マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第八話「光軸をなぞる剣」

 

 

 

「先生!アイツらは……」

 

サガミが出て行った後、すぐに窓際に移動した三人は、窓枠の隅から顔を少しだけ覗かせて外の様子を伺っていた。目を凝らすメリーには、すでにこの建物をぐるりと囲むように立つ何者かの姿が見えている。

 

教え子と同じく、サガミが対峙する相手を見たファーンは、事態の悪さに思わず口をへの字に曲げてしまう。

 

「おそらく、私たちを追ってここまできたのでしょう。ヘンリー・ヴァンダーに来てまだ一日と経っていません。……狙い通りと言ったところなんでしょうね」

 

自分たちが乗ってきたランダー号が墜落し、サガミの救助を受けてからまだ数時間程度。エンデュランス号を脱出してから数えれば半日を過ぎたあたりだ。にも関わらず、外には明らかに自分たちを追ってきた者たちがいる。どこからどう見ても不味い状況だ。

 

それにファーンやメリーには一つ不可解な点があった。

 

「メリーさん、どうですか?」

 

「……ダメです。デバイスは起動はできますが……これじゃあ戦闘も満足にはできません」

 

メリーが持つアームドデバイス、「ディアネイル」は待機状態から本来の形である薙刀状へと形態変化はできていたが、先端部の刀身から発生させることができる魔力刃が安定しない。まるで消えかかる蝋燭のようにゆらゆらと揺れる魔力の光に、ファーンの中にあった推測が確信へと近づいていた。

 

「……やはりですか」

 

そう言って、ファーンは外にいるサガミを静かに見つめる。まだ仮定ではあるが……この世界において魔力素を取り込むリンカーコアに依存した魔法技術には大きな制限がかけられる可能性が高い。いや、そもそも魔力素自体に大きな制限があることも考えられる。

 

魔力をエネルギー源に動いていたランダー号がこの世界に足を踏み入れた途端にシステムダウンを起こしたことや、ファーン自身や、メリーのデバイスが非常に不安定である点。そしてサガミ自身が自分たちを足手纏いだと言ってここに残したのが大きなその推測をリアルに形作っていく。

 

「私たちはこの世界に誘い込まれたってこと?」

 

「ええ。手勢を見る限りでも、この世界で何もできない私たちから確実にジュエルシードを奪うつもりだったのでしょう」

 

エンデュランス号をあの場所で襲った時点で、自分たちは敵の術中の中にいたということか。レイカはこの計画的な一連の流れに、思わず顔を顰める。もし、あのまま墜落していたらおそらく自分たちは無事ではいなかったし、追ってきた敵にそのままロストロギアであるジュエルシードを奪い取られていたことだろう。

 

だが、敵にとって唯一誤算があった。すぐにでもこの建物を襲撃し、隠れている自分たちを見つけ出せばいいものを、相手はそれをしてこない。つまり、自分たちを助けた存在が、敵とっては不確定要素だったのだ。

 

「ということは、彼は無関係ということですか?」

 

「……まだ分かりません。今の状況自体が、彼らの仕組んだ盛大な茶番かもしれません」

 

サガミ・バルディオ。このヘンリー・ヴァンダーで生きる彼の存在が、自分たちを生きながらえさせているのか……それとも、出て行った彼もまた、エンデュランス号を襲った敵の仲間なのか。ファーンたちは何も確証を持つことはできていない。

 

でも、とファーンは言葉を止めて、敵と対峙するサガミの背を見つめた。

 

「私は、彼を信じたいと思っています」

 

「先生……この状況で楽観視は得策ではないと思います」

 

「メリーさん。彼がその気なら、もう私たちはジュエルシードを奪われています。この地で朽ちる運命にも……でも、そうはならなかった」

 

それに、とファーンは肩章をはためかせるサガミの後ろ姿を見つめる。その後ろ姿は、どこか見覚えがあるような気がした。誰かのために戦い、友のために戦い、その身と引き換えに罪に手を染めようとしている親友を止めた……自分を変えた人の後ろ姿に。

 

「これは私の直感ですが……彼、相当なお人好しですよ」

 

いつもは見せない少女のような笑みを浮かべるファーンに、メリーとレイカはお互いに顔を見合わせてから、もう一度口を開く。

 

「だから先生。楽観視はあまり……」

 

その瞬間、鉄を擦るような音が響き渡った。三人が同時に目を向けた先では、相手から距離を取り背中に背負っていた剣を引き抜いたサガミの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

魔法は大きく分けて二種に分類することができる。

 

ひとつは、限られた人間の体内にある「リンカーコア」を使い、空気中の魔力素を蒐集し、デバイスを介して魔法を指摘する方法だ。これはいわば科学技術の延長線上にある技術的なアプローチであると同時に、数多くの工程を踏む必要があった旧世代の魔法技術の複雑性をオミットする役目も担っている。

 

リンカーコアとデバイスの組み合わせは、魔法技術にある種の革命を起こした。そう言った考えは古来からあっただろうが、明確な技術、理論として確立したのは時空管理局という組織とって大きな功績と言えた。

 

その革命の結果、現行世界における魔法への解釈の一つとして多くの世界や価値観に影響を及ぼすことにも繋がっている。

 

もう一つは、旧世代の魔法技術だ。

 

前者の工程が簡略化された魔法へのアプローチとは逆。工程を重んじ、その性質を引き出そうとする一種のオカルト的な面を重要視するその技術は、決して廃れたわけではない。

 

科学的な魔法へのアプローチが圧倒的大多数となっているだけで、旧世代から連綿と受け継がれてきた魔法技術にはそれ相応の知識の層を有していた。

 

簡略化、誰にでも扱える魔法の解釈。

 

魔法という人智を超えた神秘を丸ごと原理から説明できるよう、〝人が理解できる規範に落とし込んだ〟ものとは根底から異なる。

 

理解できない。説明ができない。真理がわからない。

 

そう言った「わからない」ことが、神秘をより高めていく。理解できないものに人は恐怖を抱く。だから理解できるレベルまで神秘を引き摺り下ろす必要がある。

 

それこそが、魔法という神秘への解釈を狭める選択だということを知らずに、人は全能になったような感覚に酔う。

 

その高揚感を捨てる。手軽さと簡単さ、誰にでも扱えるという〝誓約〟を捨て、神秘と自由な解釈を得る。

 

それこそが、二つ目の神秘に満ちた魔法の力だ。魔法という神秘。その捉え方は自由であるべきだ。

 

魔石という力を内包した〝高出力の剣〟という綺麗に整えられた武器は、ある意味では固定観念といえるもののたどり着いた一つの答えなのだろう。

 

だが、それに頼らずともいい。

 

外気に存在する魔力の基が後ろへ振りかぶった刀身に吸い込まれていく。イメージしろ、刀身に魔力が漲る感覚を。

 

「いけぇえええ!!」

 

この世界に溢れる神秘。

 

それを手に取って、操れ。

 

「ほぉ……そこまで辿り着いているのですか……!」

 

アルネストの驚嘆する声は、サガミの発した気合いの叫びによってかき消される。振りかぶっていたドワーズを真っ直ぐに振り下ろして、迫り来るエネルギーの束を迎え撃つ。

 

本来なら、理不尽なまでのエネルギー量を待つそれを剣で受けるなど到底無理なことであるが、サガミが振り下ろした一撃は、アルネストから放たれたソレを完全に受け止めていた。

 

刀身から放出されるエネルギーの膜が、膨大なエネルギー量を外へ逃しており、受け逸らされていく。

 

逸らされた結果、束ねられていたエネルギーは空中分解していき、まるで流星のようにサガミの遥か後方へと降り注ぎ、ファーンたちが隠れている拠点の屋根の一部を吹き飛ばした。

 

この世界は、その二つのアプローチが存在する矛盾した世界。

 

普通ならば、どちらかの技術基盤によって大多数に認められなかった考え方は淘汰される運命にあるのだが、二つの主義が混在していられるヘンリー・ヴァンダーには、共通する大きすぎる課題があった。

 

それは、魔力素の濃度。

 

科学的にも、神秘的にも、魔力の基となる存在に課題があればどうすることもできない。ヘンリー・ヴァンダーの魔力素は、ミッドチルダなどの管理世界と比較すると、その濃度が2〜3倍と濃くなっている。これは、グランデリニア帝国崩壊時と、その後の生物兵器が生き残るために不要な毒素などを捨てた際に発生した環境汚染が大きく関わっていて、近年になってようやく魔力素濃度が現在の値まで落ち着いてきたのだ。

 

幸い、魔力素が濃くとも人の生存には影響しなかったため、リニアやヴィヴィアン・ガーデンと言った居住区の開拓は進められることができたが、デバイスや古代魔法を使用すれば、たちまちオーバーロードを引き起こしてしまう危険があった。

 

この要素が、外縁部にあるこの世界を発見しておきながら、拠点等は作らず監視だけに留めている管理局の姿勢に結びついている。他の世界ではメジャーとなりつつある魔法技術が、この世界では使用が困難なのだ。

 

輸送艇や上陸装置等に組み込まれている魔法動力に頼った機器も、即座にオーバーロードして内燃できずにシステムダウンすることから、彼らがわざわざ降りてきてまで現地を調査しようとはしなかった。

 

まぁ、おそらく……この世界の特性を、説明も受けず、把握もしていなかったのだろう。

 

魔力に頼る船で降りてくるという〝自殺行為〟をしたファーンたちが哀れであったから、サガミも素性がわからない彼女らを保護する決断したとも言えるわけだが。

 

「コイツ……!?」

 

魔力の放流を一閃で振り払ったサガミは、前触れもなくそれを放ってきたアルネストを睨みつけ、光を切り裂いたドワーズを構える。刀身に歪みなし。刃こぼれもなし。神秘的な金属の鈍い色を見つめ、アルネストは宿したエネルギーを吐き出した愛剣をサガミと同じように構えた。

 

いいでしょう……実にいいでしょう?

 

これこそが魔剣の本質。今世界中が鎬を削って開発するデバイスなどという紛い物ではない。これこそが純然たる魔を宿すチカラなのだ。

 

「しかし、これを跳ね返しますか。実に良い。魔剣抜刀の力をも上回る……貴方の剣の腕、相当のようだ」

 

この力を持ってしても折れなかった相手は久方ぶりだ。間違いなく強者という側に立つサガミに、アルネストは剣を構え、更なる試練を与えようと足を踏み出す。

 

「そこまでです!」

 

二人の剣気がぶつかり合おうとした瞬間。

 

その間に光の柱が降り立った。凄まじい光と衝撃に、サガミは思わず顔を片手で庇う。

 

その光が晴れたと同時、サガミとアルネストの前に、三人の〝英雄〟が姿を現したのだった。

 

 

 

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