マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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ちょっと短め


第七話「魔剣抜刀」

 

 

剣閃が走る。

 

事は一瞬だった。アルネストが手始めにサガミへ仕向けた補助ドローンは、並みの人間なら太刀打ちできないレベルに改良を施した違法品だ。人の体など容易く引き裂き、命を奪う。そのように調整したはずのドローンは、差し向けた相手に触れることもできずに細切れにされ、すでに物言わぬガラクタとなって荒野を転がっていた。

 

命を奪おうとした機械の四肢を紙一重で避け、その合間に剣閃を通す。

 

腕に覚えのある者なら、避けてしまうような場面で、サガミ・バルディオは必要最低限の動きでそれを成し、一つの呼吸でドローンを鉄屑へと変貌させたのだ。それも、襲いかかる三体を瞬く間のうちに。

 

良い。

 

気がつけばアルネストは己の腰に掛かる愛剣に手をかけていた。後ろに控えていた二人は、アルネストの教え子だ。彼は才覚をある者を強者にするべく、その剣を教えていた。しかし、それは年長者だからだとか、剣を持つ者の責任だとか、そんな理念や信念に基づいた行動ではない。

 

アルネストにとっての真理は強者。

 

強きものこそが絶対者であり、強さこそが世に生きる者の理。今では自分も上級騎士(グランクロワ)と呼ばれるほどまで強さを昇華できたつもりだが、所詮そんなもの、一方向からの指標に過ぎない。彼に取っての強さの本質は、そんなものではない。

 

誰もが跪きたくなる強さ。圧倒的な強者。他を寄せ付けない強さ。それこそが絶対者であり、真理。

 

資質を持つ者を育てるのも、自らが剣を取るのも、その絶対者への強烈な憧れがあったからこそ。だが、理想は遥か遠く及ばず。刺激すらない。

 

だが、良い。久しぶりに昂りを感じる。

 

鞘から剣を引き抜く。

 

多くの戦場で苦楽を共にした愛剣。

 

名をグランティード。

 

それは、アルネスト・エッセが属するアスレニア騎士団の許された者しか持つことが許されない〝魔剣〟だ。

 

「カァっっっ!!!!!」

 

気炎一閃。控えの二人など構わずにサガミの方へと飛び込んだアルネストは、引き抜いたグランティードを肩に構え、そのまま袈裟へと振り下ろす。狙い澄ましたその一撃をサガミは身体を横に捻り、躱す。避けるでもなく、受けるでもなく躱したのだ。

 

この行為、実は避け、受けとは根本的に異なる。運が良いケースもあるが、そんなものは極稀。相対してわかる。その動きは経験と技術、そしてその予感を信じられる揺るぎない己への自信によって成り立っているように見えた。

 

躱わすと同軸の動作で行われるのは反撃の剣戟。これも実にいい。実に理にかなっている。攻撃を仕掛けた以上、その一撃が外れでもしたら相手には一呼吸の隙ができる。

 

サガミの動きは、避けると言う動作と同時に相手に出来た隙をノータイムで突くことを想定した動きだ。下から迫り上がってくるサガミの一閃。アルネストは動じることなく振り下ろした剣を捻り、刃ではない側面部で受け流す。

 

(上手いな)

 

剣を上段へ振り上げたサガミは、華麗に一撃をいなしたアルネストの腕を素直に認めた。

 

サガミが使う剣技は、飛燕式剣術。

 

古代ベルカの戦乱末期に生まれたこの剣術は、アルネストの感じた通り、カウンター技や、先制攻撃を得意とする超攻撃型の剣術であった。

 

両の手でグリップを持ち、引き上げるような構えから始まるその一撃を相手は当然のように受け、さらに反撃を打ち込んでくる。

 

一、ニ、と剣戟が音を奏で、横へ振り払う一打でアルネストは一歩下がる。絶好の間合いだった。

 

弓を引くような形で剣を上段へ構えたサガミは、そのまま一気に体を前進させる。蹴り出した軸足は地を深く踏み込んでいて、噴き上がった砂粒がまるで散弾銃のような勢いで踏み出したサガミと反対方向へと弾き出されていく。

 

〝飛燕閃・突〟

 

反撃など許さない先制の一撃に対して、アルネストは盾のようにグランティードを構えることで致命傷を避けてはみたが、その勢いを殺し切ることができずに大きく後退することになった。

 

「そんな……上級騎士(グランクロワ)の師と対等に打ち合ってるなんて……」

 

後退した先にいた二人の教え子たちから発せられる驚愕の声に、アルネストは満足そうに頷く。そうでしょう。そうでしょう。よく見ておきなさい。若輩たちよ。

 

これが、強いと言うことです。

 

「素晴らしい……失礼な物言いですが、こんな僻地で貴方のような剣士が育っているとは……これだから、世界というのは大変面白い」

 

血振りするようにグランティードを振り払ったアルネスト。その剣事相手を貫くつもりで放ったそれは、割と自信があった一撃だったのだが……へし折れるどころか、刀身に歪みすら与えられないとは……まだまだ自分も未熟だ。

 

「はぁ……世辞はいらないから、さっさと逃げ帰ってくれないか?」

 

「それは出来ぬ相談ですねぇ。それにその力……どこまで行けるかを試してみたい」

 

後ろに引かせられたのはいつぶりだったか。アルネストは、にこやかにサガミの技量を認め、褒め称える。

 

いい、実にいい。気分が良くなる。強さとは心地よい。強者との戦いはギアが無意識に上がっていく。年甲斐もなくはしゃいでしまうが……まぁ、許せよ。

 

黒と黄色の彩色が施された愛剣、グランティードを掲げて、アルネストは久方ぶりの「限定解除」を実行する。

 

「……〝魔剣、抜刀〟」

 

その言霊をトリガーに、アルネストの気配が一変した。

 

魔剣。

 

それは単なる名称という意味ではなく、その剣そのものを示す言葉だ。

 

アルネストをはじめ、アスレニア騎士団に属するものが所持するそれは、特殊な鉱石と錬鉄方法で作られた特別製の剣である。

 

古代ベルカ時代に存在した小国、「アスレニア公国」。

 

その領土内の鉱山からのみ産出した高純度の魔力結晶体、通称「魔石」はアスレニア公国の人々に豊かさを与えると同時に、武具としては破格の性能を付与するものでもあった。

 

アスレニア独自の錬鉄法で鉄と魔石を混ぜ合わせた「ミラウーツ鋼」をふんだんに使って作り上げられる一振りは、個人の持つ武器としては当時の技術水準を遥かに上回るものとなっていた。

 

魔剣がこの世に姿を現したのは、芳醇な魔力を内包する魔石を狙い、古代ベルカの戦乱末期に起こったアスレニア事変からであり、大国による侵略行為で、魔剣の恐ろしさを内外に知らしめることにもなった。

 

禁忌兵器の動力源としても使われた魔石の力を一振りの剣に内包しているのだから、その力がどれほどのものだったのか。公国に攻め入った大国、ガリアやローレシアの保有する万にも届く戦力が、魔剣を持った僅か数名の騎士で蹂躙されたことが雄弁に物語っている。

 

また錬鉄されたミラウーツ鋼は対魔力性が高く、騎士甲冑にも使用されていたことから、騎士たちも魔法攻撃に対して圧倒的な防御性を誇っていた。

 

ただ、強大すぎる力を有する魔石を使った魔剣は、その性能も破格。常人が扱うには手に余る剣と言えた。そこで、アスレニアの鍛冶師たちは一つの対策をとることにした。

 

それが「限定解除」……いわゆるリミッターである。

 

通常時の魔剣は、その力を大きく制限しているが、使用者の「魔剣抜刀」という言葉をトリガーとすることで魔剣の持つ力を剣技へと昇華させることができた。

 

「サガミ・バルディオくん。私は貴方に期待をしています。だからどうか……生き延びてください」

 

グランティードの心臓部にある魔石から得られるエネルギー。指向性を持たせてそのエネルギーを振り下ろすと同時に剣撃として圧縮放出するその一撃は、魔力砲撃に匹敵する威力を有している。

 

『サガミ!』

 

「ビームだとぉ!?」

 

一呼吸。そサガミは防御の構えを取ると同時、彼の視界は真っ白な閃光によって塗りつぶされた。

 

 

 

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