触手はもじもじしていますね。
どうやら自慢したい気持ちと、バレたくないという気持ちが合わさっている様子です。
「魔導具店の店主ニャ? なら、この鎧も知っているんじゃないのニャ?」
「恥ずかしながら、こんな凄いモノとは知らなくて……」
「確かに的あてに売られていたしニャ」
「うぐっ」
娘娘猫さんの言葉を聞いて、落ち込むくらげの少年です。
「あの販売は、僕の一生の不覚といっていいかもしれません……」
ぶつぶつと呟く中には、「まさか動くモノとは」「上手くやれば、僕が動かせたかも」なんて言葉も聞こえてきます。
「まあ、どのみち、この機械人形は動かないのニャ」
「えっ、そうなんですかっ⁉」
娘娘猫さんは、戦鋼の空洞部を、顎でさします。
くらげの少年は首をかしげます。彼女が何を言いたいかを分かっていません。
「そこに入ってたモノがないのニャ」
「僕にできる範囲で、素材は渡しますよ」
「いいニャ。キイロニャ曰く、制御プログラムが無ければ、ただの重い鎧ですよ、だそうニャ」
「制御プログラム……魔法でいう、陣みたいなモノってことですか」
「まあ、たぶん、そんなもんニャ」
「ぐ、わからない。分からないけど、時間があれば分かる。でも肝心の時間がッ」
少年は先ほどから、妙に時間を気にしています。
急に現れ、秘密を聞いて、動かないことに落胆して、理由はなんでしょうか?
「なにか、急ぎの予定でもあるのニャ?」
「いえ、いや、そういうことではなくてですね……」
口ごもる少年に、疑問におもう娘娘猫さん。
そして視界に割り込んでくる、プラカードです。
[────ほら、いった通り]
娘娘猫さんが、今度は誰にゃ、と振りむくと、
プラカードを持っているのは────赤髪の小さな少女です。
眼にアイマスクをしている不思議な少女となっています。
「い、イヤーガールさん」
[おとなしく、自分の運命を受け入れなさい]
「ほら、今見たら運命変わっているかもしれないじゃないですかッ」
[どうせ変わらない、と思うけど]
アイマスクから溢れる青い光。
[あなたの獣王戦勝率は0%]
「嘘だあ。僕には聖女様の許可をとって、この街を巨大な魔導具に改造するって野望が」
「そっちの野望も0%」
「う、嘘だあ」
くらげの少年は、頭を抱えます。
背中の触手も空気をよんで、オロオロと狼狽しておきます。
「獣王戦? 少年は獣王と戦うのニャ?」
「えっと、それは、アレでして」
[彼が大会決勝戦、獣王の相手]
プラカードが割り込みます。
「ちょっ、イヤーガールさんバラさないでくださいよッ」
[どうせ勝てないから問題ない]
「でも、鎧の秘密を知れば、僕でも勝てるんじゃないかという淡い期待が、バレるのが」
[こざかしいことをする貴方は嫌い]
「そ、そんなこといわなくても」
[運命は不変。変えれるものではない]
打ちのめされている少年に、声をかけるのは、娘娘猫です
「────大丈夫ニャ、少年が負けてもゴンスニャが、勝つニャ」
イヤーガールは首をかしげます。
[あなた達は負けたのでは?]
「旗を立てれば、もう一回挑めるらしいにゃ」
[旗? そんな凄いアイテムが存在するわけ……]
「確かニャ、聖女の旗だったニャ」
イヤーガールの顔が、どんどんと青くなっていきます。
[────まさか、旗でやり直すのではなく、旗を立てることで聖女に直訴するつもり⁉]
次々とプラカードに表示される、イヤーガールさんの焦った心情です。
[無茶、無理、不可能]
「どのみち、皆はやる気ニャ」
[理も無ければ、正しくもない。そんな事に旗が共鳴するハズがない]
「旗を立てることに、正しさがいるのニャ?」
[正しいとみなされなければ、もってかれるのはその身]
「し、死ぬってことかニャ」
[消える。間違ったモノを嫌うのは聖女の旗よ]
聖女の旗。その正体は、聖女の魂を保存した旗となっています。
高貴な魂を握るのですから、彼女の許しがなければ体が消し飛ぶのは自明です。
「────それでも、あなた達はやるというの?」
「────むしろ、決心がついたニャ」
娘娘猫さんは、ちいさな肉球を握ります。
「いいかニャ、前回の戦いだって、自分は壁の向こうで見ていることしかできなかったニャ」
悔しくても、悲しくても、どうしようも無かったニャ。
でも、そんな自分に今回はやることができたのニャ。
「ならば────旗を掲げれるのは自分しかいないのニャ」
[自意識過剰よ。あなたは特別な力すらもってないのよ]
「分かってるニャ。キイロニャも、ゴンスニャも、ツインテニャもみんな、戦場で戦える力を持っているのニャ」
娘娘猫さんは、自分の小さな肉球の手をみつめます
「戦場はすでに決着がついたニャ。でもそれを覆すなら、誰からの、外からの声が必要なのニャ」
[アナタにそれができると?]
「人はどこかで踏み出せば、変われると知ったのニャ」
イヤーガールから、青い光が漏れます。
[旗が手元にある可能性だって……1%。なぜ、その運命が存在する」
「きっと……仲間が協力してくれるからニャ」
[私の勇者、ちょっと付き合ってもらう]
「えっ、イヤーガールさん、ちょ、急に引っ張らないでください」
どたばたと工房から消え去っていく、イヤーガールと、くらげの少年。
見送る娘娘猫さんは、満足そうに、ちょっぴり残念そうな顔をします。
「今度は売り物も用意しとくかニャ」
彼女は、鎧を磨き始めるのでした。
◇
【ギルド総本山/内部/地下 [現地時刻 夕方]】
[まさか、本当に旗が盗まれるなんて]
「記録用水晶玉見ましたけど、幽霊みたいな人物がいるんですね」
[ギルド総本山の地下は、幽霊に抜かれるほど甘くない]
「でも、実際に虚空に消えてましたし。あんな魔導具ありましたっけ?」
[おそらく、あれは魔法]
「でも転送魔法系統は使えないハズじゃあ」
[誰かが意図的に切ったか、それすらも超える使い手か……]
くらげの少年は、ところで、と口をひらきます。
イヤーガールさんは、なんだ、とプラカードをあげます。
「イヤーガールさん……僕が決心をしたところで、獣王戦の勝率は変わりますか」
[変わらない。変わるわけがない]
「なら、僕、決めました」
[それ、口に出さなくていいわよ]
「えっ、どうせ負けるなら、盛大に使いたいって思っただけなんですけど……」
[おかげで1%になったって話をする?]
「なにがですか、って聞いても」
[彼女が旗を握れる可能性に決まってるでしょッ]
「痛いッ! あ、ちょ、プラカードで殴らないでくださいッ!!」
空洞にこだまするように、彼らの声は地下に響きわたるのでした。
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