マジシャンズ / 奪われたロストロギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第九話「遠い敵の雄叫び」

 

 

 

「私は時空管理局所属、フェイト・T・ハラオウンです。双方、武器を下げて……」

 

衝撃、衝撃、衝撃。

 

ミッドチルダの地から弾かれるように飛び出した箒星に乗って。

 

今の技術が作り上げた大海を行く船が数ヶ月という時を掛けて行く道を、瞬く間に駆け抜けて。

 

桔梗色の大海を征く、白き星。眩すぎて行き先すら見えぬそれは、本来、その航海で感じるはずの嬉しさも感動も退屈も全てを覆い隠す。そして壮絶たる衝撃でたどり着いた先。

 

守護していた光のカーテンが降りると同時、フェイトはすでに展開していた漆黒のバルディッシュを構え、管理局の局員として、事前の反応で検知していた争う双方の手を止めるために口上を述べようとしたが。

 

「今いいのところなのです。部外者は邪魔をしないでください」

 

割って入るように現れた少女らの出現に動揺する様子もなく、久々に昂る戦いの邪魔をされたアルネストは、返す刃のようにバルディッシュを構えるフェイトの首筋めがけて剣閃を走らせた。

 

鈍い金属の打撃音と、眩く散った茜色の火花に、隣にいたなのはが思わず声を上げる。

 

「フェイトちゃん!?」

 

「〜くぅっ、大丈夫!」

 

そのままグルリと手の中で戦斧形状の愛機を振り回し、2撃、3撃とアルネストからの斬撃を受けるが、そのことごとくが重い。手から腕、肩を通して身体の芯まで届く剣戟の重さに、フェイトは顔をしかめつつも、上手く受け流してアルネストの剣気から逃れ、距離をとった。後ろにいたなのはとはやても、足や背中からウイングフィン(飛翔翼)を展開して、即座に迎撃してきたアルネストから距離をおく。

 

その様子を呆然と見ていたサガミは、彼女らの手に収まっている武器を見て、思わずと言った様子で声を上げた。

 

「あいつら、レイカやファーンの仲間か!?前に出てくるな!」

 

しかし、サガミの忠告も虚しく、すぐさま攻撃を仕掛けてきたアルネストや、突然現れた彼女らにこれまで静観をしていた他の騎士団の者たちが迎撃姿勢を取ったことから、なのはたちも持ち前のデバイスと圧倒的な魔法素質で反撃を試みる。

 

「レイジングハート!ディバインバスター!シュート!」

 

砲撃魔法を得意とするなのはが、飛び込んできたアルネストへ、超近距離からのカウンターを撃ち放つ。カノンモードとなったレイジングハートの先端から放たれるディバインバスターは、純粋な彼女の持つエネルギーそのもの。

 

並の魔導師が防御せずに受けたなら、ただでは済まないのだが、アルネストはあろうことから防御の構えすらせずに身につける騎士甲冑とマントでその閃光を受け止めた。

 

「受け止めた!?」

 

驚愕するなのはだが、それは相手の行動に対しての驚きで、自分の放った閃光がどうにかなるという不安はなかった。

 

しかし、現実はその慢心を覆す。

 

アスレニア騎士団の中で、上級騎士(グランクロワ)の階級に立つアルネスト・エッセの騎士甲冑は、下位級の騎士たちが身につけるものとは違い、魔石から錬鉄された「ミラウーツ鋼」が贅沢に使われていて、外套の布にも繊維状にしたミラウーツ鋼が使用されている。

 

「え!?嘘!?」

 

その結果、彼な非常に高い退魔性を獲得しており、なのはの放ったディバインバスターのエネルギーのほとんどが、騎士甲冑の前に弾き返され、表面を滑るように桜色の閃光が散り散りになっていった。その光景に思わずなのはの隣にいたはやてが驚きの声をあげてしまった。

 

「またデバイスに頼った攻撃ですか。……本当に、貴方達管理局はつまらないですねぇ」

 

傷や焦げ目ひとつなく、なのはのディバインバスターを受け流したアルネストの顔からは、先ほどサガミと戦っていた時のような高揚感に溢れる表情は失せ、まるで興味のないものを見つめる色のないものへと変わっていた。

 

「効いてない!?だったら……」

 

高威力のものが通用しないなら手数だ。レイジングハートを振るい、なのはの得意とする複数の魔力スフィアを展開するアクセルシューターを起動する。しかし、空中に現れた複数個の魔力スフィアはその外郭を形成できず、光だけ瞬かせて萎むように消えてしまった。

 

「え、どうして!?」

 

戸惑うなのはの隣から矢のようにフェイトが前に飛び出す。不足の事態に陥った場合、こういうふうにカバーをするのもトレーニング済みだ。移動の加速と体重を乗せたバルディッシュを振い、アルネストの魔剣、グランティードと火花を散らしながら攻撃を重ねていく。小柄な体、しなやかな柔軟性を活かし、回転力と速度を上乗せして横一閃を放つと、受けたアルネストはその体を大きく後退させる。

 

ここだ、とフェイトは戦斧形状から鎌形状へと、変貌させ、雷のような光刃を展開する。

 

「バルディッシュ!ハーケンスラッシュ!」

 

その声と共に振り抜いたバルディッシュから、生成した光刃が分離する。回転をかけてその魔力旋風は一直線にアルネストに向かうはずだったが。

 

『empty』

 

愛機の人工音声から発せられる警告音と共に、飛翔するはずだった光刃が崩れ落ちて、飛散していく。予想外の出来事にフェイトの顔には驚きが宿り、対峙していたアルネストはつまらなさそうに肩をすくめた。

 

「え、どういう……!?」

 

驚く時間もなく、今度は後退していたアルネストがフェイト目掛けて前へと攻めに出る。重い剣戟を受け逸らし、なんとか距離を保とうとするが、それよりも敵の方が攻撃の手数と速さがわずかに上回っていた。

 

「リィン!二人のバックアップを……て、リイン!?」

 

はやても普段通りじゃない二人のアシストをしようとしていたが、彼女の持つ夜天の書の管理人格であるリインフォース・ツヴァイにも変調が起こっていた。

 

はやての指示通り、バックアップ用の魔法を展開しようとしたのが、起動はするものの、魔力出力、固定の維持が全くできなかったのだ。

 

「はやてちゃん……ここの魔力……なにかがおかしいです!」

 

不調の原因について、リインフォース・ツヴァイがすぐさま解析をし始めるが、ここはすでに戦いの場。今回、三人が派遣された事件の最前線だ。そんな悠長な真似ができるはずもない。

 

「どうやら、何も考えずに突っ込んできた人たちですか……貴女たち、実に愚かだ。退きなさい」

 

凄まじい金属音と火花と共にバルディッシュが切り上げられる。それはフェイトが握りしめる力を軽々と上回り、両手で受けるために構えていたはずの彼女の片手を弾いて、防御の構えを完全に打ち崩したのだ。

 

ダメだ、やられる……!

 

迫り来るアルネストの一閃に痛みを覚悟するフェイトだったが、その隙間に鈍い色を放つ一刀が差し込まれる。

 

衝撃音とわずかな空気の振動。

 

フェイト前に滑り込むように現れたのは、ドワーズを持つ手をいっぱいまで突き伸ばし、剣閃の間にねじ込ませたサガミだった。ふんっ、と大きく息を吐くと同時にアルネストの剣を弾き返し、そのままフェイトやなのは、はやてを庇うように立つ。

 

「さっさと下がれ!それとソレ!この世界では自殺行為だ!仕舞っとけ!」

 

こちらを見ずにそう怒声のような声を上げるサガミ。彼が何者かわからないなのはたちからすると、割り込んできた相手も警戒対象であり……と、考えている隙に、弾き返されたアルネストが邪悪な笑みを浮かべ、グランティードを振りかぶり、サガミへと叩きつける。

 

その鍔迫り合いで発生した衝撃波に、真後ろにいたフェイトは油断していたのか、なのはたちがいる後ろへと吹き飛ばされていく。

 

「つまらない横槍が入りましたね、サガミくん。でも、君は実にいい!どうです?彼女らなど放っておいて私と共に来ませんか?」

 

「〜〜ッ!冗談!」

 

ギャリギャリと嫌な音色を奏で、剣を振り上げるサガミに、アルネストは実に良いと笑みを深め、逃がさないと言わんばかりに再び剣を振り下ろしてサガミへ詰め寄る。

 

剣と剣の競り合い。

 

奏で続けられる剣戟音に、何が起こっているのか状況を理解できないなのはたち。

 

すると、一撃を跳ね返したサガミがグルリと体を後ろにいるなのはたちに向ける。

 

視線を向けむられた瞬間、ぐっと体がこわばる三人など歯牙にも掛けないで、サガミは彼女らの頭上を飛び越えて剣を翻した。

 

「は、速……ぐわぁ!?」

 

その声を聞いて、なのはたちはようやく自分たちが別の敵に狙われていたことを理解した。アルネストとサガミの戦いに動揺している隙に、近づこうとしていた他の敵を、サガミは即時に斬り払う。

 

「クソっ!昨日まで散々だってのに……今日も今日とて厄介ごとかよ、コンチクショウ!」

 

「良いですねぇ!引き出しも多い!ますます貴方が欲しくなった!」

 

刃ではなく側面による打撃によって吹き飛ばされる他の騎士は、アルネストにとっての教え子であり、手下でもあった。そこに怒りや困惑などはない。あるのは強者への賛辞のみ。サガミの対応の速さ、そして「斬る」ことによって自分たち騎士団との対立関係になることを考慮し、即座に峰打ちに留めた判断力に、ますます好感を抱いた。

 

悶絶する部下たちを捨て置き、すぐに一撃を見舞うアルネストは、火花の向こう側で心底嫌そうな顔でこちらを見るサガミを見つめる。

 

「残念だが、ヘッドハントはスイーパーじゃ禁止されてるんだよ!」

 

「ほう!なら破格の条件を出しましょう。金銭ですか?女ですか?それとも組織のナンバーツーの地位でも?」

 

「そんな……もん、いるかぁあー!!」

 

その怒号と共に防御した剣ごと弾き飛ばされるアルネストは、ふわりと膝立ちをする部下たちの前に降り立つ。その眼前では、サガミが胆力を込めてドワーズを振りかぶる。

 

【やるか、サガミ!】

 

「あぁ、ドワーズ。奥の手だぁ!」

 

その声と共に剣に収束するは超自然的なエネルギーだ。後ろにいるなのはたちや、敵である他の者たち、そしてアルネストでも確認できるほど、そのエネルギーは可視化され、渦巻き、刀身を包み込んでいく。

 

「そうですか。では次の機会に魅力的な提案をしますよ。あぁ、そうだ、皆さん。いますぐ下がりなさい。……死にますよ?」

 

足元にいる部下たちにそう言い残し、アルネストはすぐに飛び上がって後方へと下がる。あっけなく自分たちを見捨てた師の行動に呆然として、ようやく痛手を受けた者や、傍観していた者たちもアルネストに追従するように後方へ向かう。

 

「面倒ごとはゴメンだ。うまく避けろよ!」

 

置き土産と言わんばかり残される補助ドローンたちがサガミへと殺到する中、ドワーズに蓄えられたエネルギーは限界に達した。渦巻くエネルギーが荒れ狂うが、その力に負けない胆力で、サガミは一刀を振り抜く。

 

〝飛燕閃、剣舞斬〟。

 

飛燕閃の中で唯一、遠距離技とした確立されたソレはまさに「飛ぶ斬撃」。

 

剣に収束したエネルギーは円月状の塊として振り抜いた軌跡を沿うように射出された。射程範囲は振り抜いた半径110度、サガミを起点としての飛翔距離は100メートル。

 

その範囲にあった荒野に点在する裸の岩たちは、まるでバターを切るような滑らかさで横一線に両断された。

 

その様子を後方に位置する岩山に着地して見据えるアスネストは、感心しつつも自らの愛剣を鞘に収める。

 

「あそこまでモノにしているとは……細かな点で違いはあれど、やはり彼は我々と〝同じ〟なのでしょうね」

 

魔力を纏う一撃と言い、あの型といい、サガミ・バルディオという青年の扱う剣技には、自分たちの扱う「騎士剣術」と似て非なる点が多くあった。ヘンリー・ヴァンダーという辺境の世界で、あれほどの技量まで高められているとは、正直、予想外、大誤算も良いところだ。

 

ただでさえ、この世界に誘い込むなんて手の込んだ作戦まで考えたのにと、一連の企みを考えた者からすれば憤慨したくなる気持ちもあるだろう。

 

ただ、良い。実に素晴らしい。

 

単なる「鍵」を奪うための作戦ではあったが、この世界は本当に実りのある戦いができそうだ。自分も、部下たちも、騎士団も……そして王達も。

 

この世界で起こることはかけがえのないものになるに違いない。そんな確信めいた予感に浸りながら、アルネストは息切れしつつもサガミの剣戟から逃れた部下達へと振り返る。

 

「戻りますよ。あぁ、もしあの子が私の元に来てくれたら、真なる後継者は彼になるかもしれませんね」

 

そう言い残し、「王様」へ報告するため遠くの場所に隠した船に向かうアルネスト。師である彼の背中を見つめ、教え子の一人は遙か稜線の向こう側にいる男を睨みつける。

 

師からの絶賛の言葉を受けながらも、それに仇をなした男。

 

これまで師からの褒め言葉をもらっていた教え子たちから、その興味の一切合切を掻っ攫って行った男。

 

新なる後継者として研鑽を続けてきた自分たちの存在価値をたった一度の戦いで無為なものへと貶めた大罪人。

 

教え子達の恨みの目が、姿の見えない宿敵へと注がれる。

 

「気に食わない……気に食わないぞ……サガミ……バルディオぉ……!!」

 

師から受けていた眼差しを奪われた彼らは、現れた強大な存在へ、その恨みを募らせていくのだった。

 

 

 

 

 

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